第49話 地下1階
ダンジョンの中を進んでいく、俺とジュード。
壁の穴の先はそのまま階段になっており、地下1階へと続いていた。
広さは車が1台通ることができる程度。
話には聞いていたが、壁全体が薄っすら発光しており、明るさは問題ない。
真っ暗でも俺には暗視があるから大丈夫だが。
ダンジョンに入る前に、脛を持ってきた布で巻きつけておいた。
ジュードに聞くと、このダンジョンで出る機械種の大半は超軽量級で、足元から膝辺りを噛みついてくるものが多いそうだ。
これで完全に防げるわけではないが、歩けなくなるくらいの大怪我は避けられるとのこと。
ダンジョンで機械種に殺される原因のほとんどが、足をやられて動けなくなったところに集団で襲いかかられることらしい。
入ってしばらくは機械種が出てくることはないそうなので、ジュードに先ほどのアデット達について聞いてみる。
「さっきの通りだよ。どこが気に入られたのか分からないけど、会う度にチームに入れと誘われるんだ。ディックやカランも誘われていたけどね」
「節操がない奴だな。アデットのチームは何人くらいいるの?」
「僕達のチームと同じくらいかな。才能がありそうな人を集めているみたいで、戦える人の割合はもっと多いけど」
なるほど。
非戦闘員が少なければ効率は良くなるからな。
「魔弾の射手ってチーム名だったけど、あのアデットという人は銃使いなのかな?」
「アデットはああ見えて、武芸百般なんだ。銃でも、ナイフでも、素手でもね。それに頭も良くて、機械種の知識もある。なんで、スラムにいるのかが不思議な程の人物さ。あの外見に騙されて甘く見たヤツは大抵もういなくなっているよ。あんまり敵に回したくない人物だから、ヒロも気をつけてね」
そこで、ジュードは立ち止まって俺の方を向く。
ん………、なんだろ?
「もう一つアデットについて忘れてた。ヒロ、アデットは着ているコートを馬鹿にする奴は絶対に許さないんだ。それだけは注意して。」
それは難儀な性格だな。
さっき、ちょっと似合わないなと思ってたけど。
「多分、あのコートは発掘品だと思うよ。僕もアデットの戦っているところを何度か見たことがあるけど、あのコートに色んな武器を仕舞ってあるんだ。それこそ、あきらかに仕舞えない程の大きさの武器までね。おそらくそういう機能が付いたコートだと思う」
お、それはアイテムボックスみたいな奴か。
この世界にもあるんだ。
「僕はあんまり発掘品とかに詳しくないけど、多分間違いない」
うーん。発掘品について、もっと詳しく調べたいな。誰が詳しいんだろう?
しかし、そのアデットって奴は、美男子で、武芸百般で、頭も良くて、発掘品まで持っていて、まるでネット小説の主人公かと思うくらいの万能選手だな。
一体どこを目指しているんだ?
そのことをジュードに尋ねてみると、あっさり答えが返ってきた。
「アデットはチームでスラムの脱出を目指しているんだ。バックについてる白狼団は猟兵集団の寄り合いだから、いずれチーム全体で猟兵団を結成するんじゃないかな」
猟兵団? 前にもカランの話に出てたな。狩人の傭兵団みたいなものかな?
バーナー商会だけでなく、庸兵団もスラムチームのバックをやっているのか。
「ジュード、スラムのチームは何個くらいあるの?」
「チームと言っていいのは僕たちのチームも含め6つだね。そのうち1つはチームといってもワンマンチームだけど」
「ワンマン? 一人で全部決めてしまう独裁者ってこと?」
「それはスラムのチームならよくあることだよ。力のあるリーダーだからチームをまとめていられるんだ。僕らみたいな体制の方が珍しいさ。ワンマンっていうのは、実質1人しかいないんだよ。そのチームは」
ほう、それは凄いな。
たった1人で他のスラムチームの戦力に匹敵する人物ということか。
「チーム白雪。雪姫って呼ばれる女性たった一人のチームさ。このスラムで一番優秀な感応士だよ」
もう少し雪姫という人物について聞いてみたかったが、そろそろ機械種が出始める頃だとのことで、これ以上の会話は控える。
ジュードは歩く速度を押さえ、足音を立てないよう慎重に進んでいる。
俺はその3mくらい後ろを同じような隠密スタイルでついていくようにしているが、時折後ろを振り返って後方の確認も行う。
ダンジョンでは、いつの間にか機械種が後ろを追ってきていることもあるらしく、後方の確認は絶対必要なのだそうだ。
ジュードはいつもこれを1人でやっているようだから、ソロは大変なのだろう。
道中いくつかの分かれ道や側道があったが、ジュードは迷うことなく進んでいっている。
何年も通っている通路なので、体が覚えているそうだ。
「ヒロ、見て、あれがリザードだよ」
ジュードが急に立ち止まったと思ったら、袋から鉄パイプを取り出し、前方の10m先くらいを指す。
薄暗いダンジョンの床に小さな赤い光がいくつか灯っているのが分かる。
あれが、リザードか。
体長は20cmくらいだろう。
正しく黒いトカゲの形をしており、3体ほどが地面に張り付いている。
機械種というからには装甲は金属だろうと思うが、リザードという名前を先に聞いているからなのか、少し表面がぬるぬるしているように見える。
おそらく装甲がうろこ状になっているからだろうと思うが。
さて、ようやく戦闘か。
では早速貰ったばかりの金色の警棒を使うとするか。
俺が警棒を取り出し、引き伸ばして両手に構える。
すると、それを見たジュードがこの世の終わりかというような絶望した表情で、絞り出すような声を俺にかけてくる。
「ヒ、ヒロ。どうして僕が用意した鉄パイプを使わないの?」
は?
「近接戦闘では鉄パイプが最も優れた武器だよ。そんなちゃちな警棒なんて役に立たない。鉄パイプを使うべきだ!」
おい、声デカいぞ!何で鉄パイプにそんなに思い入れがあるんだよ!
………ほら、大きい声出したらリザードがこっちに気づいちまったじゃないか。
さっきまで動かなかったリザードが一斉に動き出し、こちらに頭の方を向けてくる。
迂闊な行動を非難するようにジュードに目を向けるが、ジュードは一向に意に介そうとせず、鉄パイプを構えたかと思うと、リザードに向かっていく。
「いいかい。良く見ておいてくれ! 鉄パイプの威力を!」
鉄パイプの威力って言われても。
ただの鉄のパイプですよね、それ………
ジュードはリザードに近づき、ゴルフクラブを振るうように鉄パイプで地面に這うリザード達を殴り飛ばす。
ガツン、ガツン、ガツン
わずか3回の攻撃で、ちょうど3体のリザード達を沈黙させた。
一振一殺か。
随分手際がいいな。
ふぅと汗もかいていないのに手で顔を拭う振りをするジュード。
「どうだい。これが鉄パイプの威力さ。刃のある武器だったら、地面すれすれなんて刃毀れが怖くて攻撃しにくいし、ハンマーだったらこうも素早い攻撃はできないだろう」
鉄パイプの素晴らしさを訴えてくるジュード。
ジュードはチームでは割とまともな人物と思っていたんだけどな。
まあ、男子たるもの一つくらいこだわりの強いものを持つべきだという話もあるし。
これくらいは許容内か。
辺りに散らばったリザードの破片を拾っているジュード。
いや、拾っているのは晶石だけか。
この薄暗いダンジョンで仄かに内から光っているのが分かる。
「リザードやスネーク、バットなんかは晶石しか回収できないんだ。晶冠なんかは攻撃した時にだいたい粉砕しちゃっているからね。晶冠の破片を拾うのは大変だから、このまま放置することがほとんどだよ」
確かに散らばった破片をのんびり拾っていたら、他の機械種に襲われかねないな。
「次はヒロに任せてみようか。次にリザードが出てきたらお願いするよ。もちろん、獲物は鉄パイプでね」
はいはい。
先達者の言うことはとりあえず従っておこう。
その後、現れたリザートを相手にしてみた。
ジュードを見習って、リザードをゴルフボールに見立てて鉄パイプで薙ぎ払う。
ジュードの時と違うのは、俺の鉄パイプがリザードに触れた瞬間、手ごたえなく粉微塵にしてしまうことか。
これも闘神スキルの効果かもしれないが、どうやらリザード相手はオーバーキル過ぎる威力を出してしまう。晶石だけは無事なのが幸いだ。
「ヒロは力持ちだね。それとも鉄パイプとの相性が良いのかもしれない」
鉄パイプとベストマッチングするのは勘弁してくれ。
その次に現れたスネークやバットも同様。触れるだけで文字通り粉砕してしまう。
バットは複数で纏わりつくように襲いかかってきてから、鉄パイプをバトンのように回転させて防いだ。
おかげで、服が粉まみれになってしまったが。
俺達が手に入れた晶石の数が10を超えたところで、下への階段にたどり着く。
「やっぱり二人だといいペースだね。一人だと、リザードでも数が固まっていたらスルーすることもあるし、晶石も見逃しちゃうこともあるから」
ジュードの話だと、リザード、スネーク、バットなんかの晶石はだいたい1個5M~7Mくらいらしい。
体丸ごとならもっと高くなるそうだが、全部拾っていくのは無理があるだろうな。
………いや、ポーターでも雇えばもっと持ち帰る量が増えるんじゃないか。
「いや、そのうち分かると思うけど、ダンジョンを進んでいくと、全速力で逃げないといけないことも多いんだ。荷物を持ちすぎると早く走れなくなるし、荷物を捨てたら連れてきた意味がなくなる。晶石くらいならいくつ持ってもそんなに嵩張らないけどね。僕も普段持ち帰られる限界は、体丸ごとならラット2体くらいだよ」
俺なら七宝袋があるから持ち帰り放題だけどなあ。
この世界に七宝袋に類する収納袋でもあれば、誤魔化せるんだけど。
さっき聞いた発掘品のコートのようなものが袋の形で存在していればいいのに。
「さあ、これからが本番の地下2階さ。ここから先はラットが出てくるから気を付けてね」
地下2階へ降りるという緊張感。
某地下迷宮元祖RPGを思い出す。
地下2階から毒、麻痺、クリティカルヒット、う、頭が……
今俺のレベルっていくつくらいなんだろう。適正レベルは超えているよなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます