第48話 異常


 

 朝早くにジュードと一緒に出発する。


 昨日の夜に用意したのだろう大きめの袋を渡された。

 中には鉄パイプと布が入っているようだ。

 袋から鉄パイプがはみ出している。

 


 ひょっとして、この鉄パイプは武器なのだろうか。

 確かにジュードは狩りから帰ってくる時はいつも鉄パイプを持っていたが。



 歩きながらジュードにダンジョンについての質問をいくつか行う。



 ダンジョン内は薄暗いものの、壁全体が薄っすら発光しており、灯りは不要。

 出てくるのは、ラットの他は、リザード、スネーク、スパイダー、バット等。

 これらは大量に襲いかかられるか、倒れたところを襲われない限りはそれほどの危険は無いとのこと。鉄パイプで十分追い払らうことができるようだ。


 あと、このダンジョン内で銃を使うのは危険だそうだ。

 床や壁に当たって跳弾し、大惨事になることもあるらしい。

 よっぽどのことが無い限り、銃は抜かない方がよさそうだ。



「ダンジョン内では、鉄パイプが最も頼りになるんだよ」



 なぜか普段の2割増しの機嫌の良さで、そう宣うジュード。



 鉄パイプになんか思い入れでもあるのか、コイツ?



 また、機械種より危険なのは他のチームからの襲撃らしい。

 何せ人が死んでも機械種に襲われたとしか思われないから、襲う方も躊躇いが無いそうだ。

 極力他の人間に会わないようにしないといけない。

 潜るのは、3階層まで。それ以上は瓦礫や土砂が道を塞いでおり、先に進めないそうだ。





 色々分からないことを教えてもらっているうちに目的地に到着する。


 目の前にあるのはダムのような人工的な壁。高さは5,6階建のビルくらいで、幅はちょっと見当が付きにくいくらいの大きさだ。

 短くても1キロ以上はありそう。

 


 下水道跡って聞いていたけど、どちらかというとダム跡だよな。



 ダムと違うところは、壁に幾つかのトンネルが開いていること。

 トンネルの大きさは4トンクラスのトラックが通れるくらいの大きさから、縦横2mくらいしかないものまで。それが見渡す限りは20本以上ありそうだ。


 朝早く来た為か、人がほとんどいない。

 ジュードはいつも人が少ない時間帯に来てダンジョンに潜っているらしい。



「ヒロ、こっちだよ。僕がよくに潜っている穴は」



 ジュードが俺に声をかけて、潜ろうとするトンネルを案内してくれる。



「入れる穴はチームによって決まっているのか?」


「うーん。実は決まっていないんだよね。でもこれだけあるからバッティングすることはあんまりないんだ。僕が入る所はあまり人気のないエリアだからね。でも、罠とかがほとんどないから危険は他に比べれば少ないよ」


「入る穴によってルートが違うってこと? あと、ルートによっても難易度が違うのかな?」


「そうだよ、入る穴でルートが決まるんだ。でも、穴によっては中でつながっている場合もあるから注意が必要だね。難易度については、ルートによって偏りがあるかなってところ。ほとんど経験則だから確証ではないけれど」







 そういった質問をしながら、しばらく歩いていると、突然、ジュードが立ち止まる。



 え、何?



 ジュードの目線を追うと、目指していた穴のそばに3人の人影が見える。


 知り合いなのか? ジュードの顔を見ると、若干強張っているようだ。


 まだ、銃に手をかけていないだけ、完全に敵対関係というわけではなさそうだけど。



 ふむ…………

 知り合い以上、敵未満ってとこか。ちょっと表現が変かな?





 立ち止まっていたジュードが歩き出す。

 小声で俺に『いつでも銃を抜けるように』と声をかけてから。


 一応、銃はナップサックの中に入れてある。黒爪チンピラリーダーから奪った銃だ。

 ナップサックの口を右手近くに寄せて、俺もジュードの後についていく。






「やあ、ジュードさん。偶然ですね。こんなところでお会いできるなんて」



 3人のうち、こちらに声をかけてきたのは、眼鏡をかけた優男だった。

 年齢は俺より少し上、ジュードと同じくらい。ただし背は俺と同じくらいか。

 灰色のコートを着ており、手には武器を持っていない。


 線の細い文弱の青年といったところだが、最初に声を聴いてなければ、女性かと思ってしまう程の女顔だ。

 ジュードもハンサムだが、こいつは中性的な美青年といった感じか。


 本人もそれを意識しているのか、やや色の薄い茶色の髪を肩の辺りまで伸ばしており、後ろから見たら性別の判断に迷うだろう。



 絶対コイツ、モテそうだ。

 しかも、腐女子とかにも大人気だろう。


 思わずジュードを見てしまい、掛け算を考えてしまった………イカンイカン。

 俺にそういう趣味は無いから!





