第82話 原因


 ダンジョンの異常について、まず、機械種に詳しい青銅の盾のジュラクから、その原因について語られることとなった。


 

「おそらく、ダンジョン内の紅姫が新たな紅姫を生み出し、巣が増えた為に起こった現象でしょう」


 ジュラクは眼鏡を片手でくいっと上げながら、俺達に自説を説明してくれる。


「通常、紅姫から生み出された新しい紅姫は巣から出て、離れた場所でまた巣を作ろうとします。しかし、ダンジョンの奥底にある巣で生まれた新たな紅姫はどこにも行くことができません。だから同じダンジョン内で巣を作り出し、それが統合されて『塞』となり、今回のケースを引き起こしているのだと思われます」


 巣が増えたってのは前にアデットから聞いていたけど、巣のコアである紅姫が新たな紅姫を生み出す?離れた所で巣を作ろうとする?それってまるで女王蜂か、女王蟻のような生態だな。


「この街のダンジョンは古くからありますし、過去、このような現象を起こしたという話も聞きませんから、紅姫は相当力を貯め込んでいたはずです。今回生み出された紅姫はかなり力の強い機種でしょう。その分、ダンジョンへの影響も強くなっていると考えられます」


「なるほどな~。だいたい内容は分かったが、その紅姫が新たな紅姫を生んだ原因はなんだ~?俺達は運が悪かっただけなのか?なぜ、今なんだ?1年後でもなく、10年後でもなく?」


 それは俺も知りたいところだ。このイベントが俺の為に用意されたものであるならば、俺が片づけないといけないかもしれない。これを解決する為に俺がこの世界に呼ばれたという可能性もある。何十年、何百年に一度の災害、その為に俺はこの力を授けられたのかも。


 ジュラクは勿体をつけるように眼鏡を外してハンカチで拭く。

 そうしている間に考えをまとめているのか、それとも、出し渋っているのか。


「おーい?ジュラクさんよ~。辺境の無知な俺らに教えてくれないか?中央から来たお偉いエリートさ~ん」


 セザンにエリートと呼ばれて顔をしかめるジュラク。

 『中央から来た』か。まあ、普通に考えて都落ちってところなんだろうけど。


「やめてくれませんかね。そのエリート呼ばわりは。原因についてはある程度推測ができますが、おそらくこの近辺で機械種の乱獲が行われた為でしょう。それもラットやラビットの低級じゃない、もっと格上の機械種が多数狩られたことで、紅姫の防衛本能が刺激されて、新たな紅姫を生み出すこととなったのではないかと思います」



 え、マジ?

 ひょっとして、それって。

 ラビットは精々5体くらいだけど、ウルフなら20体はやってしまっていたな。

 もし、俺のせいだったら・・・



「おい、ジュラク!ラビット以上の機械種の乱獲っつったな。それはどれくらい各上のやつだ?コボルトくらいか、ウルフやコブリンくらいか?」


 相変わらず機嫌の悪そうなブルーワが隣のジュラクに乱暴な勢いで問いかける。

 真横からキンキン声を叩きつけられて、うっとおしそうな顔をするジュラク。


「・・・もっと格上です。少なくとも、オークやオーガ並みが20体以上、一度の狩りでそれくらい狩られればというレベルでしょうね。この辺りはの機械種は軒並みレベルが低いですから、それくらいの乱獲で紅姫は刺激を受けるでしょう」


 ほっ、セーフ!

 俺が原因ではないようだ。

 オークはダンジョンで狩ったが、3体くらいだったし、20体狩ったのはウルフだしな。



「ははっ、これは俺等は関係ないね~。オークやオーガを20体なんて、猟兵団でも手こずるぞ~」


「おい、アデット!お前のところの白狼団がやったんじゃないだろうな!」


 セザンが猟兵団のことを口にすると、それに反応して、ブルーワがアデットに怒鳴りつける。


「白狼団の活動エリアはもっと中央寄りです。本隊はここ半年以上この街には寄りついて居ませんよ。ここは白狼団の療養地みたいなものですから、いるのは連絡員と負傷兵くらいです」


 冷ややかな目でブルーワを一瞥して、回答するアデット。

 なんか、皆に嫌われてそうだな、ブルーワは。



「乱獲となった場所は、この街の周辺でしょう。街の狩人達が遠征しているような離れた場所であれば、このダンジョンへの影響は届かなかったはずですから」


 ジュラクが説明を続けてくれている。

 コイツ、実は説明をするのが好きなんじゃないかな。機械種に詳しいってことで、こういう理系タイプは自分の好きなことを語りだしたら止まらないところがあるし。


「わからないね~。この街の周辺じゃあ、たとえかなり草原の先へ行っても、オークもオーガも滅多に見ない。しかし、この街の周辺でオークやオーガが乱獲された。どうやってだ~?ダンジョンでも、出るのはコボルトくらいだぞ」


「可能性としてあるのは、猟兵団の従属させているオークやオーガが何らかの理由でレッドオーダーされてしまい、街の近くで処分されたというがありますが・・・1体や2体ならともかく、20体というのはあまり考えられないでしょうね」


 原因究明は難しそうだな。


 この周辺はあまり強い機械種がいないらしいけど、逆に言うとここから離れたら、機械種が強くなるということか。


 今のところ、俺が宝貝や仙術を駆使ししてても苦戦するような機械種は、あのフンババという奴以外はいないだろうが、中央とやらにいけば、もっと強い機械種がいて、苦戦する可能性もあるな。気をつけておこう。



「チームトルネラからは何か情報はないか~」


「商会からの情報でも、それほどの機械種の群れがいたという話は聞きませし、素材が大量に流れたという話もありません。街にいる狩人が狩ったのなら、大抵の情報は入ってくると思いますけど、ここ最近でそんな大きな話はありません。他所から来た狩人という線はどうですか?」



