自称復讐屋

電咲響子

自称復讐屋

△▼1△▼


 俺は生涯、騙され続けてきた。


 小学校でも、中学校でも、高校でも全部騙されてきた。

 だからせめて大学ではをやめようと決心した。


 もちろんサークル勧誘など全面拒否。そして俺に言い寄ってきた女は全員跳ねけた。過去の経験則上、相手方から持ち出された自分に都合の良い提案は、自分の身を滅ぼすと理解していたからだ。


 そう。相手方から持ち出された提案は。


△▼2△▼


 俺は恋をした。

 一目惚れした。就職先にいた彼女に一目惚れした。


 俺は彼女を誘う。


「いい店があるんだ。今夜、どうかな」

「お勘定は割り勘?」

「いや、俺が全額出すよ。誘った側だからね」

「ならオッケー。行きます行きます」


 そして今、俺は彼女とともにいる。俺の選んだ店で。


△▼3△▼


 彼女は銃を向ける。俺の頭に照準を合わせて。


「……ごめん。意味がわからない」


 俺は言葉を搾り出す。


「あのさ。自分が嫌われてるって認識ない?」


 え? 俺は嫌われてたのか?


「嫌われる? どこが?」


 嫌われる心当たりはない。俺はずっとイケメンの金持ちで通してきた。たまにやってたイタズラも、親がもみ消してくれた。


「救いようがないな。貴様は何人もの女を犯して殺した殺人鬼だ」

「……騙された」

「騙された、だと? それは被害者のセリフだろ。私は復讐屋。だから貴様をぶち殺す」


 意味がわからない。俺は殺してなどいない。ただ、好きな女の意に反して強姦を働いてたってだけで。


「死ね」


 乾いた音が響く。同時に俺の意識は暗転した。


△▼4△▼


「いやあ、今年も適当にやってたんまりだな!」

「ですよね。裏づけとか証拠とか関係ないですから」

「そうそう! あれうざいんだよ」

「警察が無能なのが悪いってことですかね」

「そういうこと。強姦魔を野放しにしてさ、馬鹿じゃねーの? ま、俺らのおかげで害虫が一匹消えたってことは確実だ」

「それに関しては、圧力とか忖度とか、いろいろあるんでしょうけど」

「ま、深く考えるな。今夜は乾杯だ!」


<了>

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自称復讐屋 電咲響子 @kyokodenzaki

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