第4話 この世の豪邸とは思えない

「待ったー?ヒロちゃん?」

瑞歩が田園調布の駅の改札で待っていた僕にまるで彼女のように声をかけてくる。

と、彼女は手を出した。


「逃亡されたら困るから、手をつなごう?」

とニッコリ。


「はい瑞歩様」

もうどうにでもなれ。


「キスしよっか?」

と瑞歩。


「……からかっているのか?」


クスリと彼女は笑い。

「そーだよ。だって、さっきからニコリともしないじゃん、ヒロちゃん」


それは騙されてあんな契約結ばされて、その相手に機嫌がいいわけないじゃないか。


「一応いうけど、私ヒロちゃんの命の恩人でお金貸しているんだからね?感謝するように」


感謝するべきなんだろうか。それは自殺しなくてよかったとは今は思うけど。

まぁいい、とりあえず敵情をさぐらねばならない。質問だ。


「今日会う金主はどんな人なんだ?気難しくないと助かるんだけど」


瑞歩はちょっと顔をしかめると。

「あーね。そらもう気難しいよ。だって一億貸しているんだよ私に、その上もう一億だもん。だからこそ、一億円の担保がいるんだよ」


と言って僕のことを舐めるように上から下に見た。

「ふふ、合格だね」


「あ、言い忘れたけど彼女の機嫌損ねたら、ヒロちゃんは体で一千万円払ってもらうことになるからね?」

彼女は一瞬間をおいて、そして僕も反応に困り、しばらくの沈黙。


「大丈夫だよ、ヒロちゃんは死のうと思ったんでしょ?金主は島崎朋子さんっていう若い女性の投資家なのだけど、覚悟が決まったひとは好きだと思うの」


僕の自殺は覚悟が決まっているというより、ヤケになった逃げなんだけどな。

「僕はそんな大層な覚悟はないよ。風俗ゆきも勘弁だしな」


「彼女私を助けてくれたんだ。恩人なんだ。ヒロちゃんにとっての私みたいなもの」

瑞歩は細々とした声で言う。


それはそれは。どうせロクでもない関係なんだろう。


しばらく、話しながら彼女に手を引かれながら着いた場所はとんでもない豪邸だった。

「さ、着いたよ。私たちの今日の戦場。島崎邸」

彼女は明るい声に戻り。


「だいじょうぶ、ヒロちゃんなら一億円貸してもらえるはず」

と言った。


おそらく、僕は「質」なのだろうか。一億円の。

そして彼女は僕を大切に思っているのだろうか。


質流れで、風俗行きは勘弁だった。祈るような気持ちで、インターホーンが鳴ったあと、扉が開くのを待った。それは短いが張り詰めた時間だった。


「お入りなさい」

と綺麗な女性の声がした。僕たちは自動で開く扉をくぐり、豪邸へ向かう庭の道を歩き始めた。
























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