第41章 イベントの3日目

第1564話 連休、2日目


「兄貴、起きろー!」

「おわっ!?」


 ちょ!? いきなり、何事!? あ、普通に晴香が部屋に入って……って、そういや寝る時は鍵をかけないようにしてたんだっけ。

 いや、そもそも今何時だ!? 10時には目覚ましをかけてたはずだけど、もしかして寝過ごし……って、おい!?


「まだ9時半じゃん!? 寝坊じゃないぞ!」

「朝ご飯を食べてたら、それくらいあっという間なのさー!」

「……いや、そんなに時間はかからんけどな?」


 朝飯を食べて、片付けをしてでも……起きるのは10時で十分、間に合うと判断してたんだけど!


「ふっふっふ! まぁお母さんに、起こしてこいって言われただけなのです!」

「へ? 母さんが? ……なんでまた?」


 いつもなら、休日の朝食を食べるタイミングは各自の自由にって感じなのに……急かしてくるのは珍しいな? 一緒に食べようって時は大体前日には言ってきてるけど、今回はそれもなかったし……。


「なんか、夏のセールで買いたいものがあるんだってー! お父さんと出掛けるから、その連絡! 兄貴が起きるの待ってたら、伝えるのが遅くなるし!」

「あー、そういう……」


 10時で起きたタイミングだと、晴香は既にログインしてるだろうから……出かける前に、俺に起きてこいって話か。まぁ別にいいけど……。


「母さん、何を買う気なんだ?」

「バーベキューのコンロ、新調するんだって! 今の、随分ボロボロだし!」

「なるほど、あれの買い替えか!」


 毎年、何度か使ってるし……そもそも、あれは何年ものだ? 俺が小さな頃からずっとあるし、錆びてきている部分も見えるけど、まだ使えなくなるほどでもないような?

 あー、さてはサヤとヨッシさん、あとラックさんもか。我が家に泊まりにきて、バーベキューをするのが確定になったから、父さん辺りが見栄を張ろうとしてるな!? いや、単純に普段の倍の人数になりそうだから、焼くスペース自体が足りないのもあるかも?


「そういう事なので、兄貴、急いでねー!」

「へいへいっと。ちなみに朝飯は?」

「フレンチトースト!」

「……なるほど、それも起こしてきた理由か」


 メニュー的に、いつもなら起きてきたタイミングで母さんが焼いてくれるやつだな。まぁセルフの時もあるけど……この様子なら、これから晴香の分を焼くから、俺もまとめて一緒にってとこか。


「お腹空いたから、早く!」

「分かってるって。ちなみに、少しでもログインはした?」

「ううん! 今日はちょっと、寝坊気味だったのさー!」

「ん? なんか気になる事でもあったか?」

「……部活の件、少なからず緊張はあるのです!」

「あー、まぁそれはそうか」


 昨日の夜、直樹から部の人達が興味を示しているなんて伝えられたら……そりゃ緊張もするよな。晴香は図太いように思えて、実際はかなり繊細だから……その辺、ちょっと気を付けてやらないと。


「晴香的には、どんな交流の仕方がいい? ホームはこっちだから、状況は調整出来るぞ?」

「うー!? 悩むところだけど……少し、考えててもいいですか!?」

「別にいいけど、明日の昼くらいまでのは結論出しとけよー。クエストの進み具合次第では、明日の夜に交流会って可能性もあるからな」

「はーい!」


 今の緊急クエストが明日の夜まで続くかどうか、そこが分かれ目なんだよな。終了時刻が明言されてないから、日付が変わる頃とも断言出来ん! 開始が19時だったから、終了も19時って可能性もあるし……これ、ちょっといったんに聞いてみますかね?

 まぁともかく、今は朝飯を食ってきますか! そうしないと、父さんと母さんが出掛けられないしね。



 ◇ ◇ ◇



 ササっと朝飯のフレンチトーストを食べ終え、新しく設置した食洗機に片付けは任せ、ログイン開始! 自室の鍵はしっかりと閉めて……正直、この鍵にそれほどメリットを感じないなー。

 起きるつもりの10時より前にログインする事になったけど、まぁ早くなる分には問題ないだろ。少なくとも、今日は寝坊がどうとか言われる心配はない!


 という事で、いつものいったんのいるログイン場面にやってきた。今の胴体には『緊急クエスト【謎の飛行物の落とし物】はどんどん進行中! レアアイテムだけではなく、進行に有利なアイテムの出現も!?』と書いてあるけど……特に変化なし?

 あ、そういや……進捗は教えてくれないけど、掲示板にあったこっちの方向からなら、何か分かるんじゃね?


