第72話 機械種2
駐車場では機械種タートルによる電車ごっこが開催されている。
あの後、ザイードがタートルに足を取り付けて動くことができるようにしたところ、デップ達3人が乗りたいと言い出したのだ。
しかし、そこへデップ達より年少の子供達から自分たちの方が先だと待ったがかかった。
デップ達が騒ぎ出し、子供達も反論し始めて収拾が付かなくなりそうだったが、そこは冷静なザイードがリーダーであるサラヤに裁定を仰ぐことで、一定の決着がついた。
まあ、結果で言うと、子供達が先に乗ることになってしまったのだが。
若干恨めしそうにタートルを眺めているデップ達が痛々しい。
また、最初にザイードに突撃しに行ったイマリとピアンテは、あまりにも作業をしているザイードの邪魔をするので、カランが怒って引き離してお説教中だ。
甲羅の上に子供達が乗り、ノシノシと駐車場を行ったり来たりしているタートル。
かなりの馬力があるようで、あれだけ重そうな甲羅を背負い、子供2人を乗せても平気そうに動いている。
この馬力で、あの図体、当然防御力もあるだろうから、この上で粒子加速砲やら電撃砲やらを撃てたら、どれだけ強力な機械種になるのだろう。
この話をザイードに振ってみると、確かに粒子加速砲や電撃砲を取り付けるようにしているけれど、それほど使い勝手の良い物ではないらしいことが分かった。
「まあ、タートルはビーストタイプですから。モンスタータイプと違って、元からマテリアル収束器が備わっていないので、後付け品になってしまっているんです。だから、発射にも時間がかかりますし、連射もできません。あくまで威嚇用としての砲台のようなものと考えてください」
また、新しい単語が出てきたな。
マテリアル収束器?
前にカランが『マテリアル精錬器』って言っていたことがあったけど、どう違うんだ。
この際だ。まとめてザイードに聞いてみよう。
「マテリアル精錬器はマテリアルから物品を作り出す装置のことです。重量級以上の機械種はこれを内蔵していていることが多くて、体にため込んでいるマテリアルから銃弾やミサイルなんかを作成して打ち出すそうです。マテリアル収束器は、粒子加速砲を放ったり、高速で飛んだり、バリアを張ったりする為のエネルギー発生装置みたいなものですね」
そういえばメカ熊がマシンガンなんかを連射していたな。あれもそのマテリアル精錬器から生み出していたのか。
「金属を生み出すマテリアル精錬器は『金床』と呼ばれて、かなりの高値で売れるんですよ。もし、ヒロさんが重量級の機械種を狩ったら、取り外すのを忘れないようにしてください。また、マテリアル収束器は兵器のエネルギー源や車のエンジンなんかにも使われていますので、これも要確保です。」
金属を生み出すマテリアル精錬器は『金床』と呼ばれる、か。他にも種類がありそうだ。で、マテリアル収束器は高エネルギーを発生させる為の装置だな。
あと、ビーストタイプとモンスタータイプの違いはなんだ?
「ビーストタイプは、下位の機械種群ですね。ラットやラビット、バット、ピジョン、クロウ、ウルフ、ベア、ハイエナ、タイガー、このタートルもそうですが、区分けとしては、遠距離攻撃を持たない機械種といったところです。それでも身体能力は侮れないものがあります。もちろん、人間に従属しているものは、改造されて銃器や粒子加速砲を取り付けられている可能性がありますよ」
ビーストタイプは元の世界にいる動物たちの機械種ということか。
え、でも、前に俺が倒したウルフボスはレーザーを撃ってきたぞ。それもかなり素早く連射もしてきそうだったが。
「モンスタータイプは非人間型で、基本的にビーストタイプの上位になることが多いです。有名どころでは、グリフォン、ペガサス、ヘルハウンド、キマイラ、マンティコア、バジリスク、そして、この辺りでモンスタータイプとして最も有名なのが、森の守護者と呼ばれるフンババです」
フンババ!
確か神話で英雄ギルガメッシュが倒した化け物だったか。
神の森を守っていて、不審者が森へ踏み込むと襲いかかってくることから森の守護者と呼ばれる。
攻撃を通さない光を纏って、口から洪水や炎を出す怪物。
森?口からレーザー?、洪水のような銃弾の雨あられ?
あ!あのメカ熊のことか!あれは機械種フンババだったのか!
「フンババのおかげでこの街より西側の開拓が全く進んでいないんです。どうしても森を抜けないといけないんですが、フンババが立ちはだかって誰も通れなくなっています」
「そのフンババはそんなに強いの?この街には狩人もいるだろうに」
「かなりの数の狩人が団体で挑んだことがあるそうなんですが、全く歯が立たなかったと聞いています。たまに名をあげようとした狩人が挑戦しているみたいですが、傷一つ負わせることができないままやられてしまっているそうです」
俺が見た狩人らしきパーティーもあっという間に全滅していたな。
それほどの相手に俺はよく逃げることができたもんだ。
そうやって俺の質問がひと段落ついたところに、サラヤが近づいてきてザイードに話しかけてくる。
「おめでとう、ザイード。念願の機械種を完成させることができて」
「ありがとうございます、サラヤさん。今まで使えるかどうかわからないような部品まで倉庫に置いてもらっていて。おかげで思った以上の装備で完成させることができました」
「こちらにもメリットも大きいし、そんな大したことじゃないわよ。で、ザイード君はこのまま機械種使いを目指すのかな?」
「いえ、このタートルは拠点防御用ですし、街の外に出ての狩りは向いていません。僕自身もあまり街の外へ出たいとも思いませんし、このまま機械種のマスターだけでいいかなって。もちろん、機械種使いに憧れはありますけど、今すぐに試すつもりはありません。万が一の時の蒼石もありませんし」
ん?ちょっと会話に違和感が・・・ザイードはもう機械種使いじゃないのか?だって、機械種を従属させたじゃないか。
少し質問のし過ぎかもしれないが、つい、ザイードには遠慮無しに聞いてしまう。
まあ、俺も2、3万M、日本円にしたら何百万円もする蒼石をザイードの為に使用したんだ。それくらいの権利はあるだろう。
案の定、ザイードは俺の質問に対して、律儀に答えてくれる。
「機械種使いと呼ばれるには、街の外に出て、白鐘の効果範囲外で機械種を従属させたままいられることができる必要があるんです。機械種のマスターになっている人は多いですが、その大部分は白鐘の効果範囲から出たら、あっという間にマスターではなくなってしまいます。すぐに機械種がレッドオーダーに汚染されてしまうからです」
ええ、それじゃあ従属させた機械種に狩りなんてさせることができないだろう?
