第81話 威圧
入ってきたのは今回の臨時総会の発起人であり、仕切り役を担当した黒爪団の副団長セザンという人物らしい。
この人が入ってきたお陰で戦闘は起こらなかった。
今回の仕切り役である黒爪団を目の前にして、戦闘の火ぶたを切るのは、黒爪団の面子を潰すことになるのは明らかだ。
ブルーワも、魔弾の射手、チームトルネラ、黒爪団の3チームを相手取るのは、流石に分が悪いと思ったらしく、大人しく席に戻っていった。
まあ、俺のことを『絶対後で殺す』というくらいに殺気だった目で見てきているけど。
できればあの場で片づけておきたかったが、仕方が無い。ブルーワへの対処は後で考えよう。
この場で戦闘となったら、サラヤが巻き込まれる可能性も高いし、そういう意味では、今回黒爪団の副団長に助けられたとも言える。
当該の人物は中央の机に陣取って、タオルで顔をおっさん臭く拭いていた。
その姿には威厳の欠片も見当たらない。
副団長っていう肩書には似合わない人だなあ。
見方によっては30才前くらいに見える老け顔だ。でもこの場にいる以上、20歳前後なのだろうと思うけど。
無精髭にヨレヨレの黒のジャケット、ロックで生きていくのを夢見てそのまま30手前まできたような冴えない風貌。右頬から首にかけての黒い刺青のようなものなければ、ちょっと若作りし過ぎたオジサンと言った感じだっただろう。
しかし、ジュードに聞くと、黒爪団を実務をほとんど一人で回している優秀な人物だそうだ。
とてもそうは見えないが・・・でも、なんか愛嬌というか、親しみを持つというか、初対面のはずだが、なぜかお世話になったことがあるような、そんな印象を受けてしまう。
黒爪団の副団長、セザンね。
黒爪団というと全員ヒャッハーって言っているイメージがあるけど、こういった温厚そうな人物もいるということか。
「あ~、今日お集りの皆さん、突然の総会開催に~、参加していただき、まことにありがたいと~」
「セザンさん、前置きはいいので、早く本題に入ってもらえますか?」
眼鏡をかけて青いジャケットを着た男が、セザンの挨拶を遮る。
「お~、『青銅の盾』のリーダー、ジャラクさんね~。でもね~。もうちょい俺にしゃべらせてくれないかなあ~」
あれがスラム6チームの最後、『青銅の盾』ね。
機械種に詳しくて、ある程度機械種を触れる技術を持つ者が集まっているというチーム。
ザイードは最初は『青銅の盾』に入るつもりだったが、自分のタートルを取られそうになった為、チームトルネラに所属することになったらしい。
総会の席順は、中央の机に黒爪団、それをUの字で囲むように左から、チームブルーワ、青銅の盾、空席、チームトルネラ、魔弾の射手となっている。
それぞれチームの代表者が前にでて、護衛の2人は少し後ろに立っている形だ。
ちなみにチームトルネラの左隣の空席は、遅刻しているチーム白雪の席だそうだ。セザン宛に飛んできた白い機械種ピジョンが遅刻するとのメッセージを運んできたらしい。
さて、どんな人なんだろう?雪姫っていう人は。
サラヤからはすごく綺麗な人って聞いたし、ジュードも隣のサラヤを気にしながら美人だと言っていた。
もちろん、俺も男だから美人と言われれば気になってしまうが、それだけで好きになるわけではない。それよりも気になるのが、このスラムで1番優秀な感応士ということだ。
未だ感応士という職業(?)についてはよく分かっていない。
蒼石を使わなくても機械種をブルーオーダーできて、従属させることができるということしか知らない。
感応士はこの世界では珍しい存在らしく、感応士であるというだけで引く手あまたになり、生きていくのに困らないどころか、一定以上の生活は必ず保障されるぐらいの存在らしい。
それほどの希少価値の高い属性に加え、美人と来れば、あまりにも出来過ぎのような気がしてくる。
なぜ、それほどの存在はこのスラムにいるのか。なぜ、1人チームなのか。
どこかに落とし穴があるような、そんな気がしてくる。美人だからといって気を許してはいけないな。
俺がまだ見ぬ雪姫という人物について想像を巡らせている間に、黒爪セザンの開会の挨拶?が終わったらしく、皆のうんざりとしている雰囲気が伝わってくる。
