第1560話 今更ながら
フィールドボスの水の竜との本格的な戦闘に入る前に片付けておいたレーダーを取り出して、落下物の反応を確認中。探知範囲を広範囲に設定して、反応を拾ってみてるけど……。
「南の方の、そこそこ離れた位置にあるっぽい?」
「確かにあるね! これ、川の中? レナさん、分かる?」
「んー、ここの川、結構蛇行してるからねー。この反応だけじゃ、ちょっと分かんないかも?」
「ですよねー」
反応が拾えるとはいっても、あくまで分かるのはある場所の方向のみ。マップ上に表示される訳でもなく、地形情報なんてのも皆無。まぁマップ上に表示されたとしても、踏破してない場所だから、どっちにしても地形は分からないけども。
「ケイ、レーダーが手に入った状態だし、川の上から反応を拾いつつ、上流に進んでいくのでいいんじゃねぇか? その方が、移動も早くなるだろ」
「まぁそれが無難だろうなー。アルのその案、採用で!」
おそらく、落下物の反応が拾えない所には墜落したUFOがある可能性は低い。水の操作で水中を探索しながらだと、どうしても移動に時間が掛かってるし、レーダーがある今なら無理にあの移動を続ける必要もないな。
ただ、クオーツの部品を持ってなくて接触不可って事もあるにはあるからね。UFOが沈んでいる可能性も、皆無とは言えない――
「えー? 川の中の探索、もう終わりなの!? 落下物がなくても、UFOが沈んでる可能性もあるんじゃない!? 見つけた人が全員、クオーツの部品を持ってるとは限らないよ?」
「まぁそれはそうなんだけど……可能性としては低いしさ」
「リコリス、そういう文句はなしだぞ」
「……かなり濁りも取れてきてるよ? この様子なら、割とすぐにUFOが沈んでても水面から見えそうだよ?」
「うー、そうだけど……」
リコリスさん的には、まだ水中探索を続けたいっぽいね。でも、俺の飛行鎧は再使用時間に入ってるし……彼岸花さんの言う通り、川の濁りもかなりマシになってきてるんだよな。
でも、万が一で見落とすなんてのは避けたいって気持ちも分かる。んー、これは何か妥協案を……あー、こうするか。
「リコリスさん、川の中の様子が落ち着くまでここで待機ってのはどう? 澄んで見えるようになってから、移動開始って事なら、見落としは出にくいよな?」
「あっ! それなら、アリかも!」
「あ、ケイさん、待って! ここの川、平常時でもそこまで澄み渡ってる訳じゃないよ!」
「え、マジで……?」
あー、でもここの川の川底って、石もあるにはあるけど、基本は土だったもんな。元々、そこまで澄み切って綺麗な川ではないのか。
「ふふーん! 多少の濁りがあろうとも、あれだけ大きなUFOが沈んでれば、影くらいは見落としはしない! レナさんともあろう人が、それを見落としちゃうの?」
「およ? 言うね、リコリスさん? そのレンズで上も警戒しつつだと大変だと思って、言ったんだけどなー?」
「大きく動き回ってない限り、その程度で同時作業は問題ないですよーだ! というか、レナさんは私に完全に任せっきりにする気だったんだ?」
「ごめんね? わたしの方、どうしても『侵食』の進化の軌跡の消費が激しくてさー? 同じ場所に戻ってくるのにも、『転移の実』を使ってるから、それなりに負担があってね」
ちょ!? なんかレナさんとリコリスさんが、火花を散らしてるんだけど!? てか、レナさんってそんな負担がある状態で『侵食』の察知をしてたんかい!
あー、よく考えたら、レナさんはアルにリスポーン位置を設定出来る訳じゃないし、『纏浄』での帳消しが出来るのも1回だけだもんな。何度もやろうとすれば、そりゃ負担もかかるか。
「……アル、なんでそういう負担がある状態で、レナさんに『侵食』の察知を任せてんの?」
「レナさん自身の希望だったんだよ。無理を言って後から参加させてもらったんだから、そのくらいはさせてくれって感じでな」
「あー、そういう……」
俺は川の中にいたから、その辺の会話は聞き流してしまってたんだと思うけど……そういう理由じゃ、突っぱねにくいよな。てっきり、途中で誰かが交代してるものかと思ってたけど……まさか、そうじゃなかったとはね。
とはいえ、それをこれ以上続けさせる訳にもいかないか。リコリスさんと張り合ってる様子のレナさんも珍しいけど……それも止めないとな。さて、どうしたもんか……。
「あー、流れも落ち着いてきてるし……リコリスさん、川の中から着いてくる? 上は、俺らの方で察知しとくからさ」
「およ!? ケイさん、それは――」
「レナさん、時間的に3回か4回は『侵食』を使ってるよな? それだけやってくれてたら十分だって!」
「ふっふっふ! 残り時間は、私達でやるのさー! 『纏浄』で帳消し、まだ出来るもん!」
「レナさん、ここは引いたらー? 変に意地を張るとこでもないよね?」
「それはそうだけど……リコリスさん、ここぞとばかりに攻めてくるね?」
「ふふーん! 今まで何度も煮え湯を飲まされてきたんだから、反撃出来る時にはしておかないとね!」
えーと、これってどういう状況? レナさんとリコリスさんが以前から面識があるのはなんとなく分かるんだけど……これまで、ここまでハッキリとこんな様子が見えてくる気配はなかったよな?
