第1544話 晩飯までの微妙な時間
もう18時が近いし、ひと足先にレナさんもログアウトしていったから、手早く夜からの集合場所だけでも決めておかないとな。アルと十六夜さんも18時で一旦ログアウトするんだから、尚更に!
「あー、夜からも同じメンバーで続きをやるって感じでいい? 具体的に何をするかは……クエストの進行がいつになるか次第だけど――」
「状況次第だが、先にログインしてる人で動く事も考えつつ、何もなければ20時10分にここ……桜花さんの樹洞に集合でいいだろ。桜花さん、それでいけるか?」
「俺はそれで問題ねぇぜ! 風音さんは、大丈夫だよな?」
「……うん……大丈夫!」
「十六夜さんと曼珠沙華はどう? 問題なければ、アルの案を採用で行きたいんだけど……」
「……俺は問題ない」
「……私達も、大丈夫」
「その方向性で決定だね!」
「まだ具体的な動きを決められんのは、まぁ仕方ないだろうな」
「おし! それじゃ、夜からはそんな感じで! レナさんには伝えられる人が伝えてくれ。ログインすれば、分かるだろうしさ」
「任せてかな!」
タイミング的にレナさんが一番最後にログインしてくる可能性もあるけど……俺らがそれより遅くなる可能性は考慮しとかないとね。まぁこれで、大雑把過ぎる内容ではあるけど、夜からの動き方は決定!
「それじゃ、私達も一旦ログアウトするね」
「みんな、また後でかな!」
「さてと……俺と十六夜さんもか」
「……そうなるな」
「……私達は、十六夜さんが戻ってくるまでは続けるね」
「ふふーん! もちろんですとも!」
「桜花さん、風音さん、俺らでも調整は出来るから適度なところで飯は食ってきてくれ」
「おっ、そりゃ助かるな。なら、俺は早めに済ませとくとして……風音さんはどうする?」
「……今のうちに……食べてくる」
えーと、これは結構な人数が一気に離脱っぽいな。残るのは俺とハーレさん、それと曼珠沙華で……合計5人か。飛翔連隊は完全に別働隊だから、一緒に考える必要はないとして……まぁ約半数がログアウトだな。
「それじゃ、これから晩飯を食ってくる人は行ってきてくれ! その間は俺らが状況の確認はしとくから!」
「任せたぞ、ケイ。……つっても、情報入手の経路は少なくないか?」
「元々、人が減り出す時間なんだし、問題ないだろ」
「……それもそうだな。そんなにすぐに次の動きがあるなら、そもそもあそこでストップはかからんか」
「そういう事! むしろ、俺らがログアウトしてる間は……アル、頼んだぞ?」
「おう、そこは任せとけ。場合によっては、ケイ達は置いて先に動いているからな」
「それでよろしく!」
変に気を遣って機会を逃すよりは、俺ら抜きでも進めてもらった方がいい。まぁ1番いいのは、全員が揃うまで大きな動きがない事だけど……そればっかりは実際になってみないと分からないしなー。
◇ ◇ ◇
そうして、俺とハーレさん、曼珠沙華以外のメンバーはログアウトしていった。桜花さんもログアウトした為、樹洞の中にもいられなくなったので、並木の終わりの部分へと移動済み。
「……ケイさん、これからどうするの?」
「あー、どうしたもんだろうな? この5人でどこかに探索へ行くのでもいいけど……」
アルには問題ないとは言ったけども、今出来る事ってかなり限られてくるんだよな。アルがいないし、今のメンバーには大型種族がいないから、そう目立たずに動く事は出来るんだけど……時間的に、遠出は厳しい。
「リコリス、UFOに何か動きはあるか?」
「んー、遠くへ降りてるのは何機か見えたけど、近くはなさそうかなー? 方角的には『黎明の地』の方だけど……」
「……『黎明の地』に移動してみる?」
「あっちは全然自分達で見れてないし、そうしてみるか」
「ふっふっふ! あっちの偵察に行くのさー!」
こっちの新エリアの地域とは探索の動き方が違うだろうし、その辺を偵察してみるのもありだな。まぁ進化階位が低い人達の分を強引に奪うような真似は御法度だけども……。
「紅焔さん達は、今どこにいるんだ?」
「今はネス湖に向かってるぜ! 今度はあそこの水中と、その奥の『湖底森』を探索予定だ! まぁ晩飯で離れる前に、移動だけ済ませとこうって感じだけどな」
「あー、あそこか。その辺、人の多さはどう?」
「意外と、僕らみたいにあちこちの場所を移動してって人は少ない様子だよ」
「何ヶ所か場所を決めて、その範囲を行ったり来たりが多いみたい?」
「闇雲にUFOを追いかけても争奪戦になりやすいので、そういう状況で落ち着いているようですね」
「まぁ機動力は、どうやっても成熟体には敵わんからな。逆に、成熟体のプレイヤーはそういう定位置で探索してる人達を避けてはいるぞ」
「なるほど、そういう感じか」
飛翔連隊みたいに、あちこち移動しながら探索している人はそう多くはないんだな。まぁもの凄く広いから、そういう人同士が遭遇しにくいってのもあるんだろうけど……移動範囲を絞って、待ち構えるのも作戦の内か。
「なんか、成熟体とそうでない人で、自然と動き方が分かれてる気がするのさー!?」
「まぁ格下相手を強引に蹴散らして奪っていくのは、気が引けるし……そういう流れになるのは、分かる気もする」
それでもお構いなしに突っ込んでいく人もいそうだけど……それはそれで、遠慮してる人が妨害に動きそうだよね。そうして成熟体同士で争ってる間に、コソッと持っていくとかありそうだなー。
「その辺、実際に見に行ってみますか。紅焔さん、その定位置で待ち構えてる場所ってどこら辺?」
「初期エリアや占有エリア、中立地点なんかもそうだな! あとあれだ! その周辺エリアだ!」
「なるほど、その辺か。情報、サンキュー!」
「どういたしましてだな!」
要は、場所自体も進化階位が低い人向けのエリアな訳だ。まぁ単純に、そこより先に進みにくいってのもありそう?
