第5話 この世の呟きとは思えない
5分ほど庭を歩いたところにその豪邸はあった。
そして玄関のところに着物を着た若い女性がいた。
おそらく彼女が島崎朋子なのだろう。むちゃくちゃ可愛い。
普通着物を着ると落ち着いた女性に見えがちだが、彼女がハツラツとした女性であることは、
「こんにちは!」
という最初の一言のハキハキした物言いでわかった。
「良くいらっしゃいましたね?って、かしこまるのもなんか変ね?」
と島崎は僕たちに視線をなげかけた。
「でも今日はお金を借りにきたということだから、私ちょっとかしこまってみました。ふーん。」
島崎は僕をジッと見つめ。
「君が死のうとしてた子か」
と言った。
「島崎様、彼が無事三年私のために働いたら、そのわたしは約束を守ったことになりますか?」と瑞歩は良くわからないことを言った。
「山田さん、そうね。その時は私も約束を果たすね」
僕は意味不明で戸惑った。彼女たちは何を話しているのだ。
「約束ってなんですか?」
とんでもない取引が僕を巡ってされていたら最悪だ。
すると島崎は
「長い話になるから、入ってもらえる。立ち話もなんですし」
といって家に招き入れた。
応接間からは素晴らしい日本庭園が見える。冬の凍りつくような空気で空も澄み渡っている。落ち着く。
島崎は僕たちに座るようにうながした。
「どこから話そうかしら、話していいでしょ?山田さん」
山田というのは瑞歩の苗字だ。
瑞歩はうなづく。
「照れ臭いな、いきなりこれをヒロちゃんに知られちゃうのかぁ」
とか言って明後日の方向を向く瑞歩。
「まず自己紹介しましょうか?私は株式投資で財をなしたの、でも生きている実感が持てなくてね。あ、死にたいとかじゃないんだけど、張り合いがないというか。そのやりたいことはなんでもできるし、お金はあるから。でも何か足りないと思っていたの。刺激が欲しかったのかな、今思えば」
あ、いけないという顔をした島崎は、
「そう、自己紹介だった。私の名前は島崎朋子。趣味は囲碁を打つことかな。そこの山田さんを昔助けてあげたの。その経緯を話すね」
話を聞けば瑞歩がなぜ自分を救ったかがわかるのだろうか?
その話はとあるSNSに瑞歩が呟いたことが発端のようだった。
「一億円ください」
とただ一言。
島崎はそれに「いいよ、対価はもらうけど」と応え、一億円を渡した。
その代償として山田は、同じように誰かを助けること、という約束をさせられたということらしい。
「ヒロちゃんを助けるのは、私にとって渡に船だったんだよ?」
と瑞歩。
「だけどさぁ」と島崎は突然モジモジしはじめる。
「そのもしだよ?ヒロちゃんが約束を果たせなかったら、山田さんとヒロちゃんには私専属の芸人になってもらうからね?」
「芸人?」
芸風俗ってこのことか!
「なんの芸をするの?」
僕は当然の疑問を口にする。
「それは、私を楽しませることを一生懸命、一生考えてもらって、一生芸してもらうよ!」と島崎。なんかごまかしていないか?
「単に仲間が欲しいだけなのかもね……。うまく言えないけど。私がいくらお金持ちでも、お金を欲しがっているひと全員を幸せにはできない。だから、きちんとお金は稼いで返してもらうし」
モジモジを繰り返す。島崎。
「一億円は貸してあげるよ。最初からその気だったけど。山田さんの救いたいって子だからね」
とありがたいことを言ってくれた。
役割を果たした僕はほっと胸をなでおろし、とりあえずは安心して島崎邸を出た。
カラ売ってストップ高すれば少女現る。 広田こお @hirota_koo
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