第1545話 黎明の地での動き
おそらく、今の森林深部ではUFOの争奪戦が繰り広げられている真っ最中。でも、このまま戻ったら混乱させてしまうから――
「ケイさん、ケイさん! 急いで森林深部に戻るのさー!」
「そうは言っても俺らが行くと目立って、変に混乱を招くだけだし――」
「だったら、私達だとパッと見で分からなければいいのです! 発光を切って、岩で包んで、姿を隠すのさー! あ、闇の操作も!」
「あー、なるほど。徹底的に隠れりゃいいのか」
ふむふむ、変に混乱を招くのを警戒してたけど……偽装工作を施した上で眺めるだけなら、なんとかなるかも? ただ、俺の闇の操作はLv2だから、安定段階ではないんだよなぁ……。
くっ! 目立つのが日常的な事だから、闇に紛れるなんて必要性は全然考えてなかった……。いや、でもここには俺以外にも持っている可能性があるメンバーがいる! 隠れて眺めるなら、闇の操作は絶対に欲しいから、そこ次第だな。
「曼珠沙華で、闇の操作がLv3以上の人っている? もしいるなら、今のハーレさんの提案でいきたいんだけど……」
「……闇の操作Lv3なら、私が持ってる」
「おっ! 彼岸花さんが持ってたか! おし、ならハーレさんの案を実行するのもありだな」
「賛成! それじゃ、争奪戦が終わらないうちにササっと準備していくとして……岩は、誰がやる?」
「彼岸花との連携になるなら、俺がやろう。リコリスは、観察に回れ」
「はいはーい! 任せたよ、ラジアータ!」
ふむふむ、ラジアータさんが岩で俺らを隠す部分を作ってくれそうだね。まぁ俺がやるよりも、連携慣れしてるメンバーでやる方が確実性は高いし、無難な人選だな。
となると、俺の水のカーペットと発光は邪魔になるから、ササっと解除していこうか。
<『発光Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 123/123 → 123/126(上限値使用:3)
とりあえず発光は解除完了。森林深部のあちこちで明かりは用意されてたから、夜目だけで十分目視は可能だろ。
「ケイさん、水のカーペットの解除は少し待ってくれ。下に土台を作ってからで頼む」
「ほいよっと!」
そのまま流れで、水のカーペットを解除しなくてよかったっぽいね。まぁ先にみんなを地面に下ろす必要もあるんだし、いきなり解除はしないけどさ。
「彼岸花、上部は闇の操作だけでいいか?」
「……ううん、出来れば岩で覆って。周囲を見るなら闇の操作の範囲から顔を出す必要もあるし、顔だけ浮いて見えて……逆に目立つから」
「……そう言われると、確かにそうだな。覗けるスリットを入れた岩で全体を覆う感じでいくか。『アースクリエイト』『岩の操作』!」
おー、俺の水のカーペットと、その上に乗ってる全員を完全に覆うように岩が形成されたね。それでいて、外の様子が見えるように、隙間もしっかり作られている。
うん、これってトーチカっぽい感じ。何気にこれ、実際にトーチカとして防御しながらの攻撃手段としても使えるんじゃね? あー、でも視認性が悪過ぎるか?
「ケイさん、水のカーペットの解除を頼む。スリットを最小限の幅にしておきたいから、高さの調整もしていくぞ」
「ほいよっと」
今の状態じゃ、外から結構中が見えるしね。闇に紛れさせるなら、もっと覗き込む部分は狭い方がいいか。見やすさ優先なら広い方がいいけど、今は見つかりにくさ優先で!
<『移動操作制御Ⅱ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 123/126 → 123/128(上限値使用:1)
水のカーペットを解除して、ラジアータさんの生成した岩へ着地! あ、少し位置が下がったから高さが足りなくなって、外の様子が見えなくなった。
「ラジアータ! 見えなくなったんだけど!」
「それくらい、見れば分かる。もう少し高くすれば……こんなものか?」
「バッチリ見えるのさー!」
「……うん、これなら問題ないね」
「俺も問題ないぞー」
岩の底の部分を追加生成して、底上げをしてくれたから、それで見えるようになったね。後は上に広い部分を、少し狭めていけば――
「私はまだ低いんですけど!」
「……リコリスはトカゲな分だけ、視点が低いか。まぁそこだけもう少し上げれば済むだろ。……こんなものか?」
「ふふーん! これでよろしい!」
「……後は、最小限までスリットを狭めて……よし、こんなものだろう」
おー、外からの光がかなり制限されて、岩の中はほぼ真っ暗っすなー。でもまぁ、外を見るんだから、中の暗さは特に問題ないか。
「これなら、左右の視界は十分確保出来てるのさー!」
「上下の視界は……まぁこの程度は仕方ないね! 彼岸花、仕上げをよろしく!」
「……うん、任せて。……『闇の操作』!」
岩の中の暗闇を使ったのか、少し暗さがマシになった気がする? いやまぁそれでも、相当暗いけどさ。外から見た様子は分からないけど……まぁ彼岸花さんの操作精度なら、心配は無用か。
「準備完了なのさー! それじゃ、争奪戦が終わる前に出発なのです!」
「それはいいんだけど……ハーレさん、声は抑えろよ? 闇に紛れてる意味、無くなるからな?」
「……あぅ……気をつけます」
テンション高く宣言するのが悪いとは言わないけども、状況は考えてくれよな。特に今回はハーレさんの発案なんだしさ。
「ともかく、急いだ方がいいか。出発するから、彼岸花、合わせろ」
「……うん!」
さて、『Ⅰ型』と『Ⅱ型』のどっちが降りてきてるかで、かなり様子は変わってそうな気もするけど……今の森林深部はどうなってるものやら?
