第1553話 天候の悪影響
俺らがここに出向いてくる前は、この場所はかなりの悪天候だったようである。まぁ天候の変化があるのは分かってた事だし、そういう時もたまにはあるよなー。
「はいはーい! その悪天候、悪い事ばかりとも思えないんだけど……その辺が知りたい!」
「……リコリスさんの思っている通りだ。エリア全体の見通しは悪かったが、無傷の『Ⅰ型』のステルスがほぼ機能してなかったらしくてな。その上、『Ⅰ型』も『Ⅱ型』も落雷を受けて、全壊せずに墜落って事は結構あったらしい」
「おぉ! やっぱりメリットがあったんだ!」
ふむふむ、そういう情報が『縁の下の力持ち』から出てくるって事は、この広野の悪天候の真っ只中で探索してた人がいたんだろうね。そして、決して悪天候はデメリットとも言えなかったんだな。
「やっぱり俺が集めた情報より、十六夜さんのとこの方が情報は正確だな?」
「……こっちは、自分達で直に得た情報だぞ。桜花は、あくまで協力関係にない人から伝手で聞いているだけだろう?」
「まぁな。それなりには情報を探れるが、核心的な情報はどうしても伏せられちまう……」
「まぁそこはどうしようもないよな……」
群集全体で協力して動けている状態ではないんだから、どうしても協力関係にない人から情報を得るのは難しい。その中で、十六夜さんとは別経路から悪天候だったって情報が探れただけでもありがたいもんだよ。
「さてと、これまでの経緯は分かったけど……問題は、このUFOをどうするかだな。地上まで引き上げるか、それともこのまま中に入るか……。あー、そもそも誰が改造してもらうかも大事?」
「……機能として、レーダーが欲しいかも?」
「はい! 改造が出来れば、彼岸花さんの意見に賛成です! 持っておくのは、ケイさんがいい気がするのさー!」
「ちょ!? また俺か!? ちょっと偏らせ過ぎ――」
「いや、この連結PTは俺ら『グリーズ・リベルテ』が中心だからな。そのリーダーのケイに機能を集めるのは、そう的外れな事ではないぞ?」
「それはそだねー! わたしもアルマースさんの意見に賛成! 他のPTが持つのは、余剰分が出たらでいいと思うよ?」
「……それがいい……と思う」
「……俺らはタイミング次第では、別行動もあり得るからな。レーダーは持っておきたいし、ケイが持っておくのが無難だろう」
「……そういう事。私達、曼珠沙華は……状況次第ではバラバラになる事もあるから、その方がいい」
「シュウさんや弥生さんと戦う機会があれば、その都度で挑んでいくからな」
「そういう意味でも、ケイさんが持っておくのが無難だよね! まぁ私のこのレンズは、状況的に出来なかったからこそだし!」
「あー、分かった、分かった。そういう事なら、俺が改造品を持っとくよ」
「おう、そうしてくれ」
まぁ理由自体は納得出来る内容だし、ここは大人しく引き受けておきますか。翻訳、機動妨害の2つに続いて、3つ目の改造の入手が俺になるとはなー。となれば……。
「おし! 今回は機械の砂を、素材にしてみるか。……また複製って頼めたりしないもん?」
「それは……どうなんだ? もし可能なら、リコリスさんのレンズの複製が欲しいとこではあるが……」
「ダメ元で聞いてみたらいいんじゃないかな?」
「それもそだなー。聞くだけ聞いてみるか」
交渉で改造回数は増やせたんだし、複製なら改造とは別枠でしてもらえる可能性もある。クオーツの部品を元にしないなら、改造して接続が切れる心配もないはず? まぁ仕様的に、してくれないって可能性もあるけどさ。
「アル、レナさん、改造品を俺が持つなら、UFOの中でのクオーツとの接触は水中でやるので問題ない? 下手に地上へ上げると、どうしても目立つよな?」
「うん、その方がいいだろうねー! 上で睨みを利かせておくから、ササっとやっちゃって!」
「悪天候が手を出さない要因だったのなら、ここに落下物が存在してる事自体は把握されてる可能性があるからな。UFOが沈んでいる事は知られずに、手早く済ます方がいいだろうよ」
「ですよねー! それじゃすぐにやってくるわ!」
その場を見ていた訳じゃないから絶対とは言い切れないけど……おそらく、落下物がある事自体は知られていると考えた方がいい。でも、UFOが沈んでいるのは知られていない可能性が高い。
もし、UFOが沈んでいるのが分かっていれば……多少の無茶をしてでも、適応の用意をして潜り込んでるはず。もしかすると、今まさにその準備をしている最中という可能性もある! ……大真面目に急いだ方がいいな。
「サヤ、曼珠沙華、どこかに入れる場所がないかを探してくれ!」
「分かったかな!」
「……うん!」
「はいはーい! 入り口を探せー!」
「すんなり、中に入れればいいんだがな……」
「そうなんだよなー。出来れば、もう既に穴が空いててくれればいいんだけど……」
パッと見では、今の位置からでは入れそうな穴はないんだよなー。ボロボロではあるけど、原型は保っている状態。……見えてない位置に盛大に穴が空いてる可能性もあるんだけど、それは実際に見てみないと分からないしさ。
◇ ◇ ◇
俺とサヤと曼珠沙華で、グルッと『Ⅰ型』のUFOの周囲を確認したけども……俺の入れる程の穴は空いていなかった。もっと小さな穴ならいくつか空いていたんだけどなー。
今は小さな穴から中を俺の懐中電灯モドキで照らしつつ、別の小さな穴からサヤが内部を覗き込んでいる状態。さて、これで中の様子が分かればいいんだけど……。
「これは、底に穴が空いてるみたいかな? 川底の石が見えてる部分があるよ。中はほぼ水没してるみたいかな」
「あー、入り口は底か。強引にこっちの穴を広げてもいいけど……」
「いや、それよりはこれが早いだろう。『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「ラジアータ、ナイス! ケイさん、下から潜り込んじゃって!」
「ほいよっと!」
という事で、ラジアータさんが川底とUFOの隙間を作ってくれたから、そこに潜り込んでいく! 飛行鎧が強制解除にならないように、当たらないように注意しながら進んで……よし、中に入れた!
「今回のは、中はそれほど崩れてないな。てか、これ、上下逆さまな気がする?」
「多分、川に流されて、川底に激突したのが決定打だったんじゃないかな?」
「あー、その可能性はあるかも……」
墜落の原因は黒の異形種じゃなくて、この荒れた川の状況そのものなのかもね。盛大に鉄板みたいな外壁部分が内側に折れ曲がって、入り口が出来てるような感じだしさ。
「おし! 赤いパネル、発見! ここ、水没してないのか」
UFOの中に、少しだけど空気が残っている状態だね。その部分に、赤いパネルがある状態か。ここ、外から見える位置ではなかったっぽいな。
「およ? そうなんだ?」
「……もしかして、完全に水没してたらアウトだった?」
「あー、その可能性もあるかも……。十六夜さん、UFOが水没しても大丈夫かどうかって情報はある?」
「……海エリアでは、普通に水没しているのは見つかっているとは聞くが……細かいところは分からんな。ただ単に、あっちが耐水仕様なだけかもしれん」
「なるほど、海エリアの情報はそのまま参考には出来ないか……」
そりゃまぁ、元々水中に行く予定のものと、そうでないものが、全く同じとは限らないよな。宇宙から降りてきているんだから気密性は間違いなく高いだろうけど、穴が空いてる状態だし、内部構造まで全部水が平気とは断言出来ないですよねー!
「ケイさん、それならちょっと情報を得たぜ!」
「ん? 紅焔さん、何かあった?」
「今、湖底森にいるんだが、そこでばったりと遭遇したPTと情報交換をしててな! そのPTはネス湖に墜落したUFOを見たらしいんだが、水没したのは全壊してたそうだぜ!」
「マジか!? あー、淡水に出てきてるのは、水没はアウトなのか……」
「全壊の理由が水没とは言い切れんけどな! あくまで、参考程度に考えといてくれ!」
「ほいよっと! 情報サンキュー!」
「どういたしましてだ!」
水没でアウトという事例がネス湖にあるとはね。もしかして、このUFOは回収しに行くだけ無駄と判断された可能性もある?
あー、確定にするには情報が足りない! 確定させるとすれば、ここで水没させて赤いパネルが消えるかどうかを試す事だけど……それ、駄目になった場合が勿体なさ過ぎる!
「まぁこのUFOが無事だったから、それでいいや。クオーツと繋ぐぞ」
という事で、クオーツの部品を取り出して……よし、赤いパネルが緑色に変わって明滅し出したから、通信が始まったね。
[接続を確認……随分と、妙な状態だな?]
「あー、これ、川の底なもんで……」
[……川の底か。よく、通信機能が生きていたな?]
「これ、水没したら壊れるやつ?」
[あぁ、これは水中には対応していない型だな。分類としては『Ⅰ型』で、同じ見た目もしているが……浸水を想定した機能の有無はある。これにはその機能がないから、浸水した部分は完全に壊れるぞ]
「……なるほど。それって、見分ける方法は?」
[我も複数の機体を確認して得た情報から判別しているからな。汝らの識別情報へ、追加情報を入れておこう。それで分かるようになるはずだ]
「おっ、マジか! サンキュー、クオーツ!」
思わぬ方向から、さっきの疑問の答えが得られたな!? 水中対応かどうか、これで識別を使えば分かるようになるのか。てか、今まで、その情報が足りていなかったとはね……。これ、ラッキー過ぎる機体じゃね!?
