第1562話 2つの姿


 川の上を移動しながら、紅焔さん達にさっき出てきた完全体の徘徊種の話をしていった。ほんと、変わった種族がいたもんだよなー。


「そんな変わったのが、いたのか!」

「『蜃』ですか。そういう巨大ハマグリの話は聞いた事がありますが……まさか、完全体で進化が可能だとは思いませんでしたね」

「その『二形態』って特性は、他にも持ってる種族はいるのかい?」

「どうなんだろうな? 複数の姿を持つ、伝説上の生物ならあり得そうだが……」

「ソラ、いきなりそう言われても、ピンと来ないんだけど!?」


 あー、確かに他にもそういうモチーフがあれば……って、ちょい待った!?


「コイコクさんがやってたコイから竜への変質進化が、それになるんじゃ?」

「あっ! 確かに、言われてみればそうかな!?」

「既に似たようなのを見てたのさー!?」

「あれの完成系が、特性『二形態』になるの?」

「可能性としてはあり得るな。水中形態と飛行形態の両方を持つと考えれば、成立しそうなものではある」

「だよなー!」


 パッと浮かんだ光景だったけど、滝を昇るという条件が消えて、いつでも形態変更が可能になるって可能性は秘めているはず! ハマグリが竜になるより、よっぽど自然な感じだし!


「あー、コイコクさんっていうと、あれか? ケイさん達が引き込んだっていう、インクアイリー絡みの料理集団? いまいち、話の内容が掴めねぇんだが……」

「そうそう、その人達のリーダーだな。コイなんだけど、滝を昇って泳ぎ切ったら、竜へと変質進化するんだよ」

「それ自体が、すげぇ話だな!? あー、でもコイの滝登りでの進化は、オフライン版でもあった要素だし……そう考えると、極端に変な話でもないか!」

「そういう事だなー」


 オフライン版での特殊進化で存在してた要素ではあるんだし、それを特性『二形態』って形で実現している可能性はある。まぁ絶対にそうだとも言い切れないけどさ。


「……ふと思ったが、完全体になれば融合種の主体の変更が可能になる可能性もあるんじゃないか?」

「十六夜さん、流石にそれはややこしくね?」


 任意で切り替えられたら面白そうな要素ではあるけども……融合進化は、進化した際にスキルの統合と改変があるからなー。その辺のスキルの扱いが、かなり面倒な事になりそうな予感?

 いや、それが面倒なら形態を切り替えなきゃいいだけか。んー、可能性として考えるのなら、面白い発想ではあるのかも?

 ベスタとか、今はオオカミが主体だけど、コケで形作られたオオカミに変化するって……あれ? それだと、さっきのハマグリと竜の形態変化とは全然違うものな気がする? 


「……確かに、そこは違和感があるか。今のは、なかった事にしてくれ」

「可能性としては、面白そうなんだけどなー」


 ベスタを例に考えてみたら、全然違うように思えたんだから仕方ない。また思いっきり声に出てたっぽいけど……修正が入るまで、もう諦めるしかないっすよねー。


「……他の動物と混ざってるのは色々思いつくけど、他の姿に入れ替わるのは……全然、思い付かないね」

「んー、由来が複数ある伝説の生物……確かに、全然思い付かないや!」

「ヴァンパイアなら思いついたが、あれは人型だしな。オフライン版では、コウモリの人類種だったか」

「あー、まぁそうだよなー」


 ヴァンパイアには無数のコウモリが集まって登場するってイメージはあるけど、オフライン版で超越体での人類種だったから、今回のパターンとは間違いなく別物。

 色々考えてみてるけど……あんまり、あの手の系統は数がいないのかもね。


「これ、モンエボでどう解釈されるか次第なんだけど……バハムートは変則的だけど、該当しそうかも?」

「はい! レナさん、それってどういう意味ですか!? バハムートって、ドラゴンだよね!?」

「その認識、決して間違ってるとは言えないんだけど……原典を考えると、そうじゃないんだよね。ドラゴンのイメージが強いけど、あれってゲームで出来たイメージでさ? 大元は、巨大な魚なんだよね。もしくはクジラ?」

