第26話 ヒロイン??


 拠点に戻るとサラヤがロビーで待ち構えていた。



「ヒロ、夕食前には帰ってきてってお願いしたでしょ! もう少し早く帰ってきてよ。みんな心配してたんだから!」



 腰に両手を当ててプンプンポーズ?で怒っている。

 ちょっと狙い過ぎじゃないですか。サラヤさん?



「ごめん。ちょっと色々トラブルが発生しちゃって……」


「ナルが大分気にしていたんだから。自分が催促しちゃったから無理をしたんじゃないかって」


「あー。まあ、それに関しては……どうしようか」



 周りを見渡せば、何人かの子供達が俺たちに注目している。



「サラヤ、ちょっと報告があるんだけど。できたら客間で話さない?」


「え、んー。その、服で包んだもののこと?」


「本命は袋の中なんだけどね。いいかい?」



 サラヤは事情を察ししたのか、やや真剣な顔で頷く。


 俺達は黙って2階へ上がり、客間に入る。

 クソ、荷物で両手が塞がってるからいつもみたいに手を握ってくれないな。





「で、話って何かな?」


「まずはこれを見てほしい」



 袋から兎の頭を取り出すと、サラヤの目が大きく見開かれる。


 サラヤのこの表情が可愛いから、もっと驚かせたくなってしまうな。


 さらに、パーカーを広げて兎の胴体部分を見せつける。


 するとサラヤは口をポカンと開けて絶句。

 



 しばらく沈黙は客間を支配する。

 サラヤの目は兎の頭と胴体を行ったり来たりだ。


 俺の方も何も言わない。

 言えば余計なことを言ってしまいそうだからな。


 サラヤの頭の中では色んな計算が働いているのであろう。

 この成果と俺への対処の仕方、チームにとって何が最善なのかを考えているに違いない。



 俺の方では勝手に妄想を始めている。



 もし、サラヤが「好き!」って言ってきたらどうしようか、

 もし、「抱いて!」って言ってきたらなんて返そうかとかなんとか…………



「ねえ、ヒロ」



 沈黙を破ってサラヤが話しかけてくる。

 声のトーンはいつもより低めだ。



「銃は使わずに仕留めたの?」



 サラヤは真正面から俺を見つめている。

 目が嘘は許さないと告げている。



 うっ! 

 そうくるか

 そうだよなあ………


 ジュードが銃を何発も使って仕留めた兎を、明らかに銃弾の痕跡が残っていない状態の遺骸を見て、どうやって仕留めたのか気になるよな。


 前回のようにまた拾ったは通用しないだろう。

 言ってもいいが信頼関係は間違いなく損なってしまう。


 正直に素手でねじ切りましたと答えたらどうなるか?


 うーん。想像つかない。

 まあ、ここは問われたことのみ返事をしよう。



「ああ、銃は使っていない」


「ヒロが仕留めたのよね」


「そうだよ」


「……」



 サラヤがまた黙り込んでしまう。

 微妙な緊張感が部屋を満たしている。


 

 うーん。苦手だな、この雰囲気。


 とりあえず妄想を続けるか。


 前みたいに胸を触らせようとしたらどうするか………

 いきなりサラヤが脱ぎ出したらどう対処しようか………




「ねえ。質問いいかな。答えてくれなくてもいいんだけど」


「……ん、ああ、いいよ別に」



 妄想が捗り過ぎて返事が遅れてしまった。

 変に思われてないだろうな。



 まあ、サラヤが疑問に思うのは当たり前。

 虫取りも知らなかった新人がいきなり機械種ラビットを得物として持ち帰ったのだ。

 どのような手段で勝ち得たのか知りたいに決まっている。

 

 だけど俺にはその疑問に素直に答えてあげるつもりは無い。

 『闘神』スキルの力です! なんて言えるはずもない。 

 たとえサラヤに不審に思われたとしてもここは譲れない一線。

 

 昨日までに比べて、俺の余裕度は段違いだ。

 戦闘能力の把握が進み、仙術も使用できるようになった為、最悪追い出されても全く問題ない。


 このチームの全員が襲いかかってきても対処は容易だ。

 もちろん、恩もあるから、いきなり皆殺しにはしないけど、俺が力一杯暴れたら大惨事は必至。

 

 果たして、チームトルネラのリーダーであるサラヤはどのような判断をするんだろうね?

