第1577話 イブキの処遇


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 ふー、さっと滝を通り抜けて、脱出完了! とりあえずここで出来る事は、終わったなー。とはいえ……今回のこの一件、流石に――


「あっ!? 俺、これからどうやって転移すりゃいいんだ!? てか、瘴気の渦も見えねぇし!?」


 なんか、出て早々にイブキが騒ぎ出して……あ、そうか。そもそも、無所属の瘴気での転移って、乱入クエストを受けていたからこそ使えたものなんだっけ。

 それが簒奪クエストまで進んで……その上で破棄になったんだから、状況としては色々と悪化した? うーん、これはどうしたもんだ?


「なぁ、ケイさん!? 俺、これからどうすりゃいいんだ!? どこにも転移、出来ないんだが!?」

「知らん……って、言いたいとこだけど、流石にそれは無責任か」

「そりゃそうだろ! 協力する事にして、こういう状況に陥ったんだから……なんとかしてくれ!」

「へいへいっと。そのくらいは、流石に考えるって」


 とはいえ、俺とイブキは……レナさんが言ってたけど、単純に相性は悪い。今は空きがあるからいいけど、昼からは連結PTに空きは……一応、飛翔連隊の方に空きはあるけど、それだと動きにくいし、そもそも一緒に動きたいとは思わないんだよなー。……よし、イブキの後始末も含めて、まとめて一緒に状況を動かしますか!


「レナさん、さっきの件を拡散したいんだけど、情報共有板に人を集めてもらう事は可能?」

「およ? あっ、流石にさっきの情報は拡散するんだね。うん、伝手を使えば、どうとでも集められると思うよ」

「それじゃ、その方向でよろしく。イブキは、その時に誰かのとこで一緒に動けないか確認して――」

「ちょ!? 俺の事は、どこか他所に押し付ける気か!?」

「……今は空いてるけど、昼からはここで独断で決める訳にもいかないんだよ。それに、灰の群集に戻ってくるなら……別に、他の人と一緒に動くのは、特に問題ないだろ?」

「いやいや、そう言われてもな!? 急な話過ぎるし……その、嫌がられねぇか?」

「散々今まで暴れといて、そこを気にする!?」

「逆だ、逆! 今まで暴れてたから、気にしてんだよ!」

「あー、そういう……」


 まぁ確かに、今まで乱入クエストで敵対してたのに、いきなり味方ですって入り込んでくるのは……うん、トラブルが起きかねないな。となると……。


「仕方ない、羅刹に頼んでみるか。それなら、流石に文句はないよな?」

「おう! それなら問題ないぜ!」


 馴染みがある相手が近くにいる方が、色々と都合がいいのは間違いない。羅刹が今、どこにいるかが問題なんだけど……まぁそれは聞いてみるしかないからなー。


「わたしはあちこちに情報共有板に顔を出してくれって伝えてくるけど、その間にケイさんは羅刹さんへ連絡って感じ?」

「そうなるなー。それで、人がある程度集まったら、黒の異形種との対話の件は大々的に広めていく!」

「うん、流れは了解! 一応、具体的な内容は伏せた状態で、集まってくれるように伝えるね。あ、『グリーズ・リベルテ』の名前は出して大丈夫?」

「問題なし! むしろ、その名前を出さなきゃ、人を集めにくいだろうしなー。まぁレナさんの呼びかけってだけでも、効果はありそうだけど……連名の方が確実だろ」

「あはは、まぁそれはそうだね! それじゃ、ササっとやってくるよ!」

「ほいよっと! そっちはよろしく!」


 UFOから得られる改造や落下している落下物は、奪い合いの対象だから同じ群集であっても対立する事にはなる。でも、黒の異形種との接触……それも、無所属の乱入クエストから進行する簒奪クエストの妨害については、全員で協力してやるべきだ。そうじゃないと、簒奪クエストを完了させられてしまう。

 

