第66話 遭遇2


 カランから荷物を受け取り、草原に繰り出す俺。

  

 あんまり時間も無いから、人目が無くなったところで、速度を上げ、1時間もかからずに草原に到着する。





 さて、まずは新しい宝貝の試し打ちと行くか。

 辺りに人がいないことを確認して、七宝袋から金鞭を取り出す。


 両手に金鞭を構え、前方を対象として、発動させる。



「吼えろ!金鞭よ!」



 バチバチバチバチバチバチバチッ!!!!



 つんざく轟音とともに、文字通り金色の稲妻が前方を扇のように広がっていく。

 おそらく効果範囲は30m程だろうか。威力の程は分かりにくいが、相手が群れの機械種であった場合はかなり有効的な攻撃手段になりそうだ。


 草が焦げた臭いが薄っすらと漂い、少しばかり熱を持った空気が流れ込んでくる。


 電撃という攻撃手段はなかなかカッコいいな。実に攻撃魔法っぽい。

 

 男の子が3大憧れる攻撃魔法

 1.ファイアーボール

 2.ライトニング

 3.・・・・・・・


 3番、なんだろうな?

 まあ、いいか。






 さて、次は降魔杵を使ってみよう。


 右手に降魔杵を握りしめて、投擲するかのように構えてみる。

 しばらく投球フォームを維持していたが、どうもしっくりこない。


 うーん。どうやら発動には攻撃対象がいるような感じ。

 近くにラビットはいないだろうか。探してみよう。



 



 ラビットを探してうろつく俺。


 この探している時間がどうも俺には無駄な時間のように思えてしまう。

 この索敵能力の低さをカバーできる仙術はないだろうか。


 確か、宝貝に妖怪を発見したり、見えない物を見たりできる照妖鑑というものがあったはず。これを改造してマッピング機能とか、索敵機能とかを付けることができないかな。

 





 そんなことを考えている間に、目的のラビットを発見する。

 

 前方20m、対象1体。狙いよし。


 降魔杵を構え、投擲準備にかかる。

 すると手に持った降魔杵が徐々に重さを上げてくる


 重さの無い物は投げにくいから丁度いいくらいだな。

 ある程度の重さになったところでストップをかけ、狙いをつける。

 

 さあ、ディックさん。貴方から頂いたハンマーを使わせてもらいます。




「押しつぶせ!降魔杵よ!」




 右手の降魔杵ラビットに向けてブン投げる。


 剛速球の勢いでラビットにぶち当たる降魔杵。

 そして、その瞬間、轟音とともに地面が震えた。



 ゴゴゴゴゴゴオッ!!



 なんじゃあああ!!!



 降魔杵が命中したラビット辺りから土煙が立ち昇る。

 恐る恐る近づいてみると、半径5mくらいのすり鉢状になったクレーターができていた。

 クレーターの中央には、おそらくラビットであったペシャンコの残骸が鎮座している。


 なるほど、重力操作型の宝貝だな。単体遠距離攻撃なのはうれしいが、これではオーバーキル過ぎて晶石や晶冠が回収できないぞ。


 しかし、この威力は魅力的だ。これならばあの森で会ったメカ熊でも倒せそうな気がする。






 これで新しい宝貝の試しは終了。次はチームの為の狩りをしなくては・・・


 ん、また、七宝袋から誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


 そんな器用なことをする奴はコイツくらいしかいないが。


 七宝袋から打神鞭を取り出す。


 なんのようだよ。お前の試し打ちは前にやっただろう。


 なになに、前回、人探しが失敗したように思われているのが嫌だから、もう一度試してほしいとな?