 


 だが、そんな俺の懸念を他所に、サラヤは落ち着いた様子でさらに質問を口にする。




「ヒロは機械種を従えているの?」


「え、機械種? ああ、マスター登録すれば言うことを聞かせることができるんだっけ? いや、いずれほしいとは思っているけど、今は持っていないよ」


「じゃあ、ブーステッドを飲んだ?」


「……何それ? 多分飲んだことないと思うけど。」


「そうよね。刺青もないし。じゃあ機械義肢を装着している?」


「いや、それも知らない。名前から機械の腕とかのこと?」



 また、黙り込んでしまうサラヤ。

 眉を顰めて困っている表情だ。


 まあ、無理もない。

 一生懸命自分の常識に当てはめようとしているようだが、全くかみ合わない。

 先ほどから出てきた単語は人間を強化するものなのだろうが、俺には全く必要のない物だからな。

 もちろん機械種は除く。近いうちに手に入れてみせるぞ。



「はあ、降参。どうしよう。見当もつかないや」



 サラヤ両手上げて後ろにのけ反り、ソファにもたれ掛かる。


 おお! 胸が強調されていますな。眼福眼福。



 そんな俺の視線を感じたのか、サラヤはジロッと睨みつけてくる。


 そして、ぐっと姿勢を元に戻して俺に向き直った。

 


「ヒロ。正直に言うね。私はコレをモウラさんに持っていかないといけないんだけど、その時に間違いなくどうやって仕留めたかを聞かれるはずよ。だって、明らかに頭を凄い力でねじ切っているんだもの。普通だったら機械種を狩りに使ったのかって聞かれるわ」


「うーん。仕留めた方法はそれで間違いないけど。俺が凄い力持ちって説明じゃダメ?」


「ヒロがブーステッドか機械義肢で強化しているなら説明が付くけど。そんな戦闘力がある人がチームにいるって分かったらすぐバーナー商会に引き抜かれるわ。今ヒロが引き抜かれたらチームは大変よ。それは何としても避けたいの」


「まあ、おれもバーナー商会には行く気はないし………、うーん…………、そうだ。ボスだったらこれくらいはできるの?」


「ボス? そうね。多分できると思う。でも、今までボスを狩りに連れ出したことはないわ。なぜ今回連れ出したのかっていう理由が必要ね。スラムでは機械種はとても警戒されているから、下手に嘘をつくとバレてしまう可能性が高いの。もし機械種関連で嘘をついたのがバレたらチーム全体の責任とされてしまう。非常にリスクが大きくなっちゃうわね」



 機械種の狩り方か・………

 どのように落とし込むのが最も円満に解決できるのか?

 元の世界では自慢じゃないが言い訳が得意だった。

 何か良い方法を考えてみよう。




 サラヤと2人、客間で頭を捻って考える。

 いくつか案を出し合ってお互い添削をしていると、さっきまでマイナスの方向へ考えを進めていた暗い感情が薄れていくのが分かる。


 サラヤの表情はクルクルと変わり、時には子供っぽく、時にはびっくりするほど大人の顔を見せてくる。

 俺に物事を教えている時には家庭教師のような口調で、俺が的を得た案を出したときは子供のように無邪気に褒めてくれる。



 ジュードという恋人がいなければ、間違いなく惚れていただろうな。

 そして、NTRは嫌いだが、ジュードがイイ奴でなければ、奪おうとしたかもしれない。


 もう何度考えたことだろう。

 もし、サラヤが俺のヒロインだったら、俺は全力をもってサラヤを幸せにしようとしたはずだ。

 その力が俺にはある。



 しかし…………



 考えるのはそこで止めた。

 それ以上は誰も幸せにならないからだ。


 そして、俺は諦めるのに慣れている。

 これは元の世界でも、今の世界でも変わらない。いつものことだ。

 今回も酸っぱい葡萄なんだと心に言い聞かせよう。


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