第1573話 情報を求めて
黒の異形種の溜まり場を見つけたのはいい。そこで翻訳機能を使って会話が出来たのも、成果と考えていいだろう。だけど……あそこまで、一方的に追い出される羽目になるとは思わなかった!
「こうなってくると、無所属の乱入クエストの進捗状態が気になってくるな……」
「オリガミさんに聞いてみるのはどうだ? 既にそっち方面の攻略はやめてる可能性はあるが……それでも、伝手で何か知ってるかもしれんぞ」
「あー、それもありかもなー」
乱入クエストは進行させず、マルイさん達と普通に探索している可能性は高いけど、ダメ元で聞いてみる価値はある! もし何か情報を持ってれば、俺らの知ってる情報と交換って事も出来るだろうしさ。
今、ログインしてればいいんだけど……おっ、ログインしてるな! 現在地は伏せてる状態だけど、まぁそこまで探るつもりはないから問題なし!
「オリガミさんはログインしてるから、ちょっとフレンドコールで聞いてみるわ! その間、周囲の警戒を頼む!」
「おう、任せとけ!」
「情報、あればいいんだけど……どうなのかな?」
「それは聞いてみないと、なんとも言えないのさー!」
「確かにそれはそうかもね」
オリガミさんが確実に知っているという保証はないけど……他に考えられる情報源って、特に思い付かないんだよなー。
羅刹なら無所属ではあるけど……乱入クエストは全然触れてないような気もするしさ。まぁオリガミさんに聞いてみて駄目だったら、羅刹にも聞いてみるか。……あ、待てよ? イブキなら、知ってる可能性は結構あるような……いや、でもイブキはなー。本人自体への信頼度に問題が――
「わたしの方でも、ちょっと伝手から探ってみよっか?」
「……レナさんが動いても大丈夫? 逆に俺らの動きが筒抜けになったりしない?」
「んー、そこは懸念点ではあるかも? 探ってるのを知られるのは避けられないだろうし……。無所属の人で情報通となると……まぁ伝手はわたしだけじゃないからね」
「ですよねー! レナさんの伝手は、最終手段って事でいい?」
「うん、それでもいいよ! 情報漏洩の心配がない人から情報が得られるなら、そっちの方がいいしね」
「だよなー。とりあえず、オリガミさんに連絡してくるわ。周囲の警戒はよろしく!」
「任せて!」
アルに乗って多少、上の方に移動してはいるとはいえ……滝の上までは行ってないからな。普通に接敵の可能性はある場所だから、警戒はみんなに任せよう。
その間に俺はオリガミさんにフレンドコールをして……あ、割とすぐに出てくれた。
「ケイさん、何かご用ですか?」
「ちょっとオリガミさんに聞きたい事があるんだけど……今、大丈夫?」
「えぇ、問題ありませんよ。まだ全員揃っていないので、動き出せていませんしね」
「あー、そういう状態だったか」
ふぅ、探索をまだ本格的に始めてないなら、割と聞きやすい状態だね。でも、いつ全員揃うか分からないし、手早く済ませた方がいいか。
「それで、私に聞きたい事とはなんでしょう?」
「さっき、骨の竜とは完全に別集団の黒の異形種と遭遇したんだけど……その反応が、俺らを追い返すような感じだったんだよ。どうも、既に先客がいたっぽいんだけど……その辺、何か知らないかなーと思ってさ」
「……なるほど。確かにそれは、無所属のプレイヤーに聞かないと把握しようがない部分ですね。ですが……申し訳ありません。思い当たる節は、特にありません。昨日のあの後から、乱入クエストは完全に放棄しましたので……」
「あー、やっぱりやってなかったか……。それなら、他の無所属で乱入クエストをしてそうな人達に関して何か知ってる事とかあったりしない?」
「……そちらも、今はまともに接触していないので、さっぱりですね。下手に触れればマルイさん達を変に巻き込んでしまいそうなので、今は他の無所属の方との接触は避けているんですよ。私を狙っている人は多いですしね」
「あー、そうなるのか」
伝手自体はあるみたいだけど、今は下手にその伝手は使えない状態っぽい。オリガミさんを狙ってる人達からしたら、マルイさん達と一緒に行動してる今は狙うチャンスになってしまうとは……。
「ただ、現状で進捗を知っていてかつ、ケイさん達が接触出来そうな方であれば、心当たりはありますよ?」
「ちょ!? そんな人、いるのか!?」
「えぇ、いますよ。ケイさんもご存知だと思いますが……」
「……もしかして、その人ってイブキとか言わない?」
「まさしく、その通りですね。イブキさんは無茶な戦闘の仕掛け方をしますけど、話自体は通じる方ですよ。過剰にどこかの集団に入り込んでもいませんし……羅刹さんから離れて、今はソロ状態かと。交渉で駆け引きが出来る方ではありませんし、変な偽情報を流してくる事もありませんよ?」
「……そういう評価と状況か」
うーん、オリガミさんから見て、イブキが情報交換の最有力候補とはなぁ……。いやまぁ、駆け引きが出来るタイプじゃないのは分かるし、乱入クエストを進めている一人なのは確実でもあるし……でも、あのイブキなんだよな……。
そもそも、問答無用で一度仕留めているんだけど……その俺らと交渉してくれるのか? あー、そういう面でも難ありな気がしてきた。
「私は知っていれば話は早かったのですが……申し訳ありません」
「いやいや、そこは問題ないって! あ、一応、黒の異形種を見つけた場所を教えとこうか?」
「……いえ、流石に何もこちらが情報を提供出来ている訳ではないのに、それは受けられませんよ。まぁそもそもイベントの進行自体はそれほど気にしていませんので、お気になさらずに。その辺はケイさん達にお任せしますし、期待していますよ?」
「……ほいよっと」
んー、無駄な手間をかけさせた分のお礼くらいはしておこうと思ったんだけど……思いっきり断られてしまった。それどころか、イベント進行を頑張ってくれと言われたら……下手に何も言えないじゃん!?