 

 うーん。さっき確かに索敵宝貝が欲しいと思っていたが・・・


 なんかコイツに頼るのは、ちょっと何かに負けた気がするんだよな。


 見なかったことにするか・・・



 うわ、コイツ、俺の網膜に自分の姿を投影してきやがった。目線を外しても、目を詰むっても、チラチラと視界の端に打神鞭が映ってくる。なんてウザいアピールをするんだ!。


 分かったよ。どうせ、探し回るしか方法がなかったから、この際、手がかりは何でもいいか。



 

 

 打神鞭の指示に従い、占いの準備をする。

 打神鞭の中央に紐を括り付けて、手にもってぶら下げる。

 ちょうどつり合いが取れてコンパスの針のようにくるくると回り始める。


 俺が探したいのは機械種だ。できればラビット以上の機械種が望ましい。ただし、あんまり強そうなのは避けてくれ。あと、ウルフの集団はノーサンキューで。


 すると、クルクル回っていた打神鞭がある方向を向いてピタッと止まる。

 打神鞭が言うには、先端部分の方角に求めるものがあるそうだ。



 まあ、一応、信じて行ってみようか。

 え、このまま進まなきゃいけないの?

 傍から見たら頭のおかしい奴だぞ。これ。







 20分くらいすすんだところで、前方に複数の人影が見える。


 おそらく200mくらいは先だろうが。あの大きさなら多分ハーフリングタイプ、それもコブリンって奴かもしれないな。


 一度見かけたことがある奴だ。その時はウルフの集団を片付けた後だったので、戦闘は回避したが、今の俺はそれ以上の戦闘力を準備している。


 オーク3匹も瞬殺だったんだから、コブリンくらい余裕のはずだな。


 ただし、気を付けないといけないのは銃くらいか。ダンジョンではあまり使用されない銃器も、この遮るものの無い草原では回避しにくい攻撃手段となる。


 莫邪宝剣で格闘戦を挑むより、金鞭か、降魔杵で遠距離から攻撃してみるか。

 射程距離なら降魔杵の方が長いだろうが、晶石を回収するとなると金鞭の方かな。まあ、これも電撃で壊してしまうかもしれないが。





 打神鞭を収納して、体勢を低く保ち、コブリンと思われる集団に近づいていく。

 どうやら人数は6体。大きさが若干不揃いなのは気になる所だ。他のハーフリングタイプが混ざっているのかもしれない。

 6体は激しく動き回っており、何かダンスでもしているような雰囲気だ。


 何かに気を取られているなら奇襲のチャンス。

 できるだけ近づいて確実性を上げよう。





 ん?

 

 100m程に近づいたところで違和感を感じた。

 おかしい。機械種の色は黒一色なはずのに、白や青や茶が混じっている。



 50mくらいのところではっきりと詳細が見えてきた。

 一時停止して、相手に見つからないよう、うつ伏せになりながら打神鞭を取り出す。


 おい、あれはどう見ても人間なんだけど!


 そうだ。コブリンと思われた集団は6人の子供達だった。


 おい!俺が気づいたから良かったものの、あれに先制攻撃加えてたらどうなっていたんだよ!


 打神鞭を締め上げながら詰問していく。

 俺の頭の中に『ロープ、ロープ』という場面が浮かび上がるが、無視だ。


 俺を児童殺人犯にしたいのか!今度という今度は許さねえぞ!


 『ギブアップ、ギブアップ』という言葉と、レフリーが俺の腕を叩いてくる映像が浮かぶがこれも無視。こういう細かい芸が余計に腹が立つんだ。


 打神鞭をひん曲げてやろうと力を込めたところで、子供達の叫び声が聞こえてくる。



「ダメだ!やっぱり無理だよー!」

「馬鹿やろー!コイツを倒せないとチームに残れないぞ!」

「うわーん!」

「もっと攻撃しろよ!」

「お前がやれよ!」



 うん?


 よく見ると子供達6人と思っていたが、どうやらコブリンらしき機械種が1体混ざっていたようだ。

 コブリン(?)1体と子供達5人、その5人のうち、1人はかなり小さい。小学1年生くらいか。

 

 小さい子供を除く4人は、コブリンを囲みながら、攻撃を加えようとしているが、なかなか当たらない様子。

 コブリンの方はなぜか動きが鈍く、腕を振り回しているが、子供達には届かない。

 4人に囲まれていることもあるせいか、戦闘は拮抗しているように見える。


 おいおい、コブリン相手に子供達が奮戦って、そんなにコブリンって弱かったのか?


