第1557話 水の竜との攻防


 水の竜は川に潜って、正確な位置が掴めずにいる。なんとか捕獲する方向で考えてはいるけども……その前に、識別待ち中。

 識別情報がないと、捕獲した後の攻撃手順が決められないし……今の時点で、どの程度HPが減っているかも確認したい。サヤとヨッシさんで発動した昇華魔法『サンダーボルト』がどの程度、効いているのか――


「っ! 見つけたよ! 『識別』!」

「攻撃、レナさんになのさー!」

「『根の操作』! おらよ!」

「ちょ!? また俺で防御すんの!?」


 慌ててアルの根の引っ張りに合わせて移動して……ふぅ、吸収完了。アブソーブ・アクアでの吸収効果は凄まじいし、魔力値も上限を超えて回復していってるから……まぁ、そこはこれならではメリットだな。


 今のは普通のアクアインパクト……いや、吸収量的に、アクアエンチャントで強化が入ってそうだな。この竜、水魔法をどのLvまで使えるんだ?

 確か、これで吸収する量は相手が使った魔力値の半分だったから……今ので吸収が19だな。今ので使用した魔力値は……38、いや端数は切り捨てだったはずだから、39か? ふむ、やっぱりアクアインパクトだけだと使用量が多過ぎるし、並列制御でアクアエンチャントも使ったと考えた方が――


「ケイ、吸収して何か分かったか?」

「多分だけど、水の操作はLv10には到達してない。してれば、もっと魔法の発動に使う魔力値が減ってるから……って、アル? その辺を把握させる為に、俺で防御した?」

「ケイ以外、出来ない分析手段だしな」

「……まぁそりゃそうだけどさ!」


 アブソーブ系のスキル持ち自体がそう多くはないんだから、当たり前な話だけど! てか、そもそもがスキル強化の種を注ぎ込んでなんとか届いてる領域だから、その水準で敵に警戒すべきではないのか?


「ケイさん、識別は出来たから伝えていくねー!」

「ほいよっと! ナイス、レナさん!」


 十中八九、水特化の魔法型だとは思うけど……ちゃんと構成は把握しないとね。


「名前は『豪傑激水竜』でLvは16! 属性は『水』、特性は『豪傑』『魔力耐性』『魔力強化』『水中特化』! 特性は少なめだけど、完全に水属性に特化した魔法型だね!」


 『水中特化』の特性、懐かしいな!? コケが最初に進化した時、その特性は持ってたよ。あれ、陸地が完全に駄目になるんだけど……この竜の動きを見る限り、水中での行動がかなり有利になる特性でもあるっぽい?


「あの竜の弱り具合は?」

「HPは思った以上に減ってないね。精々、2割程度だよ」

「……弱点属性の昇華魔法で、その程度か。魔法への耐性、無茶苦茶高いなー」


 サヤの方が控えめな消費魔力値とはいえ、2人での発動の昇華魔法でも2割くらいしか削れないのか。こりゃ、魔法で攻めるのはやめておいた方が――


「……それもあるだろうが、『水中特化』の特性も影響しているだろうな。あれは確か、伝導してきた雷属性の攻撃を受け流して軽減する効果もあるぞ」

「ちょ!? そんな効果、あったんかい!」

「……水中に特化している状態だからな。流石にそのままだと、雷属性が弱点になり過ぎるんだろうよ」

「あー、まぁそれは確かに……」


 十六夜さんが『水中特化』の特性の効果を知っててくれたのは助かるけど、まさか雷属性に対する耐性があったとは……。

 かつて持っていた特性なのに、その辺は全く知らなかったよ。いやまぁ、持ってた期間は短いけども。


「ん? ちょい待った。十六夜さん、伝導した雷属性の攻撃って言った?」

「……あぁ、言ったぞ。あくまで『水中特化』の特性で軽減されるのは、伝導してきたものだけだ。直接叩き込む分には、何の効果も発揮しない」

「あー、やっぱりか!」


 となると、直接叩き込むなら問題はない訳か。いや、それでも魔法に対する耐性が強いから、物理攻撃で仕留めた方がいいか? あ、これも気になるとこだな。


「ラジアータさん、ちょっと確認! 『水化』の取得に必要な特性って『水中特化』? 確か、応用スキルだって言ってたよな?」

「あぁ、そのはずだ」

「打撃や斬撃が効きにくいってのは、もしかして水中限定の話?」

「人伝に聞いただけだから、そこまでは知らん。だがまぁ、その可能性は高いだろうよ」

「なるほどなー。となると、試してみる価値はあるか」


 水中では無類の強さを発揮するけど、陸地では極端に弱体化する可能性は高そうだ。これ、川が濁ってなければ相当な強敵だったかもな。

 こういう敵は、地の利を奪えば倒すのは楽だから……やるべきは、陸地に引っ張り出す事。捕獲自体は予定通りに進めるとして……。


「出来るだけ、川から引き離した方がいいな。風音さん、ブラックホールで引っ張るのは、川の外側で頼む」

「……分かった。……でも……ある程度は……移動させてからが……いいかも?」

「だろうなー。アル、ちょっと予定変更。多分、あの竜は生存圏の確保の為に自分を水で包んでくるだろうから、それの剥奪を頼む」

「確かに、その動きはあり得るな。了解だ」

「アルが水を剥奪したら、彼岸花さんが竜を氷漬けにしてくれ。それで、今いるここより川から離れた位置まで移動を頼めるか? ヨッシさんと十六夜さんは、彼岸花さんの氷での拘束が外れた場合のサポートを頼む。川には絶対に戻さないように!」

「……任せて!」

「了解! 氷がメインって事は、冷気で動きを鈍らせるんだね」

「……あぁ、了解だ。場合によっては、岩で殴って吹っ飛ばすのもありかもな」

「あー、まぁそれでもあり! 川から出せて、動きが鈍ればそれでいいからさ」


 竜は爬虫類の分類になってる様子だから、寒さで動きは鈍るはず。水と切り離せば、『水中特化』ならかなり弱るのも予想出来る。

 ただ、水の竜にとっては水が生命線だし、意地でも水は確保しようとするのは容易に想像出来るから……。


「川から出したら、俺が竜に引っ付いておくか。リコリスさん、天然の水を使わせないように、すぐに可能な限り、川の水を操作しといてくれ」

「はいはーい! 先に操作しておいて、使わせない作戦だね!」

「そういう事。水の生成は、基本的に俺の吸収で封じるから、河川の水は任せた」

「お任せあれ!」

「あっ! またみんなに攻撃なのさー!」

「おら! いくぞ、ケイ!」

「またかよ!?」


 完全に、俺のアブソーブ・アクアが防御に使われてるんですけどー。いやまぁ、剥奪と同じような感じで水流に触れただけで消滅するんだから、楽だろうけどさ。

 普通に考えたら……敵の姿が見えない状態で、水流に襲われるって危険か。川のすぐ側なんだし、水中に引っ張り込む為のものなのかも? そう考えると、アブソーブ・アクアの吸収効果、凶悪過ぎるな!? まぁそれは、今はいいや。


「サヤ、ハーレさん、レナさんは物理の応用スキルで、一気に削るつもりで! 場合によっては、剥奪も狙ってくれ」

「分かったかな! ケイと戦った時に『剥奪』をセットしたままだから、いけるかな!」

「ふっふっふ! 徹底的に、水を封じるのです!」

「およ? 攻撃はいいけど……剥奪要員が3人は多くない?」

「万が一に備えてだなー。使わないなら、使わずに済むのがいいけどさ」

「なるほどねー。うん、そういう事なら了解!」


 地上に引っ張り出した時に、どういう暴れ方をするかが分からないからね。アブソーブ・アクアだって無尽蔵に吸収出来る訳じゃないんだから、魔法の連発をされれば厳しくなる可能性もある。

 過剰魔力値の上限、俺の魔力値の2倍までだっけ? まぁ流石にそこまで、使われる事は……いや、水属性の魔法特化型のフィールドボスなら、油断は出来ないな。


「トドメは、ヨッシさんとラジアータさんでの『サンダーボルト』でいくつもりだけど、まぁその辺は状況次第で、臨機応変にで!」

「了解! 状況を見ながらだね!」

「そこまでで死ぬ可能性もあるし、川に戻られる可能性もあるからな。臨機応変にやるしかねぇな」

「そういう事!」


 ここまでの作戦はあくまで、大雑把な役割分担に過ぎない。実際にどうなるかは、作戦を実行に移すまで分からないからね。


「リコリスさん、次に顔を出したら作戦開始で!」

「はいはーい! って、言ってたら来たね! 『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「『アイスウォール』! ……邪魔はさせない!」

「おし! それじゃ作戦開始!」


 みんなの声が響くけど、俺はすぐに役割を果たさないとな! リコリスさんの生成した水があの位置なら……。


<過剰魔力値を水魔法の強化に使用しますか?> 魔力値 344/322


 あー、くっそ。今、これが出るのかよ! これ、使おうが使うまいが、どっちにしろ一旦アブソーブ・アクアが切れるんだけど……まぁ再発動すればいいか。

 使用だ、使用! 結晶にしても仕方ないし、生成魔法の強化に回すのみ!


<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 99/109(上限値使用:22): 魔力値 302/322


<過剰魔力値の使用により『アブソーブ・アクア』は解除され、行動値上限が元に戻ります> 行動値 99/109 → 99/119(上限値使用:12)


 うおっ!? なんか、これまでよりも、過剰魔力値で強化した分だけ、生成の勢いが凄まじい!? これ、元の消費が少ないから、少なめの過剰魔力値でもかなりの強化になってる?


<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 97/119(上限値使用:12)


 まぁいい! ともかく、操作下において、下流を塞いでおく! なるほど、最小限の生成でも勢いが凄まじくて、川の流れに負けてないな?

 あー、でもこれは……しまったな。川の流れを阻害し過ぎて、水自体が川から溢れて――


「ケイさんの水、なんか凄いことになってない!?」

「わーっ!? 川が氾濫したのさー!?」

「竜は、どこにいる!?」

「アルマースさん、あっち! 氾濫した水が、盛り上がってるとこ!」

「ありゃ、水の操作か! レナさん、助かった! 『突撃』『黒の刻印:剥奪』『旋回』!」

「……逃がさない! 『ブラックホール』!」

「アル、風音さん、ナイス!」


 アルがクジラで突っ込んで、透明な水だけを集めていた竜の水の操作を剥奪し、その勢いを殺さないように上空へと尾ビレで周囲の水ごと叩き上げ……そこへ風音さんがブラックホールを展開して、動きを抑えるのは良い流れ!


 てか、アルのクジラの全長と同じくらいあるから、デカいな!? まぁ細長い分だけ、クジラよりは小さいんだろうけどさ。

 おっ、体表が水っぽい様子だったのが、一気に水色の鱗のある竜の姿に戻ったね。こりゃ、『水化』の効果が切れたか?


「……思ったより大きいけど、大丈夫な範囲。……凍らせるよ! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」


 そして、彼岸花さんが更に動きを鈍らせ、拘束をする為に氷で水の竜を包み込んでいく。水の竜が暴れながら……ちっ、水を生成し始めたか!

 あ、また水っぽい様子に変わった!? なるほど、あの形態になるには水に触れておく事が必須っぽいな。流石は『水中特化』って事なのかもね。


<行動値上限を10使用して『アブソーブ・アクア』を発動します>  行動値 97/119 → 97/109(上限値使用:22)


 すぐに水の操作を解除して、これを再展開! そんでもって、飛行鎧で一気に水の竜の頭の上まで移動だ!


「リコリスさん! 今のうちに、川の水をよろしく!」

「それはいいんだけど、ちょっと予定外に川が氾濫し過ぎじゃない!? その辺、どうすれば!?」

「氾濫した分は無視でいい! そっちは見ればすぐに分かるから、サヤ達、剥奪を使える人に対応を任せる!」

「任せてかな!」

「攻撃に移るまで、時間差はあるだろうしねー! わたし達に任せなさーい!」

「えっへん! 任されました!」

「私も剥奪は使えるから、そっちに回るよ」

「……俺も、彼岸花の拘束が破れるまではこちらに回ろう」

「みんな、頼んだ!」

「色々と了解! それじゃ操作しちゃうね! 『並列制御』『水の操作』『水の操作』!」


 という事で、予定外に氾濫した水を使われた場合の対処は問題なし! リコリスさんが川の水……まぁ流れている全ては制御が難しいから、目視出来る表面だけだろうけど……それでも、この水の竜が操作出来る範囲は相当制限がかかるだろ。


 俺は俺で、指示を出しながら、水の竜の生成した水を吸収しつつ、竜の頭にしがみついた! おー、また水色の鱗の竜の姿に変わったね。

 思いっきり暴れようとしてるんだろうけど、頭以外は氷漬けにされていて、動きも鈍ってきてますなー。いやー、爬虫類に分類されるのは、この手の低温攻撃は効くね。


「これ、思ったより楽勝っぽいな」

「ケイ、あんまり油断はするなよ?」

「分かってるって、アル。でもまぁ楽に済むならその方がいいし、動きが鈍ってる今がチャンス! サヤ達、攻撃準備を頼む!」

「任せてかな! どういう順番でいく?」

「わたしはチャージでいくから、先に溜めとくねー! 『魔力集中』『白の刻印:剛力』『重脚撃』!」

「おぉ! レナさん、Lv3での発動なのさー! 白の刻印は無理だけど、私も同じようにするのです! 『魔力集中』『爆散投擲』!」

「それじゃ、私が先に連撃でやってくるかな! 『魔力集中』『白の刻印:剛力』!」


 白光を交えた早い銀光の明滅がレナさんはチャージ攻撃、早い銀光だけの明滅はハーレさんのチャージ攻撃。サヤは白光を帯びながら自身の竜に乗って、目の前まで来たね。


「ケイも、折角なら抑えながら攻撃はどうかな? 万力鋏なら、いけるよね?」

「あー、それもありだな。よし、それでいこう!」


 頭の上に乗ったままだと、攻撃の邪魔になるから退かないといけないけど、離れ過ぎる訳にもいかないからね。ハサミで挟んで攻撃をしておくのも、丁度いいか!


<行動値上限を3使用と魔力値6消費して『魔力集中Lv3』を発動します>  行動値 97/109 → 97/106(上限値使用:25): 魔力値 319/322 :効果時間 14分


 あ、さっき水を吸った分だけ、過剰魔力値で魔力値が最大値を越えてたから、使用量が少なめな状態だな。てか、こっちの発動には過剰分を普通に使用するんだね。まぁそれは別にいいとして……。


<行動値を15消費して『万力鋏』を発動します>  行動値 82/106(上限値使用:25)


<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>


 ちょっと位置を下げて、竜の後ろ首の辺りを思いっきりロブスターの右のハサミで挟む! よし、竜は大きいから挟み切れてはいないけど、思いっきり食い込んではいるから問題ないな。


「それじゃ連撃、いくかな! 『連爪刃・閃舞』!」

「思いっきりやっちまえ、サヤ!」


 まともに身動きが取れずにいる水の竜に、物理攻撃がどれほど効くのやら? 『水化』は無力化してるから、普通に効きはいいはず。

 ここから反撃もあり得るから油断はしないけど……水魔法なら、アブソーブ・アクアの前では大して脅威じゃないんだよなー。

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