「え、そうなの!?」

「……割と有名な話だな。昔の大手のゲームでドラゴンとして定着して、原型とはかけ離れたパターンだ」

「そうそう、そういうやつ。スライムなんかも、雑魚敵で認識されちゃってるとかもあるからね」


 あー、ゲームで本来のイメージから離れた姿で固定化されたって話か。バハムートは、確かにそういう話題はどこだったかで聞いた事はあるなー。

 スライムも不定形なんだから……モンエボで出てくるスライムは、雑魚敵ではない方か。HPがない種族になるんだし、むしろ特定条件で異常に強くなるパターン。でも、それって……。


「その辺、運営の匙加減次第じゃね?」

「まぁそうなんだけどねー。でも、ここの運営なら、巨大魚とドラゴンの形態を変えられる『バハムート』を用意してきても、正直驚かないよ?」

「わっはっは! 確かに、ここの運営はやりそうだな!」

「……否定は……出来ないかも?」

「……あり得る話だな」


 解釈違いで全くの別の姿になっているのを、1つの種族として扱うって……うん、モンエボの運営なら本当にやりそうだ。進化条件、さっぱり予想が出来んけど!


「あ、他にもリヴァイアサンとかなら、別の姿はあり得るかも? あれ、細長い東洋系の竜みたいなイメージもあるけど、クジラや巨大魚のパターンもあるからさ。確か、ワニってパターンもあったはず?」

「あー、そっちもか!」


 サヤのタツノオトシゴから、大海蛇への進化はあったし……多分、あれはシーサーペントなんだろうけど、リヴァイアサンのイメージって細長い東洋系の水の竜だもんな。

 シーサーペントと巨大魚……いや、ここの運営ならワニにしてきそうな気がするな? この形態変化がある可能性も、十分ありそうだ。

 こう考えてみると……多くはないけど、いくらか同じようなパターンは存在してるんだな。相変わらず、進化条件は謎なままだけど……これ、実際に試せるようになるまで、謎なんだろうね。確認する手段、まだ無いしさ。


「なんか、ドラゴン関係が多い気がするのです!?」

「まぁ架空の生物だから、どうしてもそういう事が起きるんだろうねー。でも、色々と想像出来て、完全体が楽しみじゃない?」

「はっ!? 確かにそうなのさー!」


 まぁ確かに、さっきの『蜃』って完全体の徘徊種を見るまでは、全く考えていなかった方向性だもんな。レナさんの言う通り、今後が興味深くなったのは間違いない。


「ところで、脱線しているけど……時間の話はいいのかい?」

「全然よくねぇな!? ソラ、ナイスだ!」


 あ、いつの間にか23時が目前に迫ってるし……レーダーを見てたから、周囲の確認が疎かになってたよ。もう、かなり川が細くなってきて、広野エリアの南端が近いじゃん!

 相変わらず、エリアが変わらないと先のエリアの詳細は見渡せない仕様か。この辺、普通に森の中になってるけどさ……。


「俺らは、山岳エリアに到着したら解散予定なんだけど……もう到着しそうだなー。紅焔さん達はどうする?」

「あー、今日は俺らも終わりにしとくわ! 連休だし、下手にログイン制限に引っ掛かっても嫌だしよ。それで、明日はどうすんの?」

「全員で揃って動くのは、今日と同じで昼からの予定にしたいんだけど……紅焔さん達は、それでいける?」

「問題ねぇぜ! てか、その辺の話は俺らの方でもしてたからよ!」

「僕とライルが、明日の午前中は都合が悪いんだけど……昼からなら、支障はなさそうだね」

「後から合流を考えていましたが、問題なさそうで助かります」

「ケイさん、昼からってのは了解したが……具体的に何時からだ?」


 まぁその辺を決めたかったから、辛子さんがこうして聞いてくれるのは助かるね。個別にログインするのは集合時間より早めでいいとして、その上で余裕を持たせるのなら……。


「今日と同じで14時に、桜花さんのとこで集合でどう?」

「飛翔連隊は、それで問題ねぇぜ!」

「……曼珠沙華も、同じく」

「……桜花は……いける?」

「おう、問題ないな。風音さんも、問題ないか?」

「……うん……大丈夫!」

「……俺も、その時間で問題はない」

「わたしもそれで大丈夫だよ!」


 特に異論は出てないし、サヤ達も頷いているから大丈夫そう――


<命名クエスト『命名せよ:名も無き未開の広野』が完了しました>

<『名も無き未開の広野』を改め『タシュー・タヨーウ』へと名称が変更になりました>


 あ、命名クエストが終わった……って、結果はそれか!?