「アデット。俺がいつも潜る穴の前で張っていたくせに、偶然も何もないだろう」



 ジュードが機嫌の悪そうな声で指摘する。

 指摘されたアデットはフフッという感じの笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。



「そうですね。おっしゃるようにこれは偶然ではない。必然というやつですね。正しく運命かもしれません」



 大きく両手を広げながら大層なセリフで返すアデット。派手な動きに伴って、着ている灰色のコートが翻る。



 あんまり似合ってない地味なコートだな。

 色あいがちょっと不自然で、古ぼけたよう見える。

 派手好きに見えるコイツらしくない服装だ。


 しかし、こういう手合いをどこかで見たことがあるような、読んだようなことがあるような……そうか!



 演技がかったセリフに大げさな身振り、コイツ、所謂かませ系統か?



 主人公の前に立ちはだかる小物枠。

 狡い罠や陰湿な陰謀を張り巡らせて、いつも肝心な所で失敗する主人公の引き立て役。

 読者の嫉妬を煽る美形。

 人間的に親しみを得られないプライドの高さ。

 勿体ががったセリフ。正しくこれはかませ犬!



 などど、俺が大変失礼なことを考えている間に、ジュードとアデットは会話を続けている。



「しつこいな。お前のチームには入らないって何回も言っているだろう」


「ジュードさん、貴方の実力はあのチームにはもったいない。我がチームに来てこそ、貴方の真の実力が発揮できるはずです」


「くどい。どれだけ良い条件を重ねても俺の気持ちは変わらない」


「サラヤさんですか。貴方の思い人の。であれば、お二人で我がチームに入れば良いのでは。歓迎しますよ」


「サラヤはチームトルネラを離れるつもりはない。それははっきりしている」


「あのチームにいても将来はありませんよ。貴方とサラヤさんの未来を考えるのでしたら、早いうちにチームを離れた方が良いと思います」


「……それは情報が古いな。チームトルネラはもう持ち直している。心配は無用だ」


「ん。あの、バーナー商会に持ち込んだというハイエナですか?正直、バーナー商会に頼んでガセネタを流してもらったと考えていたのですが。そうですか、それが事実なら……」





 アデットが考え込んでいる間に、ジュードが俺の方に向き直り、先へ行こうと促してくる。



 二人の会話を聞いてだいたい事情は分かったけど、コイツが別のスラムチームのリーダーなのかな。


 強そうには見えないが、何かリーダーを張るだけの能力を持っているのだろうか。


 しかし、完全に俺が無視されているな。

 腰ぎんちゃくって思われているのか。





 アデットを置き去りにして、穴に入ろうとする俺達を我に返ったアデットが慌てた様に声をかけてくる。



「待ちなさい、ジュードさん。まだ話は終わってませんよ」


「もう話すことなんてないさ」


「いえ、最近のダンジョンの状況についてです」



 聞き捨てならないことを言い出したので、一旦立ち止まる俺達。

 その様子を見て、ほっとした様子でアデットが話を続けてくる。



「貴方も気づいているでしょう。昨日から、やたらコボルトが増えてきていることに」


「それは知っている。だから今日は二人で来たんだ」


「ほう、いつものディックさんではなくて?」



 忌々しそうに顔を歪ませるジュード。

 おい、分かりやすいぞ。もうちょっと感情を表に出すのを控えろよ。



「なるほど。ディックさんが大怪我したというのは本当だったようですね」


「うるさい。………で、コボルトが増えてきたという原因に心当たりがあるのか?」


「高いですよ。まあ、貸しにしておきましょう。ダンジョンに発生する機械種の数が増えたり、上位の機械種が出現するようになったりした場合、原因と考えられるのはたった一つ、ダンジョンの奥に新たな巣が発生したのでしょう」


