第55話 宝貝2
食堂から出て、1Fの駐車場を目指す。
目的は宝貝作成だ。
せっかくアデットから宝貝になりそうな物をもらったのだから、早速試してみるつもり。
1F奥の大扉を少しだけ開けて、中を確認する。
前みたいにカランがいたらめんどくさいからな。
ふう………、幸い誰もいないようだ。
しかし、2Fの階段から誰か降りてくる可能性もあるから用心しないと………
そうだ! こんな時の『隠蔽陣』だ。
ここでコイツを使わない手は無い!
床に落ちている石を拾って半径2Mくらいの円を描く。
そして、円の中心に座り、力を注いで、周りから見えないイメージを植え付ける。
「隠せよ!隠蔽陣!」
成功……多分。
まあ、誰かに確認してもらったわけではないから、効果が分かりにくい。
当然、誰かに確かめてもらう訳にはいかないが。
オリジナルで作った陣だけあって効果に不安が残っている。
実は全く効果がありませんでしたなんてオチはないだろうな。
さて、そろそろ宝貝作成の準備に入るとしよう。
七宝袋からアデットに貰った金色の警棒を取り出す。
さて、何の宝貝を作るのか?
この金色の警棒を見て、真っ先に思いついたのが、封神演義において、主人公である太公望のライバル、殷の太師 聞仲の宝貝『金鞭』だ。
そのままの名前だな。実に分かりやすい。
さて、名前からして、つながりがあるから成功率は高いと思うんだが。
金色の警棒を両手で握りしめ、聞仲が振るったという宝貝『金鞭』のイメージを注いでいく。
蛟竜が変化したという鞭。振り回せば雷鳴を発し、空中へ投げれば必ず相手に命中したという。
「宝貝 金鞭」
金色の光が立ち込めたかと思うと、手の中の警棒に入り込んでいく。
気がつけば、握りしめていた警棒はなぜか2本に分かれていた。
え、なんで?
………そうか、金鞭は確か双鞭だったな。2本で一組ということか。
両手で1本ずつ持ってみる。
なんか太鼓のバチみたいだな。
どっしりとした重厚な頼もしさが感じられる。
宝貝から流れ込んでくるは、幾多の戦場を駆け抜けた老齢の将軍といったイメージ。
いざ戦いとなれば、万夫不当の暴れっぷりをみせてくれそうだ。
しかし、ここで振り回すわけにはいかない。雷が跳ねまわったら大惨事になる。
試すのは明日、草原あたりでラビットを的にしてみるか。
よし、次に試したいのは……
ふと、ジュードから貰った鉄パイプのことを思い出す。
いや、あれはただの鉄パイプだ。
宝貝の材料にするには、安っぽ過ぎるだろう。
しかし、なぜか気になってくる。心がザワザワするというか、何かが訴えてきているというか。
虫のしらせ、若しくは第六感。それとも、俺の中の仙骨が読み取ってくる、運命の流れみたいのものかもしれない。
たしか仙術にも風水や占いのようなものがあったはず。
これは仙術スキルのパッシブ効果の可能性があるな。
俺にとってのよりよい未来を得る為のサポートをしてくれるような………
だったら、俺の異性関係についても、もっと上手くいくように助言しろよ!
俺の仙術スキルに心の中で訴えてみる。
『その願いは私の力を超えている』
どこかの漫画で見たセリフが記憶の中から浮かび上がった。
え、今のは俺の妄想だよね?
本当に仙術スキルからの返答じゃないよね?
