第1551話 川に到着
初めて進出してきた、群雄の密林の南側に広がる『名も無き未開の広野』を探索していく事になった。ここは人が多いし、Lv帯も高くないということで、川を上りながら進んでいく事になっている。
「ふっふっふ! 川に到着なのさー!」
という事で、ハーレさんの宣言通りに川へ到着したところ。ふむ、ザッと見た限りでは、確かに川を念入りに探索している様子の人は見えないな。
一応、川の中にプレイヤーの反応はあるにはある。でも、これは探し切れてるとは思えない状況だね。
「思ったより、川幅は広いな?」
「アルが10人並んでも余裕っぽいしなー。ただ、透明度は低いし、かなり流れも速いか……」
群雄の密林の川はもう少し川幅が狭かったような気もするけど……まぁ色んなエリアの特徴を内包してるって話だし、そもそも川を全部見た訳でもないしなー。
部分的に広かったり、狭かったり……これ、状況的に考えると雨天の影響という可能性は高いかも? 水の勢いも強めだし、ここまでの道中でもあちこちに水溜まりがあった――
「んー、前来た時よりも、明らかに水かさが増えてるねー。道中にも水溜まりが結構あったし、これ、かなり雨が降ってたっぽい?」
「あー、だから濁って透明度が低くて、流れが速い?」
「ほぼ確実にねー! この感じだと、UFOが沈んでても見落とされてる可能性は高いかも? ……流されてなければ、だけど」
「……なるほど」
ふむふむ、ただでさえ夜の日で見通しが良いとは言えないのに、その上、悪天候で川は濁った上に流れが速い状態か。レナさんが元の状態を知っててありがたいけど……さて、この悪条件はどうしたもんだろ?
「ねぇねぇ、ケイさん! 私かケイさん、どっちかが川の中で水を生成して、川底を綺麗な状態にしながら進んでいかない?」
「あー、なるほど! その手はありだな!」
多量に生成した水で、濁った水を押しやって視界を確保するというのは良いアイデア! ただの昇華程度で、この水量かつ速い流れの川でそんな事をしたら、あっという間に操作時間を削られてしまうだろうけど……俺とリコリスさんの水の操作なら話は別だしね。
「んー、そういう形でやるなら……ケイさんと曼珠沙華、あとサヤさんに水中の探索は任せよっか!」
「……え? レナさん、私もなのかな?」
「そうそう、サヤさんも! 今回はわたしも探索に加わるんだし、ケイさんだけが曼珠沙華の中に混じるよりもいいんじゃない? まー、サヤさんが嫌なら、わたしがそっちでも――」
「水中、私が行くかな!」
「はい、それじゃ決定ね! 地上の状況確認はわたしがやるから……アルマースさん、樹洞を貸してくれない? すぐに『侵食』への変質進化をやっちゃうからさ!」
「おう、了解だ。『樹洞展開』!」
「ありがと!」
なんだかレナさんが仕切って、どんどんと話を進めていってるけど……まぁ割り振りとしては悪くはないか。観察力の鋭いサヤが、水中に来てくれるのならやりやすくもなるしさ。でも、これって……。
「サヤは、ヨッシさんやハーレさんと一緒じゃなくていいのか? てか、ハーレさんが水中に来たがりそうな気もしたんだけど――」
「私はこれで問題ないのさー! サヤ、ケイさんのサポートをお願いなのです!」
「うん! そのつもりかな! ケイ、手伝うからね?」
「あー、まぁサヤとハーレさんが納得してるなら、別にいいか……」
サヤ達は3人セットの方がいいのかと思ったんだけど……ただの杞憂だったっぽいね。なんなら、サヤの声は活き活きしてるくらいだしさ。
「あ、サヤもだけど、彼岸花さんとラジアータさんは淡水への適応は大丈夫?」
「この前、淡水用の特性の種を交換したから、大丈夫かな!」
「へ? え、実じゃなくて、種の方? あれって……あ、もしかして、群集拠点種での交換対象が増えてるのか!?」
「あはは、いつからか分かんないけど、そうなってたかな!」
「群集拠点種でのその手のトレードの更新は……確か、2回目の競争クエストが全部終わった段階だったと思うよ?」
「なるほど、そのタイミングか!」
レナさんがどの時期で追加されてたか、知ってたね。灰の群集では、初回の競争クエストでの負けだった草原エリアでの解放し損ねた『特性の種:淡水適応』だけど……2回目の開催も終わった今、それが続いている状況はなくなったのか。まぁそりゃそうだよなー。
「……私とラジアータは、移籍してきてすぐに交換済み」
「無所属の時は『纏水』や『癒水草茶』なんかで誤魔化してたが……適応用のアイテムとしちゃ、1番癖がなくて使いやすいからな」
「あー、なるほど。それじゃ、水中に入るのは問題ないんだな」
「……うん、そうなるね」
「水中でも、役割分担といこうじゃねぇか。俺と彼岸花は、まぁ敵が出た時の防衛戦力と考えてくれ」
「ほいよっと!」
水中に入る為に、今から準備する必要がないのは大きいね。となると、次に考えるべきは……。
「リコリスさん、俺と交互に水を展開するのでいいか? 多分、移動操作制御じゃなくて、通常発動の方がいいと思うんだけど……」
「交互で問題なし! 敵も普通にいるだろうし、変に川の流れを受けないようにしないとね! 川底に這わせて、そこから川の流れを阻害しない程度に盛り上げる感じで!」
「だなー。交代する時は、入れ替えつつ、片方のは川から出しながらでいくか」
「うん、それが無難だと思うよー! 負荷がどの程度かは、実際にやってみないとなんとも言えないけどね!」
「……確かに。その辺は早めに確認したいし、俺が先にやってもいい?」
「いいよー! 問題ありそうな部分があれば、そこは教えてねー!」
「ほいよっと」
同じ手段を使えるのが1人ではないってのは、こういう時に役立つよね。今の時点で『生成量増加Ⅱ・水』を持ってる人が、どれだけいるんだって話だしさ。
「さて、それじゃちょっと川に入ってみるけど……アル、地上側の指揮はよろしく」
「……今回、レナさんの方がいいんじゃないか?」
「ん? まぁ俺は別にそれでもいいけど……レナさん、指揮は任せていい?」
「およ? それは別にいいけど……具体的に何すればいい?」
「あー、他のプレイヤーとの交渉? 十六夜さん、近くの他のプレイヤーの動きの観測は任せられる?」
「……その程度は、問題ない。誰かが近付けば、レナさんに伝えればいいんだな?」
「そうそう、そんな感じで! あんまり交戦する気はないから、レナさんは誰かが接触してきそうなら、離れるか、交渉するかの判断を頼める?」
「そういう方針なんだね? なるほど、なるほど! うん、そういう事なら任せておいて!」
「それじゃ、地上側はそういう感じでよろしく!」
俺ら、川の中へ入るメンバーからだと、どうしてもその辺の把握は遅れてしまうからね。こういう風に完全に手分けが出来る状態じゃなければ、大々的に川の中の探索って難しいのかも?
……なんか想定よりも大規模な話になってきてる気もするけど、相応の結果は出るものやら?
「よーし、効果が出てきたね! これが常時使えるレンズかー。リコリスさんのそれ、いいよねー」
「ふふーん! そうでしょうとも!」
アルの樹洞から出てきたレナさんは、既に『侵食』での察知を始めてるけど……まぁ昨日の夜の時点でその辺の情報じゃ知ってただろうから、特に何か言う必要もないかな?
「わっ!? ここ、思った以上に深いかな!?」
「って、サヤ!? 先に川に入ってんの!?」
「ケイ、早くかな! これ、油断するとすぐ流されそう!」
「ほいよっと!」
ハーレさんなら特に珍しくもないけど、サヤが先にそうやって動くのは珍しい気がする。てか、冗談抜きで早く俺が対処しないと、本気でサヤが流されそう!?
「……曼珠沙華、行くよ」
「当然ですとも! 沈んだUFO、見つけるからね!」
「あれば……の話だがな」
「あると思って探すんだよ、ラジアータ! 諦めて雑に探すと、見落とす原因になるからね!」
「あまり欲張り過ぎても、逆に物欲センサーが動いて手に入らないって事もあるがな?」
「物欲センサーなんて、現実に実装されてるものじゃないでしょ!」
「気構えの問題だ。がっつき過ぎず、ほどほどにしておくのが無難だと思うがな」
「ああ言えば、こう言うね!?」
「……程々にね、2人とも」
相変わらずの言い合いをしながら、曼珠沙華の3人も川の中へと入っていく。3人とも大きくはないから、あっという間に水の中へと入っていき、濁った水で姿が見えなくなった。
さーて、俺も川の中へ入っていきますか! UFOや落下物が見つけられればいいし……駄目だとしても、ここの上流にある山岳エリアまで行ければいいだろ!
◇ ◇ ◇
という事で、濁った川の中へ入ってきた。……やべぇ、視界が悪過ぎて、サヤや曼珠沙華の3人がどこにいるかが目視じゃ分からん! マップを見ればすぐ近くにいるのは分かるんだけど……。
「ケイ、早めに綺麗な水をお願いかな!」
「その方がよさそうだな」
という事で、手早く大量の水を生成してしまおう。
<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 110/130(上限値使用:1): 魔力値 302/322
「きゃ!?」
「っ!? 急に更に流れが速くなった!?」
「……流させない! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
「リコリス、ナイスだ! これ、ケイさんの生成の影響か!?」
おっと、一気に水を生成したら、周囲の川の水を押し除け過ぎだ!? ちょっとミスったけど、反省より前に制御を急げ!
<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します> 行動値 108/130(上限値使用:1)
大急ぎで制御して……大量の水を川底に這わせるように広げていく。……ふぅ、今のは焦った。彼岸花さんがみんなが逸れないように、氷で繋げてくれたのはナイス判断!
とりあえず、これで俺らのいる範囲は全員の姿が見えるように……って、サヤのクマは厳しいかも?
「サヤ、ちょっと悪い。クマは四足歩行にするか、竜にしがみついて泳ぐような形にしてくれ。立ったままで見えるようにすると、川の流れを受け過ぎるからさ」
「あ、うん! 分かったかな! 『略:大型化』! これでいい?」
「よし、見えた! それで問題なし!」
大型化した竜が水の中を泳いで、クマがそれに掴まってる感じになったね。川の深さはサヤのクマの身長よりもかなり深い様子だけど、それでもクマの身長までは、俺の水は広げられないからなー。流石にそこまでやると、流れの影響を受け過ぎるしさ。
「……視界が良くなったし、流れも無くなったね」
「それでも、ちょっと薄暗いねー? まぁさっきまでとは雲泥の差だけど! あ、ケイさん、川の中でその量の水の生成はマズかった?」
「まず間違いなく、水中でやるべきではないな! アル、外から見てどうだった?」
「急に大きな波が発生して、上流と下流、どっちにも広がっていったな。まぁ元の流れが強いから、すぐに打ち消されたから問題はないと思うが……」
「……なるほど」
大急ぎで生成の最中に制御下に置いたし、この川の流れの速さで誤魔化せたっぽいね。てか、この川幅の川底、覆い切れる量ってのも凄まじいな!?
操作した水は川底に這わせているから、流れ影響も上を素通りしていっている状態だし……思ったほど、負荷はかかっていない。この規模だからこそ、影響を少なく出来てるのかも?
「リコリスさん、交代する時は俺が少し水を持ち上げるから、その隙間に生成してもらうのがいいかも? それなら、俺が抑え込めるしさ」
「おー! 確かにそれがいいかもね!」
俺の水を持ち上げた際に穴を少し開けておけば、変に真空になるなんて負荷はかからないはず。まぁその穴から川の水が流れ込むだろうけど、そこに流し込むのをリコリスさんの生成する水にすれば、変に波が起こるなって事は防げるだろ。……一時的に、少し水位が上がるとは思うけど。
「ケイ、負荷は大丈夫なのかな? これ、かなりの範囲だよね?」
「あー、生成して整えるまではかなり川の流れの影響を受けてたけど、今はそうでもないぞ。ちゃんと川の流れは阻害しない程度にはなってるしさ」
「それなら、よかったかな?」
サヤが泳ぐ分だけ、少し高さは出ているけど……まぁ元々がかなり深いからなー。この程度の底上げなら、支障もないだろ。川全体を底上げした訳じゃないし!
「ふふーん! それじゃ、落下物とUFOの探索開始だね!」
「……この近くにはなさそう?」
「いきなり当たりなんてのは、流石に都合が良過ぎるしな」
「まだ始めたばかりだし、気長にやるかな!」
「だなー。アル、移動はそっちで合わせてくれるか? 正直、こっちからじゃ水上の様子はさっぱり分からん!」
「了解だ。上からも水中は全然見えんし、俺の方で合わせた方が楽だろうな」
「よろしく!」
距離は近いのに、濁った川の水でお互い見えない状態だもんな。マップに表示される反応頼りで、位置を合わせて進むしかないだろ。
てか、ここまで濁りが酷いと水中の探索は難しい……あー、なんか俺の水の中に入ってきたのがいるな? 反発力は一切設定してないから、抵抗なく素通りしてきたか。
「ラジアータさん、周囲の反応を確認してもらえる? 何かが水の中に入ってきてるんだけど……」
「なるほど……彼岸花の冷気と同じで、この水自体が索敵網の役割も果たしてるのか。『獲物察知』! プレイヤーじゃなくて、雑魚敵のようだが……どうする?」
「攻撃してくる気配がなければ、そのままスルーでいいや。ただ、状況だけは確認しておきたいから、引き続きチェックはよろしく」
「了解だ。襲ってくるようなら、俺と彼岸花とサヤさんで撃破しにいくぞ」
「うん! 任せてかな!」
「……頑張る!」
「その時はよろしく!」
俺かリコリスさんは水の維持をするんだから、必然的にそういう役割分担になるよねー。まぁあんまり激しい戦闘だと、味方の動きでも操作時間は削られるから……その辺は要注意! でも、交代要員がいるんだから、多少の無茶は出来るか。
「ふふーん! それじゃ出発!」
「ほいよっと!」
という事で、川底の探索開始! これで全壊してないUFOがあればいいんだけど……そもそも水没って、大丈夫なのかね?
根本的に宇宙空間に耐えられるんだし、意外と大丈夫だったりする? まぁそれは見つけてみれば分かる事……というか、見つけないと分からない事だな。
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