第67話 惨劇


 子供達3人に囲まれる俺。なんかデジャブ。デップ達を思い出す。

 もう1人は一番小さい子を慰めているようだ。兄弟かな?。


 俺を囲んでいる3人と小さい子を慰めている1人は、ちょうどデップ達と同じか、少し上くらい。小学生高学年から中一ってとこか。子供というより少年だな。

 小さい子は6,7歳くらいだろうか。今でもグズッっており、なかなか泣き止もうとしない。こんな小さい子よく連れてきたな。


 

「お前、どこを見てんだよ!」


 俺を囲んでいる3人のうち1人がナイフをチラつかせて脅してくる。

 俺が怯えていないことに苛ついているのだろう。

 他の2人は棒を構えており、俺が逃げ出さないよう左右に展開している。

 まあ、逃げるつもりはないが、こちらも少し苛ついてくるな。



 しかし、コイツラは目の前のコブリンを倒したのは俺だと気づいていないのか?

 さっきまでコブリンに負けそうだったのに、それを一撃で倒した俺に喧嘩を売るような真似をして、危ないとは思わないのか。


「あのー、さっき助けてあげたのは俺なんだけど・・・」


「知るか!俺達がコブリンを倒した後にやってきたお前なんか!」


 あれ、情報がすり替わってません?

 本当にそう思っているのか?それとも、コブリンを獲物として持って帰りたいから、嘘を突き通そうとしている?

 何か事情はあると思うけど、それだったら理由を話してもらえれば、こちらも譲歩する用意があるのに。


「さっき負けそうだったでしょ。危ない所だったから石を剛速球で投げたんですよ。ほら、倒れているコブリンの胸に大穴が開いているでしょう?」


「馬鹿か!石なんかでコブリンが倒せるわけないだろ!」

「コブリンは俺達が倒したんだよ。何度も切りつけてたから、ようやく壊れたんだ!」


 いや、ナイフや棒でコブリンをやっつけたってのも無理があるんじゃ。


「お前、訳の分かんないこと言って、俺等から獲物を奪うつもりだな!」


「いや、別に獲物については何も言ってないじゃないか」


「だったら何で近づいてくるんだよ」


「それは心配だったらか。だって負けそうだったでしょ」


「俺等が勝ったんだ!だからコイツは俺等の物だ!」


 うーん。言葉は通じるのに、通じない。

 こんなものなのか、スラムの子供達の思考回路は。


 自分達がやられそうになったコブリンを、一撃で倒したかもしれない俺にここまでいちゃもんをつけてくるなんて、力関係がなぜ把握できないんだ?

 小さい子を除いても、4人もいるから、勝てるって思ってるのか?その4人でコブリンに負けそうだったのに。それとも俺が武器を持っているように見えないから舐められているのか。


 なら、銃を取り出してみるか。そうしたら少しは話を聞いてくれるかも。

 



 こそっと背中に担いだナップサックに手を突っ込もうとしたところで、囲んでいる少年達3人の目の色が変わる。


「おい、お前、良い物持ってるじゃないか」

「いちゃもんをつけてきたお前が悪いんだ。それを寄越せ!」



 え、何それ?



「迷惑料だよ。さっさと寄越せ!」

「ブスリってやっちまうぞ!」



 子供のくせに脅し文句はチンピラのようだ。

 助けにきたのが間違いだったか。でも小さい子も居たし。


 少し離れた所で、兄らしき少年に慰められてようやく泣き止んだ小さい子供。

 その兄らしき少年はこちらを興味深そうに眺めている。



 周りは敵だらけか。助けてやった子供達はこちらが弱そうと見ると、強盗へ早変わり。

 これがスラムの常識なのだろうか。何と世知辛い。

 人から物を奪うという発想がすぐ出てくるなんて。



 そう、俺からウバオウトスルナンテ!



 俺の内から吼え猛る声が響く。

 心の奥底からドロリとした熱いモノがこみ上げてくる。



 あ、まずい!



 一歩下がって、少年たちの説得に入る。


「おい、人から物を奪おうとする奴は、人から物を奪われるんだぞ!せっかく獲物を狩れたんだろ。そんな危険を冒す必要はないって!」


「コイツ、ビビってきやがったぞ。ハハ、さっきの威勢はどうしたんだよ」


 少年の1人がこれ見よがしにナイフを俺の目の前でチラつかせる。

 残り2人も棒を構えて殴りかかる素振りを見せている。


 


 ウバウノカ!オレカラウバオウトスルノカ!


