第1572話 異なる黒の異形種


 ふー、スチームエクスプロージョンの余波を受けて、飛行鎧は解除になってしまったけど……水の操作は平気だったな。

 でもまぁ、流石に瞬間的な高火力を受ければ……それなりに操作時間は削れてますなー。これ、味方だからこの程度で済んでるけど……ダメージがしっかりと入る状態だったら、ガッツリと削られてたかも。


「終わった……かな?」

「もうクモはいないから、出てきても大丈夫だぞ!」

「うん、分かったかな!」


 恐る恐る、サヤがアルの樹洞から出てくる。まぁあのクモ、かなりデカかったし……苦手なサヤだと、あの見た目はかなり厳しかっただろうな。


「ところで、ケイ? 戦闘中は、そのレーダーは仕舞っといた方がいいんじゃないか?」

「……そうかもなー」


 飛行鎧に埋め込んだ状態だったけど、強制解除になって落としかけたんだから……うん、次からはそうしよう。

 てか、もう今の時点でインベントリに戻しとこ! この後、洞窟の中へ入るんだしさ! 出しとく方が危険だから!


「え、ケイ? またレーダーを落としかけたのかな? あ、飛行鎧が解除になってる?」

「スチームエクスプロージョンの効果範囲を見誤った……というか、洞窟を守るのに集中し過ぎてなー」

「そうなのかな? あ、確かに洞窟が、水で満たされてるかな!」

「よっと! おー、洞窟はちゃんと無事だね! ケイさん、ナイス保護!」

「どういたしましてだなー」


 ちょっとしたミスはあったけども、それでも目的自体はしっかりと果たしている。レーダーも落とさずに済んだんだし、結果オーライって事で!


「クモの処理も終わったし、洞窟に突入――」

「あ、ハーレ! それはちょっと待って! 私とアルさんは、回復させてからじゃないと!」

「はっ!? そういえばそうでした!?」

「魔力値が空っぽな状態で突っ込む訳にもいかないしな」

「そりゃそうだ。全快するまで、少し待機だなー」

「はーい!」

「みんなは休んでて! さっき戦ってない分、周囲の警戒が私がやるから!」

「任せた、サヤ!」

「任されたかな!」


 別に周囲の警戒が出来ないほど疲弊はしてないけど……サヤが納得するには、全面的に任せた方がいいだろ。まぁ俺の獲物察知は働いてるし、レナさんもハーレさんも完全には気は緩めないだろうけど……。


 まぁとりあえず、みんなアルのクジラの上に戻って、アイテムも使いながら回復だね。魔力値の回復だから、アル産のレモンを食べてますなー。

 俺は俺で……洞窟の保護用に使った水の片方で滝を押し除けて、洞窟を見れるようにもしておいて……よし、これでクモに塞がれていた奥が見えるようになっただろ。


「この奥、下り坂になってるんだ?」

「あっ!? 本当なのさー! ……先、真っ暗で見えないのです!?」

「この手のエリアの切り替え、元々先は見通せないがな? だがまぁ、前に見た黒の異業種の溜まり場を見た限りでは……明かりは必須か。……おい、ケイ? 強制解除になってたが……」

「あー……すぐには使えないな」


 くっ!? 飛行鎧に組み込んでる懐中電灯モドキの出番なのに、強制解除になったせいで使えない状態になってしまってるじゃん!


「およ? ケイさん、強制解除になっちゃったの? あ、そういえばさっき、見誤ったとか言ってたね」

「まさにそれで強制解除っすなー。仕方ない、通常発動の光の操作でやっていくか」

「……再発動が可能になるまで、待った方がよくないか? ケイがスキルを使えない状態で、あまり突入はしたくないんだが……」

「それは分かるけど……さっきのクモが、どの程度で復活するかも分からんしなー」

「……そうか、そういう懸念点もあったか」


 あー、飛行鎧の強制解除は冗談抜きで色々とミスった気がする。今更言っても遅いんだけど……あの時、強制解除を防げてたらなー。


「それなら、ケイさんの普通の発光と、ヨッシさんが火を出しておくのを併用してもいいんじゃない? 今なら、それは出来るよね?」

「あっ、その手があったか! ヨッシさん、どう?」

「私の手は塞がるけど、ケイさんの手が塞がるよりはいいかも?」

「よし、ならその方向でいくか」


 普段なら選べない手段だけど、今のヨッシさんは纏火を使用中だからね。火で明かりの確保は常套手段なんだし、こういう役割分担はありだろ。

 俺の水が、グリーズ・リベルテの中では最大級の規模を誇るんだし……何が起こるか分からないんだから、いつでも使えるようにしておきたいしさ。


「ふっふっふ! ケイさんに小石にコケを増殖してもらって、投げていくのもありなのさー!」

「……それは流石に厳しいと思うぞ?」

「えー!? なんでー!?」

「なんでも何も……前に行った場所での黒の異形種の数、見ただろ? 投げ込むスペースがあると思う?」

「あぅ!? 確かに、それは厳しそうなのです……」

「だろ?」


 明かりを広げる意図で投げたとしても、それがどれかの黒の異形種に当たって、そのまま交戦状態に突入したらマズいしな。周囲を照らし出せる火ならともかく、暗闇の中へ明かりになるコケ付き小石を投げ込むのはリスクがありすぎる……。

 あー、飛行鎧が強制解除になったの、本当に痛いな!? あれが使えたら、特に気にする必要がない部分なのに!


「とりあえず、俺は魔力値が全快したが……ヨッシさんはどうだ?」

「私も回復したよ。すぐにでも入る?」

「はい! クモの再出現を気にするなら、すぐにでも入った方がいいと思います!」

「だなー。おし、それじゃ黒の異形種の溜まり場に突入していくぞ!」

「およ? まだそうと確定とは言えないんじゃ?」

「確かに、絶対にそうだとは決まってないけど、そのつもりで入るって事で!」

「んー、まぁそうなるよね!」


 入ってみるまで確定は出来ない。でも、その可能性がかなり高いのは経験から予測は出来る。


「……交渉が出来ずに、囲まれて死んだ場合はどうするのかな?」

「アルで復活しても、また囲まれる可能性があるし……その場合は、森林エリアの帰還の実で一旦戻るって事で! ただ、囲まれた場合の最優先は逃げる事だからな! 死んで戻るのは最終手段!」

「死ぬ気ではいかないんだね。うん、分かったかな!」

「ふっふっふ! 意地でも逃げ切ってやるにさー!」

「そもそも、襲われない方がいいけどね」

「その辺は、実際に入ってみるまで分からんがな」

「あ、そっか。弥生達でも死んだくらいだし、死亡の覚悟はしとかなきゃだね!」


 戦闘自体が発生しないのが一番いいけど……どうなるかは、まだ分からない。言葉が通じたとしても、交渉が成立するかは別問題だしさ。


「それじゃ、入るぞ! エリア切り替えの手前で、明かりの準備もするから、そのつもりで!」

「「「「おー!」」」」

「さーて、どうなるかなー?」


 洞窟を塞いでいた水を除けて、みんなが洞窟に入ったのを確認したら水の操作を解除! 背後で滝が普通の流れに戻ったし、次はこれだな。


<行動値上限を3使用して『発光Lv3』を発動します>  行動値 112/133 → 112/130(上限値使用:3)


 今の状態だとあんまり眩しくし過ぎても駄目だから、控えめのLv3で発動! よし、これで俺らの周囲は十分分かるだけの明るさにはなっただろ。


「私も用意しとくね。『ファイアクリエイト』『火の操作』!」


 ヨッシさんも控えめな火の球を3つ生成して、明かりの準備は完了っと。さて、それじゃ突入開始!


<『名も無き未開の山岳』から『???』に移動しました>


 少し歩けば、すぐにエリアが切り替わった。エリア名が『???』なのは、前に行った黒の異形種の溜まり場と同じ特徴だな。こりゃ、やっぱり当たりっぽい!


「……かなり数がいるね? あちこちで動いてる気配が、かなりあるし」

「まぁそういう場所だしなー。アル、UFOの反応は?」

「とっくの昔に途絶えてるぞ。もう完全に破壊された後だろうよ」

「ですよねー」


 いつの間にやら、俺の『侵食』の察知の効果は切れてたけど……アルが確認しても、反応は拾えない状態か。まぁほぼ確実に、この奥に転移してきて、ボロボロに破壊された状態なんだろうね。

 前の時もそうなってたし……多分、改造の確保は無理だな。全壊した状態から機械の砂に変える手段は、俺らは持ってないし……まぁそこは今は重要じゃないか。


「ヨッシさん、少し奥を照らしてくれ。火を当てないように注意しながらで!」

「了解! 慎重に……慎重に……」


 火の球が洞窟の中を浮いて、少しずつ大きくなって光量を増やしつつ、奥の方を進んでいき、内部の様子を照らしていく。

 結構広いな、ここ。常闇の洞窟の転移地点くらいの広さはあるかも? ……そこそこ人が集まってきた時の混雑具合に近いな。まぁいるのは、ゾンビやスケルトンの黒の異形種だけど……オオカミだったり、キツネだったり、イノシシだったり、リスだったり、ワニだったり……まぁ色々といるもんだな。


「わっ!? すごいね、この数!」

「でも、前に見たところよりは少ない気がするのです?」

「前はUFOに群がっていってた感じだけど、今はそうでもなさそうかな?」


 前は我先にと奥へ向かっている集団だったけども、今はどのゾンビやスケルトンも、ただその辺をうろうろと移動をしている程度。もうUFOを壊し終えて、平常時の状態になってるのかも?


