第1568話 クオーツの改造品


 アルの急な挙動で、俺がレーダーを落とすというトラブルがあったものの……とりあえず、無事に見つかった。見つかったどころか、増えたけど……。


「多分、ケイが落としたのは私の持ってる方かな? 所有権が移らないし……」

「あー、そういや落ちてたからって、すぐに所有権が無くなる訳でもなかったっけ」


 となると、この拾ったレーダーも所有権は得られない? いや、完全に失くした場合って、どうなるんだ? そもそも、この改造物はトレードが不可だったはず。


「そもそもの話、一体何がどうなってる? ケイが落としたレーダーを拾いに行ったはずが、なんで2個になっている?」

「あー、川の中に他のレーダーが落ちてた。その上で、俺が落としたのは川の中には落ちてなかったっぽい」

「……落とすのは、ケイに限った話じゃない訳か」

「ちょ!? あの時、落としたのは不可抗力なんだけど!?」


 そもそもアルの無茶な挙動が原因……いや、でもあの状況だと、ああなるのは仕方ないか。アル達の方も俺らの様子を見れる状況じゃないんだし、レーダーが増えたって状態は気にもなるだろうしさ。


「てか、アル達は……あー、UFOは『重度破損』になった?」

「まぁな。とりあえず、ケイ達はこっちに戻ってこい。まずは情報の整理からだ」

「ですよねー!」


 この拾ったレーダーをどうするか……そもそも、どうにか出来るのかの時点から確認しないとなー。万が一、紛失した事で所有権が失われていたとしても……その後のトレードは不可能だろうから、俺が手に入れる訳にもいかないしね。



 ◇ ◇ ◇



 手早くアル達の元へ戻ってきた。全く見えない距離というほどではないけど、探してる間にそれなりに離れてたからなー。

 UFOはステルス機能が完全に切れて、アルの根からも解放された状態。この様子だと、もう飛べるだけの機能は生きていないっぽいね。


「レナさん、預けた機動機能の妨害装置、問題はなかった?」

「うん、特に異常はなかったよ。ただ、これの機能が一定範囲の無力化なのか、ピンポイントの機体の無力化なのか、どっちかがいまいち分からないねー。オンオフの操作は、わたしからは受け付けないみたいだし……まぁ今の状況で試したくもないけどさ」

「……そりゃそうだ。無力化を解除して、転移して逃げられたら意味なさすぎる……」


 どこにあるんだよ、それを試すメリット! いやまぁ、所有者以外ではオンオフ出来ないってのは、大きな情報だけどさ!


「はい! そのケイさんが川で拾ったレーダー、操作は出来ますか!?」

「あー、分からん。そもそも、今の所有状態がどうなってるのかも不明だし……レナさん、試してみてくれね?」

「およ? わたしがやるの?」

「万が一、所有権が移ったら……グリーズ・リベルテ以外のメンバーが持ってる方が都合はいいだろ?」

「あー、それは確かにそうだね。それじゃ、試しに触ってみるのはわたしがやるとして……これは返しておくね」

「ほいよっと」


 俺からは拾ったレーダーを、レナさんからは預けていた機動機能の妨害装置を、お互いに手渡して交換! あー、確かにオンオフの切り替えは可能っぽいけど……今、やる必要はないか。

 これ、常時付けっぱなしだとどうなるんだろ? あ、よく見たら、装置自体に『連続稼働限界時間』って表示が出てるじゃん!? まだ数分は保つけど……機動機能を停止させられる時間には制限があったとはね。今、初めて気付いたよ。


「さてと、これの操作は……およ? 『紛失状態のアイテムです。所有権を得ますか?』って確認が出てきたね」

「あー、そういう感じになるのか! ……何気に、所有権を得ないって選択肢もあるんだな?」

「みたいだねー! 誰の物だったか分かんないけど、貰っちゃうよ!」

「拾った物は有効活用なのさー!」


 その状態ならトレードが可能そうな気もするけど、流石に誰かの落とし物をそういう材料には使いたくないもんな。誰が元の所有者か分かるなら返すのも考えるけど……分からないんだから、どうしようもないしね。

 俺が持ってた時にはそんな表示は出なかったけど……既にレーダーを持ってたからか? ふむ、重複して入手は不可能になってる可能性はあるね。


「はい、ケイ。次は落とさないようにね?」

「……気を付けるけど、アルも振り落とすような挙動は極力、避けてくれよー」

「……それもそうだな。まさか、さっきみたいな事態になるとは思ってなかったが……ケイ、そのレーダーは飛行鎧に埋め込むのは可能か?」

「ん? まぁ範囲の切り替えはメニューが出てきてるから、岩に埋め込んでも問題ないけど……飛行鎧が強制解除にならなきゃ問題ないか」

「なら、それで頼む。他にも落とした人がいるなら、不意な状況でそういう事が起こるんだろうしな」

「あー、それもそうか」


 俺だけが落とした訳じゃないんだから、単なる不注意だと断じる方が危険だよな。ここ、基本的に敵は格上だし……敵からの奇襲は十分あり得る話だしさ。

 さっきはハサミで挟んですらおらず、ハサミの上に乗せていただけってのも原因だろうけどさ。てか、ロブスターのハサミだと持ちにくいんだよ! うん、再発防止の為にも飛行鎧の岩に埋め込んどこ。強制解除の危険性はあるとはいえ、この方が安全なはず。……よし、埋め込み完了!


