第1565話 全員集合!


 昨日のUFOに間違われた件は、レナさんの意見としては放置でいいという事だった。まぁ納得いく理由は聞かせてもらったし、必死に撤回する必要性もないように思えてきたけど……。


「ハーレさん、遅いな!?」


 意見を聞きたいのに、一向にログインしてくる気配がないのはなんで!? 大して時間に差はなく、それぞれの自室に行ったよな!?


「確かに、少し遅いね? ケイさんがいるのが分かってるんだし、そんなに待たせるようにするとも思えないけど……」

「何かあったのかな?」

「およ? 待ってても、来てない感じなの?」

「俺と同じくらいのタイミングで、ログインしてきてるはずなんだけど……」

「んー、確かにそれは変かもね?」


 スクショの申請を出すにしても、ここまで待たせるような状況にするとは思えないんだよな。サヤやヨッシさんに話があると伝えてたなら、尚更――


「わっ!? みんな、もう揃ってたのです!?」

「あ、やっときたか。遅いぞ、ハーレさん。何やってた?」

「部屋にヤモリが迷い込んでて、捕まえて逃すのに手間取ってたのさー!」

「あー、そういう……」


 なるほど、確かにその状況だとログインしようにもし辛い状態か。たまーにあるもんな、そういう事。見えているのに無視して、フルダイブを始めるのは中々難しいやつだし……それなら仕方ないか。


「あっ! アルさんはまだなんだ!?」

「そうなるなー。まぁそれはいいとして……ハーレさん、ちょっと意見が欲しい」

「なんの意見ですか!?」

「昨日のUFOと間違えられた件についてなんだけど――」

「はっ!? それ、すぐに訂正してもらわないと!?」

「それが、不要じゃないかって話だよ。聞きたい意見はさ」

「……え?」


 キョトンと不思議そうな様子になってるけど、その辺の反応は俺と同じか。まぁ昨日の夜の時点では、ハーレさんも訂正するつもりでいたんだから、その反応もおかしくないけどさ。


「わたしから説明するよ。その件、さっきケイさんから聞いたんだけどね? それは――」


 レナさんが説明をしてくれるようなので、ここは任せておきますか。どっちにしろ、訂正するのにレナさんが同意してくれない場合は、別の伝手で情報を広めるしかなくなるしなー。

 俺としては、もう放置でいいって判断になってるけど……ハーレさんがどう判断するのやら? それ次第で、動き方が変わってくるからね。



 ◇ ◇ ◇



 レナさんから、ハーレさんへの説明は終わった。まだアルはログインしてきてないし、アルにはこの情報を伏せたままにしておきたいよなー。知られると、またからかわれそうな予感もするし……いや、でも間違われた件自体は知ってるんだし――


「おー! 自己責任って事で、放置って手段もあるんだ!?」

「そうなるねー。ギンさんは説明した方がいいって言ったみたいだけど、そこはオンライン版のモンエボ初心者からの意見として流した方がいいよ」

「はっ!? それでケイさんは、私に意見を求めたの!?」

「まぁそうなるなー」


 実情としては、ハーレさんに意見を求めるフリをして、そのまま決定を押し付けるつもりとも言えるけど……それは当人には絶対言わない。


「ケイ、思いっきり思惑が聞こえてるかな?」

「押し付けるつもりなの!?」

「げっ!? またかよ、これ!?」


 俺の癖じゃなく、VR機器の誤動作だって事が分かってから、段々腹が立ってくるな! くっ、連休中だから、何の対応の連絡も来ないのがもどかしい!?


「そう簡単に押し付けられる気はないのさー! なので、どうするかはケイさんに一任します!」

「逆にそっちが俺に押し付けてねぇ!?」

「ふっふっふ! そうとも言うのさ!」

「自信満々に言う事か!? あー、まぁいいや。レナさんの意見には賛成だし、色々と手間ではあるから今回の件はスルーで。ギンも、『気になるなら』って言ってただけだしな」


 レナさんは、ハーレさんと会話してる中で出てきたその話を初心者の意見とばっさり切り捨ててたけど、『絶対に訂正した方がいい』とは言ってないからな。俺らが気にせずにいられるなら、それで問題ない!

