第1571話 邪魔なクモ
巨大なクモの岩の操作で隠されていた滝の裏のあった洞窟。今もその奥への行く手を阻んでいるクモだけど、俺の水で逃げ場を塞ぎ、ヨッシさんが純結晶を使って行った上位の纏火で燃やしていく。
ただ、ここの洞窟の入り口は結構広いからな。今のヨッシさんの炎の操作では、全てを火で満たし切れてはいないか。
「ヨッシさん、洞窟の全体は炎で包み込める?」
「……炎の操作は不慣れだから、ちょっと厳しいかも?」
「あ、こういう場所で全体を包み込むのはやめといた方がいいよ! 規模が大きくなればなるほど、酸素に消費が激しくなって、負荷がどんどん上がるからね! 奥の方はケイさんが閉じてるから、下手すると酸素不足で奥から消えちゃうよ?」
「あー、魔法で生成した火でもそういう要素はあるのか。それじゃ、クモを範囲に捉える続けるより、クモの巣を焼き尽くす事に集中で!」
「了解! ある程度は、空気が入ってくるスペースは開けとく必要があるんだね!」
いくら魔法の火でも、酸素が無ければ燃え続けられないか。まぁ俺らがいる側は開いているんだし、酸素が供給されるだけのスペースを確保していれば問題はなさそうだ。
クモの巣もどんどん燃え上がってるし……クモが火の回っていない洞窟の上部に逃げていくのは当然の流れだな。
「洞窟の上部に空間があるとはいえ……火責めは中々エゲツないな?」
「あー、まぁ確かにそうかもなー」
火の中に完全に取り込む事は出来なかったけど、それでも燃え盛っている洞窟の中から逃す気はないんだから、エゲツない手段なのは否定しない。
「別に下に固める必要はないんだし、動かすのはありだよね!」
「ヨッシ、思いっきり燃やすのさー!」
おー、クモが逃げ惑っているけど、逃げ切れずに炎に包まれたなー。盛大に燃えて……おっ、火傷が入ったっぽい。あ、堪らず洞窟から出てこようとしてるな。
「アル!」
「分かってる! 出してたまるか! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』! ハーレさん、押し返せ!」
「了解なのさ! 『白の刻印:増加』『拡散投擲』!」
アルの根が何本も並び、格子状になって、洞窟から逃げ出そうとするクモの行く手を阻む。そして、その根を突破しようとするクモに向かって、ハーレさんの拡散投擲が突き刺さり……怯んだクモはまた洞窟の中へ戻っていき、ヨッシさんが炎を動かして、クモは逃げまくっているね。
「このまま、押し切れそう?」
「そうだといいんだけど……あー、アルの根にクモの糸を巻き付けて……どうすんの、これ?」
「思いっきり引っ張ってきてるが……ちっ! 燃え移らせる気か!?」
「ちょ!? え、なんでヨッシさんの炎が元なのに、アルに燃え移ってんの!?」
待て、待て、待て!? 確かにアルの木は植物だから、いくら水属性を持ってても種族的な弱点である火には弱くても、なんでこうなる!?
「それ、クモを経由してるし、燃え移ったのは操作対象外だから攻撃判定が変わってるよ! アルマースさん、根から水に切り替えて! ただし、密閉はしないように!」
「そういう判定か!? 一旦水に浸けて……よし、火は消えた!」
「はい、クモは出てこない! 『双連蹴』『強脚撃』!」
おー、アルの根の格子が外れた瞬間を狙って駆け出してきたクモの脚を2連撃の蹴りで払ってバランスを崩させ、その上で蹴り飛ばして、火の中へと戻していったな。流石はレナさん!
「水に切り替えるが……ハーレさん、攻撃用の隙間はあった方がいいな?」
「うん! そうじゃないと、攻撃しにくいのさー!」
「ま、そりゃそうだな。なら、分割して移動出来るようにしておくか。『アクアクリエイト』『水の操作』!」
火傷になってるから、どんどんとクモのHPは減っていってるけど……それでも、操作系の進化で魔法寄りな感じだから、効きがいいとは言えないか。
そもそも、操作系スキルは単体でのダメージ倍率はそう高くない。まぁその分だけ自由度が高いし……今の炎の操作で言えば、割とすぐに火の中に包み込めるからなー。動きを止められないのは、火属性の特徴だね。
でも、アルが出口を完全に水で塞いでしまうと……他の攻撃が通らなくなるし、酸素も入ってきにくくなる。だから、それを防ぐ為に3つの水を操作して、開閉式にしたみたいだね。
「レナさん、火の中へは入れるか?」
「うん、それは大丈夫だよ。おまけ程度とはいえ、火属性は持ってるし、延焼程度なら大してダメージは受けないしさ。それを確認するって事は、わたしは洞窟の中で足止め?」
「そうしてもらえると助かる。ヨッシさんは、クモの巣や糸の除去に専念で!」
「よーし、それは任せなさい! アルマースさん、中に入れて!」
「おうよ!」
さて、ここからは……折角だから、アルとヨッシさんでスチームエクスプロージョンでも……いや、それは今の水の操作が耐え切れるのか?
