Loop3 5/20(金) 12:54【藤間輝:4】

 2022年 5/20 (金) 12:54『渡辺工業コンビナート付近』


「ジュンペイ! 聞こえる!? ねえジュンペイ!」


 ダイダロの雷撃とその熱で膨れ上がった水蒸気。それはコンビナートを吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。その衝撃は遠巻きに見ていたウラサカとアキラまでも襲う。


「ジュンペイ……! ねえ……ジュンペイ……」


 爆風が止むと同時にウラサカは走っていた。天羽川の河口まで降り、海を見渡す。そしてその光景にウラサカは膝から崩れ落ちた。


「おい! 何がどうなって——」


 何も知らないアキラでも、その状況は理解できた。そこに何もないのだ。ダイダロもマイティも、ジュンペイの姿も。見えるのは雷撃に焼かれた魚の死骸ばかりである。


「……死んだ?」


 不意にアキラの口から、そんな言葉が漏れ出ていた。


「うそよ……」


 瞬間、ウラサカはかきむしるように頭を抱え叫んだ。


「いやぁぁぁぁ——!!」



 同日 17:32『西天羽沢レイブンズハイム付属公園』


「……どうだ? 少しは落ち着いたんじゃねぇか?」


 夕焼けに照らされるいつもの公園。そこで二人は水を片手にたそがれていた。


「ごめんなさい、見苦しい所を見せちゃって……」

「いいよもう、お互い様だ」


 正直に言うと、アキラも内心穏やかではない。彼女が言った夢物語のような話が、到底理解できないからだ。


「えーっと、話を整理すると? お前は表坂夏鈴の中にいる別の誰かで、明後日に来る世界の滅亡を防ぐために時間を繰り返している?」

「……そうよ」

「で、世界の滅亡を防ぐためには七人の巨人が必要だったけど、たった今その一人のジュンペイが死んじまったと」

「……良く分かってるじゃない」

「いや全然分かんねえよ……」


 明後日に世界が滅亡する。そんな打ち切り漫画みたいな話など信じたくなかった。信じたくなかったが、それが事実だということが納得がいった。……何故だろうか? 不思議と府に落ちるのだ。


「……驚かないのね」

「驚かない俺にビックリだよ」


 そして世界の滅亡とは反対に、信じたいことがあった。時間を巻き戻す。その彼女の能力についてだ。


「なあ。時間を巻き戻すって、巻き戻した後はどうなるんだ?」

「……ほぼ全部無かったことになるわ。街も人も、記憶さえも」

「……命は?」

「それもそのまま一週間前の平和だった頃に」


 生き返らしたい人がいるのね? 彼女の問いかけに、アキラは静かに頷いた。


「……何が問題なんだ? ジュンペイが見つかるまで、一人でやってきたんだろ? 今回も時間を巻き戻して、やり直せばいいんじゃないか?」


 アキラは、言ってからしまったと思った。自分自身がこうして悲しんでいるように、彼女も同じように悲しんでいるのだ。時間をやり直しても、その気持ちは癒えるものではないのであろう。アキラは、慌てて謝罪の言葉を考える。


「……ねえ、貴方は運命って信じる?」


 その言葉を練り上げる前に、彼女が死んだように呟いた。


「……私は信じたくないわ。けどね、もしそれが本当にあったらと思うと、恐ろしくてたまらない」


 彼女は今にも泣きそうな声で、言葉を絞り出す。


「……何度繰り返しても世界は滅亡した。何度探しても超人は見つからなかった。心が壊れてしまいそうな時、彼を見つけた。けど、彼は結局死んだ」

「けど、これで終わりじゃないんだろ……? またやり直したら——」

「違うの……! 本当に怖いのは……!」


 ついには彼女はしゃがみ込み、膝を抱えボロボロと涙を流した。


「また変わらなかったら……! 次も同じように彼が死んだら……! 私のしてきたことに意味なんて無かったら……!」

「おい落ち着け! 大丈夫だから!」


 嗚咽が混じり、呼吸が乱れる。それでも彼女は言葉を絞り出す。


「運命に負けたくないの……! 死にたくないの……!」

「——おい聞け!」


 気がつけば、アキラも無心で叫んでいた。


「良いか!? 運命なんてクソヤローはこの世に居ねぇんだ!」


 ウラサカの両手を掴み、彼女の目を真っ直ぐと見つめる。完全に心のブレーキが壊れていた。


「世の中のすげえ奴も、バカな奴もいっぱいいる! 良い奴も悪い奴もたくさんだ! そんなごまんといる奴らを、運命なんてちっぽけな奴が面倒見切れるわけがねーだろ!?」


 俺は運命なんかに決められるほど賢く生きてない。アキラの口はもう止まらなくなった。


「それでも次に同じことが起きたら、次の俺に言ってやってくれ! 出番だバカって! 絶対助けに行くから!」


 気がつけば、アキラはウラサカを優しく包み込んでいた。優しく背中に手を回し、そっと抱き寄せる。ただアキラは胸の中で泣く彼女が泣き止むのを、静かに待つのだった。

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超人7s 水田柚 @mizuta-yuzu

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