第1542話 解析の結果
クオーツに機械の砂を分析してもらったら……まぁちょっと危うい場面もありつつも、どういう性質で、どういう使い方が出来るのかは判明した。その上で黒の異形種と接触した事を話せば、今度はエンの方が大きな反応を示しているけど……そこから、どういう展開になるのやら?
[……すまぬが、どういう状況なのか説明してもらえぬか?]
『……今聞いた内容で、推測は立てられる。だが、実際に調べてみないと情報が圧倒的に足りん。クオーツ、今は一旦、この情報はグレイへと報告をさせてくれ。こりゃ、精査しないとどうしようもない』
[なるほど、了解した。そなたらも、それで構わぬか?]
「あー、まぁすぐに結論が出ないのは分かるし、それは問題ないぞ」
やっぱり、エンだけではこの場で何かを断言する事は出来ないか。まぁそりゃそうだよなー。灰の群集の長であるグレイに報告して、それから次の動きへと進んでいくのが自然な流れですよねー。
[エンよ。我は『情報組成式物質構成素子』をどう扱えばいい?]
『……確認だ。それを使えば、黒の異形種の肉体を補う事は……可能なのか?』
[あの者らが、そなたらと源流を同じとするならば……おそらく可能だ。我の今の身体も機械を元にしている事が、精神生命体が機械との親和性も持つ事を示している。最初こそ我の微調整が必要になるだろうが、あの者らがそれを望むのなら……その調整は行おう]
『……実行は可能って事か。となると、あれらとの意思確認が必須……』
あ、なんとなく次の展開が読めてきた。これ、今度は黒の異形種をエンの元まで連れてこいとかじゃね? なんか段々と宝探しから本題が逸れてきてる気もするけど……いや、そもそもの宝探しが、元々おまけなのかも?
『……いや、頼むにしてもまだ時期尚早か。まずはグレイに確認を取って……状況次第では、他の群集の意向も聞く必要があるな』
って、おーい!? 俺らに依頼が出てくる訳じゃないのか!? あ、これ、もしかして進行具合が早くなり過ぎない為の調整が入ってる? ……その可能性、ありそうな気がしてきたな。
『すまん、俺としてはすぐにでも黒の異形種との接触を行う機会を作りたいが……流石に独断で決められる内容を超えていてな。だが、奴らとの交渉の可能性を探り当ててくれた事には感謝する。この件に関する方針が決まれば、改めて連絡をさせてもらうから……その時に協力を頼めるか?』
「その時の内容によるけど、まぁ了解」
『助かる』
「それで……それまでの間に、黒の異形種に今の……この機械の砂で肉体を補えるかもって話を持ちかけるのは……?」
『それはまだ避けておいてくれ。対話が可能なのだとしても、あれらの行動原理が縄張りだという主張なら、敵対する可能性を秘めているのは変わらんからな。こちらの対応策が決まってからでないと、動くに動けん』
「……なるほど。接触する事そのものは?」
『それだけならば問題ない。決定的に相容れなくなるほどの、敵対状況だけは避けてほしいがな』
「まぁそりゃそうだ」
交渉するかもしれない相手なんだから、和解不可な状況の陥るのだけは避けておきたいのは当然ですよねー。でも、これは黒の異形種を味方に引き入れるルートもあり得そうな感じになってきたな。
[我は、もう少し『情報組成式物質構成素子』の扱いに慣れておこう。これは貰い受けてもいいか?]
「それはいいけど……何か代わりに貰えない?」
[……それもそうだな。ここまで手間をかけさせた分、何か礼は渡すべきか]
これ、多分だけど俺がサンプルとしてこの機械の砂を渡すだけで、他のプレイヤーは渡す事にはならなさそうだもんな。さーて、とりあえず報酬を要求してみたけど……何が貰えるんだろ?
「……ふむ。多くの者達に改造を施したが、それらの情報は我には残していないのだが……この場にある物であれば、『情報組成式物質構成素子』を使って複製が可能かもしれん。もし、得たい改造品があれば、それを複製して渡そう」
「あー、改造した物の複製品か。それ、渡すのとは別の『情報組成式物質構成素子』が必要だったりする?」
[そうなるな。まぁ今手元にないのなら、後からでも構わんぞ]
「……なるほど」
んー、これは俺らの連結PTが持っている物の範囲でって事なんだろうなー。改造自体は、墜落したUFOからしか得られない制限があるみたいだし……まぁ他にも機械の砂は持ってるから、すぐに複製自体は可能だな。
そうなると、選べる選択肢は……俺が持ってる翻訳機か、UFOの機動機能の妨害装置、あとはリコリスさんの持つ『侵食』の効果と同等なレンズか。いや、紅焔さん達が他にも持ってる可能性はあるかも?