あー、そういう言葉が出てくるって事は、昨日の常闇の洞窟での進行、俺らがやったのは知られてるっぽいな。
「ですが、まぁ何か有用な情報を得られたらお伝えしますね。昨日、あれから色々と確保出来ましたから」
「あ、それはよかった」
「えぇ、私としても得るものは多くて助かりましたからね。あ、マルイさんが来たので、そろそろ失礼します」
「ほいよっと! そっちも探索、頑張ってくれ!」
「もちろん、そのつもりです。ケイさん達も、頑張ってくださいね。それではまた!」
そこまで言ったら、オリガミさんとのフレンドコールは切れた。うーん、イブキとの交渉を勧められただけで、有益な情報は得られずか……。
「ケイ? イブキさんの名前が出てたけど、どういう話の流れだったのかな?」
「あー、イブキなら今の状況を色々知ってるんじゃないかってのと……下手に集団に入ってないから、交渉がしやすいはずって話だな」
「え、そうなのかな!?」
「ただ、イブキなんだよなぁ……」
「……そもそも、向こうが俺ら相手で交渉に乗ってくるのか? 初日に、盛大に仕留めてるんだが……」
「そこも問題なんだよな……」
くっ! ここであの時、問答無用で仕留めた事が影響してくる可能性は考えてなかった……。イブキとの交渉自体、あんまり乗り気がしないんだよ! それに、あの時、すぐに仕留める判断をしたのは、今でも間違ってるとは思わない!
根本的に、クエストの内容として敵対してる相手から情報を仕入れようって行為自体が難しいのか? いやまぁ、どう考えても難しいな……。
「はい! 羅刹さんに仲介してもらうのはどうですか!? イブキさん、羅刹さんには頭が上がらないよね!?」
「あー、その手があったか。一応、羅刹にも話は聞いてみようとは思ってたし、そっちに連絡してみるか」
「……ねぇ、ケイ? 羅刹さんは灰のサファリ同盟と組んでるかもって、警戒してなかったかな? あ、でも灰のサファリ同盟って、何気に支部単位で争ってるみたいだし、意外といけるの?」
「その辺、さっぱりなんだよなー。レナさん、灰の群集の無所属支部に関して、何か知らない?」
「およ? 知ってると言えば知ってるけど……んー、今は動きが変わってる可能性は高いし、ざっくりとなら言ってもいいかなー? 一昨日の段階では、灰のサファリ同盟と連携して動いてはいたよ」
「あー、やっぱりそういう動きはしてたのか。でも、今は不明?」
「灰のサファリ同盟自体が、昨日と一昨日で動き方が大きく変わってるからねー。その影響を受けてる可能性は、かなり高いと思うよ?」
「なるほどなー」
今の動きが全く掴めていないからこそ、レナさんも情報開示をしてくれたんだろうね。既に古い情報だから、隠しておくだけの価値もないか。
問題は……今も灰のサファリ同盟の一部と連携しているか、それとも離れて独立して動いているか、もしくは他のどこかと連携をし直しているか……そのどれになってるかだな。でも、いくらここで考えていても答えは出ないし……。
「よし、駄目元で羅刹に連絡してみるか。どうなるかは、それから考えれば――」
「っ!? ケイ、その必要はなさそうかな」
「よし、到ちゃ……げっ!?」
「あー!? イブキさんなのさー!?」
「およ? 真っ黒に染まり切る寸前だね?」
ちょ!? 滝の上から、イブキが急降下してきて……あ、思いっきり方向転換をしてる!?
