第1583話 ログインしてから


 ログインした先は森林深部で、エンから少し外れた場所。でも、集合場所は群雄の密林だから、すぐに移動しないと――


「おっ、良いタイミングだな。ケイ、こっちだ!」

「ん? あ、アルか! ナイスタイミング!」

「引き上げるぞ! 『根の操作』!」

「ほいよっと!」


 声のした方向を見上げてみれば、そこにはアルがいた。いやー、すぐに根で引っ張り上げてくれたし、ありがたい!


「ケイがいたなら、ハーレさんもいるのか? いるなら、一緒に連れて行きたいとこだが……」

「あー、どうだろ? 微妙な差で、もう先に行ってる可能性もあるけど……」


 フレンドリストでは現在地を表示しない状態にしてるけど……あ、そういえば共同体のメンバーリストからでも、位置は確認出来たはず?

 こっちの設定は弄ってないし、そもそも共同体のメンバーは全面的な味方なんだから、現在地が分かるかも? お、こっちはちゃんと表示されてますなー!


「ハーレさんは、まだ森林深部にいるから――」

「あっ! アルさん、発見なのさー!」

「見つけるまでもなかったみたいだな。ほれ、ハーレさん、上がってこい!」

「はーい! おぉ!? ケイさんがいたのさー!?」

「俺もさっき引き上げられたばっかだけどなー。サヤとヨッシさんは既に群雄の密林にいるみたいだし、移動するぞ」

「っ!? ケイさん、それ、どうやって確認したの!? 今、みんな現在地は伏せてるよね!?」

「共同体の機能だ、共同体の! ほら、メンバーリストから確認出来ただろ」

「おー!? そういえば、そんな機能もあったのさー!?」

「……地味に機能が被ってるとは思ってたが、こういう使い分けが出来るとはな」

「意外と便利みたいだなー」


 これまでは使う機会が全くなかったけど、フレンドリストと共同体のメンバーリストでは表示する対象の相手が変わってくるもんなー。

 だからこそ、こうやって使い分けが出来る訳だ! ……まぁそう頻繁に使うかというと、微妙な気もするけども!


「ともかく、今は合流なのさー!」

「だなー。アル、群雄の密林へ向けて出発!」

「おうよ!」


 という事で、合流場所に向かいますか! それから、色々情報を集めたり……いったんの胴体にあった、思わせぶりな内容にも警戒しないと!



 ◇ ◇ ◇



 群雄の密林まで転移を済ませ、桜花さんの桜の木の元までやってきた。桜花さんと風音さんは既にいるみたいだけど、他の人はまだっぽい?


「あ、アルさんが来たね」

「ケイとハーレも一緒みたいかな!」

「ヨッシ、サヤ、お待たせー!」

「おっす! 二人ともお待たせ! 桜花さんと風音さんも、こんちは! 今日も引き続き、よろしくな!」

「……今日も……よろしく」

「おう、よろしくな! それにしても……ケイさん、午前中に色々とやらかしてんな?」

「あー、既に色々と情報は集めてた?」

「まぁな。30分くらい前からログインしてるが……状況の変化に、色々とビックリしたぜ?」

「ですよねー!」


 そりゃ灰の群集の中での情報交換が滞ってた状態が解消されて、協力するように動く出してたらビックリして当然だもんな。その辺の説明はするつもりだったけど……もう既に確認済みとはね。


「それで、どの程度は把握してる?」

「イブキさんを引き入れて、簒奪クエストの現状を確認した事と、そこから発生した協力状態は把握してるぜ。あと、ベスタさんがまとめてくれた黒の異形種の溜まり場の位置情報は……かなり有益だな」

「おっ! それ、もう出来てたのか!」


 相変わらず、ベスタの仕事は早いっすなー! 昼前に用意すると言って、もう既に完成してるとはね。


「ねぇ、ケイ? リアルでの話は……後での方がいいかな?」

「あー、まぁそれは――」

「ん? ケイさん、サヤさん、リアルでなんかあるのか? 別に俺は気にしねぇが……?」

「……同じく」

「今のタイミングでリアルの話だと……eスポーツ絡みだろ? 俺も気にしないから、今のうちに話しとけ。内容次第では、俺も無関係とは言い切れんからな」

「まぁ、それもそだなー」


 ギンとの対戦はともかく、モンエボ内での交流はアルも関わる可能性が高いんだし、話しておいてもいいかもね。出来れば、レナさんもいてほしかった気がするけど……まぁ今いないのは仕方ないか。


「簡単に言えば、ギンさん達と私とケイさんとサヤで、別のゲームで対決する事になりました!」

「……おい、ケイ? なんだか予想外に方向に話が進んでないか?」

「いやいや、今のも事実だけど、それだけじゃないから! ハーレさんが入部に興味を示してるから、ギンのとこの人と交流出来る機会を作ろうって流れでな!? 元々はモンエボの方だけのつもりだったんだけど……なんか、流れでそうなった?」

「なんで、そこで疑問形になるんだよ。いやまぁ、別に悪いとは言わんが……あー、モンエボではレナさんの立ち上げる共同体と、何か一緒にするって流れになるのか?」

「まぁ多分、そういう感じになるかと? 明後日……火曜に夜に予定してるんだけど、アルは問題ない?」

「……連休明けか。まぁ今のクエストはひと段落ついた後なりそうだし、そういう事なら問題ないぞ。ケイのあれこれを、聞き出すチャンスではありそうだしな」

「ちょ!? そんなの、狙わないでくれねぇ!?」

「冗談だ、冗談! ……それで、その時にはアイルさんもいるのか?」

「あー……」


 全然考えてなかったけど、レナさんの立ち上げる共同体の設立メンバーになってるんだから……必然的にそうなる? くっ! 地味に面倒だな!?


