第1585話 クエストの進展


 曼珠沙華から、簒奪クエストの進行を主導している人の心当たりが聞けたけど……まさか、検証狙いで動いていて、その勢力の中に群集所属の人が混ざってる可能性があるとはね。

 まぁ絶対にそうだと断言が出来る訳でもないけど……全ての簒奪クエストを阻止するのは現実的じゃないな。ともかく、集合時間の14時は過ぎたんだし……。


「とりあえず、簒奪クエストの動きは警戒しつつ、これからの動きを決めて――」


<規定条件を満たしましたので、緊急クエスト【謎の飛行物の落とし物】が進行します>


 って、クエスト進行のアナウンスが出た! 昼から動きがある可能性はあったけど、このタイミングで動き出したか!


「おー! 精神生命体、3人が登場なのさー!」

「グレイ、セキ、サイアンの3人かな? あと、光の球体はクオーツ……?」

「多分、そうだろうね。群集関係なく、全体で同じ内容になりそう?」


 群集の長の3人とクオーツがセットで登場してくるのなら、群集毎に内容が違うって事はなさそうだね。


「ケイ、言いかけたとこだったが……そこは後でだな」

「分かってるって! 今は、演出の確認を最優先! この内容次第で、動き方も変わってくるし!」

「ま、確かにそりゃそうだな」


 これからの行動方針を決めようとしたタイミングだったけど、それらを決める前に演出が始まってよかったよ。内容次第ではいきなり予定変更の可能性だってあるんだから、先に演出を見る方が助かるし!

 という事で、演出を最優先! 群集として……いや、全体としてどういう対処に動くか、どう決まったんだろうね?


『同胞達よ、いきなりの連絡になり、すまないな』

『……ったく、なんでまたグレイやサイアンと一緒に通達しなきゃなんねぇんだか……』

『不満があるなら、セキは席を外してくれても構いませんよ? 私達だけでも、対応が出来ない訳では――』

『だー! 少し愚痴ってただけだろうが! サラッと赤の群集を外そうとすんじゃねぇよ!』

『セキ、少し静かにしろ。話が進まないだろう』

『……ちっ! あー、分かったよ! 静かにしてっから、さっさと話を進めちまえ!』

[……そなたらは、相変わらずなのだな]


 群集の長の仲の悪さは、今も健在ですなー。とはいえ、共通の問題点が出てくれば共に出てくるんだし、決定的な決裂でもないんだろうね。まぁそれでも溝は深そうだけど……。


[今回の件は我から話そう。その方がスムーズに話が進むのではないか?]

『おそらく、そうでしょうね』

『……ったく、どんな冗談だって話だしよ』

『私達より、公平かつ客観視が出来るのは間違いないか。任せるぞ、クオーツ』

[あぁ、任されよう]


 ん? クオーツがメインで話を進めていくのはちょっと意外だな。てっきり、グレイとサイアンの2人で進めていくものだと思ったんだけど……客観視しないと、マズい状況なのか?


[今回の連絡は……既に予想は出来ていると思うが、【黒の異形種】への対応の話になる。技術的側面から、我の力が必須になりそうなので、我から話させてもらうぞ]

『グレイやサイアンに任せると、自分達に都合の良いように話を進めかねないからな!』

『セキ、それはあなたもでしょう?』

『誰が言ったところで、それぞれに利する行動になりかねん。だから、クオーツに任せるだけだ』

[……任せると言った以上は、変に口を挟まないでもらえるか? 話が先に進まぬのだが……]

『へいへいっと。静かにしてりゃいいんだろ』


 あー、うん。クオーツが説明を任された理由、なんとなく分かった。3つの群集で対応方針は一致したけど、その中で優位性が出てくる要素があるんだな。だから、中立になるクオーツから説明って話になって……セキが余計な口を挟んでいる状況か。

 いや、そんなとこで揉めなくていいから、さっさと本題に入ってくれません!?


[本題に戻すが……【黒の異形種】との意思疎通が可能な事を確認した。その手段として、我が【採集機】から引き出した情報を元に改造を施した物が必要なのも確認済みだ。そして、一部の者からの提案もあり……赤の群集、青の群集、灰の群集では、【黒の異形種】と本格的に接触を行う事を決定した]


 おー、無視せず、敵対する訳でもなく、まずは対話からやっていく事に決まったか。まぁどう考えても、黒の異形種は無視出来る相手ではないもんな。


[その際に群集の長の個人的な意向が反映されないように、協議で決まってな。接触する場合、我が立ち会う事になっている。これは一部の者から提案のあった、【黒の異形種】の欠けている肉体の補填という作業も同時に行えるようにする為でもある]

『よく思いついたもんだよな。あの【採集機】とやらを構成する部品を、あの連中の肉体にしちまおうなんてよ!』

『そのままでは意思疎通が不可能ですし、相手方の不足分の補填に合わせて、翻訳機能を取り付けるというのは理に適った手段ではありますけどね』

『同意は得て行う予定だが、相手の身体を弄る事になる。その結果として変に群集に縛らないように、中立のクオーツに処置をしてもらう事にした。まぁクオーツでなければ、不可能だという事情もあるが……』


 なるほど、そういう流れか。てか、一部の者からの提案って、どう考えても俺ですよねー! まぁそういや提案が出てくるのがイベントの進行フラグになってるだけな気はするけど……こういう感じで言及されると、なんかむず痒いな!?


