第1547話 夜からの行動
客間の片付けを大急ぎで済ませ、晩飯を食べ終えたところである。メニューは冷しゃぶだったのはいいとして……。
「えーと、ここはこうして……こうね?」
新しく設置された食洗機の使い方を、家族揃って確認中。まぁ食器の入れ方次第で汚れの落ち方が変わってくるから、主に母さんが入れていく事になったんだけど……。
「油汚れが凄い時は、結局、軽く水洗いした方がいいのは変わらないんだな……」
「まぁその程度なら、お母さんがやるわよ? なんだかいつの間にか、圭ちゃんに任せっきりになってたしね」
「……へ? え、マジで?」
「晴ちゃんの受験の塾の送り迎えとかで、圭ちゃんが代わりにしてくれてたのがそのまま定着になってたからね。まぁそれも楽でいいかなーって任せちゃってたけど、今は色々やってるみたいだし……この機会に変えちゃいましょ?」
「おっし! それはありがたい!」
そういや、去年からなんだよな。晩飯の片付けを全面的に俺がやってたのって。……ゲームをやり過ぎて成績が落ちた罰も含められてた気もするけど、晴香の受験関係であれこれと母さんが動いてたのもあって、俺がやる事になってたんだった。
もう当たり前のようにやってたから、完全にそうなった理由を忘れてたよ。……うん、当たり前な話だけど、去年は晴香が受験生だったんだよなー。
「今更過ぎる話なんだけど、晴香って受験勉強はどうだったんだ? ヨッシさんの事とか、色々あったろ?」
「……正直、かなりギリギリだった!」
「危うく、名前さえ書けば受かるってレベルのところしか行けない可能性もあったわよ? だから、晴ちゃんが色々と辛いのは分かってたけど、塾まで送り迎えをしてたんだからね」
「あー、そこまで危なかったのか……」
「でも、なんとか乗り切ったのさー!」
今でこそ、そう元気よく言えるんだろうけど……今年、モンエボを始めるまでの晴香の空元気さを考えるとなー。マジで相当、精神的に無茶してたんじゃね?
晴香の高校、俺のとこより一段下がるとはいえ……進学校ではあるもんな。俺がゲームのやり過ぎで一時的に成績が下がったのとは、まるで理由が違うし……最近まで部活云々なんて、頭にすらなかったんだろうね。
「晴香、部活は結局どうすんの?」
「うー! それ、まだ色々と悩み中なのさー!?」
「あら? 晴ちゃん、何か部活を始めるの?」
「おっ! 部活をやるなら父さん、応援するからな! 何か道具が必要なら、遠慮なく言え! 金なら出すぞ!」
「もしやるとしても、新しく道具は必要にならないから、大丈夫なのさー!」
「……そ、そうか……」
あ、意気込んでた父さんが、晴香の一言で撃沈した。まぁeスポーツ部をやるにしても、既にフルダイブの環境自体はあるんだから、新しく必要になるものは特にないか。精々、ソフト代かプレイチケット代くらい? まぁ他に何が必要か、知らんけど。
「晴ちゃん、しっかり悩んで、どうしたいか決めなさい。やると決めたら、お母さん達は応援するからね」
「うん! 色々と考えてみる!」
まだやるとは決まってはいないけど……それでも前向きに進んでいけるようになったのは、成長だよなー。大真面目に、直樹に相談してあっちの部員と交流出来る機会を用意したい――
「そういや、今更だが圭吾は何か部活とかはしないのか?」
「俺はパス。……仮に興味が出たとしても、うちの高校の部活は絶対に嫌だ」
「……おーい、なんかトラブル起きてんのか?」
「そういえば、今日スーパーで相沢さんのお母さんから謝られたわね? 具体的な内容は把握出来てなかったみたいなんだけど……圭ちゃん、何があったの?」
「ちょ!? そっちに話がいってんの!?」
あー、そっか。相沢さんの母親となると……喜多山先生の母親でもあるもんな。ガチで色々とやらかしまくってくれてるんだし、母親同士で情報が流れてきてもおかしくないのか……。
でも、これってどう説明すればいいんだ? 正直、説明しようにも、しにくいんだけど!?
「母さん、放っておいてやれ。圭吾にだって、親に話したくない事だってあるだろうよ」
「……それもそうね。でも、圭ちゃん、本当に解決が難しい事ならちゃんと大人を頼りなさい。いいわね?」
「そうだぞ。母さんも父さんも、圭吾の味方だからな。それは忘れんなよ!」
「……ほいよっと」
あー、父さんって普段は晴香の方への甘やかしが強いのに、こういう無理に突っ込まれたくない部分ではわざと距離を取ってくれるのはありがたいな。……それでも、どうしても必要な時は、頼ってこいか。
いや、そういう風に言ってくれるのは本当にありがたいんだけどさ! 相沢さんの件に関しては、相談しようもなくね!? そもそも、あれって誰かに相談すれば解決する問題!?
「兄貴、兄貴! そろそろ時間!」
「あ、もう20時か。母さん、もう片付けは任せていいんだよな?」
「えぇ、任せてちょうだい。今日は特に、試運転をしたいからね」
「あ、圭吾! 携帯端末の方に設置した鍵の電子キーは送っているからな!」
「それはもう確認済み! 父さん、部屋の鍵、サンキュー!」
「この程度、どうって事はねぇよ!」
自室に取り付けられた新しい鍵については、客間から自室へVR機器を戻す時に軽く確認しておいた。内部からは普通に手動で鍵をかけられて、外からは携帯端末経由で遠隔ロックが可能な仕様。
まぁホームサーバー経由でも開けられるけど、その場合は確認のメッセージが俺の携帯端末に届くようにもなってたね。何気に、内線機能付きというのもびっくりした。
緊急のロック解除もあるみたいだけど、まぁこれは本当に緊急時専用の機能だから、早々使う事はないだろ。……ぶっちゃけ、結構高かったんじゃね、あの鍵。
「兄貴、早く! 急がないと、合流時間に遅れるよ!」
「分かってるって! それじゃ、やってくる!」
「おう! 何してるのかよく知らんが、まぁ頑張れよ」
「雫ちゃんや紗香ちゃんによろしくね」
「へいへいっと!」
もう、色んな情報が母さんに筒抜け過ぎるんだけど……まぁそれで変な事をされる訳でもないしなー。むしろ、親経由で相沢さんに更なる釘が刺さる事に期待しよう。
そうなれば、必然的に余計な事は起きにくく……なってくれるかな? なってくれたら、いいんだけどなー。でも、あの相沢さんだし……警戒はしとこ。
◇ ◇ ◇
ログイン場面でのいったんの胴体部分のお知らせは特に変化なし。まぁ晩飯前に少し変化が出てたから、今は決まった時間での変更ではなく、進行具合で変化していくんだろうね。
という事で、ログイン場面は最小限で済ませてきた。ログインした場所は、すぐに合流出来るようにと移動しておいた群雄の密林だな。桜花さんのすぐ側の並木の終わりの部分だし、混雑は――
「ちっ! 並木へ墜落していくのかよ!?」
「下がれ、下がれ、下がれ! UFOが並木に突っ込むぞ!」
「全員、攻撃は抑えろ! 流石にここは位置がマズい!」
ちょ!? ログインして早々、真上をUFOが通過していったんだけど!? あー、火が出てるし、完全にステルスが切れてるし……うん、『Ⅰ型』のUFOが並木……それも桜の部分のど真ん中に墜落は良くない状態だな。
思いっきり墜落しそうな場所からは人が離れていってますなー。まぁそりゃ押し潰されても堪らないし……囲んでいってる人達もいるしね。そういう人達と渡り合う気がないなら、避けた方が無難だよな。
「あ、2人ともログインしたね!」
「見つけた! ケイ、ハーレ、こっちかな!」
サヤの声が直接聞こえたって事は近くに……よし、見つけた! 桜花さんの真上にアルが陣取っている状態か。
「来て早々で悪いが、いきなりこういう状況だ! すぐ、上に来い! 『根の操作』!」
「了解です!」
「ほいよっと!」
アルの根に掴まって、クジラの背の上まで引っ張り上げられたけど……本当にログイン早々、とんでもない状態だな!?
「アル、今はどういう動きになってる!?」
「見ての通りの状況で……おそらく、これから誰がクオーツとの接触をするかで睨み合いだ。ケイがその前に合流してくれて、助かったぞ」
「……俺に睨み合いをしてこいって事か。まぁそれでもいいけどさ……」
「ともかく、今は移動するぞ!」
「ほいよっと!」
桜の不動種の並木のど真ん中に墜落したUFO。墜落してくるのに押し潰されないように避けていた人はいたけども、墜落して済んでからはどんどんその周囲に人が集まっている様子。
その中でも目を引くのは……やっぱり有名どころになってくるよね。
「大勢、集まってきたな。まぁこんな位置に落ちれば当然か」
てか、その中でもベスタがUFOの真上に陣取ってるのが恐ろしいな。この状況で、ベスタが一番近くにいるとは……。
「これだけ目立つ場所だから、この状況も当然だろう! なぁ、疾風の!」
「誰がクオーツの改造を手にするかが問題だしな! なぁ、迅雷の!」
「……リーダーに、風雷コンビ、グリーズ・リベルテやオオカミ組や三日月……他にも色々と集まってきているか」
「モンスターズ・サバイバルのリーダーの肉食獣さんが言える事でもないよね。でも、この面子は結構厳しいのは確かだけどさー」
「……招き猫さんが言う事でもないとは思うけどな。野良で大々的に人を集めて、探索していると聞いたぞ?」
「ふふーん、詳細は教えれらませんなー」
うっわ、マジでベスタ以外にも有名どころが集まってるな……。これから、夜からの活動を始めようと人が動き始めてたタイミングだったからこそ、こんな状況になっている?
てか、モンスターズ・サバイバルはミズキの森林にいるのかと思ったら、大々的にこっちで動き出してる? 招き猫さんも野良で人を集めてるとか、サラッと色んな情報が聞こえてきてるけど……。
「さて、1個しか手に入らないクオーツの改造を誰が手にするかだが……これだけの面子が勢揃いした状況だ。誰が手に入れるのか、それを決めるのは容易ではないが……どう決着を付ける?」
ベスタがそう語りかけてくるけど……この睨み合いの状況、マジで厄介だな!? 全員、同じ灰の群集なんだから、撃破による排除は不可能だしさ。
話し合いによって解決するにしても……流石に人数が多過ぎて、クオーツに改造数を増やしてもらうのも限界だよな!? あー、くっそ! 最大、何個まで追加の改造が可能なのか、夕方のあの機会で試しておくんだった!?
「リーダー、俺らは遠慮しておくぜ」
「蒼弦、いいのか?」
「ここで下手に時間をかけるより、別枠で探した方がよっぽど早いからな。って事で、行くぞ、野郎ども!」
「了解っすよ!」
「……なるほど。確かにそうかもしれんな」
おー、蒼弦さん達、オオカミ組はあっさり撤退を決定か。まぁ確かに他を探せるだけの実力があるなら、この1機にこだわる方が時間の無駄だよな。……何気に蒼弦さんは、オオカミの目元にレンズを付けてるしさ。
「我らもその方が早いかもな! なぁ、疾風の!」
「睨み合ってるだけ、時間の無駄か! なぁ、迅雷の!」
「「では、探索に行くぞ!」」
「俺らもそうするか。まだこれからの探索方針を決められてないのに、ここで時間を無為に潰すのは無意味だ。行くぞ、エレイン」
「えぇ、了解です。まずは皆と合流を済ませませんと」
「確かにそだねー! ここは残った人に譲っちゃうよー!」
これで、風雷コンビとモンスターズ・サバイバルの面々、招き猫さんが離脱か。他にもチラホラと離れていく人が大量に出てるけど……落下物の回収は……あー、あちこちの不動種から根が伸びてきて拾っていってるから、もう手遅れだね。
不動種の人にとっては貴重な直接の回収チャンスなんだから、他の人達はそれを邪魔しないようにしてる様子も見えますなー。
「ツキノワ! 黒曜! 撤収するよー!」
「アリスにわざわざ言われなくても分かっている。黒曜、もういいか?」
「大丈夫だよ。これから本格的な参加だから、墜落したUFOの実物を少し見ておきたかっただけだしね」
ツキノワさん達の共同体『三日月』も離れていってるけど……今いたのは3人だけか? いやまぁ全員がここに揃っているとは限らないから、他の場所にいるのかもな。
他のPTも撤退していく様子が見えて……あー、こうなっちゃった? いやいや、俺らの場合、待ち合わせ場所がすぐそこだから、撤退しようにも出来ないって事情もあるんだけどさ……。
「残ったの、俺らとベスタだけ?」
「いや、様子を窺っているのは他にもいるぞ。もし俺やケイ達がここを離れたら、次の睨み合いが始まるだろうな」
「あー、よく見たらそんな感じだな……」
さっきまで最前列まで出てきてた有名どころがほぼ去っていったけども、まだベスタが大々的にUFOの上を陣取っている状態だもんな。周囲を見てみれば遠巻きに様子を窺っている人達がかなりいるんだし、機会がくれば一気に動き出すよねー。
「さて、ケイ……どうする? これを、俺と奪い合うか? 現実的に可能なPT数にはなってきたぞ」
「自信満々で凄い事を言ってくれるけど……実際、出し抜ける自信もないからな……」
ベスタ相手に争奪戦を仕掛けるのは、可能ならやりたくはない。正直、ダメージを与えられない状況で勝てる様子が想像出来ない! なんなら、俺は逆にコケを引き剥がされて仕留められる予感がするくらいだよ!
いっそ、ここでクオーツと交渉して改造回数を増やしてもらって……いや、駄目だ。これだけ注目を浴びてる状態で、俺らとベスタ、両方が改造を得るまでならまだしも……それ以上が得られる可能性は提示すべきではない。
それこそ、この睨み合い状態が終わらなくなるし……下手すると事態は悪化する。この状況の長期化は避けたいし……。
「みんな、これは諦めよう。ベスタに譲った方が、色々と安全だ」
「……確かにそうかもな。桜花さんの樹洞の中に戻るか」
「その方がよさそうかな?」
「自分達で見つけられない訳じゃないもんね」
「潔く撤退なのさー!」
理由までは伝えていないけど……みんなも、ここで改造回数を増やすリスクは分かってくれたはず。せめて、上限数が分かっていれば交渉のしようもあるんだけど……この状況じゃ、試すのは無理!
「それでは、これは俺がもらっていくぞ」
「そうしてくれ。ベスタが確保するのが、一番問題がなさそうだしな」
今回、誰とも組んでいる気配のないベスタがこの場にいたからこそ、みんながあっさりと諦めて引き下がったって感じだしね。みんな、それぞれを相手にするのを嫌がったのもあるだろうけど……ベスタなら、争いの元を断つ為にUFOを完全に破壊する可能性もありそうだしさ。
そもそもベスタも片目にレンズを付けてるから……最低でも1個、改造を手に入れているのが分かるんだよなー。ソロで動いててそれって、無茶苦茶なのがよく分かるわ!
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