 心の中の檻をガンガン叩く音が聞こえる。

 怒り狂う龍が、轟き叫ぶ虎が、内から殻を破らんばかりに暴れ回る。




 ヤバいって!ちょっと待って。もう少し説得するから。


「俺はかなり強いぞ。絶対に大怪我をするからやめておけって」


「ハハハハハハ、そんな弱そうな奴が強い訳ねえだろ!」


「ぐっ、もういい、あのゴブリンはお前たちが好きにしていいから、俺に構うな」


「初めからあれは俺達の物だ!そして、お前のその袋もな!おい、やっちまうぞ!」


 棒を構えた2人が殴りかかってくる。



 ヤハリ、ウバオウトシテキテイル!

 コロセ、コワセ、ウバオウトスルスベテヲ!!


 俺の中から聞こえる声がどんどん大きくなる。

 もう俺の意識を塗りつぶさんばかりの大きさに・・・・・・・


 

 おいおい、止めろって!本当にお前たちの命が危ないんだって!

 くそっ、銃を出して脅してみるか。


 がむしゃらに振り回される棒を回避しながら、ナップサックに手を入れ、銃を引っ張り出す。

 これで、ちょっとは頭が冷えるだろう。



「あ、コイツ、銃を取り出しぞ!」


 棒を振り回す1人が叫び声を上げると、もう1人の動きが止まった。


 すると、後ろにいたナイフをチラつかせていた少年が俺に向かってくる。

 

「おい、周りを囲め!銃は一方方向にしか撃てないぞ。周り囲んでぐるぐる回ってれば当たらねえ」


 コイツめ!さっきまで頭の血の巡りが悪かったくせに、急に知恵がついたようなことをしやがる。この草原までコブリンを狩ろうする奴だから、こういった戦闘には慣れているのか!


 小さい子を慰めていた少年の方も、ナイフを抜いてこちらに向かって来ようとしている。


 ああ、駄目だ。止められない。


 ソウダ!ウバオウトスルヤツラハミナゴロシダ!



 何かが弾けた。

 何かが変わった。

 先ほどまで目の前の少年達を心配していた感情は一切合切消え去った。


 そして、出てきたのは・・・・・・・・・






 もう、メンドクサイな。

 さっさと殺すか。

 

 仲間に指示を出して、ナイフをもって向かってきた少年を迎えうつ。


 繰り出してくるナイフの先端を避けて、体を滑り込ませるように接近。少年の眉間を右手の人差し指で打ち抜く。

 


 ズズッ



 おお、指の根元まで刺さった。



 ズボッ



 眉間に穴を開けられた少年は数秒だけ虚ろな目して立っていたが、くるっと目がひっくりかえり、後ろにバタンっと倒れ落ちる。


 あーあ、指が汚れたじゃないか。このやり方は良くないな。もっとスマートにしたいね。

 

 仙術で水を生み出して、指先を洗う。



 他の少年たちは唖然としたまま立ち尽くしている。


 おやあ、そんな無防備でいいのかな?


 その一人、棒を持ったまま立ち尽くす少年に何気なく近寄る俺。

 

 はっと俺が目の前にいることに気づくと、棒で殴りかかろうとするが・・・


 その前に両手で顔を掴み、横に軽く捻ってやる。


 

 ゴキッ



 首が90度近くまで傾いた。

 これなら手も汚れない。


 


「わあああああああ!!!」



 棒を持ったもう1人が喚きながら背中を向けて逃げ出す。

 おいおい、逃げ出すなら最初からかかってくるな。

 土下座して謝るなら許してやらないでもなかったが、謝罪も無しに逃げるとは感心しないな。



 両手で顔の前に筒を作り、息を吹き込む。




 フッ




 パアアアアァァン!!



 背中に向けて気賛を放ったが、狙いが上にずれたようで、頭がザクロのように弾け飛ぶ。




 グロい!

 近くでなくてよかった。




 えっとあと残りは・・・



 小さい子と、その子を慰めていた少年だな。

 小さい子はともかく、少年の方はこちらに向かって来ようとしてきた。

 だから同罪だな。ヤッテしまうか。



 少年の方は戦意を無くした状態で座り込んでいる。

 小さい子は目の前の惨劇を見てお漏らしをしてしまったようだ。ズボンが濡らしたまま立ち尽くている。


 

 ん、そうか。この小さい子がいたな。この兄らしき少年を殺してしまったら、この子はどうなんだろう。当たり前だが、1人で放り出されたら、この草原から生きて帰ることはできないだろう。


 この子は俺から奪おうとしてないし、俺も小さい子を殺したいわけじゃない。

 しかし、この子を生かす為に、その兄らしき少年を見逃すというのもなあ・・・



 コロセ、コロセ、オレカラウバオウトシタヤツハ、コロセ!