[だが、【黒の異形種】の全てが対話に応じてくれるとは限らんし、我からの身体の改造を受け入れるとは断言出来ん。……接触するつもりの者は、戦闘の用意は怠るな]

『半端な接触の仕方をして、変に刺激して、敵に回すんじゃねぇぞ!』

『……それは、一番赤の群集が心配なのですけどね』

『力技で、強引に押し切ろうとはするなよ?』

『サイアンもグレイも、うっせーよ! てか、あの連中の本質は俺らの【陰】だろうが!』

『……余計、それが心配なんですよね』

『本質が【陰】ならば……いや、これは言うだけ混乱の元か』

『おい、グレイ!? そこまで言いかけてやめるなよ!? 今、何を言いかけた!?』


 あー、なんとなく予想は出来た。そっか、黒の異形種は俺らプレイヤーやNPCの対になってる存在として生まれているんだもんな。

 ただ、陰陽のバランスが正反対で、選ばなかった進化の方向性で具現化してるから……肉体的だけでなく、精神性も元とは大きく異なってくるのか。


『……私達の対となる存在……なるほど、危険なのはむしろ穏健派である、青の群集が元になっている者達ですか』

『あ、そうか! 真逆の性質が出てきやすいのなら、危険なのは青の群集の連中が元になってる個体ってこったな! はっ! なら、赤の群集が元になってる連中は安全かもしれねぇぜ?』

『セキ、それは自分達が乱暴であると認めているのですが……いいんですね、それで』

『元より、そんなのは承知の上だからな!』

『……そういうところが、相容れない理由なんですけどね』

[……色々と、そなたらにも苦労があるのだな]

『どれほど姿形が変わろうとも、争いは避けられないのだろう』

[……そのようだな]


 グレイがしみじみと言ってるけど……どこまで行っても、争いは避けられないか。それぞれの群集の立ち位置の違いは設定上で存在してるけど、それがこういう形で影響してくるとはねー。

 過激派の赤の群集が元になっていれば、温厚な個体になって、穏健派の青の群集が元になっていれば、過激な個体になってる可能性か。どっちとも言えない灰の群集が元になった個体は、どういう傾向になるんだろ?


[ともかく、【黒の異形種】との本格的な接触には我が立ち会う事になる。接触を試みる者は、それが可能なように環境を整えて欲しい]

『最低限、必要となるのは……クオーツと接続する為の【惑星浄化機構・長距離通信装置】と、黒の異形種との対話用の【意思感知式翻訳装置】となる』

『もし、交渉の結果、改造を施す場合なら【情報組成式物質構成素子】も必要になりますね』

『接触しようって奴は、それらを忘れんじゃねぇぞ! どこにいる奴と接触するかは、各自に任せるぜ! どこのどいつが、どういう反応をするかは分からんがな!』

[もし接触するつもりであれば、危険を承知で動いてもらいたい。どういう話になるか、誰にも分からんからな]


<規定条件を達成しましたので、緊急クエスト【謎の飛行物の落とし物】が進行します>

<必要なアイテムを用意する事で、【黒の異形種】との交渉が可能になりました>


 ちょ!? アイテムの指定は明確にあるけど、どこで接触すべきかの指定は皆無かよ!?


「あー、どういう反応が出てくるかは……その場所次第?」

「どうも、そんな感じだねー? これ、先に動いてて正解だったんじゃない? もう既に接触してるとこなら、争いになる可能性は低そうだしさ」

「ですよねー!」


 レナさんの言う通り、今の時点で接触済みの場所はスムーズに話が進む可能性は高いか。となると、取れる選択肢は――


「原野か山岳、どっちかの黒の異形種の溜まり場が有力候補かな?」

「問題は……どっちに行くかだね?」

「はい! 私は原野の方がいいのさー! あそこなら、すぐ近くに転移地点を……はっ!? レナさん、登録がない気がする!?」

「およ? あ、そっか。わたし、原野には一緒に行ってないから……んー、別にそこは気にしなくていいよ。原野自体には転移の実は登録してるし、座標さえ教えてくれれば、後から合流するしさ」


