第1548話 情報の整理
ログイン早々に、桜の不動種の並木へ『Ⅰ型』のUFOが墜落してきたのはビックリだったね。ベスタが確保する事にはなったけど……まぁ、俺も含めて、他のみんなは争奪戦は避けようとする動きが多かったというのも興味深い。
とりあえず、そんな状態は済んだから桜花さんの樹洞に集まってきた。風音さんや十六夜さん、曼珠沙華の3人はこっちで待機してたのか。
「ケイさん、ケイさん! あれ、結局、ベスタさんが持ってったの?」
ん? リコリスさんは外には出てなかったのに……って、樹洞の中に外の様子が投影されてるから、普通に見るだけは出来た状態か。まぁこれ、声は届かないから、正確な状況は外にいた俺らに聞くしかないよな。
「下手にベスタ相手に競り合っても時間の無駄だと思ったか、俺らも含めてみんながベスタに譲ったぞ」
「あ、そうなんだ?」
「……クオーツと交渉して、回数を増やしてもよかったんじゃないか?」
「十六夜さん、それは厳しいって。俺もそれは考えたけど、上限回数が分かってないのに、あの状況でそれをするのは……あの後がどうなるか、分かったもんじゃない」
「……人目があり過ぎたか」
「そうそう、そういう事。下手に捕まったらこれからの身動きが取りにくくなるから、交渉は諦めた」
「……そういう理由なら、納得だ。確かに、色々とリスクがあり過ぎるな」
「いたのがベスタだけだったなら、交渉したんだけどなー」
惜しい事をしたって気持ちはあるけども、さっきは無理をすべき場面ではなかったはず。だから、あの判断でよかった――
「みんな、お待たせー! あ、わたしが1番最後っぽいし、待たせちゃった?」
「いや、大丈夫だぞ、レナさん。さっきまで一悶着あったとこだしな」
「およ? アルマースさん、一悶着って……何があったの?」
「ついさっき、桜の不動種の並木に『Ⅰ型』のUFOが墜落してな。誰が取るか、睨み合いが発生してたばかりだ」
「あ、そうなんだ? んー、さっきまでそんな状態だった割に……なんか平穏だったよ?」
「それ、ベスタがいたからだなー。真っ先にベスタがUFOを抑えて……俺も含めて、みんなが諦めていったからさ」
「あー! うん、それは正しい判断だね! ベスタさん、そういう状況なら、変に拗れそうになればUFOをぶっ壊しそうだし!」
「それもあり得るなー」
確かにベスタなら、やる可能性はある。争った挙句、誰も何も手に入れられないなんて状況だけは避けたいよね。ベスタなら悪用する事もないだろうし……あー、今回の分って悪用の仕方って何かある? ……うん、思い付かん!
「まぁさっきあった事はもう済んだし、置いておこうぜ。全員が揃ったし、まずは現状の整理をしようじゃねぇか」
「だなー」
桜花さんの言う通り、さっきの件はベスタが睨み合いを制して持っていった以外の情報はないからね。それよりも、各自がログアウト中に得た情報の交換をするのが優先か。
「とりあえず、俺らが晩飯までの時間に仕入れた情報から話していくぞ」
「おう! 頼むぜ、ケイさん!」
とはいえ、それほど多くの情報がある訳じゃないけど――
「はい! 私達、UFOに間違えられました!」
「……何をどうすれば、そうなるのかな?」
「というか、そんな事態ってあるの?」
「あー、うん。まぁその辺は……実際にあったとしか言いようがないんだけどな」
「……ラジアータがみんなを岩で覆って、私が闇の操作で隠してたの」
「それで、森林深部に『Ⅱ型』のUFOが降りてきた時の対応を観察してたんだよね! いやー、それが終わった後に、まさか『Ⅰ型』のUFOに間違えられて攻撃されるとは思ってなかったよ!」
うんうん、まさかあんな状態になるとは思いもよらなかったもんな。でもまぁ、それで大雑把だけど動き方が把握出来たのは大きいけどさ。
「およ? あー、そっか。闇に隠れたのを、ステルスだと勘違いされたんだ?」
「そうそう、そういう感じ。どうも、黎明の地の方だと、エリア全体で落下物の数を増やそうって様子があってさ。進化階位の低い人達が、思いっきり攻撃しまくってたんだよ」
「ほう? それ、実際に増えるのか?」
「攻撃する度に、落下物が追加で落ちてたのは確認したのさー!」
「なるほど、実際に効果があるんだな。ケイ、黎明の地だけの固有の話だと思うか?」
「いや、そうは思わないなー。獲物察知でPTや連結PTの単位での反応も確認してみたけど、これには進化階位の差が反映されなかったから……新エリアの方へ、落下物の追加入手を目当てに進化階位の低い人を連れていくのもありだと思うぞ」
「そういう動き方も出来るか。それは少し厄介だな」
「とはいえ、そういう状況さえ把握出来ていれば、人数の水増しは見抜けるから、その手のハッタリは防げるけどな」
いやー、大真面目にこの辺は実際に偵察してみてこそ、分かった部分だもんな。UFOと間違えられて襲撃を受けるなんて事もあったけど、それでも偵察して正解だったよ。
「……知らずにいれば、戦力の人数を見誤るか。……だが、その事さえ知っていれば、表示を切り替えるだけで見せかけの情報は見抜けるな」
「そうそう、そういう事! なんなら守りも必須だろうから、弱点にもなり得るぞ!」
「……いい情報を得ているな」
「いえいえ、どういたしまして!」
十六夜さんはこの件の危険性も対応策も、すぐに把握してくれたみたいだね。小手先の細工ではあるけども、進化階位の低い人達を連れていくのはメリットは確実にある。まぁそれ相応のデメリットもあるけどさ。
「俺らの仕入れた情報はそんなもんだけど……アル達は、何か情報はあった?」
「俺ら……というよりは、『縁の下の力持ち』が探ってきた情報はあるな」
「ほほう? 十六夜さん、どんな情報?」
「……翻訳機能を使って、黒の異形種と接触した奴がいてな」
「おっ、マジか! それ、どこで!?」
「……『Ⅰ型』のUFOに引き寄せられた個体だ。……呼びかければ、共闘が成立したとの事だ」
「おー、そうきたか!」
「およ!? え、そんな事が出来るの!?」
これ、非常に興味深い内容だね。手伝ってくれている様子と遭遇したって話はあったけど、翻訳でちゃんと意思疎通が出来れば、共闘も可能とは――
「……いや、全ての個体がそうではないそうだ。呼びかけてても反応せず、UFO相手に荒ぶっている個体もいたらしくてな。『邪魔をするな』と追い払われる事もある」
「あー、共闘が成立するかは、その個体次第?」
「……あぁ、そうなる。その判別基準までは分かっていないがな」
「なるほどなー」
まぁ黒の異形種も一枚岩ではないって話は出てたんだから、個体によって対応が変わってくるのは予想出来る範疇かもね。……変に博打をするより、自力でUFOを止めた方が楽か?
「んー、ねぇ、ケイさん? 翻訳で何が出来るのか、ハッキリさせといた方がよくない?」
「それは思うんだけど、イベントが進んでない状態でやるのもなぁ……」
レナさんが翻訳について気になるのは分かるし、俺もここは一度、行きそびれたあの谷まで行った方がいいとは思うんだけど……。そもそもの話、その辺って何か動きはあったのかな?
「ちょい確認。引き寄せられた個体以外に、どこかで接触したって情報はあったりしない?」
「あー、あの谷の奥なら、行くのはやめておいた方がいいぞ」
「およ? わたし、是非ともそこに行ってみたいんだけど……桜花さん、何か問題ある感じ?」
「問題というか、ケイさんがクオーツに黒の異形種の事で質問したろ? あの情報を元に、黒の異形種と接触が出来る機会を探せって躍起になってる人も多いみたいでな」
「あらら? 他のみんなも、そこはやっぱり気になるんだ?」
「気にするなって方が、無茶だと思うけどな」
「ですよねー」
他の人が大勢いる前で、黒の異形種との交渉が可能な事を明言してしまったんだから……そりゃ探しに動く人達が出ても当然か。
あの原野で動く人達が、情報収集を一切してないとは思えないから……どこかからの伝手で、俺がやった事の情報は掴んでいるはず。
そういう状況なのに、さっきの睨み合いになった時にはやけにあっさり引き下がる人が多かったし……既に黒の異形種の溜まり場があるのを把握してる人も多そうだよなー。
「桜花さん、その情報はどこから仕入れた? というか、どこまで広がってる?」
「少なくとも、その辺で前を歩いていく人が人目を気にせず平然と話す程度には広まってるな」
「およ? それ、もうほぼ公然の事実になってない?」
「なってるぜ。だがまぁ、その上でイベントの進行が起こっていないから……現時点で、イベントフラグはどこも踏んでいない可能性は高い。まぁそもそも、完全に進行が止まっている可能性もあるがな」
「……確かにな。クオーツからも、エンやグレイからも続報はまだ出ていない状態だ。翻訳持ちが0だとは思えんし、あの溜まり場に行った人が0とも思えんから……現状では、行ったところで何も進展がない可能性が高いだろう」
「なるほど、そういう状況か……」
うーん、桜花さんが動かずとも簡単に情報を拾える状態なら、もう知られ切っていると思って確実だね。その上で考えれば、十六夜さんの意見にも頷ける。探りに行った上で成果なしが、現状で一番あり得る状態か。
「……下手に……谷に行くと……囲まれるかも?」
「情報を持ってる私達は、格好の餌食って事? あはは、普通にありそう!」
「リコリス、笑っている場合でもないだろう」
「いや、まぁそうなんだけどさー。実際のとこ、その危険はあるでしょ?」
「……次に何か進展があった時に、即座に動けるように待ち構えてる可能性もあるかも?」
「あ、その可能性もありそう!」
「……今は……下手に……近付かない方がいいかも?」
「あー、下手に近付くのはリスクがあるか……」
うーん、迂闊に人が多い場所でクオーツに聞いたのは失敗だったか? いや、逆に考えてみよう。今、イベントの進行がもし止まっている状態なら、変に一ヶ所に集まるような状況はあんまり良くないよな?
