第1558話 最悪の相性


 俺のロブスターのハサミで水の竜の首を後ろから挟みながら、正面からサヤのクマの銀光と白光を放つ連撃が切り刻んでいく。

 『水化』の効果が切れ、普通の鱗の状態だから……かなり良いダメージが入ってるな! なるほど、水に触れさせないのは必須条件なのかもね。まぁ『水化』の状態でも、有効な手段はあるだろうけど……今回は必要なさそうだ。


「サヤさん、もういいよー!」

「チャージ、完了なのさー!」

「分かったかな! これで私は最後!」


 おー、普段より少し連撃が遅めな気がしてたけど、レナさんとハーレさんのチャージが終わるタイミングに合わせてたっぽいね。

 かなり眩い状態の白光と銀光を放つ爪を、両腕で振り下ろて……よし、これでHPは7割を切って、6割ちょっと! すぐにサヤが後ろに下がって、追撃に移れるようにしたね。


「アルマースさん、足場を頂戴! ハーレ、先によろしく!」

「任せとけ! 『根の操作』!」

「はーい! 爆散投擲、いっくよー! えいや!」


 レナさんはアルが上下に伸ばした根の上を駆け上がり、その間にハーレさんの明滅する眩い銀光を放つリスの手から、同様の光を放つ小石が投げ飛ばされ……水の竜の顔面に直撃し、爆散していく。

 今のでHPは半分を切ったか。フィールドボスだからHPが多いんだろうけど、1撃で1割以上も削れれば十分! あ、そういや『水中特化』のデメリットでのダメージは……あー、継続ダメージ自体は発生してるけど、俺の万力鋏でのダメージがあるから、ちょっと分かりにくい? 


<『万力鋏Lv1』のチャージが完了しました>


 っと、そんな事を考えてたら、チャージが終わったな。でもまぁ、レナさんがすぐ側まで駆け上がってきてるし、これの発動は後でいいや。

 あっ、水が生成されて……この感じ、清水魔法か? いや、でもこれは気にしなくていいや。水の竜の反撃よりも、レナさんの攻撃の方が速い。


「せーの! えいや!」

「……っ!?」

「おわっ!?」


 流石にトドメにはならないから、そう宣言はしなかったレナさんの銀光と白光を放つ蹴りが、水の竜の頭の上から、踵落としの要領で叩き込まれる。

 いやいや! かなりの威力だな、今の!? 彼岸花さんの氷塊での拘束が、少し揺らいだぞ!? 俺も揺さぶられ……まぁそれはハサミで挟んでいる状態だからだろうけどさ。


「残り3割! ケイさん、トドメはもういけるでしょ! よっと!」

「だなー!」


 『重脚撃』による踵落としを盛大に決めて、自然落下しているレナさんから、そんな言葉が届く。今のでHP2割を削るんだから、相当な高威力だよな。

 何気に朦朧も入ってるから、絶好のチャンス! 朦朧になっても清水魔法っぽい水の生成はキャンセルになってないから、白の刻印の『守護』を使ってるっぽいな。

 でもまぁ、発動前に仕留めれば問題ない! 発動されても、水属性なら俺のアブソーブ・アクアの前では無力だけどな!


「ラジアータさん、エレクトロウィークンを入れて、その上でヨッシさんとサンダーボルトを発動! 俺はこのままいるけど、巻き込んでいいから!」

「了解! いつでも発動出来るように、待機しとくね!」

「よし、了解だ! アルマースさん、ついでだから出してる根で引き上げてくれ!」

「任せとけ! おらよ!」

「助かるぜ! 『白の刻印:増幅』『エレクトロウィークン』!」


 レナさんが駆け上るのに使ったアルの根で、ラジアータさんも水の竜の目の前まで引き上げられていく。何気に移動に大活躍だな、アルの根。

 そして、目の前まで到達した時点で、ラジアータさんを中心に黄色い膜が広がり……その中に入った水の竜に雷属性への弱体化効果が付与されていく。


 微妙にアブソーブ系のスキルに展開方法が似てるけど、こっちは属性のモチーフに合った色の膜が展開されているから、属性そのものが展開されるアブソーブ系とはちょっと違うね。


「ラジアータ、ヨッシさん! 思いっきりやっちゃえ! 彼岸花、当たりやすくね!」

「……分かってる! 一旦解除して、『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」

「当然だ! 『エレクトロクリエイト』!」

「これで決まって! 『エレクトロクリエイト』!」


 この戦闘で2回目の昇華魔法『サンダーボルト』の発動だけど……今回は1回目よりも使用魔力値も多いし、弱体化も入れたし、軽減効果も潰している。

 ただ、落雷も全てが当たるかどうかが問題だけど……まぁ、アルのクジラ並みの体長なんだし、彼岸花さんが全身に当たりやすいように、氷塊の上に乗せたような状態に変えたしね。さて、問題は――


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 97/106 → 97/112(上限値使用:19)