「はっ!? アイルさんを脅したの、問題になりませんか!?」

「「脅したの!?」」


 あー、うん。サヤとヨッシさんが思いっきり驚いてるけど……ハーレさん、そこは伏せとこうぜ? まぁ今更遅い気もするけど……。


「脅したと聞くと……穏やかじゃないんだが? ケイ、どういう事だ?」

「えーと、まぁハーレさんがお盆に休みを取れるように頼んだら……ちょっと交換条件を突きつけられて? それで、イラッとして、つい……」

「……聞いてる範囲でも色々とやらかしてるのに、そこで条件とかよく突きつけられるな? まぁそれは別としてもだ……。どういう風に脅した? 内容次第では、流石にスルーは出来んぞ?」

「それはそうかな! ケイ、流石に脅すのはどうかと――」

「脅すって言っても、これまでやらかした内容を親に暴露するって言っただけだから! ……親経由で、向こうの親が状況をいまいち把握し切ってない状態で謝られて、困惑したって事もあったんだよ。そこに詳しい説明をするって言っただけ!」


 ……ん? あれ、なんかみんなが静かになったけど……なんか変な事を言ったか?


「……あー、なんというか……それは、まぁ脅しではあるんだろうが、普通に伝えてもいい内容じゃないか? 正直、アイルさん本人の反省が足りてないように思えてきたが……」

「一度、アイルさんは盛大に親から絞られるべきかな!」

「サヤ、待って! 少し落ち着こう!?」


 ちょ!? なんかサヤが怒ってるし、アルは同情的な反応なんだけど!? えーと……これは、一応、俺の主張を信じてもらえたという認識で合ってる?


「……ケイさん……苦労してる?」

「なんというか、色々と振り回されてるっぽいが……大丈夫か?」

「……まぁなんとかなー」


 桜花さんと風音さんにまで心配されてしまったけど……本当、どういう風に対処すれば平穏になるんだろ? ハーレさんがお盆に休めるように頼むのって、そこまで非常識な事をした覚えはないんだけど……。


「およ? みんな、どうしたの? なんか、雰囲気が暗いけど……」

「あ、レナさんだー!」

「およ!? 本当にどうしたの、この状態!? サヤさん、何か気が立ってるみたいだけど、何かあったの?」

「……レナさん、アイルさんをどうにかするには、どうしたらいいかな?」

「『どうにかする』って、具体的に何を指してるの!? というか、この雰囲気ってアイルさんが原因!?」


 今来たばかりのレナさんからすると、意味不明な状態ですよねー。てか、サヤが怒ってるのがちょっと怖いんだけど……なんでそこまで怒ってるんだ?



 ◇ ◇ ◇



 サヤを宥めつつ、レナさんに細かい事情を説明するという流れになったけど……最新の情報を集めたいのに、なんでこうなった!?


「んー、そういう事情……。うーん、今回のこれはなぁ……」


 そして、説明し終えた後のレナさんは……なにやら悩んでいる様子。アイルさんの事をボロクソに言うかと思ったら、全然違った反応なのが予想外?


「よし、決めた! ここはちゃんと言っておくべきだね。ケイさん、ハーレ! 今回の件は、2人にも悪い点はあるよ!」

「えっ!?」

「……へ?」


 ちょ!? 悩んでた上に、そういう結論が出てくる!? え、マジでなんで!?


「不思議そうな反応をしてるし、誤解があったらいけないから先に言っておくけど……アイルさんも悪い部分は間違いなくあるよ。でも、その上でケイさん達にも悪い部分があるからね」

「レナさん、それってどういう事かな?」

「落ち着いてね、サヤさん。主観が入り過ぎて、客観視が出来なくなってるからこそだから。それ、今のサヤさんにも言えるからね?」

「……あぁ、なるほど。そういう事か。サヤ、それはレナさんの言う通りだ。今は下がっとけ」

「アルまで、そういう事を言うのかな!?」

「サヤ、落ち着いてってば! レナさん、説明をお願い!」

「これまでの事情も考えれば、そういう反応になるのも分からなくはないんだけどね」


 レナさん、一体何を言おうとしてるんだ? 俺とハーレさんに悪い部分があったって――


「ケイさん、ハーレ、1つ聞くけど……アイルさんが大会で負けたばっかりで、凹んでいる可能性は考えた?」

「あー!?」

「……考えてなかった」


 なるほど、そういう意味か。あー、こりゃ俺らにも悪い部分があるって言われても仕方ないし、主観が入り過ぎてるとも言われる訳か……。


「やっぱりね。これまでアイルさんがした事も、交換条件の出し方も……正直、擁護は一切出来ないんだけど、今のはそれとは完全な別件だからね。大会で負けて間もない頃に、その結果で空いたスケジュールの話をされて、気分が良いと思う? それも遊びの為の話だよ?」

「……思わないのです」

「……そう言われたら、確かにそうだよな」


 相手がアイルさんだったから……なんてのは、言い訳にもならないか。相手の心情を考慮しない事をしたのは、否定出来ない事実。

 あー、くっそ! 確かに、全然状況を客観視が出来てないって言われても当然じゃん! レナさんが悩んでたのは、この内容を俺らに突きつけるかどうかか!?


「私、すぐに謝ってくるのさー!」

「俺も行く。サヤ、悪い。今回のは、俺らも本当に悪いわ!」

「……そう、みたいかな? ……レナさん、ごめん」

「分かったなら、よろしい! ケイさんとハーレは、早く謝ってきて! サヤさんも、敵視する前に冷静に判断する事!」

「……うん、さっきの態度は反省かな」


 痛いところを突かれたけど……今のは本当に反省すべきところだもんな。相手が誰だろうと、嫌な気分にさせるような真似はすべきじゃない。頼み事をする時なら、尚更に!

 ゲーム内での駆け引きとかは流石に除外するけどさ。対人戦だと、相手に嫌がる事をしてなんぼのもんだけど……リアルの人間関係はそうじゃない。だから、自分が悪い部分があったのが分かったのなら、それ相応の対応はすべきだよな。



 ◇ ◇ ◇



 後で……という訳にもいかないので、気付いたからには可能な限り早く謝ろう。という事で、一旦ログアウトして、俺の部屋へと晴香が来ている状態である。


「……ごめん、兄貴。言い出したの、私なのに……巻き込んで……」

「あー、それは気にすんな。レナさんに言われた事、俺も気付かずにいたのは事実だし……」


 あの時、俺が止める事も出来たのに……レナさんに言われるまで、問題があった事にすら気付いていなかったんだから、晴香だけが悪いという訳にはいかない。……何より、ここで謝っておかないと、お盆の時に尾を引きそうだしな。


「……それじゃ、送るのです!」

「ほいよっと」


 送り先はアルバイト用のグループメッセージで、内容は……まぁシンプルに、相沢さんの心境を考えずに、アルバイトの日程を頼んだ事への謝罪。俺と晴香、2人からの謝罪という事も書き加えておいた。

 これを受け入れてくれるかどうかは……正直、分からない。相沢さんは根に持つタイプだとは思わないけど、どういう反応をするか読めないとこがあるから……。


「っ!? 返事がきたのさー!?」

「直樹だったりは……しないっぽいな」


 直樹にも見られるのはこの際仕方ないとして……とりあえず相沢さんからの返事を見てみる……って、はい? 『……え? あ、負けた事へのショック……ううん! 全然気にしてないどころか、3位になれてハイテンションだったし、問題なーし!』とか書いてるんだけど……。


「兄貴、これ、気を遣われてませんか……?」

「……あー、正直、よく分からん」


 本当に気にしてないのか、それとも気を遣わせないようにそう言って繕ってるのか、俺には判断が――


「ん? 直樹からの個別のメッセージ?」

「このタイミングでですか!? どういう内容!?」

「ちょっと見てみるわ」


 絶対無関係とは思えないんだけど……あ、写真が添付されてる? あー、うん。めっちゃeスポーツ部の連中とハイタッチして喜んでる相沢さんの様子が映った写真と、『事実だから気にすんな』という直樹の言葉がセットになってるな。

 これを見る限り、さっきの一文は嘘とはとても思えない。どう見ても、優勝出来なかった事より、3位になれた事へ喜びの方が大きそうだけど……。


「晴香、これを見ろ」

「えっと……あー!? 思いっきりテンション、高いのです!?」

「これを見た限り、気を遣ってって訳ではなさそうだけど……」

「山田さんの反応、早くないですか!?」

「……直樹め、この状態を予測してたな!?」

「そうなの!?」

「そうじゃないと、いくらなんでも反応が早過ぎるわ!」

「っ!? 確かに、そうなのです……!」


 多分、これってラックさんが写真部として撮影した一枚なんじゃね? くっそ、なんか直樹の手の平で踊らされてる感があって、微妙に腹立つ!?


「あ、追加のメッセージなのさー! 『気にするなら、対戦相手を引き受けてくれてもいいんだよー?』……って、完全に調子に乗ってるのさー!?」

「……なんか、すげぇ謝って損した気分なんだが!?」

「……同感なのさー!」


 レナさんに言われた事は決して間違ってはいない。俺らの配慮が足りてなかったのは間違いないし、謝るべきではあった。だから、謝罪自体は取り消さないけどさ……。


「……戻るか」

「そうするのさー!」


 そもそも気にしてなかったという事実が分かったなら、それ以上はスルーでいいや。……なんで、謝ってホッとしてるんじゃなくて、呆れる気持ちになるのかが謎だけどな!

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