<『ハイルング高原』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
ラジアータさんの用意した岩の中にいるまま、森林深部へと戻ってきた。さて、どんな様子が……。
「あー、降りてきてたのは『Ⅱ型』の方か」
「おー! 思いっきり戦闘中なのさー!」
「……みんなで、取り囲んで攻撃してるね?」
「私達じゃ威力があり過ぎるけど、下の進化階位の人達なら……ボス戦をやってるくらいの強さみたい?」
「そのようだな。大人数で囲んで拘束して、攻撃を叩き込んでいるか。だが、これは……参加人数が多過ぎて、割に合わないんじゃないか?」
「『Ⅱ型』は持ってる落下物、少なめだしなー。そういうデメリットはありそうかも……」
うーん、俺らなら1発で落とせられるから、一緒に動いているメンバー分の個数が確保出来れば十分だけど……流石に連結PTの人数を超えてくるとなると――
「はっ!? この『Ⅱ型』、落下物がかなり多いのです!?」
「あ、ほんとだ。戦闘でダメージを受ける度、ポロポロと追加で落としまくってるね」
「……個数が多く手に入るように、調整されてる?」
「その可能性が出てきたな。この手の場所には、大量に持ってる個体が送り込まれるのかもしれん」
「あー、まぁそういう調整は必要かも……?」
そうじゃないと、どう考えても割に合わない結果になるもんなー。初めから持ってる数が多いのか、それとも攻撃を受ける回数によって追加で落ちるようになってるのか……ここで成熟体のプレイヤーが乱入しようと思えば出来るんだし、後者の調整になってる可能性が高いかも?
そうしておかないと、成熟体のプレイヤーが乱入してあっさり仕留めるのが一番得な状態になるもんな。バランスを考えるなら、攻撃回数を基準にしてしまう方がいいはず。
「……ん? これ、下の進化階位の人が攻撃すれば落下物の個数が増えるなら……新エリアの方に連れてきて、攻撃してもらうってのもあり?」
「策としてはありかもしれんが……ケイさん、獲物察知の確認をしておいた方がいいんじゃないか?」
「あ、そういやそうだった」
ここでは成熟体の人との混成状態の人は少数派っぽいだけど、格下のみでのPTや連結PT単位でのまとめた表示の確認も確認しておいた方がいいよな。
<行動値を6消費して『獲物察知Lv6』を発動します> 行動値 117/128(上限値使用:1)
さて、これでの反応はどうだ……? あー、なるほど……。
「PTや連結PT単位だと、線の太さは変化しないな。個別で見れば、成長体と未成体と成熟体の差は明白に出てくるけど……個別に確認は必須っぽいね」
「なるほどな。それなら、ここに確認に来て正解か」
「だなー。こりゃ、護衛をする必然性が出ても、新エリアへ格下の人を連れてくるメリットはあるかも……」
戦う相手が同格の成熟体の人だけならやりやすいけど、格下の人って攻撃にしにくさも出てくるし……いや、そこで遠慮するのは無しだな。対人戦が発生するのは想定出来る以上、そういう場所に出向いてくる人は、格下であっても倒される覚悟はしてるはず。
「ケイさん、ケイさん! 未成体の人が拘束して、成長体の人が攻撃してるように見えるんだけど、その辺はどうですか!?」
「あー、ちょい待ち。その辺も観察してみる」
パッと見の模様や色合いで、ある程度の進化階位は見分けられるけど……それはあくまで、簡単な目安でしかない。しっかりとした判別をした方が、確実ではある。
えーと、実際の動きと、獲物察知での反応を見比べてみて……。
「……ハーレさんの読み通りだな。実際、そんな感じで動いてるし……成長体の攻撃なら、何発も当てられるのか」
「おー! やっぱりそうなのさー!」
「んー、未成体っぽい人がエンジンを壊したりもしてたし、適正な威力は未成体かもねー」
「……成長体は、回数稼ぎ要員?」
「多分なー。でも、全然効いてない訳じゃないから、戦力にはなってるっぽい。流石に幼生体は、参加してる様子はないけど……」
「いくらなんでも、幼生体は早過ぎるしな」
「ですよねー」
成長体までの育成にはそれほど時間は掛からないんだから、幼生体は流石に戦力外なんだろうね。まぁいくらなんでも、幼生体でもイベントにガッツリ参加させろってのは無理があるよな。そこは、普通に育成しろって話だしさ。
「あ、墜落し始めたのさー!」
「これ、UFO自体はどうする……って、争い始めた!?」
「……UFOは、早い者勝ち?」
「そうみたいだねー! さっきまでは一緒に戦ってた感じなのに、一気に動きが変わったもん!」
「勢い余って、完全破壊なんて事は……あるみたいだな」
「今、まさにそうなったかー」
落下物を手に入れるまでの協力関係は、この場にいる人達の中で確立出来ているのは分かった。だけど、UFOの中でクオーツに改造してもらうのには……まぁこのメンバー、全員の接触は無理か。あ、でも……。
「ここにいるのは灰の群集の人ばっかだし、クオーツと交渉すれば……各連結PTの代表者1人ずつの改造はしてくれそうな気もするな?」
「はっ!? 確かに出来そうなのさー!?」
「……ケイさん、それは教えてくる?」
「あー、悩ましいとこだな……」
おそらく、クオーツと交渉が可能だという認識がないからこそ、さっきみたいな強引な奪い合いになっているから……交渉次第ではそれが解消する可能性は十分ある。だけど、それを教えるのもどうなんだ?
