第1576話 黒の異形種と簒奪クエスト
イブキの余計な発言もあったけども、そこはとりあえず片付いて……再び出現していたクモは、手早く仕留めておいた。……イブキがクモを掴み上げて、逃がさないという状況での攻撃は楽だったねー。
一応、これだけ黒く染まっていても、PTを組んでおけばダメージが入らないという仕様も助かった。流石に今の状態でイブキに死なれると困るしな。
「ケイさん、容赦なさ過ぎじゃね!? 俺ごと殺す勢いだったじゃん!?」
「気のせい、気のせい。それに、ダメージは入ってなかったよな?」
「そりゃそうだけど!? なんか、普通に殺意を感じたんだが!?」
「いやいや、本当にそれは気のせいだからな!」
「……そうとは思えないんだけどな?」
……死なれたら困るから本気で死ねとは思ってなかったけど、まぁ少なからず苦手な生物でのからかいに対しての苛立ちがなかったとは言えない。
だから、まぁこの疑問は決して間違ってはいないんだけど……わざわざ、それを言えるか!
「はいはい、その話はそこまで! これから大きく状況が動く可能性があるんだし、そっちに集中! いいね、イブキさん!」
「……へいへいっと。って、ケイさんには注意しねぇの!?」
「だって、殺意があろうがなかろうが、殺してないのが事実だしさ。それに……その殺意の原因に、心当たりがないとは言わせないよ。口は災いの元って言うしさ?」
「うぐっ!? ……わ、分かった。これ以上は、何も言わねぇよ」
「それでよろしい!」
レナさん、頼もしいっすなー! まぁ俺は俺で、ちょっと感情的になり過ぎてたし、そこは少し反省しとこ。
「もう、出ても大丈夫かな?」
「大丈夫なのさー!」
「クモはもういないしね」
そう言いながら、サヤがアルの樹洞から出てくる。まさか、クモともう1戦する事になるとは思ってなかったけど……ちょっとサヤには悪い事をしちゃったな。
とはいえ、イブキが言ってた強行突破の方法は無茶だったし、今回は仕方ないか。
「だー! クモは片付けたんだし、サッサと中に入ろうぜ! それで、クエストを進めるぞ!」
「おいこら! イブキが仕切るなよ!?」
「……なんというか、ケイさんとイブキさんって、地味に相性悪いのかもねー」
そりゃまぁ、今まで変な遭遇の仕方が多かったから、どうしても敵視してしまうって部分はあるし……って、先に入るなよ!? あー、もう! このマイペースさが、レナさんの言う相性の悪さの原因かも!?
ハーレさんは意図的にそう振る舞ってる部分があるけど、イブキのこれは絶対に素だよな!? ともかく、すぐに追いかけてて俺らも洞窟に入らないと!
<『名も無き未開の山岳』から『???』に移動しました>
再び入ってきた、黒の異形種が大量にいる洞窟の中。……飛行鎧は再使用が可能になってるし、今回はちゃんと照らしていこう。
<『発光Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 102/130 → 102/133
出来れば全快してから入りたかったのに、イブキが勝手に先に進むから、半端に消耗した状態! まぁもう引き返せないし、光の操作を使うんだからLv3じゃ光量が足りないから、発動し直しで!
<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します> 行動値 102/133 → 102/128(上限値使用:5)
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 102/128 → 102/122(上限値使用:11)
飛行鎧を展開しつつ、懐中電灯モドキも展開完了! 光を収束させ過ぎずに、洞窟内を広く照らし出せるようにしていく。
あ、翻訳機能も有効にしとかないとな。とりあえずインベントリから取り出して、機能をオン!
『……ナゼ……キサマラガ……トモニ……イル?』
「よう! 瘴気、持ってきたぜ!」
いやいや、イブキ!? 骨だけのコウモリが言ってる事に対して、その返答はおかしいだろ!? てか、今照らし出してるコウモリが、俺らを追い払った個体っぽいな。
このコウモリ……骨だけだから皮膜部分がないけど、これってどうやって飛ぶんだろ? あー、飛ぶ際に瘴気で作り出すって事はありそう?
『……キサマラガ……ナゼ……トモニイルカト……キイテイル!』
「あ、それ? こいつら、俺らの手伝いをしてくれるってよ!」
『……ナニ? ……ドウイウ……コトダ?』
「その辺の説明は、任せた!」
「そこでぶん投げてくる!? いやまぁ、やるけどさ!?」
この様子だと、イブキに全面的に任せる方が不安だしな。直接、俺が話せるなら、その方が楽な気がする。
『……キサマラハ……サキホド……オイダシタ……ハズダ。……ドウイウ……ツモリダ?』
「はっきり言っとくぞ! 俺らは、お前らと敵対する意思はない!」
『……ソンナコト……シッタコトカ! ……キサマラ……ドウシモ……アラソッテ……イルダロウ!?』
あー、やっぱりそこは突っ込んできちゃう? まぁそれは決して間違ってないんだけど……でも、それだけじゃないのも事実なんだよな。だから、そこら辺を切り口にして進めていこう。
「まぁ争ってる事があるのは否定しない。でも、協力する事もあるんだよ」
『……フン……ザレゴトヲ! ……トキニ……キョウリョク……スルコトガ……アロウガ……アラソッテイルノハ……ジジツダロウ!』
そりゃごもっとも。協力するのは利害の一致があるからこそで、それがなければ敵対関係に戻るのがモンエボのシステムだからな。
さて……ここで対応を誤るなよ、俺。明らかに警戒状態だから、迂闊な対応をすれば、完全に敵対状態で確定する可能性があるからな。
ここから、下手に出て言い訳じみた説得をするのは……多分、愚策か。協力関係になったとしても、争う事があるのを気にしているっぽいし、この方向からいけるか?