これから本題に入るようだけど、前に立つセザンという人の仕切りで大丈夫かな。
どうにものんびりしたような人で、ジュードが言うように優秀な人物のようには見えない。
中央の議長席とでもいうのだろうか。そこに立つセザンはどう見ても、場違いな場所に来てしまったおっさんだ。
それでも、進行役は変わらないようで、コホンと咳ばらいをした後、皆に向かって声を張り上げる。
「さあて、本題に入るんだけどな~
で、うちの団員をヤッたのは、どのチームだ」
それほど大きな声ではなかった。
しかし、その低い声に潜む威圧感で、総会の雰囲気は一変した。
皆一応に体をビクッと震わせる。
会場の気温が数度下がったような感覚に陥った。
アデットが浮かべていた余裕の笑みは消え、
ブルーワですらその威圧感に表情を歪ませている。
ジャラクと呼ばれたチーム蒼風のリーダーは、目を大きく開いたまま固まった。
後ろからはサラヤの顔は見えないが、机に置かれた手をぎゅっと握りしめて、威圧感に耐えているようだ、
そんなサラヤを見て、ジュードが少しだけ前に出てサラヤに近づく。
会場が静まり返る中、セザンは厳しい表情で面々を見渡して、言葉を続ける。
「うちの団員がいなくなった。まあ、いつも誰ががいなくなるのは、うちの団じゃあ、珍しくないが、今回は人数が多い。お前らが仕掛けたんじゃないだろうな?」
ヤバい、ひょっとして俺か。
たしか、路地裏で絡まれた3人、砂さらい場で絡んできた1人、合わせて4人の黒爪団員と思われる人間を確実に殺している。
4人か。確かに多い。間違いなく俺の仕業だ。
しかも、砂さらい場の時は2人生かしておいたはずだから、1人は俺が殺したということはバレてしまっているだろう。
何か言ってくるのだろうか?
さらに追加で3人も殺してることがバレたら殺されるかも。いや、確実に殺される!
俺に備わる闘神スキルや仙術スキルのことを考えたら、絶対にそんなことにはならないだろうが、なぜかそんな気になってしまうくらいの威圧感を感じてしまっている。
身体能力的には最強でも、精神の方が一般人と変わらない。
俺の中の内なる咆哮が出てこないと、いや、この場合は莫邪宝剣で・・・あれを持てば怖い物なんてなくなる・・・駄目だ。喜々としてセザンに襲いかかってしまいそう。
さて、どうする。どうやってこの場を切り抜けるんだ?
俺が悩んでいる間に、アデットが手をあげて、セザンに質問をする。
「セザンさん、何人くらいいなくなったのですか?」
アデットは緊張した固い声、いや、感情を押し殺しているような声だ。
それに対し、セザンはその目をアデットに向けニヤッと笑い
「ああ、多いぞ。10人だ」
はあああああ!
絶対に俺だけじゃないぞ、それ!
俺は4人しかやっていないんだから。
「それ、集団脱走とかじゃないんですか?」
ようやく固まりが溶けたらしい蒼風のジャラクが憮然とした表情で言う。
「けっ、いくらなんでも一つのチームが黒爪団10人をヤルのは無理があるだろ」
ブルーワも吐き捨てるように言い放つ。
「まあ~、そうだよな。俺もそう思うよ~」
今までの厳しい表情から一変して満面の笑みを浮かべるセザン。
緊張した会場の雰囲気が一転する。
「でもま~、一応団長が言っとけって言われたからな~。ははははっ」
なんじゃコイツ?
ただ、カマをかけただけなのか?
それとも、脅しをかけたかったのか。
俺のことについては追及されていないけど、ひょっとして情報が上に上がっていないのか?
「セザンさん、それが本題なの?」
サラヤがまだ固い声でセザンに問いかける。
「いや~、一応これが前置きでな~。本題はダンジョンの異常についてなんだが~」
やっぱりそれか。そうだろうな。ダンジョンに潜れなくなれば、どのチームも一大事になるはずだ。
しかし、所詮スラムのチーム同士で会議したって解決策なんて出るのだろうか?
結論が出ない会議、ひたすら長引いて、議論は次回に持ち越し・・・う、頭が。
まあ、スラムチームのリーダーが集まっているんだ。その手腕に期待してみよう。
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