カラ売ってストップ高すれば少女現る。

広田こお

第1話 もうこの世から消えてしまいたい

僕が最後にカラ売りした株は決算をまたいでストップ高した。

(今日こそは、下がるはずだ!)

その願いも虚しく、株価はどんどん上がり、僕の損失は膨らんでいく。


そして、株式口座にはとんでもない額の損失だけが残った。


もう、どうにでもなれ。

ビルの窓際に立ち、最後だと思って叫ぶ。

「僕には1000万の借金がある、もう死んでやる!!」


その時だった。

「私なんて一億の借金あるよ?君はそれで死ぬの?」

後ろから不思議そうな声で、少女が僕に話しかける。


あまりにも可愛らしい声と衝撃的な内容に僕は思わず振り返り、

セミロングの髪の黒い髪をした、どことなくぼんやりとした目つきの少女を目で捉える。


「1000万円あげようか?1000万借金が増えても、私には問題ではないもの」

彼女は困惑した顔で、

「その?死ぬのはやめにしませんか?」

といった。

その言葉を真に受けた訳ではないが、僕はなんとなく仲間を見つけた気持ちで嬉しくて、頷いた。

「うん、そうだね。やめるよ。1億円の借金がある子に言われたらなぁ」

どこか僕は安心した。やはり死ぬのは嫌だ。


「とりあえず、カフェにでもいきましょ?悩みがあるなら聞いてあげる。」


僕はボーッと安心した頭で、惰性で彼女の歩くあとを付いていく。

彼女はやがてちょっと値段が張りそうなカフェへと足をすすめる。

僕も中に入る。

彼女は僕にコーヒーとホットサンドを奢ってくれた。


「とりあえず、お腹いっぱいにしよ?食べたら、話してね?」

と彼女は言う。


僕は少しずつホットサンドを口に頬張った。

美味しい。


そして、穏やかな少女の顔が追い詰められていた自分の気持ちを落ち着かせていくのを感じる。


この子に話せば少しは気も楽になるだろうか?


「実は株で結構儲かっていたのです。でも、それも先月までの話で、今は借金が1000万ほどありまして」


「お金貸してあげようか?」

とにっこり彼女は笑う。

それは彼女がお金に困っていないことの証だったのに、僕は同情だと浅はかにも思ってしまった。


「ありがとう、そうしてもらえるなら正直ありがたいけど、無理でしょ?」

と笑う。ありえない話だけど、彼女の好意はなによりの励ましになった。


彼女は

「貸せるよ?借用書さえ書いてくれればね?」

となんでもないことのように言った。





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る