「彼岸花さん、ラジアータさん、ちょい質問。リコリスさんとレナさんって、何か因縁とかあったりする?」
「……リコリスは、レナさんもライバル視してるよ?」
「シュウさんや弥生さんとは別口でな。オフライン版のモンエボのスクショコンテストで、最優秀賞を掻っ攫われてから……まぁ観察力が関係してくれば、こんな様子になる」
「あー、そっち方面でのライバル意識か……」
強さ云々とはまた違う部分だから、シンプルに戦ってリベンジとはならないんだな。てか、リコリスさんって何気にサファリ系プレイヤーか!?
いや、でもその割にはリコリスさんの名前、オンライン版のスクショコンテストでは見かけてなかったような?
「うぐっ!? ケイさん、人が気にしてる事を! どうせ私は、全部予選落ちですよーだ!」
「およ? リコリスさん、出した上で落ちてたの?」
「そもそも、あの個人部門って無所属枠がないんだよ! 群集ごとに枠があったけど、無所属だと出す先が団体部門しかなかったの! インクアイリーにいる群集所属の人に紛れて出させてもらったけど、全然駄目だった!」
「あ、そういえばそっか! そうなるんだ!」
「うー! この悔しさ、分かってたまるかー!」
言われてみれば、確かにスクショのコンテストって群集ごとに賞が出てたもんな。無所属だと、団体部門でどこかの群集に混ざるしかなかったのか……。まさか、そんなとこにも無所属のデメリットがあったとはね。
「……リコリス、次は灰の群集で参加出来るよ?」
「そうだけど……そうなんだけど! あの時、運営に問い合わせても、スクショの受付窓口は群集拠点種になるから、群集の所属を検討して下さいって言われたのが腹立つー!」
「無所属は、それ相応のデメリットがあるのは分かってた事だがな。それでも群集に所属しないのを選んだんだから、今更文句を言っても仕方ないだろう」
「うっ!? 味方がどこにもいない!?」
リコリスさんの憤りも全く分からない訳じゃないけど、群集の色んな便利機能を捨てるのが無所属なんだしなー。受付窓口が群集拠点種だったんだし、その恩恵を受けたいなら群集に所属しろって運営の言葉も間違っちゃいない。
無所属って自分からそうなろうとしない限り、絶対にならない立場だしね。自ら捨てた権利に、文句を言うのは筋違いだよな。
「……自業自得?」
「うぐっ!? 風音さん、容赦ないね!?」
「……無所属は……そういうのも……承知の上……だよね?」
「風音さんも、元は無所属だからねー。リコリスさんの気持ちも分からなくはないけど、それでも風音さんの意見に同意だよ」
「うぅ!? 第2回のスクショコンテストの開催はいつ!? 次は確実に参加するから、そこで上にいってやる!」
「んー、まだ開催はそこそこ先だと思うけどね。多分、それより前に共闘イベントが来るでしょ」
「だろうな。というか、リコリス……そろそろ落ち着け」
「何さ、ラジアータ! 他人事だと思って――」
「実際、他人事だしな。それに、川の濁りが取れてきたぞ」
「あっ!? いつの間に!?」
あ、マジだ。なんか妙な流れになってる間に、川の流れの勢いも落ち着いて、濁りもかなり軽減してきたね。ただ、星空が反射してるから……これは上からじゃ水中が見辛いな。
「はいはーい! ケイさん、ちょっと水中の透明度、見てきていい? もし問題なさそうなら、私は下から着いていくから!」
「問題ないけど……まぁそれなら、彼岸花さんとラジアータさんも川の中に行ってもらっていいか? 一緒に動く人がいてくれた方が、万が一の時が安心だしさ」
「……分かった。リコリスが無茶しないよう、監視しとくね」
「まったく……移動はケイさん達の速度に合わせるぞ。リコリス、いいな?」
「分かってますよーだ! 今までの速度じゃ遅過ぎるからこそ、レーダーが手に入って、可能性が低くなった分を切り捨てって判断なんだろうしさ!」
「そこまで分かってて、あんまり我儘を言うんじゃねぇよ……」
「何かがありそうだって、私の勘が言っている!」
「……根拠、勘なんだ?」
「そうですとも!」
自信満々なリコリスさんだけど……その根拠は、単なる勘か。いやまぁ、そういう勘って意外と当たったりする事もあるし、油断は出来ないな。
「ケイさん、わたしも川の中、行ってもいい?」
「レナさんも? まぁそれは別にいいけど……なんでまた?」
「リコリスさん、ああ見えて勘は鋭いんだよねー。もしかすると、本当に何かあるかも?」
「……マジっすか」
「必ずしも、UFO関係とも限らないんだけどね? 面白い景色とかの可能性は十分考えられるしさ」
「あー、なるほど。まぁ極端に移動が遅くならなきゃ、問題ないぞ」
「まぁそこは重要な部分だしね。そこら辺は気を付けておくよ! 曼珠沙華、いくよ!」
「えー! レナさんも一緒に潜るの!?」
