『Fractured Ray』

No.09

『カウンセリング記録・錢御藻珠』

保護日時:2XXX/06/17

事案  :セルリアンによる襲撃

容態  :軽度の不安障害 軽い健忘の症状有り


【保護経緯の概要】

 先の突発的セルリアン大量発生事故に際し、限定キャンペーンの当選者として来訪した所を観光中に襲われた。事故の翌朝、カントーエリアの破損した小屋の中で妹共に保護される。


 身体的な損傷は軽いものの、セルリアンに襲われた記憶と恐らく輝きを奪われたことにより軽度の不安障害及び健忘の症状がみられる。


 現在はパーク内の保健施設で妹と共に療養中だが、近く本土の医療施設へと移送することが検討されている。


【摘要】

 以下に会話記録中の一部を抜粋する。

 尚、カウンセリングの全記録については医務部データベースの#CSR09A以降を参照されたし。


 以下、質問者の発言に『Q.』、回答者の発言に『A.』との接頭語を付けて表記する。


・保護翌日のカウンセリングより

Q.身体の調子はどうでしょう、自覚できる異変はありませんか?

A.身体は特に何ともありません。でも、ちょっと頭がぼーっとします。しっかり意識しないと、自分がどうしてここに居るのか忘れてしまいそうです。


Q.気分は平気ですか?

A.(30秒程度沈黙して)ちょっと落ち着かないです。なんだか、運動してないのに息が切れるような感じがします。


Q.記憶はハッキリしていますか?

A.はい、はい。ちゃんと考えれば覚えてます。まさかこんなことになるなんて……きっとすごく運が悪かったんですね。



以下、錢御藻珠の側がカウンセラーにした質問。



Q.妹は無事ですか?

A.大きな怪我はありません。精神面については、カウンセリングの結果を待つしかないと思います。


Q.あの怪物は何ですか?

A.セルリアンと呼ばれるものです。詳しくはこちらをどうぞ。

 (質問に応じ、セルリアンについての資料を提示した。)



【カウンセラーの見解】

 相応の精神的な傷は負っているものの、療養によって十分に事故以前の水準に回復可能であると判断できる。


 病状の経過を観察しながら、適切な治療を行う。



No.10

『カウンセリング記録・錢御ひかり』

保護日時:2XXX/06/17

事案  :セルリアンによる襲撃

容態  :重度の健忘 精神的に不安定


【保護経緯の概要】

 No.09の経緯に同じ。

 No.09との続柄は妹である。


【摘要】

 以下に会話記録中の重要な部分を抜粋する。

 尚、カウンセリングの全記録については医務部データベースの#CSR10A以降を参照されたし。


 以下、質問者の発言に『Q.』、回答者の発言に『A.』との接頭語を付けて表記する。


・保護翌日のカウンセリングより

Q.身体の調子はどうですか。痛みなどありませんか?

A.痛いです。頭がずっと痛いです。ずきずきします。


Q.お話は出来そうですか? 強い痛みなら頭痛薬などを用意できますよ。

A.(少し沈黙して) 痛いです。何も分からないです。


 彼女の要望に応じてカウンセリングを一時中断し、改めて頭部の検査と鎮痛薬の処方を行った。検査の結果、頭部に物理的な損傷は見られず、精神的な原因による頭痛であると推測された。


 投薬後、時間をおいてカウンセリングを再開した。


Q.辛いことを思い出させてしまいますが、昨晩のことは覚えていますか。

A.はい、覚えてます。とっても怖かったです。


Q.安心してください、もうアレの脅威はありませんよ。どうしても辛いのであれば、催眠療法などを使って記憶から薄れさせることもできますが。

A.わ、忘れちゃうんですか? あんまり、忘れるのは怖いです。


Q.どうか思い詰め過ぎないでくださいね。病室暮らしにはなってしまいますが、趣味とかは自由にできますから。

A.(回答なし)


Q.嫌でなければ、ひかりさんの好きなことについて聞かせてくれませんか?

A.(回答なし)


Q.他にも何か不安なことがあれば、いつでも相談に乗りますよ。

A.(返答なし)



以下、錢御ひかりがカウンセラーに向けた発言と返答。



Q.自分の好きなこと、思い出せません。

A.もしかしたら、ショックを受けたせいかもしれませんね。時間が経てば少しずつ思い出せるかもですよ。


Q.兄さまは元気ですか?

A.はい、無事ですよ。


Q.兄さまは何処にいますか?

A.部屋割りであれば、隣の療養室になる予定です。


Q.兄さまには会えますか?

A.すぐに会えると思いますよ。



【カウンセラーの見解】

 精神的に不安定な傾向がみられ、記憶障害の兆候あり。彼女の所持品の中に年季の入った物品もあったが、それらの『馴染み深い』持ち物に対しての興味や思い入れが希薄になっているように思えた。


 セルリアンの襲撃により、”輝き”を奪われてしまった影響であると推察される。より慎重な経過観察が必要であると思われる。


 カウンセリング中の言動やそれ以外の観察でも、兄に対しての強い信頼が見て取れる。今後の不安症状の状態によって、彼女の兄にも治療の補助をしてもらうことを検討する。

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