第1561話 川底のモノ
少し上流の川底に、何かが沈んでいるのをサヤとハーレさんが確認した。でも、確実にUFOとも言い切れず、完全体の徘徊種の可能性もあるから……警戒して、近付いてきた。
「これ、どう見てもUFOじゃないねー。かといって、擬態した個体でもない?」
「ちょっと大き過ぎて、全体像が分かんないんだけど!」
ほぼ真上までやってきたけども、水中にいるレナさんとリコリスさんからはそんな反応。上から見ても……何なのかがよく分からん!
「サイズ的には、『Ⅰ型』のUFOと同じくらいのサイズかな?」
「それくらいなのさー! でも、何かはさっぱり分かりません! 手足は見えないし……レナさん、どんな質感ですか!?」
「んー、流石に触るのは危険だから触らないけど……ツルッとした感じかな? リコリスさん、左からグルッと回って観察してみて。わたしは右から回ってみるから」
「それしかなさそうだねー。これ、本当に何だろ?」
俺らのメンバーの中で、特に観察力に優れた4人でも正体が掴めない相手か。川の上からだと大きな何かが沈んでいる程度にしか見えないけど……水中からでも、把握し切れないのは厳しいな。
「アル、これってなんだと思う?」
「オンライン版のモンエボだと、何が実装されてるか予想が出来んが……このサイズ感で、完全体の徘徊種の可能性を考えると……思い当たるのは『蜃』か」
「はい! その『シン』ってなんですか!?」
なんだ、そりゃ? ハーレさんも分かってない様子だけど、俺もさっぱり分からない内容なんだが?
「あっ! 伝説にある大ハマグリの『蜃』! そっか、この形、二枚貝の半分だけが見えてる状態っぽいかも!」
「え!? レナさん、これ、貝なの!? 大き過ぎない!?」
「リコリスさん、知識が甘いね! 『蜃』っていうのは、『蜃気楼』を引き起こす大ハマグリで……なんで、淡水の川にいるかは置いとくとして……まぁ巨大な二枚貝なんだよ!」
「字としては、『蜃気楼』の『蜃』になるな。東洋系の竜って説もあったりするが……この状況で思い当たる節としては、そんな存在くらいだ」
「なんで竜と巨大ハマグリが、一緒な説になるんだ?」
「そこはよく分からんが……そういうのが、リアルの伝説上に存在するってのは確実だ。アサリやハマグリは種族として存在してるし、その大型化の進化の先がこれという可能性は高いだろうよ」
「……なるほど」
二枚貝の進化先として、こんな巨大貝が存在する可能性はあるんだな。でも、流石に『Ⅰ型』のUFOに相当するってデカくなり過ぎじゃね?
あー、でも徘徊種の空飛ぶクラゲで、もっとデカいのもいたっけな。それを考えれば、このサイズの貝がいても不思議じゃない?
「ねぇねぇ! これ、識別してもいい!? もの凄く、識別内容が気になる!」
「やめておけ、リコリス。擬態をしている様子がないなら……十中八九、それは襲ってくるタイプの徘徊種の完全体だ」
「……襲われて、壊滅の可能性が出てくるよ?」
「えー!? 少しくらい死んでも良くない? こんな謎生物、中々にレアだと思うんだけど! なんなら、襲ってくる様子のスクショも撮りたいくらいだし!」
これだけ巨大な貝が、どうやって動くのかは……確かに気になる。でも、全滅の危険を考えるとなー。流石にやっていいと許可は――
「ケイさん! 私が1人で死ぬ分には問題ないよね!?」
無茶を言い出したな、リコリスさん!? いやでも、徘徊種に襲われる範囲はPTや連結PTを組んでるメンバーまでだし、PTから抜ければ、俺らに被害を出さずに確認する事は出来るか。
それに、徘徊種だからといっても、必ずしも襲ってくる個体ばかりではない。前に岩に擬態した成熟体の徘徊種が、見破ったら逃げたって事もあったしさ。……今回、擬態の個体じゃないけど、まぁリコリスさんがその気なら止める理由もないか。