「それはそうなんだけど……協力する場合って、共通の目的がある場合なんだよな。例えば、お前らがどこにも所属してない連中と、俺らの仲間を捕まえたりしたらな? 救出の為に、協力して戦うしかなくなる」
『……ナニヲ……イッテイル?』
「簡単な話だよ。イブキ……こいつみたいに、俺らの味方とは言えない状況の奴らと組んで、この場の占拠をしたのなら……総力を上げて、お前らを潰しに動くしかなくなる」
『ナンダト!? フザケルナ!』
おー、慌ててる、慌ててる。まぁ絶対にそうなると断言は出来ないんだけど、可能性としてはあり得る話だからな。ちょっと強気に、この線で攻めていこう。
「このエリアを占拠してる個体……まだどこにいるかは分かってないけどな? その中身は、俺らの仲間なんだよ。まぁ暴走してる状態じゃどこの所属かは分からないのが厄介なんだけど……それを乗っ取ろうって企んでるんだろ?」
『…………ツヅケロ』
「さっきも言ったけど、俺らは明確にお前らと敵対するつもりはない。少なくとも、今は交渉相手として接するかどうかを検討中だ。でも、その中で……そっちが明確な敵対行為を行うなら、俺らとしても引く訳にはいかなくなる」
『……ワレラヲ……ホロボス……ツモリカ?』
「最悪、そうなるな。だから、敵対にならないように交渉に来た。そこにイブキに仲介役を頼んでな」
『……ソウイウ……コトカ』
ぶっちゃけ、なんの仲介もしてない気がするけどな! いやまぁ、俺らだけでまたここに入れば、問答無用で襲われてただろうし、この場にイブキがいる事そのものが重要なんだろうけど!
『……イイタイコトハ……ワカッタ。……ダガ……ワレラトテ……イイナリニ……ナルキハ……ナイ! ……ナニモセズ……ヒクワケニハ……イカヌ!』
「それは分かってるって。だから、敵対しない形で協力出来ないかって話をしに来たんだからさ」
『……ナニ? ……キサマラ……ナニヲ……スルキダ?』
「俺らの味方をするかどうかは、今は置いておいてくれていい。だけど、敵対しない形で動いてくれるなら……こういう物は提供出来るぞ?」
インベントリから瘴気珠……一番強化されてる+17のを取り出して、目の前に置いてみる。これで見向きもされなかったら、大恥も大恥なんだけど……まぁそれはそれで、こういう反応を引き出せたと思えば――
『……ッ!? ……ソ……ソレハ!?』
おー、驚いてるって事は……これ、黒の異形種にとって重要なアイテムになってくるんだな。まぁ乗っ取ろうとしてる天然のフィールドボスに相当する個体への進化が可能な強化具合のヤツだし……そもそも、これは瘴気の塊ではあるもんな。
『……ナゼ……キサマラ……ソノヨウナ……コウミツドノ……モノヲ……モッテイル!? ……ソレハ……バランストシテ……キワメテ……オカシイゾ!』
「とある用途で使う物なんだけど……まぁはぐれ者じゃなくて、集団だからこそ用意出来る代物にはなるな」
まぁこれ自体は落下物の中から出てきたヤツだけど、実際に強化して作れるんだから、決して間違った事は言っていない!
『……ツクル……ダト!? ……ダガ……タシカニ……ソレガアレバ……ワレラノ……ネライハ……オオキク……ススム』
「そういうこったぜ! だからこそ、俺はそっちに協力する気にしてな! ついでに、はぐれ者も卒業しようかと思ってよ!」
『……ダカラ……コヤツラヲ……ツレテ……モドッタノカ?』
「そうなるな! いやー、俺としても、お前んとこが後から群集に襲われる可能性ってのを失念しててよ! 戦うの自体は好きなんだが、一方的に襲われまくるのは好きじゃねぇ!」
それ、別にイブキだけに限った話じゃないから! 誰だって、奇襲や強襲を受けたいなんて思ってないだろ!
でも、今の無所属で乱入クエストを進めてる人って……イブキと違って、それを承知した上でやってる人が多いんだろうなー。内部分裂したインクアイリーの一部は、そういう集団に取り込まれていたりもするんだろうし……eスポーツ勢の一部もそうなっていきそうだよなー。
『……ヒトツ……キカセテ……モラオウ。……コレデ……ワレラヲ……ドウスルキ……ダ?』
「正直、そこはまだ上の方針が決まってないから、なんとも断言は出来ない。だけど、今の段階で暴れられ過ぎると……敵対する可能性が高くなる。だから、せめて方針が決まるまでは大人しくしておいてほしい」
「ま、今の俺みたいな奴らとは、一旦縁を切れって事だな!」
『……ナルホド。……イマノ……ジョウキョウ……ジタイガ……スデニ……アラソイノ……モトカ!』
「ぶっちゃけ、そういう事になるなー」
今の状況は、群集を敵に回して無所属に付くかどうかの分水嶺だから、既に争いになっているという点では間違っていない。見せた瘴気珠は、俺ら群集を敵に回さない事を選んだ場合の特典ってとこだな。
『……ソノゴノ……コトハ……マダ……ワカラナイノカ?』
「現時点ではなんともなー? まぁ個人的には無理に従わせるつもりはないし、俺らの所属してる灰の群集もそういう方針だから、無理強いはないと思うけど……」
無理強いがあるとすれば、赤の群集か? いや、でも長はあのセキなんだし、同じ長のグレイとサイアンが抑えそうではあるよな? 多分、どの群集の味方をするかなんてのは、根本的に敵対を回避してからこそだろうしさ。
『……イイダロウ。……イマハ……テキタイハ……サケテオコウ。……ワルイガ……コレハ……ハキサセテ……モラウゾ』
「ん? おわっ!? 簒奪クエストが強制キャンセルになった!?」
「あ、そういう形になるのか」
よし、とりあえずこれで明確な敵対への進行は止められたっぽいな! 問題は……。
「イブキ、ここで簒奪クエストまで進んでた人数って分かるか?」
「あー、そんなに数はいねぇと思うぜ? ただ、場所によってはすげぇ集まってるってのも聞いたな?」
『……ココノ……キョウリョクシャハ……ソコノモノ……ダケダ。……マヨイコム……モノジタイ……ソレホド……イナイ』
「へ? え、俺だけだったのかよ!? あー、だから、中々進まなかったのか!」
まさか、ここで簒奪クエストを進めてたのがイブキだけだとは思わなかったわ! あー、でもイブキはソロで動いてたんだし、場所の情報の共有をしてなきゃ、そういう事もあるのか。
『ココハ……ニンズウハ……スクナイ。……ワレラハ……アラソイハ……コノマヌ。……ダガ……ワレラモ……イチマイイワ……デハ……ナイ。コウセンテキナ……ヤツラモ……イルゾ?』
「一枚岩でないのは知ってたけど……ここで、好戦的じゃなかったのか」
その割には、随分な追い出され方をした気がするけど……いや、無傷で追い出されただけ、温厚な方なのかも? むしろ、弥生さんやシュウさん達が殺された場所の方が危険なのかもしれないね。そこが好戦的な黒の異形種の集団の可能性ありか。
この感じだと、情報の共有が出来ている無所属集団が、他の場所で簒奪クエストを進行させている可能性もあるな? 結構博打ではあったけど、イブキを味方に引き入れて、強引に簒奪クエストを破棄させたのは大きいかも?
『……ホウシンガ……キマレバ……マタ……クルガイイ。……ソノトキマデ……オトナシク……シテオコウ』
「ほいよっと」
クエスト進行のアナウンスは……特になしか。まぁ今の時点で、簒奪クエストの破棄をさせられたのでよしとしよう。少なくとも、この場にいる黒の異形種達は群集と敵対する意思がないのははっきりしたしさ。
てか、まだ瘴気珠を受け渡せるような状態にもならないんだね? てっきり、欲しがるものかと思ったけど……思った以上に、群集からの心象を気にしてる? まぁ好戦的じゃないとも言ってるし……簒奪クエストの結果、精神生命体を乗っ取る状態になる事自体、気付いてなかったのかもなー。
「あー、ケイさん、黒く染まってる俺の状態、どうすりゃいい? 簒奪クエストが破棄になったなら、行き場がないんだけど?」
「仕留めて、元に戻しとく?」
「なんか、嬉々として言ってねぇ!?」
「まぁ否定はしない」
「そこは普通に否定してくれよ!?」
いや、だって、イブキとこうして横で並んでる状態の違和感ってすげぇもん! 出てきたら即座に倒すみたいな印象、強いしさー。
「はいはい! ふざけてないで、撤退するよー! 更に進めるのは、群集の動きがないと無理みたいだしね」
「ですよねー。おし、とりあえず洞窟を出ていきますか!」
「ちょ!? 俺の状態、結局どうすんの!?」
『……ソノモノノ……ブンダケハ……モラッテモ……カマワナイ……カ?』
「あー、こっちでも扱いが困るから、それは問題ないぞ」
「あ、回収してくれるのか! それは助かるぜ!」
『……デハ……チカラヲ……モラオウ!』
おー、黒く染まってるイブキが、どんどん通常の状態に戻って……へぇ? 吸い出された瘴気は、洞窟の奥の方へと移動していってるんだな。この感じだと、奥に瘴気の塊がありそう?
うーん、中立地点とは言ったけど……瘴気の塊の扱いはどういう感じになるんだろ? 転移の為に使うんだから、下手に浄化して消滅させる訳にもいかないんだよなー。
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