今回のイベントの内容的に、一方的な情報提供は良くはない。それに、今ここでいる人達は新規層が多いはず。2ndや3rdもいるだろうけど……下手に干渉し過ぎるのもなー。絶対に交渉で思った通りになるって確証もないし……。
「今回は、教えるのは無しだなー。頑張って、自分達で気付いてくれ!」
「おぉ!? 完全な敵って訳でもないのに、容赦なくばっさりと切り捨てたのさー!?」
「ハーレさん、俺に恨みでもあんの!?」
その言い方、なんか非常に悪意を感じるんだが!? 俺が教えないって選択をするのが、そんなにおかしいか!?
「ううん、そういう事じゃないのさー! 素直に不思議だった!」
「……ただ単に、教えてもらってばかりだと育たないって思っただけだっての。灰のサファリ同盟……というか、学生組での統率力が機能しなくなったら弱体化するのは、確実に良くない傾向だしさ。今、そこを補うチャンスだろ? そこを俺らが仕切って立て直したんじゃ、意味がないし……」
「はっ!? それは確かにそうなのです!?」
「なるほど、成長のチャンスを与える為にわざと放置か」
「……確かに、良い機会!」
「一歩、他の人より抜きん出るには、それくらいは出来ないとねー! うんうん、機転は大事だしね! ……私らでも出来るか分からない部分で、それを求めるのはかなり要求ハードルが高い気もするけども!」
あー、まぁ確かにクオーツと交渉ってのはジェイさんとかでも思い至ってなかった可能性だしなー。とはいえ、俺は気付いたんだし……おそらく、黒の異形種との対話が可能って話は、次の段階が始まれば分かるはず。
黒の異形種との交渉が可能な事をヒントに、クオーツとの交渉の可能性に気付く人が出れば……うーん、ちょっと高望み過ぎるか? でも、新規勢にそういう事が出来る人が出てきて欲しい――
「おい! あそこ、何かあるぞ!?」
「あれ、ステルス状態のUFOか……?」
「闇夜に紛れてるっぽな! みんな、こっちに『Ⅰ型』が出てるぞ!」
「え、そんなにすぐ次が出てくる!?」
「おっしゃ! 逃げられる前に、一斉に攻撃を当てろ!」
「ちょ!? えっ!? 待って、UFOの反応は拾えて――」
「突撃ー!」
「「「「おう!」」」」
ん? なんか俺らの方に注目が……って、これ、もしかして俺らがUFOと間違われてない!? あ、魔法が飛んできてるし、完全にUFOだと思われてるな。
「わー!? なんかUFOだと思われてるっぽいのさー!?」
「あはは! まぁ見た目、ステルスで消してるように見えちゃうかもねー!」
少なくとも俺らが闇の中から顔を出している状態ではあるんだから、そこに違和感を持たれた可能性は大きいか。うん、ここはこれ一択だな。
「彼岸花さん、ラジアータさん、ここから全力で離脱! このまま残ってたら、確実にややこしい!」
「……うん、その方がよさそう。ラジアータ、ハイルング高原に移ったら地面ギリギリで減速。そこで闇を消すから」
「了解だ。何もなかったかのように、普通に歩いて誤魔化すんだな。そこまでは一気に速度を上げるぞ」
「よし、その案を採用で! 全員、衝撃に備えろ!」
「「はーい!」」
あ、加速感が来る前に、ラジアータさんが追加生成をして、俺ら全員の固定をしてくれたっぽいな。その直後、一気の速度が上がって……これで多分、振り切れるはず!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます