第1574話 協力の交渉
無所属の乱入クエストの実情を知りたくて探っていたら、まさかのイブキが登場。一度捕獲して、解放してみたけど……この場を離れる気配はなし。
どう考えても、さっき追い出された黒の異形種の溜まり場に用があるっぽいけど、どうしたら情報が得られるものやら? そもそも、何をしにここに来ている? 転移地点を確保するのが乱入クエストの目的ではあるからなー。
こういう場所に瘴気の塊があるかもって推測は出てたし、イブキはその材料を提供しに来てる? それが一定以上溜まれば、転移地点が構築出来るって可能性はありそうだね。
そうだと仮定した上で……ん? これ、乱入クエストでなくても、瘴気の提供手段ってあるんじゃね? 黒の異形種そのものが、完全に相容れない存在じゃないのなら……こういうアプローチもありかも?
「イブキ、少し交渉だ。乱入クエスト、俺らが進めるのを少し手伝ってみるってのはどうだ? その代わり、状況は教えてもらう」
「はぁ!? それ、群集にどういう得があるんだよ!?」
「得があるかどうか、それを確かめる為の提案だよ」
「ぐっ!? そう来るか!? いや、でもなぁ……? あー、ケイさんならそういう方向性を見出してもおかしくねぇし、マジで出来るのか……?」
イブキ、思いっきり葛藤中。さて、俺は俺で、みんなにも説明しとかないといけないかな?
「ケイ、何をしようとしてるのか……説明してもらえないかな?」
「私達が乱入クエストを手伝うって、どういう事なのさー!?」
「そんな事、出来るの?」
「ケイの事だから、いつもの思い付きだとは思うが……だからこそ、可能性がありそうなのがな」
「イブキさんも悩んでるけど、わたし達への説明もお願いねー!」
「分かってるって。そこはちゃんと説明していくから……イブキ、それでもし納得出来るなら、協力は出来るか? 多分、思ってる通りなら……どっちも損はしないはず」
「……あー、判断は内容を聞いてからだ! 具体的な内容も分からず、決められるかっての!」
ですよねー。まぁ勝算なしで適当な事を言ってる訳じゃないから、まずは説明からだな。最悪、ここの命名クエストは諦める事にはなりそうだけど……それでも試してみる価値はあるはず!
出来れば、群集としての方針が決まってからにしたいけど……まぁこれで、即座に乱入クエストが終わるとも思えないし、とりあえず説明していくか。イブキに協力してもらえる状況にしないと、どうにもならんしね。
「イブキ、大前提の確認。自分達を黒く染めて、瘴気を集めて……黒の異形種に仕留めてもらう形で、瘴気を受け渡しているのか?」
「……まぁ、流れとしてはそういう事になるな」
なるほど、なるほど。やっぱり、その部分は推測通りで合ってたか。となれば、これは大勢が集まってる群集だからこそ出来る手段で、介入出来る可能性はありそうだね。
「だったら、これとか使えないか? ほれ!」
「……ん? 『瘴気珠+17』……って、なんだ? この『+17』?」
「それは、フィールドボスを誕生させる為に強化した状態だよ。それ自体は成熟体用だけど、未成体用の『瘴気石』もあるぞ。流石に未強化のくらいは、存在は知ってるだろうけどさ」
「はい!? そりゃ『瘴気石』や『瘴気珠』自体は知ってるけど……え、フィールドボスって自分らで生み出せたのか!?」
もしかしてとは思ったけど……この反応から考えたら、予想通りだな。イブキは群集の移籍が可能になってすぐの頃に、灰の群集を離れたプレイヤーだ。
しかも、羅刹と違って明確に敵対する方向性を選んで行動をしている。だからこそ、不動種の力を借りなければ強化が難しいこれは――
「およ? あ、そっか。無所属だと、強化済みの『瘴気石』や『瘴気珠』は入手し辛いもんね! 横との繋がりが薄い、イブキさんなら尚更に!」
「……へ? ちょ、レナさん、それ、どういう事だよ!?」
「その手のアイテムの強化、不動種の人じゃないと出来ないんだよね。だから、必然的に連携の取りやすい群集所属、それも同じ共同体で作っていく事が多いの。まぁそれを少なからず、トレード材料として無所属の人が持っていく事もあるけど……ウィルさん達が赤の群集に戻ってから、ほぼソロに近いイブキさんだと、触れる機会もなかったんじゃない?」
「それでも、全然知らないとかあり得なくね!? フィールドボス戦、全くした事がない訳じゃないんだが!?」
「そこは、知ろうとしなかったからじゃない? 羅刹さん辺りが普通に調達してて、その出所は確認も取ってなかったとか?」
「うぐっ!? ……心当たりがあり過ぎる!?」
ソロが多いとは言っても、羅刹と一緒に動く事はあっただろう。その中でフィールドボス戦はしてても、それを任意で生み出していた事も、その為に必要になるアイテムの事も、全く気にしてなかった訳だ。
「……ケイさんの狙いはあれか? 俺に無知を突き付けて、心を折ろうって算段か?」
「いやいや、違うから」
そんな陰湿なやり方をしようとはしてないっての! 結果的には、まぁそれに近い状況を引き起こしているような気はするけど、それは俺の責任じゃないから!
