第1540話 常闇の洞窟へ


「……調査の結果が、いくらか出てきたぞ」

「ほいよっと! 報告、頼んだ!」


 サヤはまだ完全に落ち着き切ってない様子だけど……ここは十六夜さんからの報告を聞いて、話を進めていく方がいい! 話してるうちに、気が紛れてくるはずだしね! 


「……常闇の洞窟で人が多い場所、それもクオーツの一部と接触が出来る場所は、海へ繋がる場所以外では大差なさそうだ。行き止まりとはいえ、転移地点がすぐ近くだからな。人の行き来は、どこも結構あるようだぞ」

「なるほどな。ケイ、どの位置に行く?」

「あー、どこも大差ないなら一番エンに近いとこでいいんじゃね? 森林深部から、東の方にあるやつ」


 常闇の洞窟のマップを広げて、転移地点がある位置を確認しているけど……明確に差がないなら、わざわざ遠くまで行く必要もないだろ。


「うん、それで決定かな! すぐ移動しよう!」

「サヤさん、なんか妙に急いでねぇ? さっきから妙な様子だけど、大丈夫か?」

「なんでもないかな、紅焔さん! 大丈夫だから!」

「……まぁそう言うなら、それでもいいけどよ。あー、ともかく方針としては、目立つ場所に行くって事でいいんだよな?」

「うん、それで問題ないよー! 紅焔さんは、特に目立つのは問題ないよね?」

「当たり前だぜ、レナさん!」

「……僕らとしては、少し自重してもらいたいんだけどね」

「そりゃ無理な話だな、ソラ!」

「まぁ自重する気がないんだから、無理だよね」


 『自重してほしい』という言葉に『無理』と返してるんだから、どうにもならないですよねー。まぁ目立つ意思があろうが、なかろうが、このメンバーで常闇の洞窟に入れば嫌でも目立つだろうけどさ。


「……目立つのは、具体的にどうするの?」

「ふっふっふ! 常闇の洞窟で目立たせるのなら、ひたすらに光らせればいいのです!」

「まぁ普通に移動するだけで十分目立つだろうけど、光らせるのは有効だな。あとは、戦闘音を激しく出したり、呼びかけるくらいか」

「わっはっは! 俺の炎で、あちこちを照らしまくってやるぜ!」

「それでもいいけど……紅焔さん、横殴りには注意なー。成長体や未成体の人が、Lv上げをしながら探索してる可能性もあるしさ」

「あー、そうか。好き勝手に暴れりゃいいって訳でもないのか……」


 それが出来れば楽なんだろうけど、プレイヤーが全員、成熟体に到達している訳ではないからなー。格上の俺らが行くからって、無作為に雑魚敵を殲滅する方法は取れないよね。


「……そこはケイさんの言う通りだな。成熟体のプレイヤーもいないわけではないが、それより下の進化階位のプレイヤーは育成も兼ねて進んでいる様子は確認しているそうだ」

「やっぱりかー。あ、UFOの『Ⅱ型』の相手をしてたりはする?」

「……そっちは流石に分からんな。だがまぁ、UFOの残骸はチラホラと見受けられるらしい」

「なるほど……え、そのまま残ってんの!?」

「……全壊したものだから、機械の砂には分解は出来んぞ?」

「あー、そっちか……」


 流石にクオーツと接触出来るだけの機能が生きてる状態で、墜ちてたりはしないか。いや、でも転移地点から離れた場所で、完全に何もない行き止まりに続いているルートでなら、放置されてるUFOもありそうな気がする?


「あー、落下物のレーダーが欲しくなってくるなー」

「およ? それって、改造出来る内容の1つだって話だったけど……ケイさん達、持ってないの?」

「残念ながら、まだ未入手なやつだな。どっかで機会があれば、それも欲しいんだけど……」

「あれは、常闇の洞窟ではそれほど役には立たんだろうよ」

「ん? アル、それはどういう見解?」

「単純な話で、あれは落下物のある場所を示していただけで、そこまでのルートを示してる訳じゃないからな。あちこちで入り組んでる常闇の洞窟では、正確な場所に辿り着けないだろうよ」

「あー、そういやそうか……」


 遮蔽物がない場所なら一直線に進めるけど、常闇の洞窟の中はそうもいかないもんな。落下物のある場所までのルートが示される訳じゃないんだから、多少の指標にはなっても、陸地ほどの効果は期待出来ないか。


「逆に言えば、それだけ未発見のものが残ってる可能性もあるのです!」

「まぁ、そうとも言えるな。だが、それは今回の目的とは別だぞ?」

「はっ!? そうでした!」

「ですよねー」


 俺らの目的はクオーツの一部である金属塊との接触なんだし、常闇の洞窟の中での落下物の探し方を気にしても意味はないか。

 そもそも、転移地点のなるエンの分体の近くにクオーツの一部の金属塊があるんだから、根本的に意味がないわ! 戦闘で目立たせるとかも、無意味っすなー。光らせるのは有効かもしれないけど……。


「とりあえず、クオーツに機械の砂を渡すのを最優先するとして……転移地点で、周囲に呼びかけるくらいにしとくか」

「ケイさん、その辺はわたしに任せて! 多分、この中ではわたしが一番適任だろうしね」

「だろうなー。任せた、レナさん!」

「うん、任された!」


 どう考えてもレナさんの方が遥かに得意な内容だし、俺がやって変な感じに囲まれるよりは確実にいい。レナさん自身の顔の広さもあるから、穏便に話が進む事に期待しよう!