 だからこそ、これからこの件に限っては、灰の群集のみんなに情報を共有してしまおう。俺らの他にも、別の場所で接触してる人もいるかもしれないから……そういう情報もあれば助かるね。あと、まだ俺らの知らない黒の異形種の溜まり場の場所もか。


「アル、しばらく指揮は任せた!」

「おう、任せとけ! とりあえず、クモが再出現する前に動いとくか」

「っ! それは必須かな!?」

「すぐに離れるのさー!」

「確かにその方がいいよね」


 あ、そういや滝を越えて、そのまま留まってたよ。まぁ洞窟を少し進まないとエリア切り替えにはならないし、クモが出るのは滝とエリア切り替えの間だから、そこまで警戒はしなくてもいいんだけど……ここに何かあると勘繰られる方が嫌だな。

 まぁここから離れた後、どういう風にするかはアルの判断に任せよう。レナさんは既にあちこちへフレンドコールをしている様子だし、俺もすぐに羅刹へ……。


「……イブキ、一応聞くけど……羅刹に見限られたりはしてないよな?」

「見限られてねぇよ!? そりゃ、共闘イベント辺りからは完全に別行動だけど、見限られてたら群集に戻ろうって誘いがある訳ねぇだろ!?」

「……そこで同意してなかったから、見限られたって可能性を聞いてるんだけど?」

「……はい? え……あっ!? そこで見限られた可能性があんの!?」

「そりゃあるだろ。方向性がまるで違うようになるんだから……」

「それ、ヤベェじゃん!? 俺、他の無所属連中とは、それほど交流ないんだが!?」


 あー、うん。まぁなんとなく、そんな気はしてた。無所属でも情報交換をしてる人達はいるんだし、さっきの洞窟でクエストを受注してたのがイブキだけだって時点でなー。


「……一応、羅刹には説明するけど……相手にされなかった場合は、知らんからな」

「ちょ!? それだけは勘弁して!?」


 そう言われても、俺にどうこう出来る話じゃないし……まぁ羅刹次第か。見限られてた場合は……その時に考えよ。ソロであれだけ動いてたなら、十六夜さんのとこの『縁の下の力持ち』辺りなら受け入れ先になりそうだしさ。

 とりあえず、羅刹はログイン中だし、フレンドコールをしていこう! すぐ出てくれればいいんだけど……あ、出た!


「ケイさん、いきなりどうした? レナさんが連絡を回してるみたいだが……何かあったのか?」

「あ、既にそっちの方の動きを見てたんだな。まぁそれと完全に無関係って訳じゃないんだけど……」

「その言い方……何か気になるな? 無関係ではないが、情報共有板へ人を集めようとしてる事とは別案件か?」

「そういう事になるなー。その件に……実はイブキが関係してる――」

「あの馬鹿、何かやらかしたのか!? ちっ、人の誘いを断って、乱入クエストを続けるのを選んで……その挙句、何か盛大に敵に――」

「あ、違う、違う! イブキは敵に回ったんじゃなくて、味方に寝返ったんだよ!」

「……は? ケイさん、ちょっと待て。あのイブキが、味方に寝返った……だと? 一体、何をどうやった!?」

「その説明をするから、少し落ち着いてくれ!」

「……すまん、流石に動揺してな」

「いやまぁ、気持ちは分かるけどさ」


 俺だって、イブキが味方になるなんて展開は欠片の考えてなかったし……灰の群集に戻るって勧誘を蹴られた後の羅刹なら、尚更そう思って当然だもんなー。

 さて、どこからどう説明したもんだろ? 羅刹には、先に黒の異形種との件を話しておくべきかもね。


「とりあえず、何があったか説明するわ」

「あぁ、それで頼む」


 黒の異形種とのやり取りに至るまでの経緯が重要だから、そこら辺を説明していこうっと。



 ◇ ◇ ◇



 軽くだけど……半ば無理強いに近い形から、イブキにも利点がある流れへ持っていった事の説明は済んだ。さて、羅刹はどんな反応を――


「あいつ、簒奪クエストまで進めてやがったのか!? てか、ケイさん……イブキ相手だからいいが、ちょっとそのやり方は強引過ぎやしねぇか?」

「あー、それは否定は出来ないかも……」


 イブキが相手だったからこそ、遠慮なくやった部分は間違いなくある。あれが見知らぬ人だったなら……確実に、躊躇はあっただろうね。もしくは、ただ単に仕留める為に本格的な戦闘になってた可能性も高いな。


