第1584話 動きの心当たり


 アイルさんに謝った事に、思いっきり損した思いがありつつも……とりあえず再ログインして、戻ってきた。リスの姿が現れてる最中でもあったから、ハーレさんもほぼ同時だったか。


「あ、戻ってきたね。ケイさん、どうだった?」

「……謝って、損した気分だなー」

「およ? その反応……また、アイルさんが調子に乗っちゃってる?」

「気にするなら、対戦を受けろって感じの事を言ってきたのさー!」

「スルーしてきたけどな……」

「あらら……。なんでまた、そこで余計な一言を付け加えちゃうかな? アイルさんって、ケイさんに警戒されてる自覚はないの?」

「……分からん!」

「まー、そうだよねー」


 自覚があっての事なら、相当厄介だけど……無自覚なのも、それはそれで厄介だな。今までのあれこれ、既に完全に水に流して終わってると思ってる?

 いやまぁ、変に追及はしないって事にはしたけど……俺の心象は別問題なんだけどな。なんかアイルさんって、俺への距離感おかしくね? まぁリアルの方は、今はいいとして――


「飛翔連隊、ただいま参上!」

「紅焔!? わざわざ、上空に火を吐かなくてもいいから!」

「……まったく、何をしているんですか」

「まぁ紅焔だしねー」

「今に始まった事でもないからな」

「わっはっは! そういう事だな!」


 なんだか無駄に派手な登場をしてきた紅焔さんだけど……とりあえず、騒ぎながらも桜花さんの元まで降りてきて、飛翔連隊は合流完了だね。あとは、曼珠沙華と十六夜さんか。


「聞いたぜ、ケイさん。あのイブキを、味方に引き入れたらしいな!」

「まぁ成り行き上で……紅焔さん、ある程度の情報は仕入れてる?」

「移動中にな! いやー、まさか『簒奪クエスト』の内容を明らかにするとはな!」

「味方にするつもりは、なかったんだけどなー」

「ん? あー、そりゃまぁあのイブキだし……てか、あのイブキがよく協力的になったな?」

「まぁ流れで……?」

「……流れで、どうにかなる相手か?」

「おっ! 十六夜さん! 俺もそれには同意だぜ、ケイさん? マジで、どうやったんだ?」


 どうやったって聞かれても……ただ、逃げ道を封じて、流れを誘導しただけでしかないからなー。てか、十六夜さん、サラッと出てきたな!?


「手段としては……少し脅した感じだねー。まぁわたしも手伝ったけどさ」

「ソロで、孤立状態に近かったのも大きかったんだろうな」

「孤立状態だったのかよ、イブキ!? あー、羅刹さんと完全に離れてた状態だもんな」

「……羅刹が、灰の群集の無所属支部とやらになっているんだったか。eスポーツ勢の流入や、インクアイリーの瓦解の影響を受けたのだろうな」

「そうそう、多分そんな感じ」


 イブキは簒奪クエストを進めてこそいたけども、他の人との連携は全く取れてなかったもんなー。だからこそ、イブキだけの判断で立ち位置を切り替えられたとも言えるんだろうけど……。


「……そういや、イブキってインクアイリーと関わりってある? 十六夜さん、その辺は何か知らない?」

「……イブキは、元々は無所属としてはウィルの一派だ。まぁウィル達が赤の群集に戻った際に羅刹がその残りを引き継いだが、あそこは独自でまとまっていてな?」

「……羅刹さん達は、無所属の中でも中立を維持してたグループ。……インクアイリーとは取引はあっても、距離はあったよ」

「ほほう? って、彼岸花さん!?」


 サラッと会話に混ざってきて、ちょっとビックリしたわ! あー、でも、羅刹達って無所属でも独特な立ち位置にいたのか。

 まぁ無所属の溜まり場を管理していたんだし、中立を保つ為に極端に偏った関わり方は避けてたのかもなー。でも、インクアイリーが大々的に動き出して、その後に瓦解して……eスポーツ勢の流入も重なって、大きく勢力図に変化して、負荷が大きくなり過ぎたのかも?


「……お待たせ」

「曼珠沙華、到着しました! ところで、何の話?」

「羅刹やイブキの名前が挙がっていたようだが……何かあったのか?」

「およ? 曼珠沙華はまだ情報は未確認なの?」

「……うん。ログインしたばかりだから――」

「あー!? まとめに、凄い情報が色々と上がってるっぽいよ!?」

「そうみたいだな? ほう、ケイさん達……色々と事態を動かしていたのか」

「まぁそうなるなー。その辺、説明した方がいい?」

「……大丈夫。まとめを見て確認するから……でも、読む時間は頂戴? リコリス、ラジアータ、それでいいよね?」

「問題なーし!」

「あぁ、それで構わん」

「ほいよっと。それじゃ、確認が終わるのを待っとくわ!」


 伝えるべき内容は既にまとめに整理されているんだから、それを読んで把握してもらうのが手っ取り早いですよねー!