「俺の方で、ケイさん達が何かやるって情報を広めておこうか?」

「んー、桜花さんに外で広めてもらうまではしなくてもいいや。過剰に広める過ぎると、人が集まり過ぎてまともに身動きが取れなくなるだろうし……目立たせるといっても、その場にいる人に限るって感じで!」

「おし、了解だ。そこで起きた事への箝口令は出すのか?」

「いや、そこまでは流石にやり過ぎだしな。見たものをどう伝えるかは、その場にいる人達の判断に任せるよ」


 ぶっちゃけ、何が起こるかさえ現状では分かってないし……全然大した事が起こらない可能性だってあるからなー。過度に期待を煽るような真似は控えておきたい。

 単純に、居合わせただけの人の自由な判断を妨害するのも嫌だしねー。少なからず俺らが持ってる、この機械の砂に関する情報が漏れるのは……もうどうしようもない。だからこそ、隠れてコソコソするのではなく、堂々と真っ向から実行するんだしな!


「なるほどな。まぁそういう方針なら、ここから出た後も特に問題はないか」

「……ん? 桜花さん、それってどういう意味?」

「既にケイさん達が出てくるのを待ち受けている人が、チラホラといるからな」

「はい!?」

「姿を隠す気はなさそうだし、『縁の下の力持ち』の名前や『常闇の洞窟』もチラホラと話題に上がっているからな。探っている事を悟られてる可能性はあるぞ」

「……マジっすか。そこまで、する?」

「それだけ有力な情報源として、認識されてるって事だろうよ。ま、そういう意味では目立ってもいい方向性で正解だったかもしれんぞ?」

「ですよねー!?」


 その状況って、手分けをして俺らの転移先がどこになるかを張って調べるつもりだよな!? まさか、『縁の下の力持ち』のメンバーに下調べをしてもらってたのが、逆効果になるとは……。


「……すまん、ケイさん。これは俺らの落ち度――」

「いやいや!? 『縁の下の力持ち』は何も悪くないからな! 周囲の動きの想定が甘過ぎただけだし、悪いとすれば俺の判断だし……」


 俺らが全員、一度ここに集まったのがそもそものミスとも言える……。追いかけられても転移で分からなくなると軽く考えてたけど、まさか大人数で転移先を特定しようなんて動きが出てくるのは想定してなかったからな……。


「……ケイさんも、十六夜さんも、反省はいらないよ」

「目立っていいって方針なんだから、堂々と行けばいいだけだしね!」

「別にコソコソする必要も、知られて困る訳でもないからな。探りたいなら、好きに探ればいい。もしそれで邪魔をするようなら、その時に相応の対処をすればいいだけだ」


 何気にラジアータさんが物騒な事を言ってるけど……でもまぁその通りか。ここでこれ以上考えてても仕方ないし、動き始めよう! それでどうなるかは、成り行き任せだ!


「おし! それじゃ、もう全員で堂々と出て、そのまま常闇の洞窟まで行くぞ! 転移先は、森林深部の東にある一番近い場所で! 誰かが声をかけてきても、スルーで!」


 みんなが頷いたのを確認したし、これより常闇の洞窟へ出発だ! 状況的に声をかけてくる人は少ないとは思うけど……もし知り合いでも、今回はスルーさせてもらおう! 下手にそこで足を止めると、ややこしい事になりそうだしね。



 ◇ ◇ ◇



<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『常闇の洞窟』に移動しました>


 桜花さんの樹洞を出て、群雄の密林から森林深部まで戻り、そこから更に転移して到着! 明らかに視線は集めまくってはいたけども、直接話しかけてくる人はいなかったね。

 ここまでの移動の間に、知り合いとばったり遭遇する事がなかったのは……運が良かったというべきか。知り合い相手だと、あんまりスルーもしたくはないからね。


 ふむふむ、エンの分体自体も光っているけど、この場に焚き火も用意されてて、明かりは十分。

 クオーツの一部である金属塊は……よし、エンの分体の奥、行き止まりの部分にあるな。瘴気は滲み出てる様子はないし、緑色に光る線が走っている状態か。何気に進化後の正常な状態の、このクオーツの一部を見るのは初めてかも?