「さてと、それじゃクオーツに改造をしてもらいますか! アル、今回は任せるぞ」

「おう、了解だ。言ってた通り、俺が『侵食』での察知代わりのモノクルを手に入れればいいんだな?」

「その改造が出来れば……だけどなー。ほい、クオーツの部品!」

「ありがとよ。まぁ改造出来るかは運次第だが……とりあえず、UFOの上を開けてくれ」

「ほいよっと! サヤ、切れる?」

「多分、問題はないと思うけど……範囲は控えめにして、何度かに分けるのでいいかな?」

「それでいいぞー。一撃でやろうとして、壊し過ぎたら意味ないしなー」

「分かったかな! それじゃ、少しずつで……『強爪撃』!」


 おー、大型化した竜を足場にして、UFOの上部へと近付いて……鋭い爪で一閃。普通に切り裂けたから、強度はそれほどでもないんだよなー。


「あっ! 中のパネル、かなり生きてるかな!」

「はい! 無駄に増援を送られても面倒なだけなので、壊してきた方がいいと思います!」

「およ? 増援が来るなら、そっちも確保すればよくない?」

「それ、昨日試したんだけど……クオーツが危険だからって、対応してくれなかったんだよね」

「落下物もなかったし、増援の相手は無駄な労力かな!」


 『Ⅱ型』への増援の無力化は、本当に無駄に終わったもんな。『Ⅰ型』への増援が同じになるとは言い切れないけど……クオーツが察知されるのを懸念してたんだから、同じ対応の可能性が高いだろ。人数がいるなら試してみてもいいけど、今の6人じゃなー。


「あらら、既に失敗済みだったんだ? それなら……どうするの?」

「中の赤く光るパネルだけを残して、残りのパネルは全部破壊だな。ヨッシさん、ハーレさん、レナさん、任せていい? 3人なら、もう今の切れ目から中に入れるだろうしさ」

「あ、うん。それが無難かも?」

「ふっふっふ! UFOを中から破壊なのさー! あ、レナさん! スキルは使わない方がいいよー! あっさり壊れるから!」

「およ? 思ったより、中って脆いんだ?」


 そんな会話をしながら、ヨッシさん達はサヤの切り裂いた部分からUFOの中へと入っていく。中のパネルを破壊している間に、アルが中を見れるようにサヤが切り裂いていってくれれば問題なさそうだね。



 ◇ ◇ ◇



 少しすれば、UFOの天井にもアルがクオーツと接触出来るだけの大きさの穴が空き終えた。その穴から覗いてみれば、中も赤いパネル以外は、全て破壊し終えている。


「よーし、こんなもんでしょ! 地味にちょーっと手間だけど、これで準備完了?」

「そうなるなー」


 何気にレナさんは、俺らと一緒にUFOと接触するのは初めてか。昨日の夜の川の中のは、俺だけで対応しに行ってたしなー。

 おっと、ヨッシさん達は邪魔にならないようにアルのクジラの背の上まで戻ってきたね。よし、これなら開始出来そうだな。


「アル、それじゃよろしく!」

「おうよ!」


 木の根でクオーツの部分を持ってきて、UFOの中へと近付けていく。これ、何気にクジラだけだと実行が難しそうな状態だけど……まぁソロで動いている人の方が少なそうだし、それほど支障は出ないか。

 そもそも操作系スキルがあるんだから、アイテムを持ち運ぶ手段が皆無って人はいないよねー。精々、初心者で一部種族による程度の心配だな。


[接続を確認した。すぐに情報の精査に入る]

「おう、頼むぜ」


 流石に何機もこうやって確認してきたんだから、やり取りもスムーズになってきたね。こっちの状況が特殊ならそれ相応の反応は返ってくるけど、普通の状態ならこんなもんか。


「クオーツ、待っている間に少し聞きたい。黒の異形種の件、何か聞いていたりはしないか?」

[……我からは何とも言えんな。セキ殿、サイアン殿、グレイ殿、3名が協議に入ったと聞いてはいるが……まだそれは続いている状態というくらいしか知らん。それぞれに情報を集めるのに、手間取っていたようでな]

「……なるほど」


 サラッとアルが現状を確認してるけど、意外と成果ありだな? 少なくとも、群集内での情報収集は終えて、3つの群集でのどうすべきかの協議までは話が進んでる訳だ。

 んー、そういう状態なら、いつ結論が出て動き出すかは完全に未知数か。協議が長引いたという事にすれば、いくらでも時間は延びさせられるし……今がこの緊急クエストの進捗が何割くらい進んでいるかによって変わってきそう。


「もう1つ、質問をいいか?」

[我に答えられる範囲なら、答えよう]

「今の時点で、どれほどの数の改造を施した?」


 あっ!? そういう内容を聞くのもありか! 全部クオーツが改造してるんだし、総数は把握してても変じゃない!