「渡す砂以外にもこれは持っているけど、それを使うかどうかも含めて、ちょっと相談させてくれ! 」
[あぁ、構わんぞ。だが、複製出来るのは……行動を共にしている者の物に限定させてもらおう。他の者も集まっているようだが……無用なトラブルになりかねないだろうしな]
「ほいよっと!」
明確に同じ連結PTの中のみまでって制限をかけられたけど、今回は急かされるような時間制限は特になさそうだな。おし、みんなと相談してどうするかを決めよう! まぁまず、これの確認だけどさ。
「紅焔さん達って、今の状態で改造アイテムは何を持ってる?」
「ん? 俺らが持ってるのは、ケイさんも持ってる妨害装置だけだな。違うのも確保出来てりゃよかったんだが……」
「あー、まぁ仕方ないか……」
そりゃ、あれの入手の後に再度クオーツと接触出来ていれば、機械の砂についての解析は紅焔さん達でもしてもらえてたはずだもんな。そうなってないんだから、他にはまだ持ってないのは当然か。
「……これ、俺らでも複製してもらえる?」
「いや、厳しいんじゃね? 流れ的に、最初のサンプル品を渡した人限定っぽい気がする」
「というか、あの砂を複数、既に持ってんのかー」
「……まだ1個も持ってねぇよ」
「あれ、結構な争奪戦だしなー」
「くっ!? 進捗具合が、かなり違う!?」
「……黒の異形種と接触するとか、マジでどうやんの?」
「くっそ! あの翻訳機能、こんな演出に繋がってるとか思うかよ!?」
周囲も色々と反応があるけども……まぁあの翻訳機能については、他の機能を優先したくなるからなー。現状ではあれを得てる一団って、少なそうだよね。
どう考えても俺らがあの骨の竜と遭遇した時は、色んな偶然が重なった上での幸運だっただろうしさ。まぁ運も実力のうちとは言うけども! って、今はそういう話じゃないし、本格的にどうするかを決めないと……って、あんまり選択の余地はないな。
「はいはーい! 2個あって意味があるのは、私の持ってるこれじゃない?」
「確かになー。紅焔さん、レンズの複製品を持っとくか?」
「え、いいのか!?」
「別働隊に持っておいてほしいとこでもあるからなー。これはいい機会――」
「ケイ、いいのか? 別に今すぐ決める必要もないんだし、他の改造を得てからって方法もあると思うが……」
「まぁアルの意見も分かるんだけど……ほら、晩飯で一旦ログアウトになるのも近いじゃん? 確実に渡せる時に、渡しておきたくてさ」
「……なるほどな。確かに実物を渡せる機会は、今くらいか」
「そうそう、そういう事! 十六夜さんと風音さんには、ちょっと申し訳ない判断にはなるんだけど……」
「……数に限りが……あるから……仕方ないよ」
「……あぁ、そこは特に気にしてはいない。別働隊に有用なアイテムを渡しておくのは、理に適っている話だしな」
「そう言ってくれると助かる!」
晩飯を食ってからの動きはまだ決めてないし、今ここで決められる状況でもないからね。だからこそ、今はこの判断が最適なはず!
「おっしゃ! そういう事なら、遠慮なく受け取らせてもらうぜ! ただ、消費する砂は俺らが持ってる分にさせてもらうぞ?」
「へ? え、それくらいなら俺らの方で出すけど――」
「ケイさん、俺らはあくまでも対等な協力関係だぜ? なんでも一方的に受け取るつもりは欠片もねぇ! ここで材料を出させてもらえないのなら、受け取らないからな!」
「まぁそこは僕も同意だね」
「ここで渡してもらうのさえ、僕らにとって優位だしね!」
「材料くらいは、俺らに出させてくれ」
「私達も持ってはいるのですし、これからの展開次第では数が必要になるかもしれませんからね。ケイさん達のは温存しておいて下さい」
こりゃ、俺が出すって言う方が無粋な流れか。まぁ確かに、紅焔さん達の主張の意義も分かるし、変に押し切るような真似はしないでおきますかね。
「おし、分かった! 複製に使用する砂は紅焔さん達が出すって事にして……レンズは誰が持つ?」
「そりゃ、当然俺だな! ……おい、なんだよ!? その視線は!?」
「……相変わらずだなーって思っただけだよ。まぁ変に長引かせても悪いから、紅焔でいいけどさ」
「本当、勝手に決めますよね、紅焔は」
「いつもの事だけどねー」
「もういい加減、慣れたもんだ」
「いいだろ、別に!? 侵食での察知自体、俺かソラがやってたんだしよ!?」
あ、そうなんだ? まぁこの辺は割といつもの流れだし、特に異論があるという訳でもないみたいだから、ササっと流してしまおうっと。
「クオーツ、リコリスさんが付けているレンズを、紅焔さんに複製してもらえるか?」
「おっと! 材料、これな!」
[了解だ。それでは『採集機探知装置』の複製をやっていこう]
「わっ!? あー、ビックリしたー!? 私のこれ、スキャンしてるんだね!」
ほほう? リコリスさんの顔に向けて光が出たけど、これは構造をスキャンする為のものか。オリジナルの改造品をこうやってスキャンして、その情報を元に複製していくんだな。
紅焔さんの出した砂も形状が変わって……あー、でもレンズの形状にはなるけど、金属感は変わらない?