「アル、逃すな! 全力で追いかけてて、捕獲するぞ!」
「了解だ! 『自己強化』『高速遊泳』!」
「なんで、ケイさん達がここにいんだよ!? てか、なんで追いかけてくる!?」
「どう見ても、さっきのはここを目標にして来てたよなー? どういう事か、教えてもらおうか!」
「誰が教えるか! 『高速飛翔』!」
この反応、絶対に何か知ってるな! もう交渉も何もあったもんじゃないけど、このまま逃してたまるかよ!
<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 123/133 : 魔力値 316/326
<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します> 行動値 121/133
殺す訳にはいかないけど、それ以上に逃す訳にもいかない! だから、大量過ぎる水を生成して、その中に閉じ込める!
「がぼっ!? ごぼばれて、たばるが!」
「ちっ! 剥奪か!?」
「逃がさないよ! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
「おわっ!? 今度は氷!? だったら、『小型化』!」
「逃がさないよ!」
「よっと!」
「げっ!? 『渡りリス』まで一緒なのかよ!? うげっ、捕まった!?」
おー、一度は小型化で氷の拘束を抜けられたけど、レナさんが飛び乗ったところを追加生成しての捕獲はナイス! ヨッシさんとレナさん、ナイス連携だな!
「どうも、イブキさん。この状態、殺されたら台無しなんだっけ? 大人しくしてたら殺さないから、ちょーっと話を聞かせてくれる?」
「この前は問答無用で殺してきたのに、今回は話を聞かせろって理不尽じゃね!?」
あー、それを言われると耳が痛いけど……でも、見た瞬間に逃げられると、逃したくはないもんなー。特に、今回みたいな状況ではさ。
「それ、わたしじゃないし?」
「どう考えてもレナさんはケイさん達と一緒に動いてるんだから、共犯だよな!? ケイさん、これ、どういうつもりだよ!?」
あー、この状況……なんか昨日、ジェイさんから足止めを受けそうになった時を思い出したけど……まぁいいや。今、こうなってしまった以上、羅刹に仲介してもらって、平穏に交渉ってのは無理だろうしさ。
さて、力づくで聞き出すのは無理だろうし、推測から誘導して、反応を見ながら状況の確認をしていくか。イブキの動きは迷いがなかったし、一目散に逃げたという事実も大きい要因のはず。
「よっぽど、今は仕留められたくないくらい……焦ってたか? でも、今回は急な転移での遭遇じゃないし……場所が場所なんだよなー」
「……何も教えねぇよ! 殺すなら、殺せ!」
「なるほど、殺されてもリカバリー自体は出来る状況なんだな。でも、逃げようとしたって事は……あの場から離れる方が必須事項か」
「…………」
あ、黙り込んだ。何を答えても、俺らに情報を与えるだけって判断したのかも? でも、そこで無言を選ぶのは、何かがあるって証拠だな。
「滝の裏にある洞窟なら、もう見つけてるからな。あそこに出入りしてるのは、イブキだったか」
「……そこまで気付いてんのかよ。あー、そうだよ! だったら、なんだってんだ!? こっちはこっちで、クエストを進めてるだけだからな! どうやったって相容れない内容なんだから、協力なんかしねぇぞ!」
「相容れない内容ねぇ?」
確かに、無所属の受けている乱入クエストは、群集の命名クエストとは相容れない内容なのは確実だ。今まで、情報を仕入れられていた経路の方が特殊なのであって、こうやって教えるのを拒まれるのが当然の流れではある。
まぁそこまで明確に相容れない状況だと分かっているのなら、こうやって進行を妨害したとしても文句を言われる筋合いはないか。
「ヨッシさん、離してやってくれ」
「……え? 解放しちゃっていいの?」
「捕まえてても、このままじゃ言ったりしないだろうからなー。だから、離してやってくれ」
「……分かった。氷塊の操作、解除!」
よし、これでいい。拘束を続けたところで、おそらく何の意味もない。むしろ、拘束を解いた状態でイブキがどう動くかが重要だ。
「マジで解放された!? でも、話したりしねぇからな!」
「それも分かってるけど、目的地の目の前まで来て……何もせずに帰ったりする?」
「うぐっ!?」
「何をしてるか、言えとは言わない。でもまぁ、追いかけて入るのはありだよなー? あ、俺ら、翻訳手段は持ってるからな」
「それ、卑怯じゃねぇ!? くっ! ここでケイさん達に遭遇したのが運の尽きかよ!? ここからどうすりゃいいんだ!?」
おー、思いっきり葛藤してますなー。とりあえず、少しハッタリをかけてみたけど……今の状態で、あの洞窟の中へ入るのが重要な事みたいだね。
今の乱入クエストは『転移先を確保しろ』って、名前だったはず。群集所属以外の存在に仕留められる事で集めた瘴気を放出するって話だったけど……段階が進んだか? 安定した転移をするなら、転移先をどこかに固定させる必要があるだろうし……なるほど、ここがその候補地なのかもなー。
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