いつ進行して、どういう展開を迎えるかは……現時点では一切不明なんだしさ。それこそ、まだ連休は日曜、月曜とあるんだから、今日はもう進展しないという可能性もある。となれば……。
「いっそ、黒の異形種との交渉は諦めて、人がそっちに固まってる間に、改造機能を増やすのもありか?」
「およ? ケイさん、そういう動きにするの?」
「もう既に人が集まってるところに、今から集まっていってもなー。下手すりゃ今日はこれ以上何も進展しない可能性もあるし、何度もイベント進行はしてるから、そこはスルーもありかと思うんだけど……」
レナさんはほぼ進行のときに居合わせてないけど、なんだかんだで結構俺らで進めた感はあるもんな。全部を俺らがする必要もないんだから、無理して争わず、譲るというのも一つの手!
「はいはーい! そういう方針自体はいいんだけど、直接、どういう動きをしてるかの確認はしたいかも!」
「リコリス、それは――」
「近付く事になるのは分かってるよ! でも、黒の異形種の溜まり場ってあそこの谷の洞窟だけじゃないでしょ? 私達は、流石に黎明の地では探索しないよね? それなら、新エリアの他のエリアにあるかもしれない未知の場所は避けられないんじゃない?」
「……それは、そうかも?」
「確かにそうかもしれんが……」
ふむふむ、確かに黎明の地で探索というのは……ある程度の棲み分けが出来てきている段階でやるべきではないか。やるとしたら飛翔連隊と同様に、初期エリアから遠い場所を探索していくって感じになるだろうけど……それだと、別働隊にしている意味も薄くなるもんなー。
だから、俺らはこっちの新エリアで動いた方がいい。その上で、原野を避けるとしたら……。
「桜花さん、俺らが昼間に探索してた場所って知られてる?」
「絶対にとは言えないが、おそらく原野にいたとは認識されているとは思うぞ。少なくとも、その目撃者はいくらかいるだろう」
「なるほどなー。そういう人達が、どの程度情報を出してるか次第か……」
いっそ、完全に俺らが原野にいたのが広まってくれていれば、他のエリアに行くのを選んだ際に黒の異形種との接触を狙ってないと分かりやすくなるんだけどね。
あ、そういや場所によっては、移動妨害のボスを倒す必要も……。
「……ん? ちょい待った。黒の異形種って、よく考えたら……探さなくても、いるよな?」
「ケイ、一体何を言ってる?」
「いや、ほら! いるじゃん、安全圏に移動妨害をしてくるボスが!」
「おい、待て!? ……言われてみれば確かにいるが、あれは交渉が出来るのか?」
「やってみないと分からないだろ、アル?」
「……確かに、それはそうだな。考えてもみなかったが、確かにあれも黒の異形種なのは間違いないか」
「およ? それ、灯台下暗しかも!」
「……試してみる……価値はありそう?」
「……当たり前に存在し過ぎていて、別枠と考えてしまっていたな」
いやー、今の今まで考えもしなかったけど、あれだって黒の異形種なんだ! 本質的には同じ存在だろうから、対話は可能なはず! ……交渉に応じてもらえるかは、また別問題だけどさ。
「問題は、どこの個体にするかなのです!」
「一番近くはここのだけど……ゾンビのヘビだし、ケイは大丈夫かな?」
「あー、平気、平気。前も見てるし、苦手生物フィルターで何とかなる範囲」
ヘビが苦手なのは事実だけど、そこまで極端に避けなきゃいけない程ではないしね。フラムが3rdで作ったりしてこない限りは、早々変な事にはならん!
「あー、でも交戦状態に出来るかが問題か。ここの安全圏のゾンビな大蛇、戦った事がないって人はいる?」
あの手のエリア移動を妨害するボスは、再戦の為には非参戦の誰かが一緒にいる必要があるからなー。もし、全員が撃破済みなら、他のエリアで考える必要があるけど……。
「……私達、倒してない」
「新エリアの妨害ボス、手付かずなんだよねー!」
「そもそも、真っ当な転移が可能になったのがつい最近だからな」
「……安全圏に入る事がなかった曼珠沙華がそうなるのは、自明の理か」
「ですよねー! おし、それじゃ群雄の密林の安全圏でちょっと実験をしてみるぞ!」
「「「「おー!」」」」
他のみんなも頷いているし、とりあえず転移からだな。さて、どういう結果になるやら? 安全圏からしか行けない場所よりは、占有エリアの隣にあるとこの方が人は少ないはず!
最悪、目立ってもいいけど……可能なら、周回PTとかがいなくて、人目も少ない方がいいんだよなー。まぁそれは行ってから考えよ。
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