「巣が増えた?どういうことだ。ダンジョンは地下深くの巣が継続的に機械種を生み出している現象なのだろう。その巣が増えたって、分裂でもしたのか?」


「いえ、通常の巣でも、たまたま別の巣が近くにあった場合、巣の拡大とともに統合されることがあるんです。複数の巣が合わさったものを『塞』と呼ぶのですが、おそらくこれと同じようなことがダンジョンの地下で起こったのではないかというのが、私の推察です」


「『塞』か。聞いたことがあるな。本来巣に1体しかいない紅姫が複数存在するんだったな。それを攻略した狩人達100人の話は有名だが」


「その話は『塞』ではなくて、塞が成長して地上に出てしまった『城』ですよ。百を超える狩人達が半分以上損耗しながら攻略した伝説ですね。聞くところによると、『城』の中ではレジェンドタイプの機械種が押し寄せてきたそうです。一体でも街を壊滅させかねない化け物達がね。まあ、大分誇張されていると思いますけど」



 うわ、話を聞いているだけで情報が増えていく。



 巣:地下にある機械種の基地

 砦:巣が成長して地上に出たもの。白鐘の効果を減ずる。

 塞:地下にある複数の巣が統合したもの

 城:塞が成長して地上に出たもの。同じく白鐘の効果を減ずると思われる。

 紅姫:巣、砦、塞、城のコア。これを破壊することで巣等を完全に壊すことができる。あと、紅姫からは紅石という非常に高価な宝を得ることができる。



 こんなものか。思ったより情報が集まったな。

 やはり、ジュードと一緒にいると情報の集まりが早い。

 もっと早くからジュードについていくべきだったかな。






 俺が考えをまとめている間に、二人の会話は進んでいく。



「アデット、このままだとどうなるんだ」


「おそらく、もっと上位の機械種が出現するようになるでしょう。今はコボルトで済んでいますが、オークやオーガなんかも出てくる可能性がありますね」


「オーク! オーガ! そんな奴ら俺等ではどうしようもないな。熟練の狩人で無いと対抗できないだろう」


「このダンジョンをスラムのチームが独占できているのは、狩人達にとっては価値が薄い機械種しか出現しないからです。オーク、オーガクラスが出るようになったら、他の街のダンジョンのように狩人達が入り込んでくるでしょう」


「そうなったら俺達の稼ぎ場所が無くなってしまう。そうなったら……」



 オークに、オーガか。

 これもファンタジーの名前がそのまま使われているな。


 どうやら危機的な状況のようだ。

 ネット小説でも、主人公が来た街になぜか、何十年、何百年振りの災害が襲ってくるというのは良くある話。


 これもそのたぐいなんであろう。

 ならば、皆の危機を解決するのも俺の役目なのかもしれない………


 おお!

 なんか俺が主人公っぽいな。

 もちろん、俺の手の届く範囲だったらという条件付きだ。


 まあ、危機になっているのはスラムのチームだけのようだが。

 逆に言うと街にとっては上位の機械種が出現するというのはメリットなのではないだろうか。


 どっちを優先するかと聞かれたら、もちろんスラムを優先するが。


 2人の会話ではこれ以上の進展がなさそうだ。ダンジョンをどうにかすることより、この狩場が使えなくなったらどうするかに話が進んでしまっている。


 当然、スラムのチームではどうしようもないのは分かるんだが。仕方が無い。







「あの、いいですか?」



 空気を読まないフリをして、二人の会話に割り込む俺。



「あ、ごめん。ヒロ、ほったらかしにして」


「大事な話をしているんです。割り込まないでくれますか」



 ジュードは振り返ってすまなそうな顔。

 しかし、アデットは会話を邪魔した俺に対し、びっくりするほど冷たい目を向けてくる。



 ジュードとの会話では優し気な笑みをを浮かべていたが、今の俺に向ける表情は道端に落ちている石ころでも見ているかのように無味乾燥。

 どうやら興味の無いモノにはトコトン興味が無い人間なのだろう。



 アデットだったか……コイツ。

 俺には塩対応だな。

 とりあえずこっちも無視しておこう。



「ジュード、ダンジョンを元に戻すにはその増えた巣って奴をどうにかすればいいの?」



 俺の発言に2人が面を食らう。コイツ何言ってんだ!って顔だ。


 それでも俺に対して真剣に答えてくれるのがジュードのいい所だな。



「ヒロ、説明したと思うけど、ダンジョンの踏破は誰も成功したことが無いんだ。確かにヒロの言うように、巣が増えたのなら、その巣を壊せば、問題は解決するだろうけど」


「ジュードさん、チームに入れるにも、条件は絞った方が良いと思いますよ」



 皮肉気に嫌味を言ってくるアデット。

 俺に向ける目がすでに虫けらを見るようだ。



「アデット! ヒロは僕らのチームの希望なんだ。そんな言い方するな。それに、最近は僕よりも成果を上げているんだぞ」


「へえ、コイツがですか? ……いや、ジュードさんは嘘や誇張を言う人ではなかったですね」



 ジュードの俺を庇ったセリフを受けて、俺に向けるアデットの目の色の質が変わる。

 

 眼鏡の奥の藍色の瞳がこちらを射抜く。


 俺の正体を見抜こうとする冷たい目。

 まるで一切の感情を排した機械であるかのように。


 これは人を数値で判断する目だな。

 事実だけを客観的に分析し、能力だけで人を判断するタイプ。

 

 おそらく自分にも他人にも厳しい人間なのであろう。

 こういった人間がリーダーを張るグループは大抵ブラック化するから注意が必要。


 早急な成果を求めるなラ必要な人材かもしれないが……… 



「ふむ。別に戦闘訓練を受けた様子もなく、肉体が鍛えられている訳でもない。しかし、ジュードさん以上の成果を上げて、チームトルネラの希望とまで呼ばれている。それに私を前にしても全く怯まい超然とした態度。なるほど……」



 俺を見つめるアデットの目が鋭さを増す。

 そして、全てを見透かしたというような表情で俺に向かって言い放つ。



「貴方は……感応士ですね」


「いえ、違います」



 ドヤ顔で宣ったアデットの決めつけを即座に否定する俺。



「む!」



 苦々し気に睨んでくるアデット。

 コイツとは多分相性が良くないな。



「ふん。ではチームトルネラの希望とやらに聞きましょう。貴方はどうやってジュードさん以上の機械種を狩ったのですか?戦闘訓練も受けていない、体も鍛えていない、感応士でもない貴方がどうやって?」



 うーん。なんて返そう。

 普通に仙術で動きを止めて、頭を捻っているだけなんだが。

 あとは、莫邪宝剣でぶった切ってるとしか。当然言えるわけがない。


 カッコイイ返し方……思いつかん。



「う、運で……」



 俺の絞り出した答えを聞いて、アデットは俺を馬鹿にした目で見ると思っていたが、俺の予想に反し、しばらく手を顎に当てて考え込む。


 そして、一言。



「なるほど。そういうことですか」



 自分で何かを納得したように何度も頷く。そして、ジュードに目をやり、声をかける。



「ジュード。良い人材を見つけましたね。これは貴重だ。特にこのスラムにおいては」


「アデットが何を言っているのか分からないな」


「そうですか。ピレ、来なさい」



 アデットが今まで後ろに控えていた人を呼ぶ。


 前に出てきたのは俺と同じ年くらい。ただし身長は俺よりもちょっと低い目。

 ちょっと色あいの悪い黄土色に見える金髪で、随分可愛い顔をしている。


 ただし男だ…………と思う。

 首には長めのマフラーのような布を巻いており、どこか子犬のような印象を受ける。


 コイツ、そういう趣味があるんじゃないだろうな。



 目の前に連れて来られた少年を見ながら少しばかり失礼な感想を抱いていると………



 

「ピレ。挨拶しなさい。チームトルネラに入った新人だそうです」


「はい、アデット様」



 アデットはピレと呼んだ少年に俺への挨拶を促す。



 この少年、ちょっと気弱な感じ。

 なんでコイツを護衛に入れているんだ?

 どうみても強そうには見えないが。

 


 前に出てきて俺に握手を求めるピレ。


 まあ、握手くらいいいか。



 ………ん? アデットがジュードに目配せしていたぞ。一体何だ?




 俺がジュードに気が取られている隙にピレが俺の右手を握ってくる。


 男に手を握られても嬉しくないが……


 こいつ、本当に男だよな? 小柄で鍛えてるようにも見えないし。

 でも、妙に重心がしっかりしているような……



 いつまで手を握ってるんだよ。これに何の意味が……わ!!!!




 マフラーが動いた!