「いったん、昨日の夜から今までに『追憶の実』に何か追加された?」

「特に、その期間では追加はないよ〜」

「……なるほど」


 となると、演出はどこでも発生はしてない訳か。あ、これも気になるから、聞いてみよ。


「もう1つ、質問。『追憶の実』は状況次第では置き換え処理が発生するって掲示板で見たけど……その場面の当事者の場合はどうなるんだ?」

「当事者の場合は、その時の状況が記録されているから、そのままあった通りの光景になるね〜。それ以外の改造時のやり取りは、そもそも『追憶の実』に演出は用意されてないね〜」

「あー、そういう感じか」


 ふむふむ、イベント進行のフラグになった部分は『追憶の実』に保存されてて、関係者は実際にあった光景が見れるんだな。それ以外の改造は、そもそも何回もあるから根本的に対象外か。まぁ妥当なとこだね。


「その辺は分かった。あと1つ確認なんだけど……今回のイベントって、終了時間はいつになる?」

「それは、まだ出せない内容だね〜!」

「……なるほど」


 この解答なら……終わる時間は明確に決まっていない? いや、『まだ出せない』だから、時間が経てば告知するという認識の方が近いか。

 んー、まぁこれは待たなきゃ分からないな。もしかすると、今日の19時辺りに更新されるお知らせ内容かもしれないしね。


「スクショの承諾をする時間はある〜?」

「あー、大丈夫だぞ」

「それなら、承諾をお願いします〜!」

「ほいよっと」


 まだ予定している集合時間よりも早いんだし、今のうちにサクッと確認してしまおう。多分、昨日の夜なら……結構な数がきてそうな予感がするしさ。


 ふむふむ、今のタイミングでも常闇の洞窟に行ってた時の承諾はくるんだな。まぁこれは、いつ承諾を送るかって問題もあるんだろうけどさ。


 あー、やっぱり、昨日の広野エリアでのフィールドボス戦はスクショが撮られまくってるな。これ、俺は川の中にいたから控えめだけど、川の上にいたアル達はもっと大量に撮られてそうだよね。

 あ、昨日もあったけど、UFOと間違えられた時のスクショの承諾がきてる。……これがきてるって事は、正体がプレイヤーって証なのでは? いや、全員が全員、あの様子を撮ってる訳でもないし、中々説明は難しいか。まぁともかく、処理はこれでいこう。


「今回も、全部承諾で!」

「はいはい〜! そのように処理しておきます〜。それと、今日のログインボーナスをどうぞ〜!」

「サンキュー! おし、それじゃコケでログインをよろしく!」

「はいはい〜! 今日も楽しんでいってね〜!」

「ほいよっと!」


 いつも通りの処理を経て、いざログイン開始! いったんの反応を見る限り、まだクエストの進捗は止まったままのようだけど……まず、その辺の確認からやっていきますか! いや、確認ってまともに出来るのかな? んー、なんとも言えん!



 ◇ ◇ ◇



 いったんに見送られて、ゲーム内へとやってきた。今日は昼の日で、ログインした場所は昨日ログアウトした『名も無き未開の山岳』に入ったばかりの場所。まぁ要は山の麓っすなー。

 とりあえず、忘れないうちにサクッとログインボーナスを貰っとこ。


<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>

<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>


 よし、これで今日の分は確保完了。さて、誰か周囲に――


「あれ? ケイが思ったより早いかな?」

「あ、本当だ。ハーレよりも早いの、珍しいね?」


 おっと、すぐ近くに見知ったクマとハチを発見。もうログインしてたとは、早いっすなー。


「おっす、サヤ、ヨッシさん。ぶっちゃけ、ハーレさんに起こされたんだけどな……」

「え、そうなのかな!?」

「……別に、時間的にはまだ余裕だよね?」

「まぁうちの両親の都合で起こされただけなんだけど……肝心のハーレさんは、どこだ……?」


 食洗機の力で、俺が遅れてログインという事はなくなったけども……それでもほぼ同時に、それぞれの自室へと入っていたはず。

 ちょっといったんの所でゆっくりめにしてたとはいえ、ハーレさんの方が遅いとは……いや、もしかしたら今、他の人へのスクショの承諾申請を出してるのかも?


「ハーレは、多分スクショの申請だろうね」

「少ししたら、ログインしてくるかな!」

「やっぱ、そんなとこだよなー。まぁハーレさんはいいとして……サヤとヨッシさんも早めだな?」


 今回の集合場所は、この場なんだから……あんまり早くにログインしても、全員揃うまでは大して移動は出来ないんだけどなー? まぁ登録しているのは『転移の実』の方だから、余分に1個消費すれば、すぐに転移してこれるけど……。


「特に、これといった理由もないんだけどね? まぁちょっと早く起きちゃったから、先にログインした感じ」

「私も似たようなものかな? あと、ハーレから話があるとも言ってたよ」

「なるほど、昨日の夜の件か……」

「「夜の件?」」


 サヤとヨッシさんのこの反応、昨日の直樹からの話はまだ聞いてなさそうだね。うーん、これは俺から話してもいいのか、それともハーレさんが話すべきか……中々に判断が難しい。

 ん? 悩んでたら、少し離れたところに赤いリスの姿が見えた。今、その隣の木の上から飛び降りてきたっぽい? あ、こっちに気付いて近付いてきたね。


「およ? ケイさん達、早いねー!」

「レナさん、おはようかな!」

「おはよう、レナさん!」

「おっす、レナさん! そういうレナさんこそ、早いな? まだ集合時間、30分前だぞ?」

「わたしはわたしでちょっと目的があったんだけど……ケイさんがいたなら丁度いいね! みんなにちょっと意見を聞こうと思ってたしさ。掲示板で、『侵食』の察知に引っ掛からない謎のUFOが話題になってたのは知ってる?」

