第1543話 これからの方針


 さて、とりあえずクオーツに機械の砂を渡すという目的は達成したけども……しばらくはイベントの進行は待ちに入ってしまった。あんまり早く進行し過ぎない為の対処なんだろうけど……。


「みんな、これからどうする? 18時で一旦解散のつもりだけど、まだ30分ちょっとはあるけど……」

「俺らは別働隊に戻るぜ! こっちの解散は、俺らのタイミングでいいよな?」

「問題ないぞー。紅焔さん達は、そっちのタイミングで動いてくれ!」

「おっし、決まりだな!」


 俺らと一緒に動く状態ならタイミングを合わせた方がいいけど、別働隊として元の状態に戻るなら、解散のタイミングは自由で問題ないだろ。夜からの話は……ここですべきではないしね。


「飛翔連隊、探索に戻るぜ!」

「はいはい。次はどこに向かうんだい?」

「このまま、常闇の洞窟の探索はいかがでしょう? 転移地点から外れた、行き止まりを目指してみるのもありかもしれませんよ?」

「ライル、それいいね! どうも転移地点を中心に人が集まってるみたいだし、それ以外の場所は手付かずかも?」

「探る価値はありそうだな」

「なら、このまま常闇の洞窟の探索だな! とりあえず、こっちに行くぜ!」

「そうやって、また勝手に方向を決めるんだから……紅焔、先に行かないでくれるかい!?」

「それでは、ここで失礼しますね」

「何かあれば、またPT会話で伝えるから!」

「さて、それじゃ行くか」

「ほいよっと!」


 そうして、紅焔さん達、飛翔連隊は移動を始めていく。ここ、行き止まりだから向かう方向も何もない気はするけど……いや、行き止まりのルートでも枝分かれした道はあちこちにあったっけ。まぁその辺は紅焔さん達の自由にしてもらうとして……。


「私達がこれから、どうするかが問題かな?」

「そうなんだよなー。サヤとヨッシさんが18時で離脱だから、そう長時間は出来ないし――」

「あ、わたしはもうちょい早めに離脱するよー!」

「レナさんもか!? となると、ますますやれる事が少なくなるな。てか、レナさんは夜からどうするんだ?」

「んー、出来れば一緒に動きたいかなー? ギンさんもアイルさんも、明日も不在だからさー。今日の夜だけそっちに戻っても、明日が暇になっちゃうし……」

「……なるほど」


 まぁ大会の勝ち抜き状態から考えたら、そういう流れにもなるか。その辺も含めて、レナさんは俺らへ合流したがったんだろうな。


「一度、俺のとこまで戻ってきたらどうだ? そこじゃ周囲に人が多くて、落ち着いて話も出来んだろ」

「それもそだなー。おし、それじゃ一旦、桜花さんのとこまで戻るぞ! その後の事は、それから決めよう!」


 みんなも頷いているし、思いっきり注目を浴びてる状態で方針なんか決められないですよねー! ササっと撤退だ、撤退! もうこの場に、用はないんだしな!



 ◇ ◇ ◇



 俺らを呼び止めようとする人もいたけども、振り払って桜花さんの樹洞の中まで戻ってきた。状況的にクオーツやエンとの会話を聞かれるのは避けようもなかったけど、それ以上の情報をあの場で開示するつもりはないからな!


「さてと、とりあえず……18時で離脱する人、他にもいる?」

「……俺はそこで一旦、晩飯を食いにログアウトしよう。19時までに戻ってくれば、ケイ達がログアウトしても連結PTは維持出来るだろうしな」

「それなら、俺も十六夜さんに合わせるか。1人に任せるよりは、複数人の方がいいだろ」

「あ、それは助かる!」


 1人でもログインしていれば自動解散にはならないから、アルと十六夜さんがPTを維持してくれるのはありがたい!


「おっと、それは俺らのPTでもしといた方がいいか?」

「確かPT単位だったはずだから、連結PTから外れないようにする為には僕らの方でもやるべきだね」

「私は時間をどうとでも出来ますので、こちらも解散にならないように調整しておきますね」

「おう! そういう事なら頼んだぜ、ライル!」

「ライルさん、助かる!」


 よし、これで連結PTの維持には何の支障も無くなったね。問題は、夜からどう動くかだなー。


「基本的に、全員が夜からも一緒に動くつもりで問題ない?」

「……そのつもり!」

「当然! 弥生さんやシュウさんには負けたけど、一緒にいて退屈しないのはよーく分かったし!」

「ここで別行動をするメリットは、特にないからな。夜も行動は共にさせてもらうぞ」

「……俺も……いや、俺ら『縁の下の力持ち』も曼珠沙華と同意見だな。クエストの進行は一旦止まったみたいだが、先頭を走っているグループから離れるメリットは皆無だ」

「俺としても、動けない身としてはこの状況にはメリットしかないからな。このイベントが終わるまで、付き合うつもりだぜ」

「……桜花が一緒だし……みんなとも……一緒!」


 曼珠沙華も、十六夜さんも、桜花さんも、風音さんも、一緒に動く気満々ですなー。まぁ俺らがイベント進行の先頭にいるのはほぼ確定だし、それが出来ているのもみんながいるからこそでもあるもんな。

 ここから更に進めていく為にも、協力体制の維持はありがたい!


「あ、ちょっと質問、いい?」

「ん? レナさん、どした?」

「えーと、流石に常闇の洞窟の中で聞く訳にもいかなかったから、聞かなかったんだけど……ケイさん、黒の異形種と接触をしたのって本当なの?」


 あ、そうか。その辺の話、レナさんにはまだしてなかったよ。……ふむ、今後の予定を決めようにも、その辺の事情が分かってないと判断が難しいか。

 レナさんが18時より前に離脱するなら、今しか話しておくタイミングもないし……よし、今のうちに説明しときますか!


「それは本当だぞ。俺ら、『名も無き未開の原野』で探索してたんだけど、黒の異形種の巣窟みたいな場所を発見してな?」

「およ? そんな場所が……あ、また接触しようって感じで話してたけど、明確な場所が分かってるんだ!」

「そうなるなー。原野の東の方にある谷の奥に洞窟があってさ。そこに黒の異形種が大量に……」

「あれは色々とびっくりしたのさー!」

「襲われたら、あっという間に負けそうだったかな!」

「……ケイさん達でも死にそうなほどの、大量の黒の異形種? あー!? そこ、多分だけど、弥生達も行ってる! サイトの件で少し意見を貰いにいった時、全滅したって愚痴ってたもん!」

「マジか!? それって、いつ!?」

「えーと、確か……今日のお昼前?」

「……なるほど」


 そうか、弥生さん達もあそこに行ったのか。でも、俺らと違って対話が出来ずに壊滅させられて……弥生さん達でも壊滅するって恐ろしいな!?

 てか、それだと……俺らと情報交換をしてた時に、既に黒の異形種の巣窟がある事を知ってた訳か。あっさり引き下がってたけど、翻訳機能の重要性を教えたのはマズかったかも? でも、今更言っても遅い――


「あれ? でも谷とは言ってなかったような……?」

「あー、似たような場所がいくつかあるみたいな事は言ってたような……」

「黒の異形種も一枚岩じゃないとも言ってたのさー!」

「およ? それなら、弥生達が行ったのはケイさん達とは全く別の場所なのかも?」

「その可能性、高そうだなー」


 何気に思わぬところから情報が出てきたもんだね。レナさん、それは喋ってしまっていい内容なのか? いや、俺らとしてはありがたい話ではあるんだけどさ。


「あー、いいの、いいの。言ってきたの、弥生の方だから。負けた鬱憤晴らしに、ケイさんを襲いに行くみたいな事も言ってたし!」

「ちょ!? 鬱憤晴らしで狙わないで欲しいんだけど!?」


 サラッと、更にとんでもない情報が出てきたな!? うん、冗談抜きで曼珠沙華が一緒にいてよかった気がしてきた。真っ向から弥生さんとシュウさんとぶつかって、また勝てるとは限らないしさ。