「それなら、俺は別にいいけど……彼岸花さんとラジアータさんはどう?」
「……リコリスは、こう言い出したら聞かないよ」
「死ぬのは勝手にすればいいが……変に巻き添えは出すなよ?」
「ふふーん! 分かってるよ、ラジアータ! 後で、『仲間の呼び声』で引っ張ってきてねー!」
「そういう使い方もありか。まぁそれがどういうものか、俺も気にはなるからな。それくらいは引き受けよう」
「それじゃ、決定! 一旦、PTを抜けちゃうねー!」
あ、本当にササっとPTを抜けていったな、リコリスさん!? 死んだ後、合流する為に『仲間の呼び声』を使うつもりとは……期間限定のものが入手可能になってる今だからこそ、出来る事か。
「アル、川から離れとくぞ。変に巻き込まれたら、意味がないしさ」
「それもそうだな。正直、どういう動きをしてくるかさっぱり分からんし、離れておくのが無難か」
という事で、川から退避ー! 真上に飛んでくるなんて可能性も否定出来ないし、上から覗き込むのはなし! 水中だけで終わった場合は……まぁ後で聞けばいいだろ。
「リコリスさんの声は届かなくなっただろうから、わたしの方から状況を説明していくね。識別する前に、直接触りにいってるよ」
「おぉ!? 触ってるんだー!? それで、反応はどうですか!?」
「んー、今、思いっきり触れ……あれ? 素通りした?」
「はい? え、それって、どういう……?」
「……なるほど、その巨体自体が虚像か」
「多分、十六夜さんの読み通りだと思うよー! 本体、もうちょっと小さいのかも? あ、貝殻の中にリコリスさんが入っていっちゃった」
なんか、どんどんややこしい事になってない!? てか、識別するって話だったのに、先に触れにいくって無茶するなー!? いやまぁ、そうしたからこそ、虚像だって事が分かったんだろうけどさ。
「この川の様子自体が、虚像なの?」
「その可能性もありそうなのさー! リコリスさんが入ったっぽいタイミングで、なんかブレたもん!」
「さっきの嫌な予感、その辺が理由なのかな? 何かが通って、蜃気楼が歪んだ瞬間だったのかも……」
ふむふむ、サヤが警戒していたのってその歪みを見たからこそなのかもね。俺も歪みとは自覚出来てなかっただけで、違和感自体はあったからこそ、嫌な予感がしてたの――
「っ!? これ、そんな変化があるの!?」
ちょ!? 急に川の中から何かが飛び出て……って、竜が出てきてる!? なんで今、竜が……って、そういや、さっきアルが竜って説もあるとか言ってたっけ!?
でも、属性を持ってるような色ではないな? 黒に近めの灰色な体色に、全身に白い模様がある状態か。これ、もしかして物理型の竜になる? いや、貝? どっちだよ!?
「おー!? 一回り小さな巨大貝がいると思ったら、竜に姿が変わったよ! 『識別』!」
てか、思いっきり竜に握られているリコリスさんなんだけど……嬉々としてますなー。なるほど、リコリスさんはザックさん的な一面も持っていたんだね。
「名前、シンプルに『蜃』なんだ!? あ、潰れる!? 潰れるからー!? 潰されるー!?」
あ、ラジアータさんが岩を生成して、彼岸花さんとレナさんを連れて、追いかけるように水中から出てきたね。そりゃまぁ空中に戦場が変われば、そっちへ移動してくるか。
そして、リコリスさんを握っている竜の手がかなり早く明滅する銀光を放ち出したし、思いっきり握り潰そうとしてますなー。
何気に白光まで出てるから、白の刻印での強化も追加されてる状態か。溜めながら攻撃をしてるような様子もあるし、俺のロブスターの『万力鋏』に似た性能っぽい? いや、応用連携スキルなだけか?
