第2話 もうこの世の出来事とは思えない

「貸してくれるの?本当に?」

うなずくと彼女はノートを破ると手書きで借用書を書いていく、


「手書きだけど契約書だよ?」

僕は彼女に言われるまま、その契約書に拇印を押し、サインした。


「契約書キチンと読んでくれた?」

と彼女は上目遣いで言う。


「え、うん。軽くは」

本当は読んでいない。ちょっと焦る。


「そっか、じゃぁえーと」

契約書に目をやる彼女は自分の名前を確認し、

「廣井覚くん、これからよろしくね?君は私と業務委託契約結んだんだよ?3年間の給料の前借りだからね?1000万円は」


「え?」

「違約金もあるからね?業務内容はお金の取り立て屋。死ぬ気だったらできるでしょ?」


あっけに取られる僕。

「はぁあああ?」

「契約破ったら怖いよ?私、業界では姉貴として慕われているから。舎弟にはケジメちゃんとつけさせるからね?」


彼女は急に口調を変える。

「わかったら、姉貴の私に挨拶しな?私のことは瑞歩様って呼びなよ。サマ付けてね。」

冗談じゃないぜ。


「だ、騙したな?」

「ふふん、手書きの契約書に騙されたでしょ?手書きでも効力はバッチリあるからね。いいからテキパキ働きなよこれから。早速一軒めの取り立てに行ってもらうわよ?」


彼女はニヤリと笑うと。

「もし、契約違反したら。そうね、闇営業の芸風俗で今度は確実に金稼いでもらうからね?」

そして、もとのおそらく営業用のスマイルを浮かべると。

「どう?働きたくなったでしょ?」

と言った。


芸風俗?ゲイ風俗か。彼女がどうやって、舎弟の僕を追い込むつもりなのかはわからなかった。しかし、おそらく彼女が外見だけは僕のタイプの子だったから、僕はおずおずと頷き。

「わかったよ、瑞歩」

僕をキッと睨みつける瑞歩。


「み、瑞歩様」

様をつけたのを聴き遂げると彼女は、

「よろしくね、ヒロちゃん」

と僕をちゃん付で呼んだ。


「最初の仕事は、私と一緒でいいよ。OJTだよ。一緒に質屋の営業をがんばろうね?」


質屋じゃなくて、高利貸しだろ。

「はい、瑞歩様」


こうして、僕は瑞歩の「舎弟」になった。












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