[1000を超えたくらいだとだけ、伝えておこう。あまり詳しく話し過ぎては、どこの群集に対しても平等に応じているとは言えなくなるからな]

「まぁそこは仕方ないな。それだけでも十分な情報だから、助かる」


 サラッと聞き出せたけど……改造件数、1000件越えかー。単純に3つの群集で割って、1つの群集で約333個……俺らみたいに同じPTや連結PTが複数持ってる事も考えれば、1つの群集で100〜200グループくらいが持ってたりする感じか。


「結構、持ってる人はいそうかな?」

「んー、ケイさん達みたいに複数所持がどれだけいるかってのも気になる部分ではあるけどねー。でもまぁ、結構行き渡ってはいるのかも?」

「はい! それ以上に、降りてきているUFOの多さにビックリなのさー!」

「駄目になってるUFOは多いんだし、今のはあくまで実際に改造が出来た機体数だもんね。実際は、もっと遥かに多い……とんでもない数になりそう?」

「『Ⅰ型』は、自爆する『Ⅱ型』よりは回収率が高いと考えても……数倍にはなりそうだしなー」


 そう考えれば……この連休で、とんでもない数のUFOが降りてきてるんだな!? てか、何気にクオーツの部品も凄い量が存在してる事に……うん、その辺はゲームの都合って事で、気にせずに――


[……少し気になるのは、我の部品が多過ぎる事か。あれほどの数、いくらなんでも存在してはいないのだが……]

「何? それはどういう意味だ?」


 はい? 今の俺の疑問、ゲーム的な都合じゃないのか? クオーツ自身が、疑問に思う部分っていうのが少々気になる? てか、今のは俺、声に出てた?


「ううん、さっきは声に出てなかったかな。今のは漏れ出てるけど……ケイ、個数がおかしいと思ってたの?」

「……まぁなー」


 まさか、何か明確な理由が用意されている流れになるとは思ってなかったけどさ。これ、なんか不穏な雰囲気になってきたな。


「……クオーツ、どういう可能性があるのか教えてもらえるか?」

[奴らが同型の部品を、意図的に持ち込んできている可能性がある。……何が目的なのか分からないから、気を付けてくれ]

「……了解だ」


 ちょ!? そんな可能性が出てくる……って、それってマズくない? 今、クオーツとこうやって話しているのは、そのクオーツの部品を使ってだよな!? それが実は、機械人が用意してた物とか……あー、これは直接聞いてしまえ!


「この今の接続って安全なのか? 下手すると、あの連中が用意した物を使ってる可能性があるんだよな?」

[元々、我が不要と思った通信機能……それも死んだものしかないものだ。これで奴らに情報が筒抜けという事はないはずだが……いや、奴らの技術が進歩していないと考える方が危険か]

「それ、想定以上の存在になってて、情報が筒抜けって可能性もある!?」

[……否定は出来ん。だが、奴らがそなたらの言語を翻訳出来るかは、別問題だがな]

「なるほど……って、それも翻訳機能が搭載されてなかったっけ!?」

[確かにそうだが……あれの範囲は、かなり限定的なものだぞ?]

「……あの翻訳機能と、この『惑星浄化機構・長距離通信装置』での通信を組み合わせて使ったらどうなる? 翻訳した情報の送信は可能なのか?」

「っ!? アル、その組み合わせはどう考えてもヤバいやつじゃん!」

「だから、確認を取っているんだが?」

「……ですよねー」


 まぁそりゃそうだ。これ、進行を運営が止めてる風に思えてたけど、実は進行条件がまだ満たされてなかったとか? あー、でも気がかりとしてクオーツから言い出した事だし、時間経過でそういう反応が出るようになってたのかも?


[……正直、大丈夫だと断言は出来んな。我でも情報があれば改造が可能な代物ではあるし、素材として持ち込んでいるのかもしれん。そこは、少し精査する時間をもらいたい]

「……了解だ」


 ふむふむ、この流れだと後から精査した情報を含めて、イベントが進行する可能性があるそうな気がする。これ、フラグの1つなのかもなー。

 なんで採集品のサンプル容器の中にあるのかは謎だけど……それはそれで、何かしらの理由があるのかもね。具体的な理由までは謎だけど……。


[何にしても、奴らへ対抗する手段は必要だろう。精査は済んだし、ここで可能な改造は……奴らの落下物を探知する機能と、瘴気を用いて意思による翻訳を可能にする機能と、他の採集機の位置を探知する機能、この3つの内のどれかになる]

「他の採集機の位置を探知する機能に改造してくれ」

[了解した。そなたは……木とクジラ、どちらで使うのがいい?]

「……そうだな。クジラの方で頼む」

「クジラの方だな。それでは改造を始めよう」


 予想外に不穏な情報が出てきたけど……まぁそもそも、UFOが降りてきまくってる時点で、十分不穏な状態ですよねー。クオーツが知っているよりも発展している可能性は……うん、否定する方が難しいな。


 まぁその辺は進展待ちとして……木にも片眼鏡を付ける選択肢があったのがビックリだよ!? その光景、ちょっと見てみたかった!

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