「おぉ!? ネタ選択肢に決まったのさー!」

「あはは、まぁそういう時もあるよね」

「みんな、悪ノリが好きそうかな!?」

「ま、多数決で決まった事だしな。これはこれで、覚えやすくていいんじゃないか?」

「確かに、覚えやすくはあるけど……ちょいちょい、ネタエリア名になっていくよなー」


 命名クエストは多数決で決まるんだから、文句を言う事でもないんだけど……まぁいいや。命名クエストが、先に進む前に終わったって事で良しとしよう!


「命名クエスト、終わり! それじゃ、山岳エリアへ入っていこー!」

「……もうすぐ23時だし、そこまで行って、転移の登録をして終わり?」

「今日はそんなとこまでか。ケイさん、それでいいよな?」

「それで問題なし! アル、山岳エリアへ突っ込め!」

「おうよ!」


 という事で、今日の最後の事をやっていこう! この先の山岳エリア、どんな風になってるんだろうね? ここまではそれほど高度は極端に上がってないけど……これ、川の源流はどうなってるんだろ?


<『タシュー・タヨーウ』から『名も無き未開の山岳』に移動しました>


 さて、エリアを移動してみれば……あー、こういう感じか! なるほど、エリアが切り替わってみないと、様子は本当に分からんもんだね。


「おぉ!? 木は少ないけど緑に覆われた山があるのです!」

「川は、東の方に続いてるかな?」

「そっちの方は、この周辺と同じで森があるみたいだね。標高が高くなれば、木々が減っているみたい?」

「そうみたいだが……まぁその辺は、また明日だな」

「だなー。各自、『転移の実』に登録しておいてくれ! 明日、ここから再開する可能性もあるから!」


 ここからか、原野からか、どっちから始めるかは明日になってから決める事。今はその選択肢を増やす為に、登録をしていきますか!

 みんな、それぞれに地面に降りて、エリア移動をしてきた場所を避けつつ、外れの方で登録していってるね。俺もやっていこ。……よし、この辺でいいか。


<『転移の実』を使用しますか?> 


 ここ専用にスタックを分けておいて、登録開始! よし、根が張って、花が咲いて、実になって……登録完了! 使い捨てではあるけど、これで転移してこれるね。


 それにしても……途中から、レーダーにはロクな反応がなかったもんだよなー。反応自体はあるにはあったけど、川の中には皆無だったから、ほぼ雑談をしてたしさ。

 あの完全体の徘徊種を再発見する事もなかったけど……どこに消えたんだか? もしかして、こっちの山岳エリアまで移動してきてる? うーん、可能性として、否定が出来ん……。


「ケイ、俺らは明日の午前中はどうする? 今日の午前中はやってないから、明日は問題なく出来るぞ」

「あ、そういやそれは決めてなかったっけ!? あー、それなら……10時くらいに、ここで集まる?」

「それでいいのさー!」

「うん! 問題ないかな!」

「私も大丈夫だよ!」

「ねぇねぇ、ケイさん? それ、わたしも大丈夫?」

「レナさんも一緒で問題ないぞ。おし、それじゃここに10時に集合って事で!」

「「「「おー!」」」」

「了解!」


 曼珠沙華や十六夜さん、桜花さんや風音さんは、ログイン制限を回避する為に午前中はログインを控えるけども、俺らは動いても問題ないからね。レナさんを加えた6人で、先に探索をしていくのでもいいだろ!