普通の機械種のマスターは街の中限定ってことか。
「でも、稀に街の外でも機械種を従属させたままでいられる人がいるんです。それを機械種使いといいます。外で従属させたままにいられる機械種の数が多ければ多いほど優秀な機械種使いであると言われています」
そう言うってことは、同じ機械種使いと呼ばれる人でも、従属させてままでいられる機械種の数の多い少ないがあるってことか。
「軽量級をたくさん従属したままにできる人や、重量級を1体だけ従属したままにできる人がいたりと量や質も様々だそうです。傾向的には中量級2、3体くらいという人は割と多くて、逆に重量級以上はかなり少なくなるそうです。また、自身が強い人ほど機械種をたくさん従属したままにできるって聞いたことがあります」
俺はどれくらいなんだろう。強さは問題ないと思うんだけど。
ここまできて機械種を1体も従属させたままにできなかったらどうしよう。
このロボット溢れる世界で、主人公がロボットを使いこなせませんってちょっとひどくない?。
その場合は一生街で引きこもってやるぞ。
「あ、ヒロさん。一つ言っておきますけど。いかに機械種使いでも、従属させた機械種を単独で白鐘の効果範囲外へ出したら、レッドオーダーされちゃいますからね。十数分くらいは持たせることができるそうですけど、基本的には外では機械種使いが近くにいてやる必要がありますから。あと、高価な装備や特別な処置をすることで、機械種使いでなくても外での従属を維持させることもできます。かなりマテリアルがかかってしまうと聞きますけど」
さすがザイード。俺が聞きたいことを先回りで教えてくれた。
しかし、それでは街の外へ機械種を移動させるときは一苦労だな。機械種使いはともかく、一般人だって従属させている機械種を伴って他の街へ移動することもあるだろうに。
「移動中は機械種をスリープさせておけばいいんです。その間は行動できませんが、ブルーオーダーもレッドオーダーもされませんので」
なるほど、スリープか。パソコンみたいだな。その間はウイルス感染しませんってことか。
ザイードの好感度を上げておいてよかったな。これまでにないほど情報が入ってくる。これは所謂イベント達成報酬というやつかもしれない。
ギギギーーー
お、1階通路側の扉が開いた。
ロビーで待機していたナル達かな。誰か機械種の従属が成功したって伝えてあげたのか。
扉から出てきたのはやはりナルだった。駐車場を練り歩くタートルに目を奪われながらも、誰かを探しているようだ。
と、思ったら目当てはサラヤだったようで、タタッとこちらに駆けつけてくる。
「どうしたの?ナル。何かロビーであったの?」
「サラヤ、実は、そのー・・・・」
ナルがサラヤに耳打ちしている。
なんだ?
思わず聞き耳を立ててしまう。
「・・・総会を開くってどういうこと?」
「私もー、それしか聞いていないんでー。でも、ロッソさんが、多分、ダンジョンのことじゃないかって・・・」
総会?スラムチームの集まりか何かか?会議でもするのだろうか。
サラヤとナルはその後、2、3回言葉を交わし、何事かと近づいてきたジュードを捕まえて3人で駐車場から出て行ってしまう。
うーん。俺とトールは置いておかれてしまった。
まあ、この場を子供だけにするのはマズイから仕方ないが。
「トール。総会って何するんだい?」
俺に近づいてきたトールにさっき漏れ聞こえた話をしてみる。
「ああ、それはスラム6チームの代表者が集まってする会議みたいなものだね。だいたい3カ月に1回くらい開かれるんだけど、今回は臨時のようだ。何か大きなトラブルでもあったのかもしれない」
トラブルか。
さっきダンジョンって話があったから、あのコボルトやオークの異常発生のことだと思うけど。
別に会議を開いたからって解決する話でもないだろうに。
「大きなトラブルがあった時は過激な行動に出るチームもあるから、その牽制をしたり、情報を集めたりとすることが多いんだよ。特にうちのチームは黒爪団とか、チームブルーワとかに目を付けられているから、他のチームとの連携が重要になるんだ」
チームブルーワって今日会った少年達が所属していたチームか。
ちょっときな臭くなってきたな。俺としては早く準備を整えてスラムから出たいんだけど、あんまりチームトルネラが切迫している状態で出て行っては、逃げ出したみたいなってしまう。
もうチームメンバーには愛着も沸いてしまっているし、ある程度安全が確保された状態での旅立ちといきたいところなんだけど。
一つの問題が解決すれば、新しい問題が発生してくる。
これは前の世界でもよくあったことだ。
この異世界に来てもそうなのだから、これはどの次元にいても逃げられない宿命みたいなものかもしれない。
せめて俺の手の届く範囲内であってくれよ。
俺はそう願わずにはいられなかった。
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