うーん、滝を割っているから何気に操作時間は削れてきてるし、今のスチームエクスプロージョンの威力を支え切れるかは……実際にやってみないと、なんとも判断がし難いな。
「よっ! ほっ! 『連脚撃』! むぅ……何気に凌ぐね?」
あ、このクモ、火の中から逃げ出す動きから、レナさんの攻撃を防御するように行動パターンが変わったな? 土の防壁魔法で、蹴りを防いでいるっぽい。
土の防壁自体が動いているから、魔法砲撃にして展開してる様子だね。その状態で本体が動き回って、防御してるのか。
「この、ちょこまかと! 『強脚撃』!」
火を無視して、レナさんが攻撃を当てるのに苦労するくらい、縦横無尽に動き回るのは可能とはなー。特性『俊敏』もあるし、リスでクモの挙動に素直に追いつくのは、地形的にも難しそう。
やっぱり一気に爆殺した方が楽か? いやでも、過剰威力で俺の水の操作を突破されて、奥に影響が出ても困るよなー。そもそも、洞窟自体が崩れたらマズい! 強度がどの程度のもんか、正直分からんし!
「ケイ、どう攻める? 予想以上に動きが早いぞ?」
「レナさんに火の方に追い込んでもらって、このままじわじわ削ってもいいんだけど……ヨッシさん、操作時間はどう?」
「元々の質量がないから、そこまで極端に動きで操作時間が削られるって事はないね。でも、炎の操作はLvが低いし、そんなに長くは保たないよ? それに、入り口部分の隙間が減ったから……ちょっと火の勢いも落ちてきてるね」
「あー、やっぱりそうなってくるか」
うーん、一旦、ヨッシさんの炎の操作やアルの水の操作を解除してもらって、空気の入れ替えをするか? いや、それだとクモが洞窟から逃げてしまう可能性が……。
「……あ、別に洞窟の外に逃げられても問題はないのか」
「まぁ、入るのに邪魔になってるクモがいなくなればいいだけだしな。だが、確実に戻ってくるだろ?」
「入るのを邪魔してるんだし、まぁそうなるだろうけど……それならそれで、やりようはある!」
戻ってくる先が確定してるんだから、狙うのはそのタイミングだけに絞ればいい。洞窟の中のクモの巣は既に燃やし尽くせてるんだし、洞窟の中で戦い続けるメリットも薄いよな。
「レナさん、戦場を変えるからクモを洞窟から追い出すように動いてくれ! アル、蓋してる水を解除! ヨッシさんは、クモが洞窟を出るまで炎の操作を維持!」
「了解だ! 水の操作、解除!」
「これで行動パターンが変わってくれればいいんだけど……うん、逃げ出したね! このまま、外まで追い出すよ!」
「火の勢いも、少し戻ったよ! 逃げ出る前に、少しでも削ってもおくね!」
よし、洞窟内に留まるんじゃなく、火から逃げるのが最優先のパターンか! 何気にこのクモ、Lvが高いからHPも多いっぽいんだよな。まだ今の時点で、半分くらいまでしか削れてないし……。
「ハーレさん、クモの姿を見失うな!」
「了解なのさー!」
「外に飛び出ていくよ!」
レナさんのその言葉と共に、全身火だるま状態のクモが飛び出てきて、滝壺の中へと突っ込んでいく。いっそ、そのまま滝に押し潰されて溺死でも……あ、今は俺が滝の形を変えてるから、流石に無理か。さて、ここからどう動く?
一度、目を離したら擬態して潜まれる可能性があるから、誰か見失わないように注視してもらうのは必須。俺の獲物察知でも見破れるようにはなったとはいえ、他の敵より探すのに時間がかかるし――
「っ!? アルさん、下から攻撃なのさー!」
「水中から反撃か!? ケイ、今度は落とすなよ! 『旋回』!」
「それはもう、対策済みだっての!」
そもそも、今は飛行鎧を展開中なんだから、アルの急な挙動で落ちる心配自体が必要ないわ! てか、この状況で水中から攻撃してくるって、敵意が高いな!?
あー、水中から上空へ向けてアースインパクトを放ってきたのか。まぁ土魔法を攻撃に使ってくるのは、防御に使ってたのを見れば予想出来た範囲だな。
「およ? 空中に細長い石が3個生成……あっ、そこにクモの巣を張るんだ?」
「そういう行動パターンもあるのか」
クモ自体、そう遭遇率は高くないけど……自前でクモの巣を張れる場所を用意するのは、本当に初めて見るパターン。でも、この石って……移動操作制御での発動か? そうじゃないと、クモの巣を張れないよな?