気を取り直して、七宝袋に仕舞っていた鉄パイプを取り出す。
片手で握って、ぶんっと振るってみる。
何度も実践で使ったが、非常に使いやすい大きさだ。長さは80cm程。
多少の小傷はあるものの、あれだけ力一杯振るっても歪まないくらいは頑丈らしい。
もちろん、俺が曲げようとすれば曲がるだろうけど。
そんなことをしたら、ジュードに何て言われるか。
ともかく、これは何の宝貝にすれば良いのだろう。
形は鞭と呼ばれるものに近い。
しかし、先ほど『金鞭』は作成してしまった。
あとは、封神演義で鞭というと、有名な『雷公鞭』があるが、流石にあれを鉄パイプで作成するのはちょっと無理があるように思う。
そう言えば、『雷公鞭』は封神演義の原作には存在せず、日本人の編訳版で生まれたと聞いたことがある。
俺が読んだ方は編訳版の方だから、特別『雷公鞭』には思い入れがあるんだが。
他に棒状の宝貝といえば、孫悟空が持っていた如意棒くらいか………
あ! 肝心なものを忘れていたな。
封神演義の主人公 太公望が持つ宝貝『打神鞭』の存在を………
!!!!
え、これなの?
唐突に生まれる宝貝誕生の気配。
仙骨から腹の中を通って、ナニカが這いあがってくる。
それは俺の喉を伝い、
自然と口から漏れ出し、
言葉となって仙意を紡ぐ。
意識することなく、形造られたその宝貝の名は…………
「宝貝 打神鞭」
その瞬間、フッと体の中からナニカが抜け出たような感覚に襲われる。
先の2つの宝貝化の時には無かった現象。
なんだろう? と疑問が脳裏を横切った瞬間………
ピカッ!
手に持った鉄パイプが銀色の輝きを放った。
何度も機械種に打ち込み、付いてしまった汚れや小傷は一瞬で消え去って新品同様に。
さらに、ただのパイプに過ぎない形状に規則性のある凹凸が生まれて、まるで、アンティークテーブルの足かのような紋様へと変化。
長さは60cm程に短くなり、太さも一回り細くなっている。
殴打用というより、オーケストラなんかで使用する指揮棒のようだ。
これが、打神鞭。
人間の精神を打ち据え、仙人の頭を打ち割る力を持つ。
しかし、精神を打ち据えるってどのような効果なんだ。
あと、仙人の頭を打ち割るって、対仙人用の武器だったりするのだろうか?
この異世界に仙人は俺以外いないと思うんだが。
手にもって構えてみても、反応が薄い。
いや、なんか居眠りしているような、床でごろ寝しているようなイメージが………
まあ、金鞭と一緒にこれも試し打ちが必要だな。
しかし、偶然とはいえ、封神演義の主人公とそのライバルの宝貝が一度に手に入るとは、なんという奇妙な縁なんだろう。
さて、次はどうしようか……
ギ、ギ、ギ――――
また、このパターンかよ!誰だよ!カランか?
カツン、ダン、カツン、ダン、カツン、ダン、カツン……
うん?
この杖を突いているような音、これは……
2階の階段から降りてきたのはディックさんだった。
どうしたんだ?
駐車場に何の用だろう?
カランみたいに何か訓練でもするのだろうか。
階段を降りると、以前、カランが木刀を入れていたロッカーを漁り始める。
え、ひょっとして、カランの私物を漁ってますか? ちょっと趣味悪くないですか。
………いや、別にあのロッカーはカラン専用というわけでもないのか。
しばらくすると、ディックさんはロッカーから何か見つけたようで、それを持って、駐車場の奥の方へ移動する。
うん。全く俺には気づいていない。
どうやら隠蔽陣は問題なく効果を発揮している様子。
前のカランの時と違って、駐車場の真ん中の方に陣取っているのに気づかれなかったからな。
……っていうか、一体ディックさんは何をしようとしているんだ?
ギギギギギギギギ!!
錆びついた扉を無理やり開く音が駐車場に響く。
あんなところに扉があったのか。
えーと、一体どこへ行こうとしているんだ。外か?
出かけるにしても、この時間に杖を突いて外になんか出たら、あっという間にチンピラに絡まれてしまわないか。
それとも、何とか回避する方法を持っているのだろうか。
バタン!
扉が閉まる音が聞こえた。
どうやらディックさんは外に出てしまったようだ。
え、どうするの、俺?
これってディック回ってこと? 誰得なんだよ!
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