「さてと、今のうちに連結PTを組んじゃおっか!」

「だなー」


 全員揃ったんだし、レナさんの言う通り、今のうちに活動の準備をしていこう! 具体的にどう動いていくかは、全員の準備が済んでからですなー。



 ◇ ◇ ◇



 連結PTを組み終え、曼珠沙華がまとめの内容を確認している間に、イブキとの具体的なやり取りを紅焔さんに説明して――


「……『簒奪クエスト』は、思った以上の進行みたい?」

「そうっぽいねー! これ、誰の主導?」

「……氷花かグレン辺りか?」

「……多分、違う。でも、氷花さん達も参加はしてそうかも?」

「んー、確かに参加はしてそうだけど、指揮してる感じではないよね! でも、ここまで大々的に動いてるなら、誰かが指揮を取ってそうだけど……」

「どこの誰かが、問題か……」

「そうなんだよねー」


 ん? 氷花やグレンって名前には覚えがあるけど……確か、競争クエストの時に彼岸花さんと一緒に暴れてた人だよな? 今の『簒奪クエスト』って集団で連携が取れているような印象はあるけど……曼珠沙華でも、その指揮してる人に心当たりがない?


「およ? 曼珠沙華でも、誰が指揮してるか心当たりはないの?」

「……インクアイリーは、内輪揉めで崩れた。……まだまとめ上げられているとは、思えない」

「私達が言うのもあれだけど、癖が強い人が多いからねー! オリガミさんが指揮をやってるなら納得なんだけどさー」

「オリガミさんは、面倒がってるからな。ライブラリは観察に回っているだろうから、あいつの可能性は低いだろう。可能性としては、オリガミさんを蹴落とそうとしていた連中の誰か……いや、あいつらは足の引っ張り合いになるか」

「間違いないね! あいつら、協調性はないし!」


 リコリスさんもラジアータさんも辛辣だな!? でも、動く気がないオリガミさんをわざわざ敵視してるくらいの人達なら、そういう評価になるのも分かる気がする。

 ふむふむ、まだ14時になったとこだし、これからの動きを決める前に、元インクアイリーとしての意見を確認しとくか。この辺、どうしても群集所属じゃ分かりにくい情報だしさ。


「オリガミさんを追い落とそうとしてる人達だと、まとまった動きは無理そうってのは分かったけど……それが可能な人って、今の無所属にいるのか?」

「……全員を知ってる訳じゃないから、断言は出来ないよ?」

「知ってる範囲でいいから、教えてもらえない? 警戒すべき対象がどれくらいいるのか、把握しておきたいし……」


 競争クエストの時の乱入クエスト……いや、あの時も簒奪クエストになってたと考えた方がいいか。その時の仕切り役だった彼岸花さんだからこそ、知っている何かがあるかもしれない。

 今回のイベントでも『簒奪クエスト』が動いているんだから、何かしらのヒントが得られればいいんだけどな。この場にはレナさんもいるし、ダメ元でも心当たりの名前を挙げてもらえれば……!


「……いいよ」

「はいはーい! 筆頭で思い浮かぶのは、それこそ羅刹さんだね!」

「面倒見はいいし、実力も兼ね備えいるし、無所属の溜まり場として発火草の群生地を仕切っていた実績もあるからな」

「あー、羅刹って思っている以上に、無所属では大物?」

「……うん、かなり大物。……インクアイリーに組み込まれなかった中では、最大級の規模の集団だよ」

「マジっすか!?」


 そんな実感は全然なかったけど……何気に今の灰の群集の無所属支部って立ち位置、相当大きな影響なんじゃね!?


「そういう立ち位置だから、色々と他所から取り込まれそうになって、嫌気が指してたのかな?」

「あ、それは確かにありそうかも?」

「はっ!? 戻ってくる事に決めたのって、そういう理由ですか!?」

「……サヤさんの言う通り、そういう理由はありそうかも?」

「あー、なるほど」


 影響力が大きいからこそ、自分の味方に引き入れようって動きが出てくるだろうしなー。それが嫌で、傭兵として参加していた灰の群集への移籍を決めた可能性はあるね。

 ただ、それだけじゃ納得がいかない人がいるから、無所属支部として戻る時までの実績が欲しいって感じなのかもなー。


「他に思い浮かぶのは、まぁやっぱりオリガミさんとライブラリか」

「はいはーい! いか焼きさんは? 最近、見かけない気はするけど……」

「およ? いか焼きさんなら、青の群集に移籍済みだよ?」

「ありゃ!? あー、だから見かけないんだ!」

「……いか焼きさん、移籍してたんだ」


 タコのいか焼きさんの名前が、ここで出てくるとはなー。まぁ元々、いか焼きさんはレナさんの知り合いみたいだったし、そう不思議な事でもないか。


「人格面はよく分からんが、一時期、妙に注目を浴びていた黒い龍はどうだ? 俺は直接会った事はないが、かなりの実力者だとは聞いたぞ」

「あー、あったね、そういう事! 私も会った事はないけど、無言の実力者って事で話題になってたっけ! 名前、何だっけ? いつからか、妙に目撃情報が減った覚えがあるけど――」