あー、『侵食』の変質進化が使えないから、追いかけようにも不可能ってパターンもありそうだな。となれば……うん、まぁ状況次第か。
「よし! あくまで偵察を目的として、森林深部から雪山の中立地点まで行ってみるか。UFOに手を出すのは、周囲に誰もいなかった場合のみで!」
「はーい!」
「……分かった」
「ケイさん! 誰もいないってのは、成熟体は除くって認識でいい?」
「あー、まぁその認識でもいいけど……協力して動いてる可能性もあるから、その辺は要注意で」
「闇雲に攻撃するなよ、リコリス。ケイさんの言う通り、成熟体が成熟体だけのメンバーで動いてる訳じゃないからな」
「あ、そっか! 昨日のレナさんみたいな可能性もあるんだ!?」
「そういう事。邪魔するのが目的じゃないから、慎重に動いてくれ」
「了解! ……ところで、これって何目的? メインの行動範囲じゃないとこの偵察って、意味ある?」
あー、まぁそのリコリスさんの疑問ももっともだし、そもそも時間潰しの意味合いも強いんだけど……他の状況を確認したってのは事実なんだよな。そういう動き方を利用する手があるかも……って、それが理由になるか。
「新エリアの方で、同じような動かれ方をされた時の為の保険だなー。大人数で強引に押し込むってのが可能か、ちょっと見ておきたい」
「それって、意味あるの?」
「獲物察知のLvが上がって、PT単位でまとめて表示なんて事も出来るようになったからさ。……水増しされたら、気付かない可能性ってありそうじゃん?」
取って付けたような理由だけど……思い至ってみれば、割と本気で嫌そうな手段なんだよなー。これが有効なのって、おそらくLv6まで育って、PTや連結PT単位での簡易表示に対応するようになった獲物察知を持ってる場合だしさ。
冗談抜きで、メンバーを水増しして落下物の大量確保と、そこまでに行く場面で諦めさせる心理戦に有効な可能性はある。擬似的にだけど、そういう環境を実際に見ておくのは悪くないはず。
「言われてみると、それは気になるな。PTメンバーの内訳まで確認せず、諦めて離れるって事態もあり得るし……実際にどう見えるかを確認するんだな?」
「そうそう、そんな感じ! 個別なら線の太さで進化階位の差は見分けられるけど、まとめて表示だとどうなるか……」
「確かに、自分の目で確認した方がいい内容だな。そういう仕込みを、実際にやりかねない相手は普通にいるか」
「そうなんだよなー」
ジェイさん辺りは、本当にやってきそう。既に別方向で色々仕掛けてきてたし、どこかで一旦仕切り直すだろうから、そこで動き方を変えてくる可能性はある。警戒しとかないと、色々と危ないからね。
「方針、決定なのさー! あ、そういえば今回は飛んでいきますか!?」
「あー、歩きとも思ったけど、成熟体とはいえそれなりに距離はあるし……俺の水のカーペットでいくか。リコリスさんは、UFOの反応を見るのに集中してくれ」
「はいはーい! そこはお任せあれ!」
という事で、移動は俺が担当するとして……水のカーペットを使うならこっちだな。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します> 行動値 125/125 → 123/123(上限値使用:6)
夜目と発光は発動済みだけど……別に隠密作戦って訳でもないし、わざわざ切る必要もないな。水のカーペットも、そこまで極端に大きくする必要はないから……よし、こんなもんか。
手早くハーレさんと曼珠沙華が乗ってきたし――
「それじゃ、出発なのさー!」
「ほいよっと!」
ハーレさんに号令を取られたけど、まぁ別にいいや。さーて、とりあえず森林深部まで行きますかねー。
◇ ◇ ◇
<『群雄の密林』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
エンの元へ転移してきたけど……さて、今のここの様子はどうだ? 常闇の洞窟へ入る時は、結構な注目を集めていたけど……。
「……人はそこそこいるけど、変に目立ったりはしてないなー。目立つの、やっぱりアルのクジラが原因か」
「そうだと思うのです! 空飛ぶクジラはたまに他にもいるけど、木を背負ってる人が少ないもん!」
「ですよねー」