[……だが、これは破損が酷いな。精査はしてみるが……何もない可能性もあるぞ]
「……マジで?」
[かろうじて、我が接続出来る機能が生きている程度だからな……]
「あー、そういう事もあるのか……」
くっそ、ラッキーな状態かと思えば、何も手に入らないって可能性もあるとは……あー、でも、改造自体の選択肢が、そもそもその時の状況次第で変わってきてたし、破損具合が影響してきて当然か。
[……ふむ。全く何もない訳ではないが、可能な改造は1つだけだな]
「おっ! 1つあるだけでも十分だ! それ、どういう改造?」
持ってない種類のものであれば、もうそれでいい! 翻訳だけだった場合は、曼珠沙華の誰かに持っておいてもらえばいいだろ。
[可能なのは、奴らが回収しているサンプルを位置を確認する機能だな。落下物の探知装置に改造出来るぞ]
「おし!」
それ、今1番選びたかったやつ! 良いタイミングで、良いやつを引いた!
「その改造で頼みたいんだけど、こっちの砂で作ってもらえるか?」
[『情報組成式物質構成素子』で形成するのか。……まぁそれは可能だと、言ってしまったからな。改造より少し時間がかかるが、問題ないか?]
「あれ? クオーツとしては、これで作るのは微妙な心境だったりする?」
まぁ仇敵が送り込んできてるUFOの部品なんだし、それを使うのを快く思わないのも分からなくもない。それに、サンプルとして持っていった時は、逆にクオーツが侵入されてたもんな。警戒するだけの理由はあるか。
[……奴らが作り出した物ではあるからな。少なからず思うところはあるのは間違いないが、それを言ってしまえば……我自身の存在が同じようなものだ。奴らの作り出した物である事を理由に避けるつもりはない。だが……ここで使ってしまっていいのか? まだ、群集の方での方針が決まっていないだろう?]
「あー、そういう心配か……」
これ、後から用途が出てくるから、今は下手に使わない方がいいって暗に言われてる? うーん、そう考えると使うのは躊躇うな。まだクオーツの部品は他にもあるし、機械の砂は温存しとくか……?
「ちょっと相談を……あ、その前に確認! 常闇の洞窟でしてくれた複製は、ここでは可能か?」
[……いや、あの複製は今の遠隔では無理だ。それに、あれは『情報組成式物質構成素子』が必須だから、同じ理由で使っていいのかと聞かせてもらうぞ?]
「……なるほど。まぁそりゃそうだ。ちょっと仲間と相談してくるから、時間をくれ!」
[あぁ、了解だ。あまり長くは待てないから、急いでくれ]
「ほいよっと!」
流石に俺の独断で決める訳にもいかないから、ここはみんなに相談で! 可能な限り、大急ぎでだな!
「ケイ、どうしたのかな?」
「一応、レーダーは作れそうなんだけど……クオーツに機械の砂で作るのは、今のタイミングではどうなんだって言われてなー。後々、何かの用途があるような示唆をされてる気がするんだけど……今回、機械の砂は温存でもいい?」
「っ!? それ、かなり思わせぶりかな!?」
「およ? わざわざそういう言葉が出てくるなら、使用は避けておいた方がいいかも?」
「……私も避けた方が、いいと思う」
「ケイは使用を避けた方がいいって判断だな?」
「まぁそうなるな」
「なら、ケイの判断に委ねるぞ。下手に時間もかけてられないんだろうし……みんな、それでいいな?」
アルが意見のまとめ……というより、反論の余地を潰そうとしてるね。まぁ時間をかけられないのは事実だし、サクッと意思確認が出来るなら、その方がいい。
そもそも、このメンバーから大々的な反対意見が出てくるとは思ってないしなー。とはいえ、勝手に独断で決めるのはマズいから、聞いてはおかないと! もし、何か問題があれば、言ってもらえれば助かるけど――
「問題なしなのさー!」
「……うん……それで大丈夫!」
「……あぁ、問題ない」
「思わせぶりな反応は、無視出来ないもんねー! 曼珠沙華としても問題なし!」
みんな、俺の判断を支持してくれてるみたいだね。特に反対意見もないし――
「およ? その場合、複製はどうするの?」
「そもそも、遠隔では複製は不可能だとさ。もしかすると、後々で解放される要素なのかもしれないけど……」
「あー、そっか。駄目だったけど、そういう可能性もあるんだね。1個だけ複製してくれたのは、先行分だったり?」
「まぁ絶対にとは言えないけど、その可能性はあるなー。さてと、それじゃとりあえずレーダーに改造してもらってくるわ!」
他にも用途の可能性はあるけども……今はそこまで考えなくてもいいだろ。クエストが進行しなければ、その内容は分からないだろうしね。
まさか、クオーツに使用を控えるように言われるとは思ってなかったけど……それを考慮した結果、使うのはこっちで!
「クオーツ、このまま落下物の探知機能への改造を頼んだ!」
[『情報組成式物質構成素子』での形成ではなく、我の部品の改造でいいのだな?]
「おう! そっちでよろしく!」
[了解だ。改造が済むまで少し待て]
機械の砂で作るのも見てみたかったけども、とりあえずはこれでいい。機能的には差異はないんだろうし、クオーツの部品もまだあるからね。
まぁ何にしても、色々な偶然が重なって川の中に取り残されていたUFOから、欲しかった改造機能が手に入りそうなのはラッキーだな!
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