「ケイ、翻訳のを出しとけ。今のところ、代表っぽいのは見当たらないが……いつ出てきてもおかしくないからな」

「だなー」


 という事で、インベントリから翻訳の改造品を取り出して……使用状態にしておこう。


『……キサマラ……ナンノ……ヨウダ?』

「っ!?」


 翻訳機能をオンにしたら、すぐに声が聞こえてきた!? くっ、俺らが気付いてなかっただけで、既に声をかけてきてたのか!

 てか、声に主はどこにいる!? 直接頭の中に声が響いてる感じだから、どこから聞こえてきてるのかがサッパリ分からないんだけど!


『ヤツラ……イガイデハ……コタエハ……ナシカ。……ナラバ――』


 ちょ!? これ、すぐに返事をしないとまずいかも! なんか、見えてる範囲の黒の異業種が、どんどんこっちを向いてきてるしさ!?


「敵意はない! 話をしに来ただけだ!」

『……ホウ? ……コンカイハ……ハナシガ……デキタノカ』


 ふぅ、とりあえず会話はしてくれそうな雰囲気だな。『今回は』って事は、他にここに来た人自体はいそうだけど……翻訳機能を持っていなくて、そのまま戦闘になってたのかも?

 あー、弥生さんやシュウさんが来た場所って、もしかしてここか? いや、他にも同じような場所があるかもしれないし、そう決めつけるのは早計かも?


『……ソレデ……ナンノ……ヨウダ? ……ワレラニハ……ヨウナド……ナイゾ』

「具体的な用件がある訳じゃないけど、対話が出来る事は知っていたからな。いそうな場所を見つけたから、話をしてみようと――」

『……フン! ……ホカノ……ヤツラトデモ……アッタカ。……ワレラハ……キサマラト……タイワナド……イラン!』


 ちょ!? あの骨の竜とは全然対応が違うんだけど!? さっきまでは返事がない事に苛立ってた様子だけど、今はそもそも俺らの存在自体を疎ましく思ってる感じじゃね!?


『……ワレラハ……スデニ……イシヲ……シメシタ! ……バランスノ……コトナルモノト……ナレアウ……ツモリハ……ナイ!』

「『バランスの異なる者』……?」


 っ!? もしかして、ここには既に誰かが来てて、交流済みだったりする!? 『奴ら以外では』って発言もあった気がするし――


『……デテユケ! ……コタエタ……コトニ……メンジテ……オソイハ……セン!』

「ちょ!? 少しくらい、話を聞いてくれても――」

『……ハヤク……デテイケ。……サモナイト……』

「っ!? あー! みんな、撤退だ、撤退! ここで襲われてたまるか! アル、方向は変えられるか?」

「これだけの空間があれば、なんとかな」


 襲いはしないと言ってるだけあって、群がってる黒の異形種の上で方向転換しても、見てくるだけで特に何もしてくる気配はない。でも、出ていかなければ……すぐにでも襲われそうだな!?


『……ハヤク……デテイケ!』

「アル、急げ!」

「分かってる!」


 だー! 言葉は通じるようになっても、ここまで話が全く通じないとは思わなかった!? あの骨の竜から、一枚岩ではないとは聞いたけど……こんなに対応が違うとは予想外にも程があるわ!


<『???』から『名も無き未開の山岳』に移動しました>


 逃げるように洞窟を飛び出し、滝を強引に通り抜けて脱出は完了。クモの再出現はまだだったみたいだけど……この展開は、予想外過ぎた。


「ビックリするほど、相手にしてくれなかったね?」

「……そうなんだよなー」

「ケイさん、何か心当たりとかあったりする? 割とあっさり、対話を諦めたよね?」

「多分だけど、黒の統率種か、それに向かってる人が既に接触済みなんじゃないかなーと? 『バランスの異なる者』と『つるむ気はない』のなら……バランスが似ている相手となら、つるむ気があるって事だと思うんだけどさ」


 同じようなバランスの集団……黒の異形種も対象ではあるとは思うけど、それだと一枚岩ではないって話と食い違ってくるんだよな。だから、黒の異形種の事を指してるとは思えない。

 それに乱入クエストは黒の異形種から受注するんだから……既に、かなり進行を進めた人がいたとしてもおかしくはないんだよな。その結果がさっきの対応だとしたら……。


「んー、確かにそう捉える事は出来そうかも? でも、それだと厄介かもね……」

「乱入クエストをしてる人に、先を越された可能性があるのさー!?」

「……そうなるんだよなー」


 具体的にどういうやり取りがあったのか、全くの未知数だけど……あんな風に対話を拒まれると、どうしようもないわ! 対話を拒む明確な理由なんて、あの状態じゃ確認のしようもないし……結局、姿も分からないままか。

 でも、これは黒の異形種を味方に引き入れる展開ってのは現実味を帯びてきたかもね。群集の対応、早く決まってくれればいいんだけど……。


 

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