暴れるばっかで、他の群集のプレイヤーとまともに交流してなかったイブキ自身の結果だからな! まぁ別に交流が必須ではないし、知らないなら知らないで別に困る事ではないけどさ。でも、今の本題はこっち!
「この『瘴気珠』って、触れられるように多少の浄化はしてるけど、本質的には瘴気の塊なんだよ。これを黒の異形種に提供すれば――」
「っ!? それなら、スムーズにクエストが進められるって事か! ……え、でも、それって群集には得はなくね?」
「ただ単にイブキに渡してもらうだけだと、そうだろうな」
「だよな? どう考えても、そうなるよな?」
あー、思った以上にイブキと俺らの持ってる内容に齟齬があるっぽいな、これ。この辺は無所属と群集所属の違いか? まず、その辺の話からしていかないと、話が噛み合いそうにないな。
「イブキ、今の緊急クエストの内容はどの程度把握してんの? その辺の情報の擦り合わせからやらないと、話が噛み合いそうにないんだけど……」
「どうもそうっぽいな!? あー、俺はそこの洞窟の中にいる骨だけのコウモリから接触を受けて、『乱入クエスト:転移先を確保しろ』ってのを受注してんだよ。まぁイベントとして緊急クエストが開催中なのは知ってるし、クオーツとかいうのが慌ててんのも知ってるが……具体的に何をやってんのかは知らねぇな。時々、勝手に引き寄せられて、滅茶苦茶迷惑なんだぜ、あれ!」
勝手に転移で引き寄せられるっていうのは、オリガミさんが言ってた内容だな。実際、それで黒く染まった状態が薄まるそうだから、乱入クエストを進めてるイブキとしては邪魔な行為でしかないのか。
「俺らは『採集機』って呼ばれる……まぁその引き寄せるUFOを追いかけて、そこから色々な改造品を得てるんだけど、その辺の状況は?」
「ちょ、改造品なんてあんのか!? アイテムが手に入る落下物だけじゃねぇの!?」
「そのレベルで認識が違うんかい! あー、アルのクジラの片目にあるメガネが代表例だな。UFOの位置が察知出来るやつ」
「……へ? え、UFOの位置なんざ、そのままでも分かるだろ?」
「それ、乱入クエストを受けてるからこその恩恵だぞ?」
「マジか!? ……てか、なんでケイさん、無所属の事情にそんなに詳しいんだよ?」
「一応、他にも伝手があるもんでなー」
「だったら、今回の話もそっちに持っていけばよくね!? 俺である必要性、どこにあるんだ!?」
うーん、明確にそれがダメな理由もあるんだけど、流石にここでオリガミさんの名前を出す訳にはいかないよな……。でも、イブキの主張自体がもっともな内容だし……。
「んー、ケイさんの狙いは大体分かったし、もう別にイブキさんじゃなくてもいいよ。わたしの伝手で誰か探すから――」
「待った!? レナさん、待った!? そこまであっさりと切り捨てられるとは思わなかったから! 今の、取り消しで!」
「およ? まぁそれなら、無駄な手間が省けていいけどさー」
イブキは強気に出たつもりなんだろうし、実際、主張自体は間違ってないんだけど……レナさんの発言で、色々と身の危険を感じたのかもなー。
まぁここで手を組むのを拒むなら、即座に仕留めて乱入クエストを妨害して、改めて交渉のしやすい人と話すって流れになるだろうしね。さてと……。
「一応、軽くではあるけど、こっちの状況は伝えたぞ?」
「……今度は俺に話せって事かよ! あー、分かった、分かった! 協力して動くかどうかはまだ保留にしとくけど、状況くらいは説明すればいいんだろ!」
「それでよろしく!」
「……はぁ、とんでもない相手に捕まったもんだな」
なんか凄く嫌そうな様子だけど、俺らが情報を求めている時に、絶好のチャンスとしてやってきたのが悪い! ……普段が普段だから、イブキはちょっとくらい雑に扱ってもいいって認識があるのは間違いないけども。
「ぶっちゃけると、俺の今のクエストは『乱入クエスト:転移先を確保しろ』から『簒奪クエスト:転移地点を確立しろ』に進行してんだよ」
「ほほう? 具体的な内容は?」
クエスト名が変わっているって事は、明確に進んでいる証拠だろうね。『簒奪クエスト』って名前は、競争クエストの最中にも『乱入クエスト』を進めた場合に出てたやつだよな。あの時もオリガミさんが教えてくれたんだっけ。
「やる事自体は大して変わらないんだけど、持っていく場所が指定された状態なんだよ。『簒奪クエスト』に変化したのは、まぁその奥の洞窟に入った時だから……多分、それが条件なんだと思うぜ」
「なるほど、そういう感じか」
自由に出入りが出来ない状態になってる黒の異形種が、自分達に寄っている状態のプレイヤーに対して協力を求めているって流れなのかもね。『簒奪クエスト』って名前になってるのは、群集の枠組みから一定の役割を奪い取るのが目的だからか。
「色々と掻い潜りながら、黒く染まった状態を維持しつつ、ここまで来るのって大変なんだからな! あの飛んでるやつの反応が近けりゃ引き寄せられやすいから、大慌てで離れたりよ!」
「およ? UFOから離れなきゃいけないんだ? あ、そういえば、そういう反応もチラホラあったって話はあったかも?」
「群集プレイヤーにも倒されたら台無しだから、逃げる必要もあったからな! まぁ見向きもされず、スルーされてたのは助かったけどよ!」
「まぁUFOが出た時は、イブキの相手なんかしてられんしなー」
「なんか言い方に棘がねぇか、ケイさん!?」
「いやいや、イブキとか関係なく、UFOが最優先事項になるんだよ。群集所属のプレイヤーは!」
そもそも、UFOが出た時は近付いてくる反応には注意するけど、離れていく反応は確認する必要すらないしなー。ここまで黒く染まってるなら、普通の敵と大差ないくらいの反応になるし……目の前で遭遇しない限り、本当に相手はしないよね。
「……まぁ、そういう手間が省けるようになるなら、悪い話じゃないとは思うけど……あっ!? ケイさん、俺に預けるんじゃなくて、自分で渡す為に俺を利用しようとしてるな!?」
「ご明察。あいにくと、俺らじゃ追い出されたもんでなー」
状況的に考えると、簒奪クエストに移行した場所では群集所属のプレイヤーを追い出す方向に変わるという可能性は出てきた。それ自体は、もう既に有用な情報だ。
問題は、それを群集主導に上書きする事が可能かどうかという部分。そこをどうしても、確認しておきたい。
「そこだよ、そこ! 俺が問題視してんのは! 無所属用の転移地点が欲しいのに、群集に持っていかれたら困るんだよ!」
「まぁそれを心配するのは分かるけど……運営が、無所属に一切の転移手段を与えないって思う?」
「……は? え、実際、今ってすげぇ不便なんだけど……ん!? もしかして、群集所属のプレイヤーの協力を得ても、転移地点は確保出来るのか!?」
「群集の影響下ではなく、中立地域って形になるんじゃないかなーって予測はしてる。転移自体は群集所属には使えないって可能性もあるから、普段は無所属の人向けな場所にはなりそうな気もするけどなー。まぁ実際にやってみないと分からないけど……」
「……そうか、中立地域って可能性もあんのか! もしそうなら、俺にとっても悪い話じゃない……?」
強引な占拠を行うのが、おそらく簒奪クエスト。でも、黎明の地ではプレイヤー主導で中立地点は作ったし、そういう場所の需要があるのは間違いない。
「はっ!? もしかして、大型アップデートで追加される、群集の枠を超えた模擬戦の舞台が、そういう場所ですか!?」
「およ? その辺、大型アップデート時にどこかにエリアを追加する感じになるのかと思ってたけど……今の段階で、そういう場所を任意で増やせるって可能性は確かにあるかも? 中立な場所は必須だしさ」
「っ!? ……そういう事なら、いいぜ! ケイさん、その案に乗ってやろうじゃん!」
「おし、なら交渉成立だな」
「おう!」
模擬戦の開催場所になるかもって情報が決め手になるのは、イブキらしいところか。実際、どうなるかは分からないけど、試してみる価値はある!
まぁこうなってくると、黒の異形種を群集に全面的な味方として引き入れるのが難しいような気もしてくるけど……その辺はどうなんだろね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます