第1549話 群雄の密林の安全圏へ
<『群雄の密林』から『群雄の密林・灰の群集の安全圏』に移動しました>
思い付いたら即実行という事で、ササっと転移してやってきました! 夜目は転移前に発動してきたから、視界は良好。さーて、今のここの状況は……。
「あー、人はほぼいないっぽいな?」
「そりゃそうだろうよ。色んな人があちこちに探索に出向いているんだし、この狭い範囲で待ち構えようなんて人は早々いないだろ」
「他の群集が占有してるエリアの安全圏なら活動拠点になるけど、ここはそうじゃないからねー! 周回PTは、占有エリア側の方が人の出入りが多い方に出来てるしさ」
「ですよねー!」
ザッと見た限り、今、ゾンビな大蛇と戦闘中のPTが見えるくらいだもんな。アルやレナさんの言う通り、ここで居座るメリットは非常に薄いか!
でも、俺らがこれからしようとしている事を考えれば、この一目の少なさは都合が良い。まぁ見られたからって、特に困る事もないとは思うけど……いや、会話の内容次第か?
「あ、ゾンビの大蛇が倒されたかな」
「みたいだね。ケイさん、再出現を待ってから交渉開始?」
「そうなる――」
「ふっふっふ! 次は私達が戦う番なのです!」
「いや、必ず戦うとも限らないけどな!?」
「ん? ケイは戦わない可能性もあると思ってるのか?」
「あー、まぁ対話の内容次第では? そもそも、自我があるなら、この場に留まってる理由が謎だし……」
「言われてみれば、確かに不自然か……」
何かしらの事情があるからこそ、この場に留まってる可能性は高いはず。離れる気がないのか、何かの理由で離れられないのか……クエストの進行に関わらず、その辺は知りたいとこだよな。
「……立ち塞がる……理由なら……弁慶みたいな……感じ?」
「……刀を千本奪うか、守り通そうとしているのか、解釈が分かれそうな例えだな」
「でも、どっちの解釈もあり得そうな話だよね。その場合、自発的にここに残ってるパターンになりそう?」
「……うん。……レナさんは……どう思う?」
「およ? わたし? んー、ゲーム的な都合って解釈が1番現実的な気はするけど……それじゃつまらないし、何かしらの設定は用意されてそうな気がするよね。動きたくても、動けないと見た!」
「……その可能性も……ありそうかも?」
「……まぁ実際に聞いてみれば分かるか。ケイ、再出現したぞ。翻訳機能を頼む」
「ほいよっと!」
十六夜さんに促されたし、ササっと翻訳機能を動かしてしまおう。インベントリから取り出して……これ、見た目はクオーツの部品の時と大差ないんだよな。とりあえず地面に置いておけばいいか。
その上で使用を選んで……よし、青く光り出したし、機能し始めたはず! さて、それじゃ目の前に出てきたゾンビな大蛇に話しかけてみるか。
「あー、そこのゾンビな大蛇、聞こえるか?」
『……エ? ……ボクニ……ヨビカケ?』
おー、通じた、通じた! ……なんか幼いっぽい感じの男の声なのが、ちょっと意外。ゾンビな大蛇が幼いって、そんなイメージないんだけどなー。いや、モンエボでそんなイメージも何もないか。
「おぉ! ちゃんと通じてるのさー!」
『……イママデ……ダレモ……ツウジナカッタノニ? ……キュウニ……ナンデ?』
「意思疎通の手段を手に入れたもんでなー。それで、対話出来るんじゃないかと思って……」
『……ソウナンダ? ……ソレデ……ナニガ……モクテキ?』
「ちょ!? 警戒しないでくれ! こうやって話す事、そのものが目的だから!」
『……ソウナノ?』
思いっきり頭を上げて警戒状態になったままだけど……とりあえず、対話自体はしてくれそうだな。これ、少しで対応を間違えると、そのまま戦闘に突入か? ……慎重に受け答えをしようっと。
「あー、単刀直入に聞くぞ! ここで居座ってるのは、なんでだ?」
『……ハナレ……ラレナイ……ダケ。……シネバ……ドコカニ……トブハズナノニ……』
「もしかして、ここで襲ってくる理由は、倒される為なのかな?」
『……ソウダヨ。……ダレモ……コトバニ……キヅイテ……クレナイカラ……ソウスルシカ……ナイ』
あー、動けないパターンだったか。しかも死ぬ事でランダムリスポーンを狙ってるって感じだし……やっぱり、プレイヤーとの共通点は持ってるんだな。
てか、ここでランダムリスポーンしたところで、狭いから戻ってきてしまう? いや、でも黒の異形種に同じエリア内って法則は当てはまるのか? 何か別の要因があるのかも?
これ、もしその原因を取り除いて、移動が可能なようになれば……この場からこのゾンビな大蛇がいなくなるって可能性もある? うーん、その辺はもう少し探ってみないと分からんな。
「離れられない理由は、分かるか?」
『……ワカラナイ。……デモ……ナニカニ……ヒキヨセラレル。……ナツカシイ……ナニカニ』
「懐かしい何か?」
『……カケテイル……ナニカガ……アル。……デモ……ソレガ……ワカラナイ。……ワカラナイ……ワカラナイ……ワカラナイ……ワカラナイ……ワカラナイ――』
「ちょ!? 落ち着けって!」
『分からない』ばっかりを繰り返して暴れ始められても、どうしろってんだ!? 『懐かしい何か』とか『欠けている何か』ってなんだよ!?
「『アースクリエイト』『岩の操作』! ケイさん、とりあえず抑えとくよ!」
「ナイス、リコリスさん!」
『……ハナセ! ……ハナセ! ……ハナセェェェエ!』
「およ!? 完全に会話が成立しなくなっちゃってるよ!?」
「みたいだな……」
さて、どうする? このまま本格的に戦闘に突入して撃破するのは可能だけど、明確に何かの要素がありそうな予感はするんだよな。
今のイベントに直接関係してるかは分からないけど、これはこれで何か出来そうな……あー、考える時間が必要か。
「リコリスさん、しばらく抑え込みを頼んだ! 暴れ方が酷くなるようなら、彼岸花さんも冷気で動きを鈍らせてくれ!」
「はいはーい! お任せあれ!」
「……うん、分かった!」
ゾンビ状態とはいえ、これで動きは一時的にでも封じられる。何かの理由でここを離れられずにいて、誰とも意思疎通が出来ず、こうやって暴れているのがこれまでの事だったんだろうね。
「みんな、ちょっと意見をくれ! これ、昨日接触した骨の竜とは別口の黒の異形種みたいだけど、そもそも接点自体がないっぽいよな?」
「だろうな。この場所に縛られているみたいだし、自身と同系統の存在すら知らなさそうだが……」
「それなのに、懐かしさを感じているのが不思議かな?」
「そこ、謎なのさー!」
「『カケテイル』って言ってたけど、欠落しているって意味での『欠けている』でいいの?」
「あー、俺はそう認識したけど……そうか、字が違う可能性もあったか」
他にあるとすれば『書けている』……いや、意味が通じないよな。『掛けている』『賭けている』『駆けている』……うーん、どれも意味として通じないな。てか、なんで俺はすぐに『欠けている』だと思った?
「……『懐かしさ』の正体が……『欠けている』?」
「……何を懐かしんでいるのか、それ自体が分かっていないみたいだしな。欠落しているのは、その記憶……いや、そもそも黒の異形種に記憶はあるのか?」
「あー、それはどうなんだ? 俺らとは『陰と陽』の関係だって言ってたし、そもそも黒の暴走種に残った力の残滓が元だから……」
……そこから考えれば、オリジナルの記憶が残っている可能性もある? いや待て、もしそうなら……一人称が『僕』で、幼く感じて、この場に懐かしさを感じるのは……。
「このゾンビな大蛇、もしかしてマサキの残滓から生まれた個体か!?」
「っ!? NPCも精神生命体なんだし、可能性はありそうかな!」
「なるほど、そうきたか。引き寄せられているのも、懐かしさを感じるのも、そこに植っているミヤビが要因なのかもしれんな」
「でも、仮にそうだとして……どうすればいいの?」
「うー!? マサキはマサキでしっかり存在してるから、対処が難しい気がします!?」
「まぁそうなるんだよなぁ……」
このゾンビな大蛇がマサキの残滓だとしても、本人ではないというのがややこしい。黒の異形種は、あくまで精神生命体の残滓を核として生まれた別の存在なんだもんな。
『……ハナセ! ……ハナセ! ……ハナセ! ……ハナセェェェエ!』
完全に会話が成立しない状態だし、解決策もすぐには見出せそうにない。ここでミヤビに話を持っていくのは……クオーツやグレイからの進展があるまでは控えておく方がいい気もする。
多分、この状況の打破には、現状では情報が足りてない可能性が高いな。暴れて話が成立しなくなっているのが、その証な気がする。何かあるのなら、今の俺らの会話に少なからず反応しそうなもんだし……。
「自分の存在に関わる可能性の内容を話しても、このスルーっぷりか。こりゃ今は無理っぽいね」
「……おそらく、話を進められるのは黒の異形種への対応が決まってからだろうな」
「多分なー」
十六夜さんも俺と同じ見込みにようである。黒の異形種との対話は可能になって間もないし、それはまだ全員が可能な事ではない。だから、ここで進められる状態だとは思えない。
「およ? それなら、対処は諦める感じ?」
「改めて、機会を作って試すのでいいと思うけど……これ、倒していいのか?」
「んー、まぁ大丈夫じゃない? 別に倒せば足止めされなくなるだけで、存在が消える訳じゃないしさ」
「そりゃそうか。おし、それじゃ今回は撃破で!」
「……分かった! ……それじゃ……燃やし尽くすね」
「風音さん、ゾンビは思いっきり燃やしちゃえー!」
「……そのつもり! ……『魔法砲撃』『白の刻印:増幅』『並列制御』『ファイアエンチャント』『ファイアクラスター』!」
色々と耐性を持っていて倒しにくいゾンビだけど、風音さんがいる今なら、そう難しい事でもないな。盛大に強化した火魔法で攻めてるし、任せておけばいいだろ。
今回はすぐに進展という話にはならなかったけど……マサキの残滓から生まれた黒の異形種がいるって可能性が分かっただけでも成果かな? まだ事実とは言い切れないのがアレだけど……黒の異形種への対応が決まってから、改めて確認しに来ようっと。
◇ ◇ ◇
ゾンビな大蛇を仕留めるのは、風音さんがあっさりを済ませた。いやー、よく効く属性があるとアッサリ終わるもんですなー。
「それじゃ、この先に出発なのさー!」
「そういえば、この先ってどういうエリアなのかな?」
「およ? サヤさん達、この先は知らないの? さっきの大蛇、倒してたんじゃ?」
「あれ、前に時間潰しと私の『強化統率』の実験を兼ねて倒しただけで、先に進むのはしてなかったんだよね」
「そういう事なのです! 確か、ミヤ・マサの森林での再戦の直前!」
「あ、あのタイミング! なるほどねー。なんとなく状況は把握!」
そうそう、あの時はヨッシさんの『強化統率』の検証も兼ねて戦ったんだった。まぁあんまり『強化統率』は使ってないけど……あれ、便利な時はもの凄く便利なんだけど、普段使いするものでもないんだよな。
まぁその話題は今はいいとして……確か、このエリアの先って……。
「『群雄の密林』の南に『五里霧林』があるんだっけ?」
「うん、そうそう! ケイさん、大当たり! 間に3エリアあって、2エリア目が強いとこねー。完全体の徘徊種も出てくるから、要注意!」
「あー、そういや徘徊種もいるんだっけ……。UFOに気を取られてて、そっちはさっぱり気にしてなかった」
というか、俺らが行ってた原野でも完全体の徘徊種は出てもおかしくなかったような?
「……そういえば、今日は徘徊種との遭遇は聞いていないな? イベントに合わせて、出現が抑えられているのか?」
「へ? え、十六夜さん、それってマジで!?」
「……あぁ、本当だ。普段なら誰かしらが遭遇して、目撃情報を上げているが……今日は皆無だからな」
「……私達もあれだけ動いていたのに、全く見ていないから……出てこない本当に可能性はあるかも?」
「何度か殺されてるもんね、私達!」
「まぁイベントの性質上、邪魔になるから出てこないというのは不思議でもないがな」
「ですよねー」
どう考えても、徘徊種の存在は探索の邪魔だもんな。イベントの開催中には、出現がかなり抑えられていてもおかしくはない。おかしくはないけど……なんだか少し嫌な予感がするのはなんでだろ?
「ケイ、そんなに嫌な予感がするのかな?」
「いやー、仕様の都合で済ませてもいいんだろうけど……何かしら、運営が理由付けしてたら怖いじゃん? 完全体がいなくなる理由なんてのが用意されてたら……どんなのが考えられる?」
「物騒な話だが……UFOに捕まっているとかか? 少なくとも、成熟体の徘徊種までは捕まってる報告があるぞ」
「……それ、マジで嫌な理由なんだけど!」
落下物を拾ったら、完全体の徘徊種が登場とか危険過ぎるから! あー、でも可能性としてはありそうなのが恐ろしい!?
「んー、冗談抜きでありそうな可能性だね。でも、そうなると……UFOは、完全体すら捉えられる機能を持ってるって事になるよ?」
「……少なくとも、成熟体をあの落下物のサイズの入れ物に閉じ込めておく技術は持っているからな。根本的な技術体系が違うと考えた方がいいだろうよ」
「およ? んー、確かにそれは十六夜さんの言う通りかも?」
「はいはーい! まだ見ぬ『Ⅲ型』のUFOが存在してて、それに捕まってるとか? イベント後半で、その辺を投入って可能性もあったりしない?」
「ないと断言出来ない内容だな!?」
『Ⅲ型』の出現は前にも少し話題に出てたけど、冗談抜きでそういう可能性もありそうな気がしてきた。武装の無力化や機動の無効化なんて改造があるのも、それに備えてのもの?
イベントの後半戦ほど大掛かりになるのはよくある話だし、否定要素が全然ないんだけど!?
「ま、それはイベントが進んでから考えようぜ。今は、ここから先の新エリアに進む事を考えるぞ」
「ですよねー! それじゃ、新エリアに出発!」
「「「おー!」」」
サヤ達は元気に返事をしてくれているし、移動を促したアルも進み始めた。みんなも頷きながら進んでいるから、今は前を向いて進むのみ!
さーて、レナさんからどんなエリアかまでは聞かなかったけど、この先はどんな光景が待ってるんだろうね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます