第1541話 常闇の洞窟の中で
周囲にいる人達へ、俺達が来た理由は伝えた。大半の人はその段階まで進んでいない様子だけど、一部には結構近いところまで進めている人もいるようである。
これ、下手すると他にも常闇の洞窟の中へ入ってきて、今にも次の段階へ進めようとしてる人がいるんじゃないか? ……もう実行する場所は目の前なんだし、急いだ方が――
「およ? コソコソと、どこに行くつもり?」
「げっ、バレた!?」
「別に早い者勝ちなんだから、先んじて動こうってのが駄目だとは言わないけど……ここでそれをする意味、分かってるよね?」
「……あー、分かった。このメンバー相手に、強引に押し切るのは無理だって事くらいは理解してるしよ……」
「それなら、よろしい!」
あー、強引にでも俺らより先にクオーツの一部である金属塊に接触しようとしたトカゲの人がいたのか。まぁレナさんにあっさり見つかって、止められてるけどさ。
いや、これは止められるのを分かりきった上で、あえて目立たせてるな? となれば――
「ケイさん、急いで始めちゃって! 多分、今ので条件を知って、他の場所で動き始めてる可能性があるから!」
「だろうなー! ちょっと慌ただしいけど、このままさっき説明した内容を実行させてもらうぞ! ただ、マジで何が起こるか分かってないから、何かに巻き込まれてもいいように覚悟はしといてくれ!」
その辺の説明をちゃんとしておきたいからこそ、目立ってもいいって方針にしたんだけど……早い者勝ちで強引に先へ進めようとしてくる人がいるなら、素早く動いていくしかない!
別に絶対に俺らが進めたいって訳でもないけど、横取りされるような形で進められるのは気に入らないしな!
「っ!? 巻き込まれる可能性、あんの!?」
「あー、だから、こうやって呼びかけてたのか」
「了解! すぐにでも退避出来るようにしとく!」
「なるほど、かなり未知数な状況っぽいな」
「……今、出し抜こうとしてた奴らは、そういう配慮はなしか!?」
「おいおい、そんな文句がありそうな様子で見るなよ! 今回のは早い者勝ちだってのも、巻き添えがあるのも、承知の上だろ!?」
「そうだ、そうだ!」
「……そりゃそうだけどさー」
「それでも、周囲に対して配慮する気があるかどうかって、協力する気になるかを判断する上では重要な部分だよなー」
「偶発的な場合は仕方ないにしても、危険性が分かっててやるなら尚更にそうだよね」
「「うぐっ!?」」
俺ら以外で砂を持ってる人達……さっきの流れで強引に押し切って、割り込もうとしたのが思いっきり裏目に出てるね。俺らが呼びかけた場所で、さっきみたいな動きをすれば、反発が出るのは分かりきってただろうに……って、呑気にしてる場合じゃないな。
ともかく今は、クオーツの一部である金属塊の前まで行こう。他のとこで誰かに接触される前に、進めてしまわないと。
「始めるから、警戒しててくれ! アル、いざって時は流れ弾が出ないように頼むぞ!」
「おう、任せとけ! 曼珠沙華、風音さん、十六夜さんも一緒に頼む!」
「……リコリス、ラジアータ、油断しないでね」
「当たり前じゃん! 何が出てくるか、分かんないんだしさ!」
「大々的には何も起こらず、拍子抜けという可能性もあるが……まぁ油断していい理由にはならんからな」
「……ラジアータに同意だな。後ろには何も通さんぞ」
「……うん! ……そのつもり!」
そんなに防御に人数が必要なのか疑問ではあるけど……まぁそれも実際にやってみないと分からないか。これからやる事は、これまでのパターンにはない、完全に未知なものだしさ。……油断せず、やっていこうっと。
「クオーツ、聞こえるか!?」
[あぁ、聞こえている。例の物を、持ってきたのか?]
「そうなるなー」
どうやって進めればいいのか謎だったけど、呼びかけるだけで問題なかったみたいだね。このクオーツの反応、俺個人を明確に判別しての対応してるし……他の人達なら別の反応がありそうな気がする?
何気に光り方も変わって、光の線も増えてるから、会話中というのは分かりやすくなってるんだな。
「……へ? え? そこ、呼びかけたら返事があんの!?」
「目の前にあったのに、全然気付かなかった!?」
「いやいや、俺は試しに呼びかけてみたけど、何も反応はなかったぞ!?」
「え、マジか!?」
「……何か条件を満たしてなければ、そもそも反応してくれないのか?」
「多分、そうっぽいな?」
なんか周囲から驚いたような反応が聞こえてくるけど……この様子だと、クオーツから実物を持ってこいと言われてなければ、無反応だった可能性もありそうだな。
砂を持ってるだけじゃ、相手をしてくれない可能性もありか。あー、でも砂自体をクオーツが認識してなかったし、そっちが話しかけて反応が返ってくるようになるフラグだった可能性もある?
んー、まぁ何が条件でも別にいいや。どれであったとしても、俺らがその条件を満たしているのは間違いないしさ。
「それで、あの砂は渡せばいい?」
[我の一部の前に、適当に出してくれれば構わん。その距離なら十分、解析は可能だからな]
「ほいよっと」
直接手渡しに来た割には、結構雑でもいいような感じだし、とりあえずインベントリから機械の砂をクオーツの金属塊の前に出してみる。こう見ると、本当にちょっと黒っぽいだけの砂なんだけどなー。
質量的にもUFOの大きさよりも少ないはずだけど……その辺はゲーム的な都合かな? 流石に、あれだけの大きさと同じだけの量の砂だと多過ぎるしね。
[確かに、実物を確認した。それでは、解析に移らせてもらうが……少し時間はかかるぞ]
「あー、どのくらいの時間がかかる?」
[……はっきりとした事は、断言出来んな。少なくとも、今のそれは……我が知っている頃の物より、遥かに改良が施されているようだ。正直、我がこれを再活性化する事が出来るかも分からん]
「……マジか」
所要時間が不明どころか、そもそも解析が成功するかも分からないとは……。これだとしばらく待ちになるだけで、すぐに大きな動きがあるような感じではないのかも? うーん、拍子抜けな結果になりそうな――
[これは、構造の組成データの格納領域……っ!? しまっ!?]
おい、待て!? 急に機械の砂が浮かび上がったかと思ったら、クオーツの一部の金属塊から光が出てきたんだけど!?
「ちょ!? これ、なんだ!?」
なんか不穏な様子だったから、慌ててその光は避けたけど……ちっ、エンの分体に光が当たってるか。これ、何をしている……?
「クオーツ! 何がどうなった!?」
[すまぬ! データの保存領域を見つけたから、その中身を確認しようとアクセスをしたら、逆に我の方へ入り込まれた! 僅かだが、機能が生きていたようだ!]
待て、待て、待て! それ、どう考えてもヤバい状態だよな!?
『クオーツ! いきなりなんだ!? 今、なぜ俺の分体をスキャンしている!?』
[すまぬ、エン殿! 彼らに持ってきてもらった、奴らの採集機の残骸を調査していたのだが……一部に入り込まれて、勝手のスキャンされている状況だ]
『おい、待て!? そういう調査を行うかもしれないとは聞いていたが、そんな危険な状態だったのか!?』
慌てたようなエンの声まで聞こえてきたし、エンの分体自体の光も強まって……この流れ、本格的に危ないかも? てか、この光の状況って、エンの分体をスキャンしてたのか!
クオーツの一部の金属塊とエンの分体の間にいたから、光を浴びそうになったけど……元々、エンの分体を狙うようになってた? もし、回避しなけりゃ俺がスキャンされてたって事もある? あ、スキャンしてる光が止まった。
[いや、我が完全に乗っ取られた訳ではないし……よし、制御は完全に取り戻したぞ。なるほど、AIによる意思があった訳ではなく、非活性状態にアクセスした事で、互換性のある探知装置に自動でアクセスを行うようになっていただけか]
『……大丈夫なのか?』
[あぁ、大丈夫だ。これ自体に遠距離の外部とのアクセス手段はないし、自動での活性化プログラムは、実行前に削除した。逆に、どうすれば活性化が可能かという手順が分かったくらいだな]
『問題がなかったのならいいが……それで、具体的に何が出来る? その砂は『【報組成式物質構成素子】と言っていたが、使えるようにはなったのか?』
ふむふむ、群集拠点種のエンには俺らが確認して情報は既に報告済みになってるっぽいね。まぁ分体がすぐ横にいるんだし、この演出の進行役も担ってそう?
[この【情報組成式物質構成素子】の性質は、【模倣】だな。元となる物質のスキャンを行い、その組成情報を汲み取り、そしてそれを再現する。我の機能でスキャンされたデータがあるし、少し試してみよう]
『っ!? これは……俺の分体か!?』
ちょ!? 浮かび上がっていた砂が形を変えて、エンの分体と同じ姿を形成してる!? いやいや、機械感丸出しの金属感はあるけど……質量的にどう考えても砂は足りてなかったよな!?
いや、そういう問題ではないか。エンの分体の『模倣』なんて、そんなものは相当マズいだろ! これが動き出そうもんなら……って、動く気配はないね?
[これは、ただの見た目だけに過ぎん。これにはそなたらが動く為の中身、【精神生命体】が入っていないからな]
『……となると、俺の分体の姿を模した、ただの金属の塊か?』
[そういう事になる。操るものさえいれば、これを動かす事も可能だが……それはまた別の機能だな。採集機にはこれを改変する機能は見つかっていないから、量産の手段としてこれを用いているだけだろう]
『……それは、機械人自身の量産にもか?』
[……その可能性はある。だが、そなたらが持っていても活性化させる手段はないし……我とは互換性があるから、我の改造に使用は出来るかもしれん。性質は【模倣】だが、一から設計すれば、構造自体を形成させられそうだ]
『……なるほどな。下手に残骸を残しておくよりは、クオーツに渡して管理しておく方が何かと利点はありそうか』
なるほど、この機械の砂はクオーツに渡していくような流れになりそうだね。性質の説明を聞く限り、黒の異形種の足りていない肉体の補完にも使えそうな気はするけど……ここで話題に出してみても大丈夫なのか?
いや、翻訳機能が改造で提供されている以上、そこに行き着くのは時間の問題だな。クオーツはそれぞれの群集に事情の報告はしてそうだし、ここは踏み込んで聞いてみますかね。
「クオーツ、少し質問をいいか?」
[おぉ、すまぬな! 我とエンで話を進めてしまって! 疑問点があれば、答えようとも。意図せずにだが、思ったよりも早く解析は終わったからな]
「ん? 既に解析自体は終わったって認識でいいのか?」
[その認識で問題ない。不意を突かれた形にはなったが、正規の手順が判明したからな。二度と、同じようなプログラムを動かさせるつもりもないが……]
「あー、まぁそこは慎重に頼むぞ」
[……そこは気を付けよう。我とて、今のような事態から惨事を招きたくはないからな]
勝手に残ってたプログラムが動いたとか、一歩間違えれば本当に大惨事だった可能性もあるんだしさ。まぁ結果的に、そのお陰で機能を正しく把握出来たってのも皮肉だけど……。
「それでなんだけど、その砂の性質は『模倣』って言ってたよな? 頼めば、それを使って改造をしてもらう事は可能?」
[そうなるが……一体、何に使うのだ?]
「黒の異形種の、足りてない肉体の補填」
[……何?]
『おい、待て! それは、どういう事だ!? 黒の異形種に、肉体を与えるだと!?』
あ、クオーツ以上にエンが反応してきたね。まぁ要警戒対象なんだから、そういう反応はもっともだけど――
「ちょ!? ここで黒の異形種が出てくんの!?」
「……確かに、あれは肉体が足りてないけどさ」
「『模倣』なら、足りてない肉体を補う事は出来そうではあるよね?」
「っ!? 改造で得られる翻訳機能って、そういう事!?」
「あの用途不明なあれ、黒の異形種との交渉用か!?」
「コケの人……もしかして、既に交渉をしてる!?」
「待て待て待て! 黒の異形種と交渉とか出来たのか!?」
「……そんな情報、どこからも聞いてねぇぞ!?」
うん、エン以上に周囲の人達の反応が凄い事になってる。まぁ俺らが接触した時は、かなりの偶然が重なった結果だからなー。正当な手順なら、改造で得た翻訳機能を使って、これから1回目の黒の異形種との接触をしていくくらいか?
[……あの採集機に積まれていた翻訳機能があったな。あれで対話が可能となっていたか]
『何!? それなら、それを使ってあの黒の異形種達との接触をしたのか!? 奴らは、対話をする意思はあるのか!?』
なるほど、その辺の状態はクオーツもエンも把握してない状態なんだな。よし、色々と偶然が重なって、運良く交渉出来たって部分だけは伏せといて、黒の異形種が語っていた内容を伝えていくか。まぁ簡単な要約にはなるけどさ。
「対話は出来たし、敵対しているのは……俺らが他の群集と争ってるのと同じ理由だって言ってたぞ。ぶっちゃけ、ただの縄張り意識っぽい」
『なっ!? ただの、縄張り意識だと!? そもそも、奴らはどういう存在だ?』
「俺らが選ばなかった、進化の別の可能性なんだってさ。本質的には同じ存在で、違うのは俺らが『陽』で、黒の異形種は『陰』なんだとよ」
『……力の残滓が残っていたのが、別の可能性として表面化し、分離したものか? 【精神生命体】は浄化の力の集合体のようなものだし、この地に育まれた生物と多量の瘴気と混ざり合って、独自の力の発現に至った……?』
何やらエンが考え込み始めたけど……これは、この場ですぐ決められるような内容でもないのかもね。少なくともグレイまで報告が上がって、その後で結論とかになりそう?
もしくは、俺らが接触した黒の異形種を連れてきて、対話を始めるってパターンも考えられるかもなー。その後、どういう流れになるかはサッパリだけどさ。
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