「……リコリス、文句を言わない」
「別に、一緒に動くのが嫌って訳でもないだろう?」
「うー! そりゃそうなんだけど……まぁいっか! それじゃ、まだ見ぬ未知の物を目指して……とう!」
何か目的が少しズレてしまってるような気もするけど……レナさんが一緒にいるんだし、曼珠沙華の全員が同じ動機で川に入る訳じゃないから、大丈夫だろ。
「ハーレさんは、今回は一緒に行こうとはしなかったんだな? なんか、変わった景色を探すような目的があるっぽいけど」
「ふっふっふ! それは、見つかってからでも行けるのさー! 私は私で、星空を映す川を撮っていくのです!」
「あ、そっちか。まぁそれならそれで、別にいいけどさ」
UFOとその落下物の探索がメインとはいえ、それ以外の何かを探すのが駄目だという訳でもないしね。メインの目的に支障が出るのは流石に許容出来ないけど、そうでないなら問題はない。
なんだかんだで新エリアへの進出ではあるんだし、今ならではの光景を撮るのもありだな。少なくとも、このエリアでは降りてくるUFOの争奪戦は、まともに出来そうにないしさ。
「ケイさん、水中探索班の準備はもういいよー! 出発しちゃって大丈夫!」
「ほいよっと! って事で、アル、移動を頼んだ!」
「おう、任せとけ!」
という事で、アルに移動を任せて……あ、そういや、結局これを決めてない!?
「上で『侵食』を使うのは――」
「……それなら、話している間に俺が進化しておいた。既に察知はしているぞ」
「あ、十六夜さんが既にしてたのか。それじゃ任せる!」
「……あぁ、任せろ。とはいえ、ここのエリアでは大きくは動けんだろうがな……」
「まぁ、そうなんだよなー」
さっきまで動きが止まっていた俺らを、遠巻きに様子を窺ってた人達がいるし……あー、置いてきた落下物の確保に向かってるな。
まぁ動き出すまで何も仕掛けてこなかったんだし、特に何かを言う必要もないか。明らかに、待ち構えていた人達に対して、残っている落下物の個数が足りてないけど……争奪戦になっても、そこは俺らの関知しない部分だからなー。
「はっ!? 少し先の方、何か沈んでるのさー!?」
「へ? え、マジで!?」
「あ、確かに何か大きい影が見えるかな!」
どこだ!? うーん、サヤはすぐに気付いたみたいだけど、俺には分からん……。まだ距離があるからか? それとも、探し方にコツがある?
「こりゃ、リコリスさんの勘が的中か?」
「出発してまだそんなに経ってないけど……もしかして、さっきの落下物を落としたUFOだったり? 川下から川上に向けて堕ちたなら、近くにあっても不思議じゃないよね?」
「……確かにそれもそうだよな」
ヨッシさんの言っているように、その向きで墜落したなら、落下物が下流にあって、UFO本体が上流にあってもおかしくない。川の流れの強さもあって、本体以外は全て流されていた可能性も――
「ふふーん! やっぱり何かありそうな予感はしてたんだよねー! アルマースさん、真上まで行っちゃってー! 私達も合わせて、そこまで移動するから!」
「了解だ」
リコリスさんの勘、本当に油断出来ないな!? でも、俺の勘としては……なんとなくだけど、UFOじゃない予感がしてるんだよな。むしろ、嫌な予感と言う方が正確かも?
「……ケイ、警戒した方がいいかな。何か、嫌な予感がするよ?」
「サヤもか? あれ、UFOじゃないって思う根拠は何かある?」
「今、ほんの少しだけど、動いた気がするかな。もしかすると、完全体の徘徊種かも?」
「あー、そっちの可能性か!」
確かに、それは無視出来ない内容だし……可能性としては否定出来ないな。
「レナさん、サヤの懸念の可能性は……?」
「んー、新エリアのどこでも出現情報が出てきてたし……実際に見てみないと、判断は出来ないかも? あ、ちなみに格上の徘徊種は『獲物察知』には引っかからないからねー。それで襲われる心配はないとは言っとくよ!」
「まぁ、どう考えても獲物はこっちだしな……」
でもまぁ、獲物察知では徘徊種を刺激する事にならないのはありがたい。スクショを撮るだけでも殺しにくるんだから、厄介極まりないしさ。
「レナさん、曼珠沙華、目視するまで要警戒で! UFOじゃなければ、スルーしていくぞ!」
「了解! 今ここで戦闘は、避けたいもんね」
「徘徊種じゃなくて、墜落したUFO、こーい!」
「……リコリス、慎重にね?」
「間違っても、目視で確認が済むまでは刺激はするなよ?」
とりあえず、最大限に警戒しつつ、近付いていこう。UFOの可能性はあるけど、サヤが見たほんの少しの動きってのも気になるし……本当、確認が出来るまで一切、油断が出来ないな。
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