「はいはーい! 情報収集、お願いねー!」

「……午前中に、クエストは進展しないでほしい」

「そればっかりは、運だろう。居合わせられなければ、運が悪かったで諦めるしかないぞ?」

「……うん、それは分かってる」

「分かってても、そう思いたくはなるもんだよ! 分かってないなー、ラジアータは!」

「別に、気持ちが分からないと言った覚えはないんだがな……」


 あー、まぁいない間に展開が進んでいくのは、確かに俺も嫌だから、気持ちは分かる! 分かるけども、クエストの進行の鍵は――


「ケイさん、進行させられそうな時は、勝手に進めてくれて構わんぞ。俺らに配慮したところで、他所が進めれば意味がないからな」

「まぁその辺は運次第だなー。そもそも、次の進行は……プレイヤーのタイミングじゃ決められなさそうだし、そこはどうにもならないぞ?」

「ふふーん! 今は、進行を意図的に止めてる感じだもんね! 明日の朝までは進行するとは……あれ? ログイン時間の調整するの、明日じゃなくて今日の方がよかった!?」

「……それは、運営次第?」

「明日の午前中でも、進行はまだ止まっている可能性もあるが……それは実際になってみないと分からんからな」


 今日の夜は、全然進行する事はなかったし……運営の想定より、どのくらい早く進んでるか次第なんだよな。昼からなら全員揃って動き出せるし、クエストが進むならその後がいいんだけど……。


「その辺は、明日になるまで分からんなー。まぁとりあえず、今日はここで解散!」

「ケイ、寝坊するなよ?」

「しないっての!?」


 くっ!? とはいえ、休日は寝坊しがちだから……本当に気を付けよ。明日の10時なら、もうクエストの進行が再開してもおかしくないタイミングだしさ。

 ともかく、話してる間に『転移の実』の登録は済ませたから、明日はこれで何とかなるな。あ、そうだ。リスポーン位置の更新もしとこ。これ、明日の午前中には出番があるだろうしね。



 ◇ ◇ ◇



 止まっているクエストの再開のタイミングを気にしつつも、転移の実の登録を終えて、今日は解散。俺らは明日、あの山岳エリアから始めるから、その場でログアウトしてきた。

 そして、いつものいったんのいるログイン場面まで来ている。今のいったんの胴体は『緊急クエスト【謎の飛行物の落とし物】はどんどん進行中! レアアイテムだけではなく、進行に有利なアイテムの出現も!?』か。内容には特に変化ないし……進捗具合は、教えてくれないって言われたっけ。


「いったん、スクショの承諾はある?」

「うん、あるよ〜! 時間が大丈夫なら、承諾をよろしくお願いします〜」

「それなら、今やっとくわ」

「はいはい〜。それじゃ、よろしくお願いします〜」

「ほいよっと」


 いったんから変に聞き出すのは諦めて、後回しにしてたスクショの承諾をやっていこ。えーと、今来てるのは……あー、原野で派手に光らせた時のが、思いっきり撮られてる! まぁそりゃ、目立たせる為にやったあれは撮ってくるよね。

 ふむふむ、常闇の洞窟で動いてた時のスクショも結構あるな。弥生さんやシュウさんからも遭遇した時の様子が来てる……って、あの時、スクショ撮ってたんかい!


 他にも、並木で睨み合いになった時の様子なんかも撮られてるし……あっ!? 森林深部でUFOに間違われた時のまである!?

 あー、暗闇の中で微妙に目らしきものが映ってるから、そりゃステルスが不完全な状態だと思われても仕方ないな。他にも色々な場所で撮られてるし……。


「今回は、全部許可でいいや。いったん、それで処理をよろしく」

「全部許可だね〜! そう処理しておきます〜」


 今回は同じ灰の群集の人も対戦相手みたいなもんだし、一律で同じ処理にしておこう。全部拒否でもいいんだけど……正直、目立ちまくってるのは今更な事だしね。


「それじゃ、今日はここまでにしとくから、ログアウトで!」

「はいはい〜! 今日はお疲れ様〜! またのお越しをお待ちしております〜」

「ほいよっと」


 という事で、これで今日は終わり――


<システムメッセージ:メッセージを受信しました。表示しますか>


 ん? 直樹から、なんかメッセージが届いた? まぁ丁度ログアウトしたとこだし、すぐに内容を確認してみますか。これ、どういう用件なんだろ?




――――――


もう少しで第40章も終わりになりますので、その後に3週間ほどお休み期間に入ります。

再開は11月11日(月)からの予定です。

詳細は近況ノートにて!

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