「……あ、風音!」

「そうそう、風音さんみたいな見た目の龍って話!」

「……リコリス、違う! そのプレイヤー名が、『風音』!」

「……え? えぇ!? 風音さんが、あの噂の黒龍!?」

「……桜花……そうなの?」

「いや、俺に聞かれても知らんからな!? あー、レナさん、その辺は?」


 風音さんが不思議そうに首を傾げて桜花さんに聞いてるけど、そりゃ無所属の中での噂とか知らないよな!? でも、風音さんなら噂になっても不思議じゃない気がする。

 風音さんとは色々と一緒に動いてきたけど、魔法ではトップクラスの実力者なのは間違いない。まぁ指揮はサッパリ駄目だろうけど……。


「およ? むしろ、わたしはその黒龍の噂の方を知らないんだけど……彼岸花さんが名前を知ってるなら、覚え間違いでない限り、風音さんの事だと思うけどね。実力者なのは間違いないしさ」

「……今は……灰の群集の……メンバー! ……それだけで……いい!」

「まぁ、それもそうだな。これからも頼むぜ、風音さん!」

「……桜花も……よろしくね!」


 まぁ風音さんは、桜花さんが灰の群集にいる限り、まず間違いなく敵になる事はないな。てか、無所属での有力者、移籍済みが何気に多い?


「んー、他には……めぼしい人って、一時的に無所属にいた事はあっても、大体は群集に移籍しちゃってるよね?」

「そもそも、無所属に移ってきてる人の方が少ないからな」

「……実力がある人なら、群集に所属して、実績は残してる。それでも無所属に残っている人は、それなりに訳ありだから……」

「まぁ、そういう事になりますよねー」


 当たり前と言えば、当たり前の話だよな。灰の群集と戦いたかったって理由の羅刹やイブキや、弥生さんとシュウさん達へのリベンジに燃えている曼珠沙華とかが特殊例なだけで、相応の理由がなければ、無所属よりも群集所属の方がメリットは大きい。

 それこそ、それに縛られたくないオリガミさんみたいなパターンでもなければ――


「はい! インクアイリー自体は、赤の群集の共同体だったよね!? だったら、群集所属のプレイヤーが指揮してる可能性はありませんか!?」

「あ、その可能性があったか!」

「およ? ……そっか、それはちょっと盲点だったかも?」


 簒奪クエストを進めているのは無所属のみと考えていたけど……実態として、群集には所属しているだけのプレイヤーが指揮役を担ってる可能性は否定出来ないもんな。

 検証好きのプレイヤーはどこにでもいるんだし……その興味の対象が、無所属の簒奪クエストに向いてもおかしくない。それこそ、俺がイブキから情報を引き出す為にやった事の延長線上にある事だしなー。


「……そう考えると……グレンさんが怪しい?」

「グレンさん、検証好きだもんね!」

「確かに、グレンがどこかと手を組んでやっている可能性はあるな。氷花達を筆頭に、無所属の検証好きを集めて……」

「えーと、もしかして……グレンって人が、当たりっぽい? 確か、彼岸花さんと一緒にいたキツネの人だよな?」


 競争クエストの時、キツネで分体を作ってた人のはず。今の話の流れだと、勢力争いよりも、ただ単に黒の異形種が簒奪クエストを成功させたらどうなるかを調べるのが目的っぽい?


「……そのグレンで間違いないよ。……断言は出来ないけど、勝つ為じゃなくて、検証の為に動いてる可能性はある」

「好戦的にメンバーじゃなく、検証好きな面子が協力して動いているかもな。その方向からなら、まとまった人数が動くのも納得は出来るぞ」

「インクアイリーの時から、その手の繋がりはあったからねー! 下手すると、全ての群集の人が絡んでるかもよー?」

「マジっすか!?」


 いやいやいや、無所属の一部の人がやってるのかと思ったら、まさかの可能性だな!? でも、インクアイリー自体が瓦解したとはいえ、伝手自体は消滅した訳じゃないし……否定すべき内容ではないか。


「んー、もう後手に回ってる状態だし……これ、最低1ヶ所は取られても仕方ないかもね」

「……そうかもなー」


 ベスタの報告にもあったけど、1ヶ所は既に手遅れの可能性が高いって判断してたもんな。それが無所属だけの力ではないとなると……阻止は余計難しいですよねー。

 というか、全部の群集が混ざってる可能性があるなら、共有してる情報も筒抜けじゃん!? いや、そこは気にし始めたら、全く身動きが取れなくなるだけか……。


 うーん、ここからどう動けばいいんだろ? 簒奪クエストは無視して、止まってるクエストの進行があるまで、これまで通り探索していくのが無難?

 

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