 おっと、そうやって考えてたら木を背負ったクジラが現れたか。よし、もうこの話題はスルー確定って事で、終わりにしとこう。


「ん? 珍しいな、ケイがもう来てるとは……」

「おっす、アル! 遅かったな!」

「いや、これでもまだ10分前なんだがな?」

「まぁ早めに揃ったって事でいいじゃん!」


 気付けば、集合時間の10分前にはなってたんだな。いやはや、昨日の件で思ったよりも時間は経ってたもんですなー。


「ま、そりゃいいんだが……掲示板を見たか? 森林深部で、察知が出来ないUFOの目撃情報なんてのが出てたが――」

「それ、正体はケイさんとハーレさん、あと曼珠沙華の3人だってさー!」

「……何? ケイ、どういう事だ?」


 ちょ!? アルには伏せようと思ってたのに、何かを言う前にレナさんがすぐに教えちゃったんだけど!?

 くっ!? アルが話題に出してきた以上、レナさんが説明した事自体は不自然でも何でもないし……こりゃ説明するしかないか。一緒に動く訳じゃない人達はスルーでいいとしても、流石にアルに説明なしって訳にもいかないもんな……。



 ◇ ◇ ◇



 不本意ながら、アルへと昨日の一件を説明していく。ログインのタイミングが微妙にズレてる影響で、同じ説明を何度もするのはややこしいな!?


「……なるほど、またやらかした訳か。というか、そういう話はしてたな」

「いやいや、今回のはやらかしじゃないから!」


 思った以上に情報が広がってる事がびっくりなんだけど! でも、今回の一件はレナさんが言ってたように周りが勝手に勘違いしただけの話! だからこそ、スルーでいいという判断になった訳であって……。


「ま、そういう事にしておくか。レナさんのスルーの提案も、理解は出来るし……そもそも、そこまでの状態になるとは、昨日は思ってなかったしな」


 アルの言い方が少し気にはなるけど、まぁ方針に納得してくれたのなら良しとしようか。下手に突いて、盛大な反撃を受けるのも嫌だしさ。


「おっし! 全員揃ったし、探索開始といきますか!」

「およ? ケイさん、現状の情報収集はいいの?」

「……そもそも、収集出来る情報源って、何かある?」

「……言われてみれば、今は特にないねー?」

「ですよねー!」


 掲示板の情報が当てにならないというのは、俺自身が思いっきり証明してしまってる訳だしなー。今の情報共有板で情報交換が出来るかというと、かなり怪しい状態のはず。

 もし仮に出来たとしても、勘違いされている謎のUFOの話題は出てきそうだしさ。スルーする決めた以上、下手に触れない方がいいだろ!


「情報交換なら、遭遇した他のPTとやるのが無難か?」

「それが無難そうかな?」

「午前中は6人で動くんだし、共闘はしやすいかもね」

「そうなのさー! はっ!? そういえば、誰が『侵食』での察知をしますか!?」

「それは俺がやっとくわ」

「はーい!」

「ケイさん、お願いねー!」


 昨日の解散前に、アルに設置しているリスポーン位置は更新しておいたからな。支配進化の派生である同調の俺なら、復活も容易い!