 あー、逆に俺へのリベンジではなく、壊滅した事への鬱憤晴らしが目的になってたからこそ、曼珠沙華を倒した事で満足していたってのもありそうだね。


「ただし、昨日のギンさん達との話はしないからねー? そこは譲れない一線だから! まぁ正直、今の状態で話したところで意味はなさそうだけどさ」

「気にはなるけど、そこは無理に聞きはしないって」


 あくまでさっきの弥生さんに関する話は、相手が弥生さんであり、その上で俺を狙う理由の一因だったからこそ、話してくれた様子だね。そうじゃなきゃ、あちこちに顔が広いレナさんが、そう気軽に口を開く訳もないか。


「はい! レナさんが夜からわたし達の方の味方になるの、ギンさん達は知ってますか!?」

「うん、知ってるよー。ケイさん達とまでとは言ってないけど、どっちも勝ち上がってるのをラックさんから聞いたからね。合流先が見つかれば別行動にするって伝言はしてもらって、了承は得てきてるよ」

「おぉ!? まさかのラック経由だったのさー!?」

「そりゃラックさんも今日は現地にいるんだし、そういう話をする機会はどこかであるか」


 同じ高校である、直樹なら尚更に! 直樹まで連絡が行けば、相沢さんへの連絡はそう難しくないから……ちっ、なんか妙な気分。


「そういえば、桜花さん。灰のサファリ同盟の動きって、どうなってるか聞いてる?」

「軽く漏れ聞こえてくる程度ならな。今日は支部ごとに分かれて、内部で対戦してる状態だそうだぞ」

「ほほう? そういう状態なのか!」


 ふむふむ、昨日の夜、初心者講座と混ざって動いていた状況とは随分と違った動きだな。……ラックさんが欠けている影響、結構出てるのか?


「レナさん、何かその辺の事情は知っているか? 正直、灰のサファリ同盟が一枚岩で動いていないのが、ちょっと不思議なんだが……」

「んー、まぁ割と単純な話なんだけど……灰の群集って、実力者に学生組が多いじゃない? そして、夏の大会があるのはeスポーツに限った話じゃないんだよねー」

「……なるほど、実力者が結構な数、不在な状態なのか」

「あー、そりゃ考えてみたら当然の流れか!」


 eスポーツ関係で色々とあったからそっちにばかり意識が行ってたけど、灰の群集はテスト期間中に学生組の離脱で明確に弱体化してたくらいなんだし、部活してる人が不在なら、そうもなるよなー!? 夏に大会がある部活って、他にも色々あるんだし!


「はっ!? 何気に今、灰の群集は弱体化中なの!?」

「実感はないけど、そうみたいかな?」

「あはは、そうみたいだね。そっか、それで灰のサファリ同盟の全体をまともに統括出来なくなって、支部単位で動かしてるんだ?」

「そうそう、そんな感じだねー。わたしとしても、そういう状態の灰のサファリ同盟だと協力しにくくてさー。下手すると、全部の統括をする羽目になっちゃいそうだったし……」

「レナさんにそういう役割を求める可能性は確かにあるな。それを避けたかった訳か」

「そうそう! アルマースさんの言う通り! まぁ大会で勝ち残る人の方が少ないだろうから、今の連休さえ凌げば元に戻るだろうけどね。その期間中、よろしく!」

「了解っと」


 そういう事情なら、既にサイトをほぼ作り終えたレナさんは、俺らと一緒に行動する方が色々と気楽だっていう判断になったんだろうね。って、ちょい待った。


「そういやレナさん、例のサイトは……いつから稼働?」

「最短でも連休明けかなー? 軽く調べた感じではアマチュアの大きめの大会がお盆にあるみたいだから、そこまでの特訓用に調整するように動かそうかなーと考えてるとこ。すぐに稼働するには、ギンさんもアイルさんもまだ本格的に動けないしね」

「あー、まぁそれは確かに……」


 てか、お盆に高校生向けではないアマチュアの大会があるのか。お盆ってサヤがこっちに来るから、ハーレさんが確実に休みたがるとこだろうけど……直樹や相沢さんまで、シフトに休みを入れたりしないだろうな!?