「おーい、目元に複製してくれたのは良いけど……これ、見えないんだが……?」
[まだ調整中だ。少し待ってくれ]
あ、やっぱり金属感が残ってる状態じゃ見えないんだな。……エンの分体を複製しているのも金属感は残ってるし、完全に同じ見た目になる訳じゃないのか。
「おっ!? なんか急に見えるようになったぞ!」
[そのままでは使い物にならぬから、透過機能を追加した。……材質をそのまま再現とはならないのが、これの欠点かもしれぬな]
なんか紅焔さんのドラゴンが、金属の眼帯をしているようになってるね。でも、紅焔さん自身はそれでも見えているみたいだから、問題はなさそうだ。
何気にサイズ調整もされてるし、質感が全く別物だし……複製といっても全く同じものにはならないっぽいなー。
「わっはっは! 普通のレンズより、これは希少価値があるかもな!」
「はいはい、良かったね、紅焔。だから、飛び上ろうとかしないでね」
紅焔さん、思いっきりテンションが上がってますなー。まぁ本当に希少価値が高い可能性もあるけど……こういう芸当が出来るなら、これも聞いてみるか。
「クオーツ、改造の際に最初からこの砂を材料にする事は可能?」
[あぁ、やろうと思えば可能だ。我の部品を元にせずとも、同様の構造情報を入力してしまえば問題はない。多少の構造変更は必要だがな]
「おし! それは良い情報!」
クオーツの部品はいくらかあるとはいえ、もしそれが足りないようであれば機械の砂で代用は可能なんだな! まぁ機械の砂には他の用途も出てきそうだから、そういう使い方はしないかもだけど……。
『さて、俺はこれから今の一件をグレイに報告してこよう。クオーツ、一緒に来てもらえるか? 群集の枠組みの外からの意見も欲しい』
[了解した。時折、色々な対応に動く必要はあるが……それは処理を分割して対応しよう。そなたらも、ここまで『情報組成式物質構成素子』の現物を持ってきてくれた事、そしてそのサンプルの提供を感謝する]
<規定条件を達成しましたので、緊急クエスト【謎の飛行物の落とし物】が進行します>
<墜落した【採集機Ⅰ型】及び【採集機Ⅱ型】にて、『惑星浄化機構・長距離通信装置』の使用後に、『情報組成式物質構成素子』を代用する事が可能になりました>
おっと、アナウンスが出たから演出はここまでか。俺が持ってきた砂……エンの分体の姿を模した状態から崩れて、クオーツの一部である金属塊に吸い込まれるように消えていったね。
エンの分体やクオーツの金属塊は、話しかける前の状態に戻ってるなー。エンの分体、話している間は光が強まってたし、クオーツの金属塊も光の線の数が増えてたからね。まぁそういう変化はいいとして……。
「とりあえず、これでしばらく待ちだなー」
「そうなりそうかな! これ、進行状態が次々と進まないように制限がかかってる?」
「どうも、それはありそうなんだよなー。まぁ前々から進行が早いって愚痴もあったりしたし、その対策がこれなのかも?」
「ケイは運営泣かせかな?」
「一緒に動いてるサヤだって、確実に共犯だけどなー!?」
「あ、それもそうかな?」
「俺だけに押し付けようたって、そうはいかんからな!」
「ふふっ! それでこそ、ケイだね!」
ふぅ、何事もなかったかのように普通にサヤが話しかけてくれる状態で、少し安心したよ。こうしている感じでは、特に変な様子はないんだけど……最近、たまにある妙な様子はなんなんだろう?
「……なんか、改造用の材料に使えるようになった?」
「ちょいちょいイベントは進行してると思ったら、こんな感じで進んでたんだな……」
「全体への情報の共有がなくても、トップ層はいつも通りの進行か。いやはや、その辺は思いっきり痛感した……」
「……くっそ、クオーツに呼びかけても返事がもらえなかったって……未達成の条件、砂を手に入れる以外にもあるのかよ!」
「そもそも、ここまで来いって言われてないと無理だったんだろうな。あー、実際にこうして対立して動いてみると、思った以上に手強いなぁ……」
「次だ! 次のイベント進行の部分で、先を行く! ここで一旦、進行具合は一律にリセットされたんだからな!」
なんだか競争心を剥き出しにされてるけど、頑張ってね? あー、そうか。群集内で競い合う事って普段はない事だから、今回のこの機会に競おうとしてるのかもね。
まぁそうだと分かっても、俺らは俺らのやりたいように動くまで! というか、この人達ってそれなりの大人数で組んで動いてそうだよなー。
所属は、知らない名前の共同体だけど……小規模な共同体がいくつかで協力して動いているのかも? 意外と大規模な共同体の動きが見えないし、砂の入手まで進んでいるのは、結構健闘してるような気もするね。
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