 いや、これは蛇か!それも機械種の蛇。


 思わず手を放して後退してしまう。




 「ははははははははははははっ」




 俺が驚いたのを見て笑い声をあげるアデット。


 無表情に立ち尽くしているピレ。


 真剣な表情で俺を見つめるジュード。




 何の儀式だよ、これは!

 俺を脅かしたかっただけか。



 ギッと睨んだ俺を見て、アデットは素直に謝罪してくる。



「すまないね。ヒロ君。これは私たちチームの挨拶みたいなものなんですよ。ジュードさんにもやったことがあるのですが、彼は後ろにひっくり返りましたからね。君の方が度胸が据わっていますよ」



 ジュードを見るが、何も言ってこない。

 少々バツの悪そうな顔をしたままだ。



「ヒロ君、ピレは機械種使いです。感応士ではなくて、機械種を従属させているマスター。ちなみにマフラーに擬態していたこの蛇はボアという非常に珍しい機械種ですよ。ピレはこれを使って索敵や警戒なんかをやってくれています。君とは仲良くできると思いませんか。ヒロ君」



 なんのこっちゃ。意味わかんねえよ!



「そう怒らないでほしい。そうだ。お詫びと言ってはなんですが、一度私たちのアジトに来てくれませんか。綺麗所を用意して歓待しますよ」



 うーん。綺麗所にはちょっと心惹かれるものが………


 いやいや! 行ったら確実に取り込まれるだろう。


 ………うん? 別に俺はこのチームを離れるつもりだから、行ってもいいんじゃないか。


 しかし、チームを裏切ったようにみえてしまうな。やっぱり良くない。


 それにコイツが頭を張るチームなんて、絶対に超厳しい規律になっているに違いない。


 今更ビシバシと指導されたり、アレコレと命令されるのは御免だ!




 頭を振って煩悩を振るい落とす。



「おや? ヒロ君は綺麗所にも興味は無いと。仕方ありませんね………」



 アデットは特に残念そうな様子も見せずに、コートのポケットに手を入れ、金色の警棒のようなものを取り出して、



「では、脅かせてしまった詫びの品として、これをヒロさんに差し上げましょう」


「え?」



 そう言いながらアデットが差し出してきたのは、長さ30cm程の金色の警棒。



「ジュードさんにも言っていますが、鉄パイプで戦うのは美しくありません。せめてこれくらいのものは用意するべきです」



 にこやかな笑みを浮かべながらアデットは俺へと金色の警棒を渡してくる。



 金色って! 趣味悪!

 でも、ちょっと短くない? ………いや、これは伸縮するタイプか。


 まあ、詫びの品というなら受け取っておくか。

 俺も鉄パイプはどうかと思うし。


 でも金色ってなあ。ちょっと人前で使うのを躊躇しそう。




「これは私が昔、使っていたものです。今は予備として持っていただけのモノなので、遠慮なくどうぞ」



 なんで、そんなものをコートのポケットに入れているんだよ。


 ………貰えるものは貰っておくけど。


 うーん。ひょっとしてこれはアレに使えるかもしれない。






「アデット様。そろそろ」



 そうこうしているうちに、3人のうちの最後の一人がアデットに声をかけてくる。

 

 黒く日に焼けた肌と大きい体格で如何にも前衛だと思われる20歳くらいの人物だ。

 背中には大きな籠のようなものを背負っており、横から飛び出ている鉄筒は銃の砲身であろう。


 アデットの役割が分からないな。

 コイツが前衛、ピレが索敵、あと、いるとすれば後衛か。

 ひょっとして銃を使うのかもしれないな。



「分かりましたよ、マッソ。これ以上の遅刻は成果に影響しそうですね。ジュードさん、ダンジョンの話はまた今度にしましょう」



 コートをを翻し、俺達に背を向けるアデット。

 そして、去り際に一言。



「では、ジュードさん、ヒロ君。我がチーム、『魔弾の射手』はいつでも門戸を開いていますよ。いつでも声をかけてください」



 魔弾の射手って。やっぱりコイツ銃使いだな。


 そのまま去っていく3人。濃い面子だった。

 ………いや、アデットだけがやたら濃い。

 


 3人の姿が見えなくなると、何となしにジュードと顔を合わせてしまう。

 




 「……行こうか、ヒロ」


 「そうだね」


 いきなり予想外のトラブルに見合われたが、これからが本番のダンジョン攻略だ。


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