「あ、そうそう。そのアマチュアの大会、ギンさんは出てるけど、アイルさんは出場は現状では無理だって言ってたよ。出場するのは、まだランクが足りないんだってさー。まぁ今やってる大会で、優勝出来れば出場チャンスが得られるかもって話らしいよ」

「よし! 明日、アイルさんは負けちまえ!」

「……ケイ、本音がダダ漏れかな?」

「いや、割と冗談抜きでお盆に休まれると、アルバイトが困る……」

「はっ!? そういえばそうなのさー!? アイルさんには負けてもらう必要があるのです!? 私が休みを取れなくなっちゃうのさー!?」

「およ? お盆、何かあるの?」

「ヨッシは帰省で、サヤが一緒に遊びに来るのさー!」

「おー、そうなんだ! 確かにそこは休みをもらえないと厳しいね……」


 もう俺が出るのはほぼ確定だろうけど、出来れば2人はシフトに入ってほしいって店長さんが言ってたからな。直樹は普通に勝ってもらいたいからシフトは空きでもいいし、ハーレさんも折角地元で遊べるんだから、台無しにしてほしくはない。

 そうなると、消去法で相沢さんの敗北が一番メリットになってくる! ……一緒のシフト自体は嫌だけど、まぁそこはこの際我慢しよう。


「……学生組は、夏休みが楽しそう?」

「いいなー、大型の長期連休! あー、学生の頃が懐かしいー!」

「いくら労働環境が格段に改善されたとは言っても、流石にあの学生の頃の夏休みほどの連休は取れんからな」


 曼珠沙華がしみじみと言っているけど……まぁ本当にそういうものなんだろうね。今はまだ実感はないけど……そう遠くないうちに俺もそう思う側になっていくんだろうなー。


「およっ!? もうログアウトしなきゃいけない時間!?」

「あ、マジか! レナさん、何時くらいからならいける?」

「えっと、20時……はギリギリすぎるから、20時10分以降なら大丈夫だよ!」

「ほいよっと! 俺らも時間的にはそんなもんだから、それくらいで調整しとく!」

「うん、ありがと! それじゃまた、夜からねー!」


 そうしてレナさんは慌ただしく、桜花さんの樹洞から出てログアウトしていった。まぁ必要な事は伝えられたし、大事な情報も知れたから、今はこれでよしとしよう。

 でも、これから2時間ちょいって晩飯にしては長いような気もするけど……あー、自分で作るのかも? 食べるだけじゃなく、調理時間まで考えれば――


「レナさんはあれだな。最近、お気に入りの配信を見に行ったか」

「あー、そういやそんなのもあったっけ」


 俺もちょっと見たあの配信……確か配信者の名前は『サクラ』だっけ? 1回、半分くらい見ただけだけど……まぁ無茶苦茶な事をやってたもんなー。

 レナさんが気に入るのも、なんとなく分かる気がする。なるほど、あれは確か18時から20時だったはずだから、リアルタイムで見る為の離脱なんだね。食事は配信を見ながらなのかも?


「……桜花……それ……どんな配信?」

「レナさんに勧められて、この前アーカイブをチラッと見たが、まぁ正直なところ、実力者ではないが……配信者としては色々と持ってるな。やらかし具合が半端ないぞ。俺が移籍してきた時レベルのやらかしを、やりまくりだ」

「あったなー、桜花さんのやらかしも……」

「今となっては、懐かしいもんだがな!」


 まぁあの時の桜花さんのミスで敵を集め過ぎたのと、移動の為の纏樹の数が足りないって事態がなければ、今とは違った関係性だったかもしれないしね。人と人との縁って、どういう形で繋がってくるものか、分かんないもんだよなー。

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