「ケイさんが一回やって、効果が切れたら、次は私がやるね」

「ほいよっと! その時はヨッシさんに任せる!」


 ずっと俺がやっててもいいけど、ヨッシさんも俺とほぼ同じ条件を持ってるんだから、素直に頼らせてもらおう。『侵食』の進化の軌跡は、昨日いくつか補充は出来てるし、数が足らなくなる事はないはず。


「最優先で確保するべきは、『侵食』の察知と同等性能のあるレンズへの改造かな?」

「そうなりそうだな。その場合、俺が持つんでよかったか?」

「そうなるなー。アルが持ってる方が、わざわざ行き先を示さないで済むしさ」


 だから、サヤの言う通り、最優先で見つけるべきは墜落済みの『Ⅰ型』のUFO! まぁ機動妨害の改造は手に入れてるから、転移を封じて自分達で墜とすのでもいいけど。


「ふっふっふ! 目的は明白だし、『Ⅰ型』のUFOを探すのさー! 機動妨害で転移を封じて、完全に墜とすのです!」

「およ? あ、そういやそんな改造も持ってるって言ってたね! そっか、そっか! あの鬱陶しい転移、封じられるんだ!」

「まだ、1回も使った事はないんだけどなー。とりあえず、その為にも準備はするとして……先にこっちか」


 PTの結成もまだ出来ていなかったから、みんなにPT申請を送っておいて……。


<ケイ様の率いるPTが結成されました>

<サヤ様がPTに加入しました>

<レナ様がPTに加入しました>

<ヨッシ様がPTに加入しました>

<ハーレ様がPTに加入しました>


 おし、タイミング的に俺とアルで結成したPTに、他のみんなが加入した形になったね。午前中には連結PTにならない予定だけど……状況次第では、一時的にこのエリアに来ている人との共闘もありかもね。


「あ、レナさん、ちょい確認。ここの山岳エリアって、群雄の密林と五里霧林の間に挟まれてるエリアだよな? やっぱり、灰の群集の人が多い?」

「んー、手前の……なんだっけ? あ、そうそう! 『タシュー・タヨーウ』に比べれば、他の群集の人も出向いている可能性はあると思うよ! ちょっと遠くはなるけど、どこの安全圏とも隣接してないエリアから回り込んでは来れるしさ。その手のエリア、どこも昨日ケイさん達が行ってた原野くらいのLv帯だから、通り抜けてこれない訳じゃないしね」

「あー、そういう感じか」


 確か、あの原野はかなり広いとは聞いたし……実際、探索してみた上でも、かなり広く感じた。何エリアかに跨いで、繋がってるのかもね。

 あの原野を通り抜けられる人なら、この山岳エリアへ辿り着くのも決して難しくはないのなら……UFOの反応を追いかけて、ここまで来るって可能性もありそうだ。


「ケイ、戦闘の方針はどうする?」

「基本的には、戦闘はなしで交渉でいく。ただ、まぁ状況次第にはなるから、その都度の判断で!」

「ま、いつものパターンか」

「そうなるなー」


 今は曼珠沙華が一緒じゃないから、シュウさんや弥生さん達と遭遇しても、必ずしも戦闘をする必要はない。……逆に、問答無用で襲われる可能性は否定出来ないけど!

 ジェイさん達も、状況次第ではあの原野以外に進出してても不思議じゃないんだよなー。それこそ、俺がここにいるからって、狙いに来ても……。


「……フレンドリストの位置表示、一時的に切っとくか」

「んー、ケイさん達はその方がいいかもね。弥生、狙ってきそうだし! 曼珠沙華がいない今は、狙い時!」

「レナさんから見ても、やっぱりそうなる!? あー、全員、午前中は居場所を伏せとこう! 変に狙われたくないし!」

「おうよ。すぐに設定を切り替えとくわ」

「はーい! 設定、変えてきます!」

「分かったかな! ……もう見つかってるとかは、ないよね?」

「多分、まだ大丈夫だとは思うけど……」

「伏せるなら、急いで変えた方がいいかもよー? まだいないみたいだけど、いつログインしてくるか、分かんないからね」

「ですよねー!?」


 大急ぎでフレンドリストを開いて、位置表示の設定をオフに変更! ……よし、レナさんも含めて全員、これで今の居場所は分からなくなったはず。

 って、今、弥生さんがログインしてきた!? おわっ!? 続いてシュウさんとルストさんもか!?