「あー、まぁイブキの扱いについては別にそれでいい。呼びかけについては……その目論見が上手くいったって認識でよさそうだな?」

「そうなるなー。ところで、羅刹は今どこにいるんだ?」

「ん? あぁ、俺がいるのは五里霧林だな。灰のサファリ同盟の本部で、乱入クエストを利用してUFOの撃墜を手伝っているところだ」

「あー、UFOに吸い寄せられるのを利用して?」

「ほう? ケイさん、その手段を知ってたのか。まぁそういう事になるな。俺ら無所属部隊の何人かでやっているから、極端に遠くまで引き寄せられない限りは、それなりに上手く回せてるぞ。『仲間の呼び声』を使って、戻ってこれるしな」

「……なるほど」


 とんでもないやり方をしてるな、灰のサファリ同盟の本部は!? 支部ごとにバラバラに動いているとは聞いたけど……まさか、昨日オリガミさんがしてた手法を組み込んでやっているとは……。


「それで、結局……ケイさんは俺にどういう用件だ? 灰の群集のメンバーに伝える内容とは別件で、イブキ絡みなんだろ?」

「そうそう、その件! 詳しくは情報共有板で説明していくんだけど……イブキの簒奪クエストが、破棄になっちゃってさ? 転移も何も出来なくなったみたいで……」

「はぁ!? 乱入クエストでも受けたら破棄出来ねぇのに、簒奪クエストを破棄だと!? 一体何がどうなれば……いや、そうさせる為の流れがあるのか。それが、今人を集めてる理由なんだな?」

「それで正解!」


 いやー、羅刹は理解も早いし、色々と状況を察してくれて助かりますなー。洞窟内であった事は、まだ説明してないのにね。


「……なるほど、それでろくに身動きが取れなくなったイブキを、俺に任せたい訳か。ケイさんの方では、無理なのか?」

「あいにく、昼からはメンバーが不在だから、勝手に決められないもんで……」

「……まぁそっちの参加メンバーを聞いた限りでは、そうだろうな」


 飛翔連隊の1枠にイブキを入れて、俺らと行動を共にさせるのって微妙なんだよなー。かといって、紅焔さん達と一緒に動いてもらうってのも、好戦的な性格を考えたら論外! 

 あ、そういやこれを伝えるのを忘れてた! この情報、羅刹にとっては重要なはず!


「それと、イブキも灰の群集に戻る事にしたんだとさ。羅刹の設立する共同体に入るつもりになってるみたい――」

「はぁ!? ……あの野郎、即答で断っといて、今更都合のいい事を…………はぁ、仕方ねぇな。イブキのマイペースさなんざ、今に始まった事じゃねぇし、このまま放置だと他所で迷惑をかけかねん。こっちで引き取るので構わねぇよ」

「それは助かる!」


 よかったな、イブキ! 見限られる寸前くらいにはなってたみたいだけど、ギリギリセーフで受け入れてもらえるみたいだぞ。俺としても、イブキと馴染みのある羅刹が面倒を見てくれると、本当に助かるし!