「あっ! それ、私も見たかな!」

「私も見たよ。知らないところで、知らないものが見つかってたんだね」

「およ? その感じだと、みんなでも知らない情報?」


 あ、やばい! その件、完全に誤解なんだけど、もの凄く言いにくい雰囲気になって――


「ケイ? 何が誤解なのかな?」

「そこで慌てるって、ケイさん、実は何か関わってるの?」

「およ? それなら、是非とも聞かせてほしいなー?」

「話す! 話すから、妙に責めるような近付き方は勘弁して!?」


 この反応、疑問に思ってる反応じゃなくて、どういうやらかしをしたかの詰問に近いものを感じるんだけど!? ……まぁ、やらかしなのは間違いないけどさ。

 くっ!? なんでこういう時に限って、ハーレさんがいない!? あの時、一緒にいたってのにさ!?



 ◇ ◇ ◇



 微妙な居心地の悪さを感じながら、昨日の18時台に森林深部であった出来事の説明をし終えた。……あれー? 予想外に話題になってるけど、そもそもあれってやらかしになるのか?

 そもそも、あれってサヤ達には報告してた内容だし……いや、それでも掲示板であんな風に話題とは思わなかった!


「あらら、あの謎のUFOの正体、ケイさん達だったんだ。そういえば、間違って襲われたとは言ってたもんね。そっかー、あれがあんな形に広まっちゃってたかー」

「……あの件で、とんでもない誤解が発生してるかな」

「あはは、そんな事ってあるんだね。まぁ正体不明だと、タイミング的に他の種類のUFOかもって思うのも分かるかも?」


 本当、ああいう誤解が発生するとは、全然考えてなかったよ……。でも、ヨッシさんの言う事も理屈としては分かる! いきなりの発見だっただろうし、偽装という意味ではUFOのステルスと似たような事はしてたんだからなー。『Ⅰ型』のUFOと間違われた程度に思ってたけど、まさか未知のUFOなんて解釈になるとは……想定外過ぎた。


「レナさん、今の件……まとめに訂正記事を用意してもらうって事は出来る?」

「んー、出来るのは出来るけど……効果があるかは、また別問題だよ? 今、まとめの編集自体が鈍り気味だし、閲覧数も普段より少なめだからさ」

「……マジで? てか、閲覧数とか見れたの!?」

「うん、ほら右下の方に『閲覧数の確認』って項目があるでしょ?」

「あ、マジだ」


 てか、まとめの更新自体がすごい少ない。最新の新着、昨日の俺らの、新エリアでの命名クエストの法則に関するヤツじゃん!


「昨日の命名クエスト関係のも、普段よりも閲覧数がガクッと落ちてるんだよねー。まぁ緊急性の高い内容じゃないし、知ってても劇的に効果が出る類いのものでもないから、別にいいんだけど……今、訂正の為の情報を拡散するなら、伝手が必要だろうねー」

「この状態なら、そうなりますよねー!? ……レナさん、情報の拡散を頼めない? 流石に無駄情報だと分かってるのに、そのまま放置するのは心苦しい……」

「んー? わたしとしては、このまま放置でもいいと思うよ?」

「……へ? え、なんで?」

「だってほら、単純に言えば……咄嗟の事とはいえ、確認不足が原因じゃない? それに、スクショの承諾にもきてたんでしょ?」

「まぁ、それは確かにそうだけど……」

「ちょっと群集のまとめ役や、ケイさん達みたいな重要な情報源に頼りっ切りな部分がある感じだから、この際、とことん勘違いさせといたらいいと思うよ」


 あー、確かにそれは……否定出来ない部分だな。実際、学生組がいない時には明確に弱体化してたんだから、観察力や洞察力を鍛えるのにはいい機会かも?


「それに……」

「……それに?」

「あくまで、『Ⅰ型』や『Ⅱ型』はクオーツが知ってるだけだからね。本当に未知の『Ⅲ型』なんてのも出てくる可能性はあるから、その訓練をしたとでも思っとくといいよ!」

「……なるほど、そういう考え方もありか」


 プレイヤーの偽装だと見抜けるだけの要因はあったんだし、誤解した状況が……まだ未知の何かに備える事にもなるのは確かだよな。ここで無理して誤情報だったと拡散して、変に気を緩めさせるよりは、そのまま未知の何かがいるとして警戒させた方がいいのかもね。

 出来れば、自分達で違和感に気付いて、訂正の情報を流せるようになるのが理想? 掲示板の情報をそのまま鵜呑みにするのが危険っていうのも、実体験としてはいいのかも。てか、あの時って……今とは形は違っても、同じようなことを考えてたような?


 んー、でもまぁ俺だけがやった事じゃないし、せめてハーレさんがログインしてから、どうするか決めようか。てか、妙にログイン遅いな!? 一体、何やってんの!?

 




――――


予想外に体調を崩して、1週間ほど遅れましたが連載再開です!


腕に出た帯状疱疹、地味に痛かった……。

体調には気を付けないとですね。




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