「およ? 弥生達、丁度ログインしてきたねー。これ、ギリギリセーフだったかも?」

「本当、ギリギリだったな!?」


 ジェイさんは既にログイン済みだったけど……まぁあっちは既に居場所が分からない状態だったから、気にするだけ無意味か。

 ジェイさんの場合、狙ってくる可能性はあるけど、逆に避けてくる可能性もあるからね。お互いに位置が分からないのなら、偶然の遭遇になってくる。……既に、狙って動き始めていなければだけど。


「さてと、この辺は人気も少ないし、そのまま『侵食』の変質進化をしても問題ないよな?」

「もう知れ渡ってる手段だし、伏せる必要もないだろ。レンズ持ちと違って、この進化のタイミングで目撃さえされなきゃ済む話だしな」

「一応、ケイが準備をしてる間は、みんなで周囲は警戒しておくかな!」

「ふっふっふ! 安心して、進化して死ぬのです!」

「あはは、まぁそういう事になるんだよね。この場合ってさ」

「……ですよねー」


 『侵食』でのUFO察知は、死亡が前提になるからなー。ハーレさんの言ってる事は、『纏浄』で『侵食』を打ち消さない限り、間違ってはいないのが何とも微妙な心境になる……。

 いやまぁ、オフライン版の時は散々死にまくってたんだし、死亡前提の手段を使うのに躊躇う理由もないな。『侵食』への変質進化で死ぬのは、これが初めてでもないし!


 さてと、それじゃさっさとUFOの察知が出来る状態にしますかね! 色々考えるのは、それが済んでからでいい。


<『進化の軌跡・侵食』を使用して、変質進化を行います>


 という事で、進化開始! ロブスターの場合、ゾンビとスケルトンに違いがあるのかが分からないけど……あっ、これ、微妙に違いがありそう?


<『同調激魔ゴケ』から『同調激魔ゴケ・侵食』へと変質進化しました>

<『同調激強ロブスター』から『同調激強ロブスター・侵食』へと変質進化しました>

<『侵食』が一時スキルとして付与されます>


 進化はあっという間に終わったけど……なんか、身が落ちるんじゃなくて、異様な感じに腫れ上がってません? 殻の一部、割れて中身が見えてるんだけど……特に右側のハサミが、内側から割れまくってるんだけど!


「おぉ!? なんか、腐ったようなロブスターの身が、所々から見えてるのさー!?」

「これ、ロブスターのゾンビなのかな?」

「この前はスケルトンだったみたいだけど、ゾンビの方もあるんだね?」


 うーん、ハサミ以外は客観的に見えない状態だけど……あんまり良い見た目をしてないのは、容易に想像が出来るね。身が膨れ上がって、弾け飛ぶ寸前くらいになってるんだろうなー。

 まぁ今の見た目はどうでもいいや。どうせすぐ死ぬんだし、サクッとやってしまおう!


<行動値を0消費して『侵食』を発動します>  行動値 133/133


 おー、これを発動した瞬間、膨れ上がってる身が破裂して、シルエットが通常の状態に近付くんだね。……まぁ元通りなのはシルエットだけで、思いっきり瘴気に侵食されてる禍々しい状態だけどさ。

 てか、相変わらず、コケの群体数の減り方とロブスターのHPの減り方がヤバいな!? 急いでやらないと!


<行動値を6消費して『獲物察知Lv6』を発動します>  行動値 127/133


 さて、これで更にHPの減少が加速して――


<『同調激強ロブスター・侵食』のHPが全損しました。『同調激魔ゴケ』が大幅に弱体化します>

<群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? リスポーン位置は一覧から選択してください>


 あっという間に死んだね。まぁこうなるのは分かり切ってた事だし、ササっと復活して、探索を始めていきますか!


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