 子供達が危なそうなら助けようかとも思ったが、拮抗しているなら、手助けは余計なものとなるだろう。


 しばらく草原に身を隠し、中腰のまま30mくらい近づいて、様子を窺うことにする。





 

 おや、急にコブリンの動きが良くなったぞ。


 今まで足を引きづるように戦っていたコブリンが急にスピードを上げ始める。

 

「ヤバい!もう外れちゃった!」

「おい、もう一個ないのか?」

「ある訳ないだろう!黙って倉庫から持ってきたのに」

「にーちゃあああん」

「おい、もう逃げようよ!」


 うーん。どうやら足止めするような罠か特殊用具を使用していたのか。

 それが外れてしまったら、もう勝ち目はないだろうな。


 しゃーない。助けてあげるか・・・・・・どうやって?


 莫邪宝剣・・・目立ち過ぎ。下手をすると発掘品と思われて狙われるかも。

 金鞭・・・・・絶対巻き込む。

 降魔杵・・・・巻き込む可能性が高い。

 素手・・・・・素手で機械種を解体するヤバい奴って情報が流れる。

 銃・・・・・・多分動いている奴に当てられない。

 禁術・・・・・言葉で機械種の動きを止める奴ってヤバいと思う。

 陣・・・・・・コブリンの近くまで行って陣を書くの?

 縮地・・・・・瞬間移動は不味いだろう

 変化の術・・・顔を変えて謎のヒーロー   これだ!



 どんなヒーローに変身するべきか?ライダーか、ウルトラの方か、しかもシリーズが多いからどれを選ぶんだ?

 おお、これを選ぶだけでも数時間以上かかりそうだ。


 時間が無い。もう簡単に顔をいじるだけでいいか。


 仙骨から湧き出るエネルギーに自分のイメージを落とし込んで、顔と髪に流し込む。

 髪の色を変え、顔かたちをちょっとだけ肉付けするイメージ。



「顔よ!我が意に通り変化せよ!」



 目の前が一瞬だけふわっと霧がかる。

 多分これで変化したと思うけど。

 胸ポケットからミニ鏡を取り出して、顔を確認。


 髪の色が金髪に変わり、頬の肉がふんわりついて、ちょっとぽっちゃりタイプに見える。

 うわー、さらに弱弱しく見える。外国の映画で出てくる弱気ないじめられっ子っぽい。



「にーちゃあああああん!」



 一番小さい子供の一際大きな叫び声が聞こえる。


 イカン!


 子供の何人かが倒れ込み、コブリンが襲いかかろうとしている。


 混戦状態だから縮地で突っ込んだら、進行上の子供を吹き飛ばしてしまいそう。

 ならばここから相手に攻撃できる手段・・・さっき考えていた『気賛』を使ってみるか。


 顔の前に両手で筒を作り、ちょうど吹き矢を射るようにして、息を吸い込む。


 以前読んだ格闘漫画でも、この技が使われていたな。中国拳法の使い手が、空手家相手に目つぶしとして使用していた。

 封神演義では崑崙十二大仙の一人、道徳真君がこの技で、截教十天君の一人である王天君の胸に大穴を開けて葬っている。

 

 さて、どのくらいの威力があるか?

 コブリンの近くの子供は倒れ込んでいて、今なら誤射はないだろう。

 狙いよし! 



 ふううううぅぅ



 ゴォン!!!



 おおお!コブリンの胸に拳大くらいの穴が開いた。

 威力は封神演義準拠か。




 バタン!


 倒れ伏すコブリン。

 



 突然の状況に、呆気に取られる子供達。



 ほっ、救助成功か。


 まあ、一応声をかけておくか。顔も変えているし大丈夫だろう。

 なぜ、こんな危険なところに来たのかも聞いてみたいし。

 せっかく助けたんだから少しくらいは有用な情報が欲しいな。



「おーい。大丈夫かーい?」


 近づいて声をかける俺。



 俺の姿を見た途端、構える子供達。


 え、そんなに警戒しなくても。



「なんだよ!お前は!このコブリンは俺達の物だからな!」

 

 子供達の一人がナイフを振りかざして威嚇してくる。



 え、助けたのにそれはないんじゃない?


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