第3話 もうこの世の金とは思えない
「ヒロちゃんの最初のお仕事はね、金主様から一億円を拝領してくることよ」
瑞歩はさらっと一億円がなんでもない金のように言った。
「金主?一億??」
取り立て屋って?
「あー脅しすぎたか。うちはちゃんと店舗構えている質屋だよ」
彼女はくるくると髪をいじりながら
「でも、ヒロちゃんのせいで一千万必要になっちゃったし、責任とってくれるよね?」
と上目遣いで僕を見つめる。
「ハイハイわかりました。瑞歩様」
コイツは……。僕を騙したくせに。
「じゃぁ、あとで一千万円振り込んでおくね?それでキチンと身支度するんだよ?来週、金主様のところにいくからね?」
彼女は僕に顔を近づけて小声で付け加える。
「金主様は、チョーかわゆい女の子だからね?しかもセレブ……」
彼女は顔を離し、もとの調子で。
「男の子としてはやる気出すところでしょ?」
と明るく言った。まるで恋バナのように。
「そうだ、私が服選んであげようか?かっこ良くしてあげるよ?」
「自分で選ぶ」
僕はそっぽを向いて、ぶっきらぼうに言った。
くそ、騙されているのに、まるで瑞歩と恋バナしているみたいだ。不甲斐ない。ここで服選びまで一緒にするつもりはなかった。
「じゃぁ、田園調布の駅で1週間後待ち合わせね?」
瑞歩と別れると僕は、どっと疲れがわいた。
やっぱり自殺したほうがよかったかもしれない。
しかし、人間何か突拍子もつかないことがあると、気になってこの世を去る気も失せるというものだ。違約金に、ゲイ風俗か。もし約束を破ったら彼女はどうやって僕を追い詰めるつもりなんだろうか。
と、契約書を確認しようとして、僕は彼女が僕に契約書の控えを渡さなかったことに今気づいた。ああ、これじゃぁ、弁護士にも相談にいけないや。
だいだい、だれがこんな話を信じると言うのか。
僕も信じたくない。
でも、瑞歩に追い詰められるのも勘弁したい。
「一応助けてはくれたのだしな」と独り言。
それが中途半端で騙したような形ではあったが、僕は命を救われた。
冷静に考えればビルから飛び降りなくて良かった。
田園調布のセレブの金主か。
せいぜい、嫌われないようなカッコをしていくとしよう。
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