 あー、ちょっとこれは悩ましいとこだな? レナさんは気にしなくていいとは言ってるけど、流石にそのまま受け入れるのもやりにくい。そもそも、レナさんだけの問題でもないんだよなー。


「紅焔さん達は……どうする?」

「俺らか? あー、まぁアイテムも場所も全部揃ってんだし……行かねぇなんて選択肢はねぇよな!」

「紅焔なら、そう言うと思ったよ。まぁ僕としてもこの先の流れは気になるし、対人戦さえ避けれるなら見に行きたいところだね」

「私もですね。折角の機会ですし、可能なら一緒に向かいたいところです」

「僕も同じく! こんなチャンス、逃す訳にはいかないよね!」

「確かにな。これから動こうって時に、もう条件が揃って移動するだけなら、行かない理由はどこにもねぇぜ」

「って事だ! 俺ら、飛翔連隊も一緒に行かせてもらうぜ!」

「ほいよっと。まぁ、そりゃそうだよなー!」


 ばったりと他の集団と遭遇する可能性はあるけど、今回は奪い合いになるかは……正直、未知数過ぎる。でもまぁ、仮に対人戦になったとしても、ソラさんだけを参戦させずに戦うのも不可能ではないか。ただ、ちょっと見解が欲しいとこだね。


「今回、対人戦になる可能性はあると思う?」

「んー、少なくとも灰の群集の人とは争う必要はなさそうだよねー」

「……他の群集とは、兼ね合いが分からんがな」

「……他の群集が……気になるなら……山岳が……いいかも?」

「はい! 風音さん、それはなんでですか!?」

「……あそこは……灰の群集の……占有エリアに……近いから。……原野よりは……遭遇しにくい?」

「おぉ! 確かにそうなのさー!」


 ふむふむ、エリアの場所的に灰の群集から行きやすい場所だから……まぁ風音さんの意見は分かる。でも、あそこってクモが守ってるから――


「ケイ、私の事は気にしなくていいかな! ハーレも!」

「あー、気にしてたの、気付いてた……? ……また声に出てたとか?」

「ううん、今のは声には出てなかったかな。でも、近い場所を避けようって感じはしたよ?」

「……バレバレだったか」


 他に選択肢があるんだから、午前中に引き続いて苦手な相手の場所に行くのは避けられたなーとは思ってたんだけどね。ハーレさんも、そういう誘導をしてた感じはあったし、あっさり気付かれたか。


「クモなんざ、俺らで始末してやるっての!」

「これだけのメンバーがいるんだしね。僕も我儘を通してる方ではあるし、こういう時は任せてくれるかい?」


 紅焔さんもソラさんも……他のみんなも頷いているし、サヤ自身もこう言ってるんだから、過剰な心配なのかもね。よし、決めた!


「おし! 目標地点は、山岳エリアにある黒の異形種の溜まり場にする! 今、ここにいるメンバー全員で行くぞ!」

「あー、俺は行けんぞ?」

「……まぁ桜花さんは、そうなるよなー」


 気合いを入れたつもりだったけど……確かにそうなりますよねー! うん、今のは言い方を間違えた。とはいえ、変に言い直すのもややこしいし――


「ケイ、それに付き合わせてもらっても構わないか?」

「……へ? あ、ベスタ!?」

「およ? ベスタさんも一緒に来るの?」

「状況的に、確認しておきたい内容だからな。まぁ駄目だというなら諦めるが……」

「いやいや、問題ないぞ! 紅焔さんのとこに空きが1枠あるしさ! みんな、別にいいよな?」


 いきなりの登場でびっくりしただけで、ベスタの参戦を嫌がる理由なんてどこにもないしな! 黒の異形種を探っていたベスタが、さっきの演出を見て、直接確認に行きたい気持ちも分かるしさ!

 見回してみても、みんな頷いているね。黒の異形種関係は連携して動く事にもなったんだし、ベスタの参戦は何も問題なし!


「ベスタさん、ほれ!」

「あぁ、助かる」


 紅焔さんがベスタにPT申請を出して、加入はすぐに完了。これで、連結PTのフルメンバーである18人に――


「フルメンバーになったし、山岳エリアに向けて出発なのさー! アルさん、飛ばすのです!」

「それもそうだな。スチームエクスプロージョンまではやり過ぎだとしても、その一歩手前くらいまでは飛ばすか。紅焔さん、合わせられるか?」

「わっはっは! 高速飛行は任せとけっての!」


 あー、うん。道中は思いっきり飛ばして移動する事に決まっていってるな。まぁ全員で転移していけないのは確定なんだから、そうなりますよねー!

 転移地点、設定してた意味ないな!? いやまぁ、メンバーが増えたら、仕方ない部分だけどさ!


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