第1550話 群雄の密林の南側


<『群雄の密林・灰の群集の安全圏』から『名も無き未開の広野』に移動しました>


 新しいエリアに入ったはずだけど……なんとなく、この雰囲気は知っている。一気に視界は開けたけど、これはあれだ! 平げ――


「見た感じ、平原エリアっぽいのです!」


 あ、先にハーレさんに言われた。まぁ『広野』とはなってるけど、雰囲気は平原エリアによく似てるんだよな。ちょいちょい水場っぽいのがあるのも、小規模な森があるのも、背の高い草むらがあるのも、小高い丘みたいな場所もあるのも……。


「まぁ名称は『広野』にはなってるけど、ほぼ『黎明の地』の平原エリアと一緒だねー。植生が少しだけ南国風にはなってるけど、基本は平原エリアと一緒!」

「なるほど。レナさんは、この先の『五里霧林』までの繋がりは知ってるんだよな?」

「知ってるよー。教えとこっか?」

「どういうエリアがあるのかだけ、頼める?」


 それ以上の情報は実際に進出する時に仕入れるとして……今は、その程度の情報が手に入れば十分だろ。この連休で行く可能性、結構ありそうな気もするし!


「うん、了解! ここの南側のエリアは『名も無き未開の山岳』で、その更に南が『名も無き未開の山麓』だね」

「おぉ!? この南、山があるんだ!? ……確かに遠くに薄っすらと見える気がします?」

「あはは、新エリアはどこも基本的に広いからねー。昼の日なら山はここからでも見えるんだけど、流石に夜だと厳しいからさ」

「おー! そうなんだ!?」


 ふむふむ、まさかの南側は山とはね。エリア名的に雪山ではないっぽいから、普通の山か? でも、山岳って言われると木が生えてる山ってイメージはしないよな。


「あー! その山岳エリアって、木が全然生えてない高いとこ!?」

「うん、そうそう。リコリスさん、知ってた?」

「知ってる、知ってる! ランダムリスポーンで出て、うっかり転がり落ちて、そのまま死んだもん!」

「……そういえば、そういう事もあったね」

「バラバラに飛ばされた時だったか。あの時、なぜ自力で飛んで逃げなかった?」

「周囲の岩も一緒に滑落してて、巻き添えを受けてたんだもん! あの状況から咄嗟に抜け出すの、難しいって!」

「そういえば、そんな事も言ってたな。油断し過ぎが問題か」

「うぐっ!? 確かに、私の体重で崩れるとは欠片も思ってなかったから、油断してたけどさー!」


 ふむふむ、リコリスさんがランダムリスポーンした先で足場が崩れて、滑落して死亡なんて事があったのか。いやー、転がり落ちていく時に焦る気持ち、分かる! 分かるぞ!


「まぁケイの場合、実体験もあるからな」

「あはは、まぁケイさんの場合はね?」

「はい! あの件は、リコリスさんの事故と一緒にするのはどうかと思います!」

「いやいや、俺の時も事故は事故だからな!?」

「それでも、ケイのは……単に崩れたのに巻き込まれたのとは、やっぱり違うと思うかな?」

「うぐっ!?」


 確かに足場が崩れるのと、制御出来なくなるのとでは意味が違うよね……。いや、でも山を転がり落ちていくという点においては一緒なはず! ……うん、この話題はもう終わりにした方が色々といい気がする。


「とりあえず、山岳エリアについては置いといて……もしかしてだけど、『五里霧林』って少し標高は高め?」

「うん、そうなるよー! ここの広野エリアは南に向かって少しずつ高くなっていて、山岳エリアでグンっと高くなって、その先の山麓エリアで少し下がって、そのままの標高で『五里霧林』になるって感じ。ここよりはかなり高めの位置だと思って問題ないね」

「なるほどなー」


 位置関係と標高の差は、大雑把にだけど把握。この辺は結構低めで、南側が高くなって……それなら、このエリアには『群雄の密林』に流れてた川の上流になるのか? よし、その辺は聞いてみよう。


「レナさん、ここって川がある?」

「うん、あるよー! 結構蛇行してる川だから……ここからだと、東に進めばあるね」

「ケイ、川沿いに進む気か?」

「まだそう決めた訳じゃないけど……一応の確認?」

「まぁ川は気になる部分ではあるな。他のエリアと直接的に影響してくるし……」

「そうそう、そういう感じ!」


 エリアの繋がりが明確に分かる部分だし、確認出来るならしておきたいとこだしね。実物を見に行くかどうかは別として!


「えーと、川の話が出たけど……その方向にUFO、降りてきてるよ? 向かってみる?」

「凄いタイミングだな!? あー、向かうかどうかはちょい待って。獲物察知で周囲の状況を確認しとく」

「はーい! ここ、すぐ占有エリアのすぐ隣なら、Lv帯は控えめだろうしねー」

「……人が、多いかも?」

「確かにな。他のプレイヤーの動きはチェックしながら進んだ方がいいか」


 原野はLv帯が高めだったからこそ、比較的空いている代わりに実力者揃いだったからなー。

 ここはそういう傾向にはならないだろうから、チェックは大事! ……あんまり人数が多いようなら、この広野エリアはスルーして、山岳エリアまで進むのもありかも?


<行動値を6消費して『獲物察知Lv6』を発動します>  行動値 124/130(上限値使用:1)


 さて、反応は……うげっ!? 思った以上にあちこちから反応が出てるし、連結PTが最大人数まで行ってるとこが多いな!?

 それどころか、連結PTが複数固まって……これ、もしかしてあれか? あ、やっぱりそうか。表示を切り替えたら、細い線が一気に増えたね。


「灰の群集の人以外は少なめだけど……進化階位の低い人が結構多いな。拾える範囲でだけど、割合的に半々くらい?」

「え、そんなに来てるのかな!?」

「思った以上に多いな。落下物の個数稼ぎか?」

「ここまで多いと、ハッタリよりは個数稼ぎだろうなー」

「ケイさん、一つ訂正ね?」

「ん? レナさん、俺、なんか間違った事でも行ってた?」

「正確には、間違ってるって訳じゃないよ? ただ、抜けてる視点があるから、その補足ね」

「抜けてる視点……?」


 あれ? 今の俺、そんなとこってあったっけ? あー、自分で気付いてないからこそ、抜けてる視点って事にはなるか。


「同じ共同体だからといって、進化階位がみんな揃ってる訳じゃないからねー。ハッタリや水増しが目的じゃなく、単に仲間と一緒に探索してるって発想が抜けちゃ駄目だよ?」

「あっ! 確かにそりゃそうだ!」


 しまったな、完全に利益の追求を基準に考え過ぎてたよ。それこそ、昨日のレナさんの動きがギンやアイルさんとの交流をするって目的だったんだし、そういうパターンの1つだしさ。

 シンプルに仲間と探索を楽しむ……そこに進化階位の差があったとしても、決して出来ない事ではないもんな。あー、そんな動きを見落とすとか、俺は何やってんの!?


「ケイ、シュウさんやジェイさん相手に探り合いもあったんだから、視点が抜け落ちるのは仕方ないかな! そんなに自分の責任だと思わないで?」

「……サヤ」

「およ? 弥生達と遭遇したのは知ってるけど、ジェイさん達とも遭遇してたんだ? んー、まぁ昼にそこまで遭遇してたら、警戒しても、し足りなくなるのは仕方ないかも……?」

「私達だって気付いてなかったんだから、気にしないでいいのさー!」

「あはは、まぁそれはそうだよね。ケイさん以外の誰かが気付いてもよかったんだしさ」

「確かにな。ケイだけが失念してた訳じゃないし、レナさんが補足を入れてくれたんだしな。過剰に気にすんなよ」

「……それもそうだな。おし、そこは気にし過ぎないようにしとくか!」

「うん! それでいいかな!」

 

 俺が指揮役だからって、全ての責任を負う必要はないんだ。……ミスはミスだけど、そこに引っ張られてたら駄目だな! それこそ、気にし過ぎればこれからに悪影響が出てくるし、過剰に気にするのはなし!


「おっし! それじゃ、これからの方針を考えるとして……やっぱり、ここは人が多いと思うんだよな」

「……競争率は、高そう?」

「間違いなく、高いよね! でも、排除するのもありじゃない?」

「ありだろうが、負担は大きくなるだろうよ」


 リコリスさんの言うように、強行突破も手段の1つではある。おそらく、成熟体に進化している人達でも、ここにいるメンバーよりは力量は下の人が多いはず。力技でねじ伏せるのも、相手次第だけど、不可能ではない。

 かといって、ラジアータさんの言うように、そういう手段は負担は間違いなく大きくなる。漁夫の利狙いも増えてくるだろうし、俺らを追いかけてくる人も出てくるはず。


「俺としては、変に交戦しまくって、目立って人を引き連れて動くよりは……山岳エリアまで進んで、人が少なくなった場所に行ってみたい。それで確認したいんだけど……レナさん、山岳エリアに洞窟ってある?」

「んー、そこまで詳細に調べてはないから、わたしは洞窟は見てないね。でも、存在する可能性は高いと思うよ?」

「やっぱり、そういう判断になるよな」


 山といえば……という訳ではないけども、この広野に地下洞窟があるかどうかを探すよりは、よっぽど可能性は高いはず。


「はい! ケイさんは洞窟……あの谷とは別の、黒の異形種の溜まり場を探す気ですか!?」

「絶対に見つけるってほどではないけど、他の場所も探っておきたいって気持ちはあるからなー。あと、昼に探索した原野エリア以外に転移場所を用意しておきたくてさ。何も見つけられなくても、それだけでも成果はあると思うぞ」

「おぉ! 確かに、選択肢が増えるのはありなのです!」

「どうしても転移の種だけじゃ1日1回限りだから、複数あった方がやりやすくなるかな!」

「そっか、確かにそれはそうだよね」

「なるほど、今日はイベントに進展はもう無いって考えてるな、ケイ?」

「まぁ根拠のない勘だけどなー」


 でも、だからこそ今日のうちに明日以降の移動の選択肢を増やしておきたいんだよね。少なくとも、全く無駄な事にはならないはず!