俺らも集合する時にアルのクジラをよく目印にするんだから、そりゃ目立って当然! まぁコケを背負ったロブスターやクラゲを被ったリスが多くいる訳じゃないけど……根本的なサイズの違いは大きいよな。
「……でも、この水のカーペットも珍しい方だよ?」
「ん? これはちょいちょい見かける気もするけど……」
「それ、間違いなくケイさんの影響だね! 灰の群集での使用率、体感で1番高いもん! あと、実際に使ってみての感想なら、岩の方が圧倒的に安定だね!」
「どうしても水は踏ん張りにくいし、落ちやすくもなるからな。俺ら曼珠沙華では、基本は岩だ」
「あー、なるほど」
その辺は水と岩の性質の違いからくる部分だよなー。水は透き通るから下部への視認性は高いけど、安定を取るなら土の属性で岩の生成を選ぶよね。
灰の群集でも水よりも岩で飛んでる人の方が多いし……俺自身も使い分けてる部分だから、理屈は分かる! ただ、上から観察しようって時は、水って便利なんだよなー。
「はっ!? なんだか、注目が集まり出した気がします!?」
「気付かれるまでの時間が、アルの方が早いだけか!?」
くっ! アルのクジラが目立ち過ぎるだけで、俺やハーレさんでも気付かれれば十分過ぎるほど目立つっぽいね!? まぁこれまでやってきた事の結果でもあるし、今の状況も大きく影響してるんだろうけど……とりあえず、離脱あるのみ! 森林深部は軽く上から覗く程度でいいだろ!
◇ ◇ ◇
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>
飛ばし過ぎない程度の速度で、森の上を飛んで、ハイルング高原までやってきた。チラホラと俺らを追いかけてきてる人もいるけど、まぁそこはスルーするとして……。
「森林深部は……木の上に登ったり、空中に足場を作って待機してた人が多かったな?」
「あれ、絶対にUFOの出現を待ち構えていたのです!」
「……『侵食』での察知が、使えない人達なのかも?」
「あの感じは、ほぼ間違いなくそうだろねー! でも、何気に私と同じレンズをしてる人もいたよ?」
「あっ! それ、私も見たのさー! リコリスさん、フクロウの人だよね!? 模様も色も控えめだったから、進化階位は低そうな人!」
「そうそう、その人! ハーレさん、よく見てるね!」
「なるほど、ここでも改造に至るまで進んでいる人はいるのか」
「どうも、そうっぽいなー」
運の要素が大きいんだろうけど……それはどこでも同じ話だもんな。でもまぁ、森林深部で『侵食』の察知と同等の効果を持つ改造レンズを持ってる人がいたってのは良い情報かも?
「まぁ進化階位が低い人でも、しっかりと楽しめる土壌があるのはいいのかもな」
「それはそうなのです! だからこそ、私達は変に手出しは無用なのさー!」
「そうそう! 実はUFOが降りてきてたけど、それはスルーしたからねー!」
「さっき、降りてきてたんかい!? あ、追ってきてた人が戻っていった?」
「随分と現金なもんだな。まぁ別に構わんが……」
「だなー」
エリアが切り替われば、別のエリアで起きている事はハッキリと見えないからね。俺らを追いかけてきたはいいものの、その間にUFOが降りてきていたのなら、慌てて戻りもする……って、ちょっと待った。
「リコリスさん、実は追い払う為にわざと言った?」
「思った以上に効果抜群だったでしょ! あ、降りてきてたのは本当だよ? まぁ完全に降りる前にエリア移動しちゃったから、森林深部に降りたかは知らないけどさー」
「なるほどなー。まぁ嘘じゃないなら、別にいいか」
「ふふーん! 嘘は言ってないからね、嘘は!」
嘘にならないように、森林深部だとは断言してなかったのか。とはいえ、あのUFOの察知は正確だから……すぐ隣のエリアに降りたくらいなら、見間違える事はほぼないだろうね。
今頃、UFOの争奪戦の真っ最中かな? いや、落下物の方の争奪戦の方が激しかったりする? その辺、ちょっと見てみたいけど……混乱させる元になりそうだからやめとくか。
別にこういう形で掻き乱すつもりはなかったんだけどなー。でも、俺らを追いかけて絶好のタイミングを逃したのは自業自得って事で! 流石にそこまでの責任は負えないしね。
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