第73話 挑戦
翌朝、いつもの応接間でサラヤとジュードと相対している。
昨日の夜は遅くまでトータルのお披露目会が続いた。
俺とトールは子供たちのお目付け役で最後まで面倒をみることとなってしまったのだ。
デップ達が3度くらいタートルから落ちた以外は大したトラブルは無かったけど。
そのせいで皆寝るのが遅くなってしまい、その分朝が遅くなってしまった。
トールは『遅刻だ!』と慌てながら寝ぼけ眼の子供達に準備させているし、ナルとカランも朝の準備でバタバタとしている。
そんな中、俺だけが応接間に呼ばれた。
それだけで俺に何か頼み事があるくらいは事前に分かってしまう。
「ヒロに私達と一緒にスラムチームの総会へ出てほしいの」
サラヤも随分遅くまで起きていたと思うが、全く眠そうな感じはしていない。それだけその総会というやつが大事だったのであろうか。
「総会に出るといっても、僕達はサラヤのボディーガードみたいなものだけどね。代表者1名と護衛2名までが参加者として認められるんだ。今までは僕とディックが付いていっていたんだけど」
ジュードのその言葉で、だいたい内容が分かってしまった。このチームで護衛ができそうなのはジュードを除けば、俺かカランくらいしかいない。カランは他のチームと大分揉めたようだから居残り組で、消去法として俺になってしまったのか。
総会ね。他のチームの代表者も来るんだろうな。
あの『魔弾の射手』のアデットや、黒爪団のボス、チームブルーワってのもあったな。
そして、チーム白雪の雪姫か。
姫っていうくらいだから、容姿には期待してもいいはずだ。
これで標準以下だったら、宝貝両手に総会で大暴れしてしまうかもしれん。
もちろん冗談だけど。
狩人になる為の情報を仕入れる為には、コネクションは多い方がいい。別にチームトルネラを裏切るわけではないが、他のチームのトップと顔合わせしておくのは悪い事じゃない。
俺の目的に沿うことだし、ここは引き受けても構わないだろう。
「いいよ。いつなんだい?その総会は」
俺の返事を聞いてサラヤがほっとした顔をする。
それと対照的にジュードは俺が断るなんて微塵にも思っていない顔だ。
サラヤは俺に頼みごとをする回数が多くなりすぎて、いつ俺が我慢できなくなるのか心配しているのかもしれない。
俺を当てにし過ぎられるのは嫌だけど、俺だってチームトルネラの一員なんだから、普通にチームの為に仕事はするさ。
「急な話で悪いんだけど、今日の夕方なんだよ。ヒロは今日も外へ狩りに出るんだろう。万が一にも遅れるわけにはいかないから、昼過ぎくらいまでには拠点に帰ってきてほしいんだ」
ジュード、全然申し訳なさそうな顔をしていないな。
コイツとは丸一日付き合って一緒に修羅場を切り抜けたから、何となく俺のパーソナルな部分を感覚的に理解したのかもしれない。
俺の許容する範囲や嫌がりそうな点をある程度把握したような感じが見て取れる。
まあ、他人との距離感の計り方が上手いのが、陽キャラ、イケメン、コミュ強者の特徴か。
コイツの発言はストレートだけと、不思議に嫌な感情を持ったことが無い。悪意が無いのはもちろんだけど、コイツには他人に不快感を抱かせないカリスマのようなものを感じる。実にうらやましい才能だ。
「総会では特にしてもらうことはないけど、できればヒロはチームトルネラの新しいエースとして紹介したいと思ってるの。ヒロが強いっていうのをアピールしたいんだけど、構わない?」
対して、サラヤは俺へのお願いは慎重に言葉を選んでいる様子。
「うーん。それくらいは構わないけど、力試しとかされたりしない?」
こういう時によるあるパターンだ。『コイツ、本当に強いのか?』『だったら俺が試してやる!』という一連の流れがテンプレだろう。
「一応、総会では暴力沙汰は禁止されているんだけど、気性が荒い人も多いから、絶対無いって言い切れない。あと、今回は初めてディックを連れていかないから、かなり挑発されるかもしれないし」
そうか、今まではディックさんが護衛していて、それで今回はその代わりの俺だから、絶対に何か言われる可能性が高いな。
「できる限りこちらが矢面に立つからお願いできないかな?」
女の子に『矢面に立つから』って言われちゃ、後には引けないなあ。
「了解。別にサラヤだけが矢面に立つ必要はないよ。イザとなったら俺も覚悟しておくから」
「流石はヒロ!イザという時は僕も張り切るよ。二人でサラヤを守ろう」
ジュードにイイ笑顔で言われてしまったが、絶対にサラヤという姫を守る騎士がジュードで、俺は脇役にしかならないのが目に浮かびそうだ。
別にいいけどね。俺も目立つのは好きじゃないし。
ジュードは今日の狩りは休むらしい。ダンジョンに入っていたら、昼過ぎには拠点に戻ってこれないから仕方ないのだろう。
しかし、俺にとっては時間が有限だ。いつもより狩りの時間が少なくなるとは言え、一分一秒無駄には出来ない。
頭に浮かぶのは昨日の光景。
ザイードが行ったブルーオーダーとマスター認証。
漆黒の装甲が一瞬でグレーに塗りつぶされた瞬間。
ザイードの言葉によって目の青い光を強く輝かせた瞬間。
あの敵対していた機械種が人間の言葉に無条件に従った瞬間。
昨日の晩から俺の目に焼き付いて離れなかった。
そして、俺の手にはディックさんから貰った8級の蒼石がある。
いつものナップサックを手に拠点を出る俺。
向かうはいつもの草原だ。
挑戦してみるか。機械種の従属を。
残念ながらザイードの話では、この8級で確実にブルーオーダーできると言えるのはラビットくらいしかないらしい。
初めて従属させるならもっと上位の機械種をと目論んでいたが、5級の蒼石はもう使用してしまったし、他に手に入れる手段も持ち合わせていない。
しかし、もう我慢できない。あの機械種を従えたザイードを見て、羨ましいと思ってしまった。
最初から上位の機械種を狙うのは無理があった。
ネット小説では、主人公が最初に手に入れるロボットや従属物、ペットなんかは、やたら希少種であったり、最上位のものであったりすることが多い。最初は最弱、若しくはありふれたものに見えても実は・・・という展開も多かったように思う。
だから俺も最初から最上位とはいかなくても、そこそこのを選びたかったが、そうも言っていられない。
このままでは、いつまでたっても機械種を得られないような気がしてきたのだ。
俺が従属させるに相応しい機械種を探して、見つける度にもっと優秀なものを、もっと高性能なものをと言って、結局見つけられない姿が容易に想像できる。
ヒロインを探しているわけじゃないんだから、別に最初から最高を目指さなくてもいいだろう。これくらいの妥協は必要なはずだ。
従属させる対象として選んだのは、俺が最も戦った相手、機械種ラビットだ。
コイツなら草原にいけば出会えるし、容易に動きを封じるのも可能。
従属させても戦闘力には期待できないだろうが、この際、実験みたいなものと割り切ろう。
邪魔になるようだったらチームトルネラの誰かに譲っても構わないし。
まずはステップアップの為の第一段階といきますか。
目指せ!機械種ラビットの従属を!
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