 なるほど。サラヤは商会経由の情報担当ということか。

 結構な頻度で出入りしているから、そういった話が耳に入るんだろう。



「そう言えば~、中央から狩人のチームが来ていたな~。アイツ等はどうしている?」


「その情報は『青銅の盾』にあります。いつものヤツです。フンババを狙いに行ったようですよ」


「はあああ、懲りないね~。一回、街が焦土になるくらいにやり合っても勝てなかったのに~」


「中央では所詮、辺境の機械種だからと低く見られることが多いんですよ。1チームが守護者クラスの機械種を狩ろうとするのは無謀以外の何物でもないですが、ストロングタイプの機械種を手に入れたことで調子に乗ったみたいですね。あれから音沙汰がないから、多分全滅したでしょう」



 原因の究明から、情報交換へと話題が移ったようだ。

 しかし、セザンとジュラク。この2人は割と外の情報にも詳しそうだ。この2人の会話を聞いているだけでも、かなりの情報が入ってくる。


 ストロングタイプか。どんな機械種なんだろう?

 あと、フンババに挑んだチームというのも気になる。俺がこの街に来る前に見たのがそうだったのかな。



「命からがら逃げてきたヤツはいないだろうな~。フンババの呪いにやられて、巻き込まれるのは御免だぞ~」


「顔は覚えられているでしょうから、街へ戻ってきたらすぐに分かりますよ。街へ戻らずそのまま草原を通り抜けようとしても魔狼達の餌食でしょう」



 フンババの呪い?魔狼?ウルフのこと?何の関係があるんだ。

 なんか気になるワードが目白押しだ。


 確かメソポタミア神話の方のフンババも、自分を倒したものへ呪いをかけて、天牛に襲わせたとかいう話があったはず。何か関連性があるのだろうか?


 ここは隣のジュードにこっそり聞いてみよう。



「ジュード、フンババの呪いって何?あと、魔狼って?」


「え、フンババの呪いかい?この街ではかなり有名な話だけど、フンババに戦いを挑んで、生きて帰れたとしても、なぜかその後、機械種に襲われて命を落とすことが多いんだよ。噂ではその魔狼ってのに襲撃されるそうなんだけどね」


 え、呪いってそういうのなの?


 俺は大丈夫なのか。別に戦っていはいないけど、でも、レーザーやマシンガンで狙われた。


 あと、魔狼に襲撃されるのか。確かにウルフには襲われたけど・・・




「魔狼というのは、機械種ヘルハウンドのことですよ、ヒロさん」


 横からアデットが教えてくれる。

 ブルーワの時とは違っていつもの穏やかな表情だ。


 結構好感度を上げてしまったか?最近野郎ばっかり好感度を上げてしまっているな。

 アデットとは情報収集の為、仲良くしたいと思っているけど、このまま野郎ルートへの突入は勘弁してもらいたい。


「ヘルハウンドはこの辺りの草原の主みたいなものでしてね。先ほどの呪いにでもかかっていなければ滅多に遭遇することは無いでしょうけど、もし、遭遇してしまったら間違いなく命が無くなります。大抵の場合、ウルフの上位機種であるダイアウルフを数十体引き連れていますから、逃げることもできません。猟兵団ですら油断すれば壊滅させられるような相手ですから」


 うん?なんか嫌な予感。


 いや、まだ確定したわけじゃない。



「えー、アデットさん。そのヘルハウンドについて、もう少し詳しく教えてくれませんか?それからダイアウルフについても」


「ほう、ヒロさんにお願いされるとは、光栄ですね。いいでしょう。ヘルハウンドはモンスタータイプの機械種でしてね。通常のウルフよりも一回り大きいですが、その性能は一回りどころじゃありません。俊敏性、装甲、破壊力は驚異の一言ですが、注意すべきはその狡猾さでしょう。通常のウルフの振りをして相手を油断させ、隙をみせたところへ必殺の粒子加速砲を叩き込むくらいのことはやってのけます」


 説明してくれるアデットが真顔だ。いつもの穏やかな表情が無くなるくらいに強敵なのだろう。


 しかし、粒子加速砲を使うかぁ。ワンストライクくらい取られたな。


「また、配下のダイアウルフも体格こそ通常のウルフと同じ軽量級ですが、一体一体がオーガに匹敵する性能を秘めています。これ等が熟練の軍隊以上の連携を持って襲いかかってくるだから、通常の戦力では対抗するのは困難でしょう」


 あ、ヤバいかも。ツーストライク。


 あと、もう一個質問をせねば。


「あの、普通のウルフってレーザー・・いや、粒子加速砲を撃ちますか?それも連発して」


「ウルフはビーストタイプだから、そもそもマテリアル収束器は付いていませんよ。ウルフの形状で粒子加速砲を放つならそれはヘルハウンドでしょう・・・ヒロさん、どこかで見たことがあるのすか?」


「いえ、その、話に聞いたことがあるので・・・」



 はい、スリーストライク。三振。アウト!


 俺のせいでした!

 

 だってしょうがないだろう!知らなかったんだから。

 文句があるなら、森に通りかかるような所へ俺を召喚して奴に言ってくれ!


 そりゃ、俺がこの街に来て10日も経たないうちに、数年、数十年、数百年ぶりの災害が起こりましたっていう偶然なんかあるのかって思っていたけど、まさか、俺が原因だったとは・・・


 おい、どうすればいいんだよ。

 俺の仕出かしたことで、皆に迷惑をかけてしまうのか?

 どうやって落とし前をつければいいんだろう。


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