「ハーレさん、クモの巣の土台の小石を狙ってくれ! 移動操作制御で、すぐに解除出来る可能性がある! レナさん、ハーレさんの代わりに見失わないように注視しといてくれ!」
「任せて! ハーレ、撃ち抜いちゃって!」
「了解なのさー! 『狙撃』!」
さて、これでどうなる? おっ、綺麗に直撃したら、即座に石が消え去ったし、やっぱり移動操作制御で……って、おい!?
「あー!? 森の中に、突っ込んでいったのさー!?」
「伸ばしたクモの糸で、綺麗にスイングしていったねー! わたし、ちょっと追いかけてくるよ!」
「任せた、レナさん! 姿の確認だけで、深追いはしなくていいからな!」
「もちろん、そのつもり! よっと!」
軽々と自前で生成した小石を足場に、華麗に逃げ去ったクモをレナさんが追いかけていく。姿を見失って、擬態して戻られると厄介だから、レナさんが追いかけてくれるのは助かるね。
「ケイ、どう仕留めるつもりだ?」
「ん? 洞窟に戻ってこようとしたところを、アルとヨッシさんでスチームエクスプロージョンを使って爆殺するつもり。あの移動速度じゃ、下手に追いかけるより、範囲攻撃で一気に仕留めた方が楽っぽいしさ」
「……また派手な事を考えてやがったな。それ、洞窟の中には影響が出ねぇか?」
「大丈夫、大丈夫。洞窟の前には俺の水を置いとくから。並列制御で2重に保護しときゃ、流石に影響は出ないだろ。洞窟内で爆殺も考えたけど……洞窟が崩れたら困るしなー」
「だから、外に出してから、戻ってくるタイミングを狙う訳か」
「そうそう、そういう事。って事で、ヨッシさん、炎の操作は解除しといてくれ」
「あ、うん。残したままじゃ、戻ってきにくいもんね。炎の操作、解除!」
操作を解除してしまえば、洞窟内を熱していた炎はあっさりと消え去っていく。魔法産のものは、操作下じゃなくなればすぐに消えるのが大きな特徴だよね。延焼した部分のクモの巣は、もう完全に燃え尽きてるしさ。
「ケイさん、クモは滝の上へ迂回して戻っていってるよ! 擬態状態に移行したから、要注意で!」
「ほいよっと! ハーレさん、来たら合図をよろしく!」
「はーい!」
今、俺らはクモを待ち構えている状態だから、下手に滝を元の状態に戻さない方がいい。戻せば、滝に戻るタイミングを見落とす可能性が出てくる。
移動速度も速いから、目視してすぐに狙えるかは……かなりシビアだな。タイミングを外せば、スチームエクスプロージョンが空振りに終わる可能性もある訳で――
「そっち、行ったよ!」
「っ! 滝の右の方の岩壁なのです!」
「アル、ヨッシさん、頼んだ!」
「了解だ! ヨッシさん、位置は合わせてくれ! 『アクアクリエイト』!」
「了解! 『ファイアクリエイト』!」
生成位置は……洞窟の真っ正面か! こりゃ、保護なしじゃどう考えても爆風が洞窟内に届くけど、そこを保護するのは俺の役目!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 123/127(上限値使用:6): 魔力値 322/326
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 121/127(上限値使用:6): 魔力値 320/326
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
生成、急げー! スチームエクスプロージョンが発動する前に、保護を完成させなきゃ意味がない!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を2消費して『水の操作Lv10』は並列発動の待機になります> 行動値 119/127(上限値使用:6)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を4消費して『水の操作Lv10』は並列発動の待機になります> 行動値 115/127(上限値使用:6)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
よし、なんとかギリギリ間に合っ……って、しまった! この位置、自分がちょっと近過ぎる!?
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 115/127 → 115/133
あ、やっぱりか!? スチームエクスプロージョンの爆風……余波ではあるけど、それでも飛行鎧が解除になった!
ヤバい、ヤバい!? これでまたレーダーを落としたら、ややこしい事に……えぇい! 追加生成で、レーダーの位置を見失う前に俺の周囲を包み込む!
<ケイが成熟体・暴走種を討伐しました>
<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが成熟体・暴走種を討伐しました>
<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
クモは倒せたっぽいけど……レーダー、落としてないよな? ……うん、俺を包んでる水の中にちゃんとあった。あー、焦った!
スチームエクスプロージョン、もう少し離れた位置で見ておくべきだったなー。移動に使う事が結構あったから、今の状況で少しでも爆風を受けたら強制解除になるの、すっかり頭の中から抜け落ちてたよ。
アル達は影響を受けてないから……距離を見誤ったの、俺だけか。ちょっと洞窟を水で保護する方に集中し過ぎてたかも……?
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