「イブキを引き受けるのはいいんだが……そもそも、ケイさん達は今どこだ? イブキが全く転移が出来ない状態なら、俺らの方で迎えに行くか、ケイさん達に五里霧林まで送り届けてもらう必要があるんだが……」

「今は、『名も無き未開の山岳』にいるぞ。ここにイブキが進めてた簒奪クエストの対象の、黒の異形種の溜まり場があってさ」

「うげっ、高Lv帯のエリアかよ……」


 ん? ちょっと羅刹にしては意外な反応? ここで活動出来ないほど、弱いって事はないと思うんだけど……。


「……なんかここのエリアだと問題あり?」

「俺はまだ無所属だからな。五里霧林に出入りするには灰の群集の同行者が必要になるんだが……灰のサファリ同盟で、そっちに行ける実力者、今少なくてな。探索も放り出してとなると……流石に頼み辛いぜ?」

「あー、そういう問題か……」


 ついさっきまで、思いっきり敵対行動を取ってた無所属を、色々と中断して迎えに行くには、戦力の余力がない状態か……。今、学生組……それも部活に大会に出てるような人が離れてる最中だしなー。

 そもそも灰のサファリ同盟自体が、支部同士で競争してるような状態って話もあったし……人員を割くのが難しいんだろうね。イブキを迎えに来る事に、特にメリットってないし……。


「普通の場所なら、イブキに自分から来いで済むんだが……場所が場所だから、そういう訳にもいかんのがな……」

「ですよねー」


 うーん、無所属のイブキが五里霧林に入るのなら、灰の群集の誰かの付き添いは必須。こうなると……一番簡単に収まるのは、俺らが送り届ける事……か?

 あ、待てよ? そういやさっき、羅刹は『仲間の呼び声』を使ってるって言ってたよな。期間限定で手に入るやつなんだろうけど、あれで呼び寄せてもらえば……いけるか? ちょっと聞いてみよっと。


「羅刹、イブキを仲間の呼び声で引き寄せるのは無理か?」

「ん? ありゃ灰のサファリ同盟の人に使ってもらってるから、簒奪クエストまで進んでたら対象外に……いや、キャンセルになったとか言ってたな? それなら、出来るかもしれん」

「……あれ? 地味に使用制限とかあった?」

「黒く染まり過ぎてる奴は、課金アイテムの『仲間の呼び声』の指定対象外だ。まぁ仲間として判定されないんだろうよ。だが、元の状態になってるのなら……俺がイブキの識別IDは分かるから、おそらく問題ないな」

「なるほど!」


 そういや、呼び寄せ相手の識別IDが必須なんだっけ。まぁフレンド登録をしてれば分かる部分だし、条件的に大丈夫なら問題ないな! 黒く染まり過ぎてると使えないのは初耳だったけど、まぁ性質を考えれば当然か。


「だが、俺は『仲間の呼び声』を持ってないから、誰かに頼む必要があるな。色々と好き勝手に暴れていたイブキを引き寄せるのを頼むには、何か手土産でも欲しいとこだが……いや、既にあるのか? これから群集に広める情報が、まさにそれだよな?」

「あー、まぁイブキの協力あってこそではあるから、そうなるかも……?」

「なら、説得するには問題ないか。報告が済めば、すぐに呼ぶと言っておいてくれ。俺も情報共有板を見ておくから――」

「ちょい待った! 羅刹、今、無所属なのに、灰の群集の情報共有板が見れるのか!?」

「傭兵の特権でな。灰の群集のプレイヤーとPT組んでいる時に限るが、その状況下でなら見る事は可能だ」

「あー、そういう仕様!」


 なるほど、それなら納得。共闘イベントでは傭兵として動いていたんだし、今もその時の報酬として出入りが出来るようになってるんだから、そのくらいは出来ても不思議じゃないか!


「おし、それじゃ俺は報告の方へ移るわ!」

「おう! どんな内容か、期待してるぜ!」


 という事で、イブキの件の見通しは立った。あとは、黒の異形種との接触……それ以上に重要なのは、簒奪クエストを成功させずに、キャンセルさせる為の働きかけだな!

 全部が全部、防げるとは思えないけど……それでも、出来るだけの事はしておかないと! 伝えておかなきゃ、知らない間に簒奪クエストが完了してるって状態になりかねないしさ!

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