コップ
「はい。」
ぼーっとしているとお母さんの声で視界が冴えた。ゴトッっというガラスのコップが私の前に置かれる音に一瞬ざわついた。
「ん、ありがと。」
喉が乾いていた私はゴクゴクと喉を鳴らしながら、水を飲んだ。氷が溶け、コップに氷同士がぶつかる音が鳴る。冷たい空気が喉の中を通る感覚は気持ちがいい。
「カランッ」
直後、上唇に水とは違う冷たい感覚が走った。どうやら水が無くなり、氷が落ちてきたみたいだ。首を下に下げ、口に加えたままにコップの縁を少し舐めた。
「ゴトッ」
(ご飯まだかなぁ。)やることが無くなって暇になった私は、またコップを口に加え、歯とガラスがあたる音と感覚を楽しんでいた。甘くないが舌ざわりがいい。カツカツと口の中に響く。(飴みたいだなあ。これ噛んだら、味するかな。)
コップを持つ手が冷えてきた。親指の腹で舐めるように滑らせた。少し湿った。見下すようにトロトロになってきた氷を見る。(でも、お母さんに音聞こえちゃうかな)
噛魅たい。
「」
あ、。飴が割れていまった。案外固くない。口が閉じられない。飴の欠片が私の口の中に飛び散った。熱くも冷たくもない。かんだ瞬間飴が溶けてしまったのか。私はコップの中を確認した。氷なのか、ガラスなのか、水なのか、飴なのか、余計分からなくなった。でも、何か、まばらに沢山感覚がある。(飲んでいいのかな。)
「今日は、ミートパスタよ…?何してるの?!」
お母さんが怒ってる。何をしているのかと聞かれても、分からない事に気づいた。口も動かせない私は、ただお母さんの目をみた。(ああ、飴を噛むのは悪いことなんだ。)
私は焦った様子のお母さんに、洗面台に連れていかれて、口のかなを洗った。指を突っ込んで、右頬の内側に刺さった欠片を取った。(やっぱり飴じゃないんだ。)キラキラと光る。(こんなに綺麗なのに。食べたらいけないんだ。)
ミートパスタはちょっと冷めてるし、お母さんの機嫌は何故か悪いし、割れたコップはもう無くなってるし、何だか嫌な気分。
でも、甘魅しかった。
クマのぬいぐるみ あい @ai16wosiranai
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