「……転移先を増やすのは、賛成」

「イベントの進行は、ぶっちゃけなってみないと分かんないしねー! 私も賛成!」

「ケイさん、確認しておくぞ。道中、近くにUFOが降りてきた場合はどうする? 譲る為にスルーか?」

「いや、近くならスルーはせずに取りに行く! まぁ状況次第ではあるけど……譲る前提では動かないぞ」

「そういう方針なら賛成だ。わざわざ近くのを譲る気はないからな」


 そこをラジアータさんが気にするのも分かるし、俺としても近くのまでは譲る気はない! まぁ交戦する方が面倒な事態になりそうなら避けるけど……それは原野でもやってたからなー。


「……俺もそれで構わん」

「……同じく」

「特に誰からも異論はないみたいだし、わたしも賛成ね!」

「よし、それじゃ方針は決定! 広野では最小限の探索に留めて、山岳エリアへ向かうって事で!」


 みんなの意思確認は出来たし、向かう先も決定! 何気にこの辺のエリア情報を持ってるレナさんがいて、ありがたいっすなー。


「はい! それで、どういうルートで進みますか!?」

「それは……レナさん、空から一直線ってのは?」

「別に行けなくはないけど……ここでの落下物の探索効率は下がると思うよ?」

「あー、まぁそれはそうなるか……」


 移動を最優先にする事になるんだから、どうやっても見落としは出てくるよな。夜の日に空からだと尚更に……。


「いっそ、川でも上っていくのはどうだ? 川自体が蛇行してるなら、それなりの範囲は探せるだろ」

「おぉ! それは確かにそうなのです!」

「あー、川か。それもありかもなー」


 川の周辺って人が多そうな印象もあるけど……いや、意外と動きに制限がかかるし、そうでもないか? 常に飛んでるPTばかりじゃないんだし、川幅次第では行き来を避ける人も結構いるかも?


「ねぇねぇ、ケイさん! 川の底に、落下物が残ってたりする可能性はない!?」


 リコリスさんが妙にテンション高めに聞いてくるけど……それって、俺に聞かれても分からない部分なんですけど!?


「それは見てみないと何とも……。レーダー持ちがいれば、すぐに探し当てられるだろうけど、どれだけ持ってる人がいるかだな」

「……レーダーなら、どこでも効果は同じ。見に行ってみる価値は、あると思うよ?」

「淡水でずっと活動出来るプレイヤーは限られるからな。案外、盲点かもしれんぞ」

「ふふーん! そうでしょうとも! 上手くいけば、人が少ない時に墜落したUFOが沈んでるなんて事もあるかもよ!」

「あー、その可能性はありそうだな? おし、その方向でやってみますか!」

「いぇーい! 探索ルート、決定!」


 曼珠沙華の主張には一理あるし、蛇行してる分だけ遠回りにはなるけど……探索の方向性は決まってないんだし、今のを採用しても問題ないだろ。本当に水中に沈んでればラッキーくらいのつもりでやっていきますか!


「ねぇ、紅焔? 僕らも川を探ってみるのはどうだい?」

「ん? いきなりどうしたよ、ソラ?」

「今の話を聞いてて思ったんだけど、川を中心に探索している人ってこれまでそう見かけなかったじゃないかい?」

「……言われてみれば、そうですね? 全くいなかった訳ではないですが、地上や空中よりも確実に少なかったですか」

「そういや、そうかも! 魚のプレイヤーも結構、空中で泳いでたもんね!」

「俺らにとっても、盲点だったか?」

「つっても、今すぐは無理だぜ!?」

「今すぐとは言ってないよ。『湖底森』を出たらの話さ。ネス湖を水源としてる川があるんだし、次の探索ルートの提案だよ?」

「あー、そういう事か! それならありかもな!」


 ほほう? あちこちを移動しながら探索してた飛翔連隊でも、川の中の探索をしている人が少なかったって目撃情報は大きい気がする!

 もし仮に川を中心に探索してた人がいたとしても、常に川の全てを網羅出来ているはずがないし……本当に盲点なのかも? まぁ実際にどうかは、試してみれば分かるか!

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