「っ! グリーズ・リベルテはここに来たか!」

「連絡を回せ! 常闇の洞窟に、絶対何かあるぞ!」

「あれ? なんでこんなとこに、コケの人達が来てるんだ?」

「対人戦を避けてる飛翔連隊はともかく、グリーズ・リベルテは最前線で大暴れしてるって噂じゃなかった?」

「今回、全然情報の共有がないけど……何か情報を掴んだのか?」

「UFOから手に入るアイテムの名前が、変わってたって話だよね?」

「確か『情報組成式物質構成素子』だっけ? なんか色々と進行してるみたいだけど、それ関連だったり?」

「コケの人達だしな。クエストの進行に関わってる可能性は十分あり得る!」

「さっきから人がちょいちょい増えてたの、その影響かな?」

「ぶっちゃけ、普段から縁遠い存在だからさっぱり分からん!」


 そして、いざ転移してきたと思えば、この様子。結構な人数が集まっているけど……大半は元々この辺りで探索をしていた人で、一部が俺らの動きを探ろうとしてる人達か。うん、ある程度は予想してたけど……。


「……やっぱり、露骨に目立ってんなー」

「あはは、流石に仕方ないんじゃないかな?」

「まぁそれもそうだよなー」


 どうやらサヤもいつも通りに戻っているし、落ち着いてくれたみたいでよかった。こういう風に普段通りに話しかけてくれるんだから、別に嫌な思いをさせたとかではないよな?


「はーい! みんな、色々と疑問だろうけど、ちょっと注目!」

「レナさん!?」

「え、レナさんまで一緒にいるのか!?」

「……マジで何事?」

「これ、もしかして居合わせてラッキーなパターンなんじゃ!?」

「本当にクエスト進行絡みだったりする!?」

「お前ら、一旦落ち着け! レナさんが今みたいに呼びかけたって事は、何か俺らにもする事があるはずだ! ともかく、今は話を聞くぞ」


 今のウマの人の言葉で、騒めいていたのが一気に静まり返っていく。いやー、レナさんの知名度の影響は大きいですなー。


「静かにしてくれてありがとねー! えーと、何かをしてもらう必要はないんだけど、ちょっとわたし達はここでやらなきゃいけない事があってねー? それで迷惑をかけちゃう可能性が否定出来ないから、その辺をご理解頂けたらなーって話!」

「……迷惑をかけるような内容?」

「えーと、何が起きても動じるなって事?」

「邪魔するなって事じゃね?」

「いるだけで、邪魔になりかねない要素がこれからあるの!?」

「やっぱり、クエスト進行絡みか?」

「でも、なんでこんな場所で……あっ、こんな場所だからこそ重要なの!?」

「あー、ここってクオーツの一部がある場所だしな。俺らに用事じゃなくて、この場所自体に用事があるのかも?」

「クオーツの部品を使う要素もあるんだし、その一環か!」

「っ!? 一体、どこまで何を調べている!?」

「……全体での情報共有がなくとも、知らない情報を簡単に見つけてくるって……相変わらずとんでもないな」


 あー、うん。まぁやっぱり俺らがここに現れた事そのものが、色々な事を推測する為の情報源になってますなー。まさしく、この場所にあるクオーツの一部に用事があるのは大正解だしさ。

 ただ、簡単に調べていると思われるのだけは心外だね。これでもあちこちで、色々とやり合った成果なんだけど? ジェイさんやシュウさんの相手、簡単だとは思われたくないんだけど!?


「説明すると長くなるし、わたし自身も軽くしか聞いてないから、この場の説明はケイさんに任せるねー!」

「あー、まぁそうなるか。それは了解っと」


 流石にこの状況で、具体的に何をするかの説明無しに実行するのは難しいしなー。まぁアイテム名の変更のアナウンスがあった事で、存在自体は既に知られているのはありがたいかもね。


「俺らがここに来た理由と、これからやる事を簡単にだけど説明していくぞ。まず、理由は……さっき名前が上がってた『情報組成式物質構成素子』に関係する内容だ。墜ちたUFOでクオーツに接触して際に調べてもらったんだけど、遠隔では調べ切れないから、直接持ってこいって事でここまでやってきた状態になる」

「やっぱりクオーツ絡みか!?」

「うっわー、もうあのアイテムを手に入れてるのか!」

「落下物は手に入ってるけど、UFOそのものはまだ無事なのは見てないのに……」

「あー、もっと場所を移動すべきだったか? 一定の範囲で待ち構えてるだけだもんな、俺ら」

「……やっぱり、あの砂関係絡みか!?」

「直接、クオーツの元まで持ってくる必要が……くっ! そりゃ、ここまで出向く訳か!?」


 ふむふむ。どうもまだ砂を手に入れる機会が訪れてない人と、既に砂を手に入れたものの、その先に進めていない人の両方がいるっぽいね。

 後者の人達が、俺らの動向を探っていた人達みたいだなー。新たに転移してきた人がチラホラと、その人達と合流してる状態だしさ。


 これ、砂さえ手に入っていれば、クオーツに確認してもらわなくても、直接持ち込んで進めたり出来る? あー、クオーツが理解してるかどうかが重要になりそうだから、俺らが確認した時点で不要になってる可能性はあるのか。

 まぁいいや。それを今わざわざ言って、先に実行するチャンスをあげる必要もないしね。これから実際に試す事を伝えて、どういう風になるのかを確認していきますか!

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