 はいはい、ちょっと待っててくれ。いい方法考えるから。


 うーん。そう言えば、俺が殺した少年達には何度かチャンスをあげていたな。全部投げ捨てていたけど。なら、コイツにもチャンスをあげるべきか?


 よし、俺からの投げ与える意地悪な問いかけに、正しい回答ができたら助けてあげよう。

 これくらいが妥協点だ。それでいいだろう?



・・・・・・・・・



 いいみたいだな。

 ふう、扱いが難しい。





 少年と小さい子に近づいていく。

 

 少年の方は立ち上がる気力もないのか、呆然と俺を見上げるだけ。

 小さい子は少年の背中にしがみついて、隠れているつもりのようだ。


 



「ねえ、君はどこのチーム?」


 俺は努めて優しい声で少年に話しかける。


「え、は、はい、チームブルーワです」


「ここへは狩りで来たの?」


「はい、チームブルーワでは、ノルマがあって、達成しないと追い出されるので・・・」


 チームブルーワか。初めて聞くな。スラム6チームの1つかな。


「なんで、その小さい子を連れてきたの?」


「あ、その、俺の弟で、俺が傍にいてやらないと、チームの誰かに捨ててこられるかもしれなくて・・・」


 なかなか厳しいチームだな。確かに狩りができない小さい子は足手まといにしかならないから、チームに置いておくメリットは少ないか。


「だから危険な狩りに連れていくことにしたの?」


「はい、コルサが倉庫で粘着弾を見つけてきたみたいで、これならラビットを狩れるかもって、でも、コブリンを見つけてあれにしようってなって、それで・・・」


 粘着弾ねえ。手投げ弾だったのか。

 倒れているコブリンを見ると、確かに、足元に白いネバネバが付着している。

 色々戦い方があるもんだ。


 さて、聞きたいことはこれくらいで、そろそろ本題に入るか。






「いいかい。君らはあのコブリンから助けてあげた俺に襲いかかろうとした。これは許されることではない。万死に値する。だから死ぬべきだ」


「ひっ、ご、ごめんなさ・・い」


「いいや、謝っても許されないね・・・と言いたいところだが、君にチャンスをあげよう。死ぬのは1人でいい。君が死ぬか、その弟さんが死ぬかを決めてくれ」


「え?あ、あの、ど、どういう意味で・・・」


「君が死ぬか、弟さんが死ぬかを決めろってこと。どちらか一人だけを助けてあげよう」


「ひいいいぃぃ!」


 少年はひとしきり怯えて頭を抱える。

 しばらくすると、目が背中にしがみつく弟に向けられ、また頭を抱える。



 おい、選択を間違えるなよ。


 

 

 そして、出てきた答えは・・・








「弟を助けてください」


 奥歯をガタガタ震わせながら声を絞り出す少年。

 そして、さらに言葉を続ける。


「俺はどうなっても構いません。だから弟を安全な場所まで連れて行ってもらえませんか」



 

 うん、合格かな。弟の命だけ助けても、ここで放り出されては生きていけないだろうし、通したい要望を素直に述べたのはいい判断だ。






はああああああああああああああ



心の中で大きくため息をつく。安堵のため息だ

ここで、自分を助けてっていうなら間違いなく、コイツを殺していたな。


おい、もう十分だろう。コイツへの罰はこれで済んだはずだ。


・・・・・・・・・










 コブリンの頭だけを捻じって切り離す。

 この大きさだと、持って帰るには背負うしかないが、あのスラムへの道中、その恰好で練り歩くのは遠慮したい。

 獲物とするのは頭の部分だけで十分だろう。

 


 コブリンの身長はボスやコボルトより10cm程高くて140cmくらいか。

 禍々しい子鬼といった感じだな。爪が鋭く伸びており、近接戦闘が得意だと思われる。コブリンは野外探索用だとボスは言っていたが、おそらく、この爪で邪魔な草むらや枝なんかを切り払い、穴を掘ったりするんだろう。


 気賛で胸に大穴を開けていなければ、ディックさんから貰った蒼石で従属させるという選択肢もあった。その場合は生け捕りにしないといけないし、そもそも、従属のやり方を俺はまだ知らない。

 

 そう言えば、そろそろザイードが機械種タートルを完成させる頃かな。


 もう拠点に帰るとするか。

 その前に、あの兄弟に声をかけよう。



「頭は貰っていくよ。後は好きにするといい」



 言うだけ言って、返事は聞かずにその場を去る。


 最後に、兄の方から『ありがとうございます』という声が微かに聞こえた。


 最初からそれが言えていれば、この惨劇はなかったのに!

 そもそも俺から・・・・・・としなければ、アイツは出てこなかったのに!



 世の中なんでこんなに要領が悪い奴が多いんだ。もっと賢く生きれないのか。


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