「なぁ、アル? 握り潰す攻撃って、あったんだな?」
「前からあるにはあるが、あれはサイズ的に使える種族はそう多くないからな。ケイのロブスターのハサミ専用のスキルみたいなもんで……確か、必須な特性は『豪腕』と『大型』が必要なはずだ」
「あー、なるほど」
特性『豪腕』はハーレさんのリスも持ってるけど……まぁサイズ的に、相手を握り潰すのは無理だもんな。特性『大型』が必須なのは、普通に納得。
「みんなー! これ、完全体の徘徊種なのは確定ねー! 巨大ハマグリと竜の2つの姿を併せ持つ特殊な個体――」
そこでリコリスさんのHPが尽きて、ポリゴンとなって砕け散っていった。うん、流石は完全体の徘徊種、敵に回せば容赦がないな……。
今のリコリスさんの最後の言葉だけじゃ、貝なのか、竜なのかよく分からんけど……竜が貝に見えるような偽装手段を持ってるとか、そういう感じか? いや、なんか違う気もする?
「あ、川に戻っていくかな!」
「竜になってる間に消えてた巨大な貝の姿に戻ったのさー!? はっ!? 上流に移動し始めたのです!?」
うーん、川底に戻った後だとはっきりとした姿は見えないけど……確かに大きな塊が、上流へ動いていってるのは見えるな。
「今、思ったんだけど……みんなが川で探索してないの、今の徘徊種が原因じゃない?」
「なるほど……。確かに、その可能性は高いか」
「確かに、こんなのがいたらそうなるよなー」
ヨッシさんの言う通り、迂闊に触れれば即アウトなレベルのこんな徘徊種がいるのなら、そりゃ避けるよ。俺の水がこの巨大貝に触れていたら……そのまま全滅もあり得たのかも? そう考えると、ゾッとするな!?
「さて、リコリスを呼び戻すか」
「あ、ラジアータ、それは必要ないよー!」
「……おい、なんでもういる?」
「あはは、ランダムリスポーン先、すぐ近くだった!」
「……ラッキーだったね」
「そうそう、ラッキーなんだよね! あ、PTに戻してー!」
「……はい、どうぞ」
「ありがと、彼岸花!」
普通に近場の草むらから顔を出してきたリコリスさんだけど、運良く近くで復活したようである。すぐにPTにも戻ってきたし、まぁ完全体の徘徊種を相手にした後としては平穏な結果なのかもね。
「いやー、色々とびっくりだね! あんなに姿形が変わる個体がいるとは思ってなかったよ!」
「……興味深かった」
「まぁ死ぬだけの価値はあってよかったか」
「ふふーん! そうでしょうとも! あ、ちなみに属性は何もなくて、特性が『徘徊』『堅牢』『強靭』『硬殻』『豪腕』『二形態』って構成だったよ! 完全に物理特化!」
「なるほど、そういう感じか。あれって結局、貝? それとも竜?」
「ケイさん、そこは両方だと思うよ。多分、攻撃形態と防御形態で分かれてるんじゃない?」
「やっぱり、そういう判断になってきますよねー!」
モチーフとなっている『蜃』とやらにも、巨大ハマグリと竜の姿の両方に由来があるそうだしな。それに合わせた調整をしてきてる可能性の方が高い――
「はい! あれの進化ルートが気になります!?」
「貝からなのか、竜からなのか、どっちかな?」
「融合種や合成種って可能性もあるんじゃない?」
「……どっちも……可能性は……ありそう?」
あれの進化ルートかー。融合進化でも合成進化でも、組み合わせによっては同じ変異進化が発生する可能性はあったはずだし、その辺な気はするね。
ただ、物理型の竜ってかなり珍しい気がするけど……まぁバランス型の竜は作れるんだし、作れない事はないはず! 物理型の竜への進化条件、知らんけど!
「ふー、片付いたぜ! ケイさん、そっちも面白い事になってたみたいだな!」
「まぁなー。変な完全体の徘徊種が出てきたもんだけど……紅焔さんの方は、何があったんだ? 話す余裕、なかったっぽいけど……」
「『湖底森』で、落下物から成熟体のフィールドボスが出てきててな! いやー、何気にちょっと育ってて、少し焦ったぜ!」
「マジか!?」
「マジ、マジ! 放置する訳にもいかんから、大慌てで対処してよ! どこの誰が生み出した個体か知らんけど、雷属性特化の魔法型とか、場所との相性最悪でな!」
湖底森って薄っすらと地面が水で覆われれたはずだよな? そこに雷属性持ちのフィールドボスって、凄い厄介な構成じゃん!?