 あ、やっぱり俺にも落雷の電気が流れてきた! まぁ予想の範囲内だし、ロブスターのハサミで水の竜を挟んでいるから、落ちる心配はいらないけどさ。


「ケイ、大丈夫かな?」

「大丈夫、大丈夫! 落雷自体は俺には効いてないし、下手にアブソーブ・アクアの影響下から抜け出させる訳にもいかないしな! このまま仕留め切れば、それで問題なし!」

「それなら、まぁいいかな?」


 どんどんサンダーボルトの落雷を受けて、水の竜のHPは削られているからね。ランダム性のある攻撃だから、1撃ずつの威力は高いし……いや、これは――


「あっ!? ちょっと足らなさそう!?」

「ちっ! 今回、落雷の外れが多いな!?」

「大丈夫! ケイ、トドメをお願いかな!」

「任せとけ!」


 ほんの僅か……あと1撃でも落雷が落ちれば削り切れるってところでサンダーボルトは決まり切らなかった。地味に水の竜が朦朧から復活してきて、清水魔法のウォーターハンマーを準備しているけど……それは出させるかよ!


「これで、トドメだ!」


 発動待機で置いていた万力鋏、ここで発動! 使わずに待機時間が過ぎて終わるかと思ったけど、最後の最後、待機時間ギリギリで役目があったとはね。


<ケイがLv14に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイが成熟体・暴走種を討伐しました>

<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>

<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『広野の猛者を討ち倒すモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


<ケイ2ndがLv14に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが成熟体・暴走種を討伐しました>

<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『広野の猛者を討ち倒すモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


<『瘴気珠』を1個獲得しました>


 ふぅ、なんとか水の竜を撃破完了! あ、ポリゴンになって砕け散って消滅したから、落下し始め――


「ケイ、ご苦労様かな!」

「回収、サンキュー! サヤ!」

「どういたしまして!」


 少しだけサンダーボルトに巻き込まれない程度に離れていたサヤが、落下し始めた俺を拾い上げてくれた。まぁ自力でここからでも飛べるけど、拾い上げてくれたんだし、お礼は言っておかないと――


<命名クエスト『命名せよ:名も無き未開の広野』を開始します>

<本クエストは現在該当エリアに滞在中のプレイヤーが対象になります>

<以下の選択肢より、30分以内に好きなものを選んでください。一番多かった選択肢が新しいエリア名となります>


【命名候補】

 1:ラグバッグ広野

 2:種々雑多の地

 3:ミセレイニアス

 4:タシュー・タヨーウ


 あ、命名クエストが始まったな。という事は、今倒した水の竜が、命名クエスト発生を止めていた要因でほぼ確定か。


 ふー、サヤが地面に降ろしてくれたから、無事に生還! さて、命名クエストの選択肢を考えていくとして……4つ目、いつも通りのネタ選択肢か? えーと、『タシュー・タヨーウ』って……あっ! 『多種多様』を弄ってるな、これ!?


「おー! 命名クエストが始まったね! 彼岸花、ラジアータ! 参加、2個目だよ!」

「……うん。倒せて、よかった! ……ほぼ、完封!」

「確かに、かなり一方的な展開だったしな。『アブソーブ・アクア』が、水属性特化には絶大な効果を発揮していたか」

「……俺は特にやる事もないまま終わったが、まぁ今のボス戦では仕方あるまい」

「……相性……最悪……だったもんね。……ケイさんは……水属性の……魔法型の……天敵」

「まぁそうなるなー!」


 水属性特化の水の竜なんて、俺のアブソーブ・アクアの前では無力……と言いたいとこだけど、結果的にそうなっただけなんだよなー。

 川の水が平常通りなら、ここまでスムーズに倒せたかは怪しいか? いや、リコリスさんと2人掛かりで水の操作を使えば、同じように陸へ引っ張り出すのは……あー、仮定の話はいいや。


 水の操作Lv10が2人いたのと、アブソーブ・アクアがあったのは間違いなく大きい。大きいけど、それが無かったらって仮定で考えても仕方ないしね。ここは、単純に勝ちでいい!


「ケイさんの読み通り、新エリア側の命名クエストは天然産のフィールドボスの撃破でよさそうだねー。2体も、それっぽい個体を倒した後に、命名クエストが発生したって結果を見れば、確実性は高いしさ。ちょっとまとめに書いてくるから、みんなは命名クエストの選択をやっててー!」

「ほいよっと! 任せた、レナさん!」

「任されました!」


 今はイベント内容的にまとめ機能が上手く動いていないけど、編集が出来るレナさんが一緒にいるのは助かる! 凄い偶然から遭遇したフィールドボスだけど……。


「って、そういやさっきの竜、落下物から出てきたんだった!?」

「あ、そういえばそうかな?」

「ふっふっふ! 落下物の回収権利、1個追加なのさー!」

「そういや、そういう権利もあったね?」

「そうだったな。アブソーブ・アクアの効果の恩恵がかなり大きかったし、ケイが追加分を貰っとけ」

「あー、まぁそれは了解……って、言いたいのはそこじゃないんだけど!? フィールドボスが捕まってるって、ヤバくね!?」


 戦闘指揮へ意識を即座に切り替えたから、出てきた時にはサラッと流した部分だけどさ! 結構、とんでもない話だよな、これ!?


「……確かに、驚異的な話だな。成熟体のフィールドボスとしては最低Lvだが……プレイヤーの上位層のLv帯と大きく離れている訳でもない相手だ」

「……『Ⅰ型』も……『Ⅱ型』も……遥かに……今の竜より……弱いはず?」

「んー、それが捕まるってのは……UFOに、とんでもない機能が隠されてるのかも!?」

「リコリス、例えばどんな機能だ?」

「え、それは分かんない? ラジアータ、どんなのがあると思う?」

「自分で考える気はなしか。あるとすれば……精神生命体の力を抑え込む機能なんてのはどうだ?」

「……それは、プレイヤーに対して強力過ぎるよ。私としては、体内にある瘴気に干渉して、動きを制限……くらいな気がする?」

「なるほど。確かにこの連中なら、精神生命体よりも瘴気の方に詳しそうではあるな」


 彼岸花さんの推測は、結構説得力はあるよな。ラジアータさんの精神生命体の力に干渉するって可能性もないとは言えないけど、あの機械人達が瘴気を利用する事を考えれば、瘴気を使っている可能性の方が高い気はする。


「はい! その辺は考えても結論は出ない気がするので、命名クエストをやっていくのさー!」

「……それもそうだな。俺は……1番のラグバッグ広野にしておくか。ネタ選択肢は好みじゃない」

「えー! ネタ選択肢、面白いじゃん! 十六夜さん、遊び心が足りないよ! という事で、私は4番の『タシュー・タヨーウ』で!」

「……まぁ選ぶ基準は、人それぞれだ。自由に決めればいい」

「リコリス、人の選択に口出しするのは無しだぞ?」

「はいはーい。そこまで野暮をする気はないよー。それで、彼岸花とラジアータはどれにするの?」

「……考え中」

「呼びやすいのは、1番の『ラグバッグ広野』だろうが……どうしたものか」


 ふむふむ、リコリスさんがネタ選択肢を選ぶというのは……まぁなんとなく、雰囲気的に納得ではあるね。逆に、十六夜さんがネタ選択肢を避けるのも納得。まぁそういう部分にそれぞれの個性が出てるし、否定する事でもないとして……。


「アル、今回の選択肢の解説をよろしく!」

「こういう時の定番になってきてるね?」

「その程度、別に構わんぞ。ざっくりと説明するなら……今回の選択肢のテーマは『種々雑多』のようだな。ま、色んな要素があるって特徴を示してるんだろうよ」

「おー! それ、2番目の選択肢がほぼそのままなのさー!」

「3番目の『ミセレイニアス』は、英語でそのままかな?」

「あぁ、そうなる。1番目の『ラグバッグ広野』の『ラグバッグ』も英語だし、意味は『寄せ集め』だからな。4番目は、もう日本語の『多種多様』を弄って作ったネタ選択肢だろうよ」

「あー、全体的にそんな感じか」


 『雑多』と言われれば黎明の地に『ザッタ平原』があったけど、今回のモチーフもあそこと似たようなものなのかもね。この広野エリア、平原エリアと同じように色々なエリアの特徴を内包してるらしいし。……俺、川しか見てないけど。


「ふっふっふ! 今回は、ネタ選択肢に入れてみるのです!」

「え、ハーレはそうするの?」

「うん! 今回は選択する人が多そうだし、思い切って遊んでみるのさー!」

「あー、そういう選び方もありか……」


 確かに、今回はこのエリアにいる人はかなり多い状態だもんな。投票数の多いエリア名に決まるけど、参加人数が多ければネタを選びやすいっていうのは……いや、割とネタ選択肢、採用になってたりしない? まぁネタ選択肢でも、極端に困るような名前はないけどさ。


 んー、俺はどれにしますかねー? 呼びやすさと分かりやすさは多分、『ラグバッグ広野』が1番……いや、そういう視点で考えると、ネタ選択肢ってインパクトはあるから地味に覚えやすいのか!?

 2番目の『種々雑多の地』はそのまま過ぎるし、3番の『ミセレイニアス』は意味が分かりにくい上に、どういうエリアなのかパッと分からないもんなー。……悩むね、これ。



【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:同調激魔ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 13 → 14

 進化階位:成熟体・同調激魔種

 属性:水、土

 特性:複合適応、同調、魔力強化、魔法耐性、属性強化


 群体数 356/12400 → 356/12650

 魔力値 319/322 → 319/326

 行動値 82/131 → 82/133


 攻撃 123 → 125

 防御 209 → 212

 俊敏 150 → 152

 知識 356 → 362

 器用 420 → 428

 魔力 523 → 532



 名前:ケイ2nd

 種族:同調激強ロブスター

 所属:灰の群集


 レベル 13 → 14

 進化階位:成熟体・同調激強種

 属性:なし

 特性:打撃、斬撃、強靭、堅牢、同調


 HP 17450/17450 → 17450/17900

 魔力値 154/154 → 154/156

 行動値 121/121 → 121/123


 攻撃 512 → 520

 防御 472 → 480

 俊敏 402 → 409

 知識 118 → 120

 器用 159 → 162

 魔力 78 → 79


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