というか、成熟体のフィールドボスが黎明の地に運ばれてるのは厄介過ぎない!? いや、待てよ? 紅焔さんは、生み出した個体って言ってたし――
「およ? それ、瘴気強化種だったの?」
「おう、そうなるぜ! 天然のフィールドボスの証は、黒の暴走種である事だよな?」
「うん、それで間違いないよ! んー、どこの誰が、放置しちゃった個体なのかな? 流石に天然のを持っていかれると、命名クエストがおかしな事になっちゃうし……」
あ、レナさんもそこは気になったのか。うーん、天然産と人工的なフィールドボスでは、扱いに差が出る可能性はあるよな? そうじゃないと、本当に命名クエストがおかしくなっちゃうし……。
「あ、そういや種族は?」
「ワシになってたから、タカから大型化の進化をした個体だね。向こうも飛ぶもんだから、僕らでも苦戦してさ」
「飛ぶ上に、地面へ降りるのを封じてくるのは厄介でしたね」
「あの強さを見た限り、生み出したはいいものの倒し切れず、返り討ちにあって放置されたパターンだろうよ」
「5人で倒すのは、厳し過ぎた! Lv20まで育ってたし!」
うへぇ……大型の鳥かつ雷属性持ち、その上で水場の多いエリアで、Lv20ってとんでもないな!? フィールドボスの最低Lvが16だから、Lv4も上がるほど暴れまくってた個体か? まだ、最低限以上にLvを上乗せして生み出すのは得策じゃない段階だしな。
スズメと松の木で共生進化をしているライルさん以外は単独進化で、Lv17くらいまでは育ってるけどさ。それでもLv20には届かないんだし、そもそも5人でフィールドボスは厳しかったはず……。
「あ、もしかして、現地に誰か共闘出来る人でもいた?」
「おっ! ケイさん、正解だ! あれだ、濡れたらスリムさん……というか、青のサファリ同盟の連結PTがいてな! 向こうにも空きがなかったから、お互いに当てないように気を付けながらの共闘だったぜ!」
「だから、返事する余裕がなくてね。どうも、青の群集の誰かが生み出して、手に負えなくなってた個体らしくてさ。昨日辺りから見えなくなってたから、誰かが倒したものと思ってたらそうなんだけど……」
「それが、落下物から出現……という形ですね。青のサファリ同盟の方々とは、平和的に落下物を分け合っていた最中だったのですが……」
「あー、状況は何となく把握。そりゃ他の事に集中力を割くのは無理だよな」
誕生させて手に負えなくしてたの、青の群集かい! 昨日の時点でUFOに捕まったと考えて良さそうだな。目立つ個体だからこそ、いつ頃からいなくなったかが把握出来てたっぽいね。
そして、生み出したフィールドボスならエリア間の移動も可能と……。天然のフィールドボスがエリア間で移動させられるかどうかって、確認の手段あるの? その実例が出ない限り、確定出来ない内容に――
「まぁ何とか倒せたから、結果オーライだな! で、ケイさん、何の用だったんだ?」
「今日、何時までやるかって話と、明日をどうするかの話だな」
「あー、そういう話か! って、いつの間にか、かなり時間が経ってねぇ!?」
多分、それなりに長期戦をしてて、時間を見てなかった……というより、その余裕がなかったんだろうな。まぁ改めて、その辺の話をしていくとして……。
「アル、とりあえず移動再開! リコリスさん、あの『蜃』って完全体は上流に向かっていってたから、ここから先は水中での移動は無しで。気付けないって事はないと思うけど、あんまりリスクは取りたくない」
「全員、川の上で移動だな? 了解だ」
「はいはーい! あんなのがこの先にもまたいる可能性があるなら、そりゃ危ないよねー!」
「その話、もうちょい詳しく聞かせてくれ! 最後の方は、チラッと聞こえてたから、かなり気になっててよ!」
「先に、そっちの話をしますかねー」
どうやら紅焔さんが興味津々のようだし、移動しながらさっきの状況を話していきますか。今日のログアウトが差し迫ってはいなさそうだし、順番に話していけばいいだろ。
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