第1537話 この場を離れて


 集めるだけ無意味だった増援のUFOと、クオーツが調べてくれたUFOを全て破壊して……って、この状況はどう考えても、他所から見ると異常事態だな。うん、このままここに立ち止まっているのはなし!


「みんな、一旦ここを離れるぞ! 他の人達と、下手に接触したくない!」

「確かに先ほど反応は異常な状態ですし、それが無難でしょうね」

「って事で、アル! 急いで移動は頼んだ!」

「了解だ! ケイ、その砂の回収は忘れんなよ?」

「それは分かってる!」


 俺の破壊した分だけはしっかりと機械の砂になっているんだから、ちゃんと回収しとかないとなー。常闇の洞窟に誰が行くかは……まぁ後で考える話か。


<『情報組成式物質構成素子』を1個獲得しました>


 ハーレさんから渡されて、さっきクオーツに見せた物と合わせて、これで2個目。複数あって意味があるのかは……現状では分からないけど――


「……ケイさん、急げ! 他の人の反応が、思った以上に集まってきているぞ!」

「あー、マジだな。来てない方向は……げっ!? 多少の距離の違いはあっても、あちこちから来てるじゃん!?」


 十六夜さんが急かした理由、よーく分かったわ! のんびりしてたら、完全に囲まれる状態だよ! とりあえず、周囲を確認しながら、アルのクジラの上まで戻ってきたけどさ。


 改めて反応を見てみれば……全く反応がない方向もあるけども……これ、逆に怪しいな。獲物察知の妨害をしてる可能性があるし、ジェイさん達が待ち受けてそうなんだけど……。


 こういう状況だと……多分、どことも遭遇せずに済ませるのは無理だな。このエリアまで進出してきている人を容易に躱わすのは無理だろうから……交渉出来る相手か、情報が漏れても大丈夫な相手に絞るしかないか。となれば……。


「アル、ここから南に向かってくれ! この状況で遭遇するなら、灰の群集の人が1番いい!」

「つまり、南からは灰の群集の一団はいる訳だな?」

「そうなる! 誰がいるかは分からないけど、他よりはまだ交渉の余地があるだろ!」

「そりゃ違いねぇな! おし、なら南へ飛ばしていくぞ! 『自己強化』『高速遊泳』!」


 他のみんなは既にアルに乗っているか、自前で飛んでいるので問題なし! 増援にきたUFOの残骸は放置状態になるけど、まぁそれは大丈夫だろ。

 それよりも……黒の異形種と話せる機会をここで失うのは痛いなー。でも、あの谷の周辺に赤の群集の一団が迫っている状態だったから、一時撤退は仕方ないけどさ! あーもう! 状況自体は進行してるんだろうけど、結果が出切らないのがなんか微妙な心境ー!



 ◇ ◇ ◇



 増援のUFOの残骸を3機分ほど残し、その場を離れて南へと進んでいく。このまま進めばすぐにでも灰の群集の一団と遭遇しそうなんだけど……それよりも気になる部分が1つ。


「十六夜さん、これってジェイさん達が俺らを追っかけて来てない?」

「……おそらく、それは間違いないな。見えていたのに急に消える反応がチラホラあるから、獲物察知の妨害をしている集団が追ってきているのは確実だ」

「まぁそうだよねー。あの増援のUFOからは、落下物の反応は拾えてないはずだしさ。そこから露骨に離れる私達、あからさまに怪しいもんねー!」

「ですよねー!」


 増援が思った以上に成果がなさ過ぎたのが誤算なんだけど、同じ場所に3機も集まるなんて異常事態な上に、そこから出るはずの落下物の反応が一切なしとなれば……そりゃ俺らは悪目立ちするわ! リコリスさんの言う通り、怪し過ぎる!


「ねぇ、ケイ? 一旦、引き上げるのはどうかな? どっちにしろ、常闇の洞窟に行く必要はあるんだよね?」

「あれ、多分全員で行く必要はないと思うけど……あー、この状況を考えるなら、このままここで探索の続行も厳しいか……」


 サヤの提案通り、一旦引き上げて仕切り直すのもありかもしれないね。ほとぼりが冷めるまで常闇の洞窟に引きこもって、あの中で探索というのもありかも?


「細かい方針を決めるのは後にするけど……ここで撤退して、一度常闇の洞窟に行くのに反対意見がある人はいる?」


 俺が独断で決めてしまってもいいんだけど、みんなにも意見は聞いておかないとね。まだ接触するまでに時間的猶予はあるんだしさ。


「……状況的に、ここは一旦引くべきだろうな」

「……相手が……相手だから……追い回されると……厄介」

「私は受けて立ってもいいけどねー!」

「やるなら、リコリスだけでやれ。俺は撤退に賛成だ」

「……私も。意味がない撤退なら反対だけど、常闇の洞窟に行く意味があるなら賛成」

「私も賛成なのさー! 常闇の洞窟の中、他にも何かがある気がします!」

「……確かに、クオーツの一部が剥き出しになってるのと接触するのは、ちょっと気になるかな?」

「そこに行かないと、実際に何があるかは分からないだろうけどね。だからこそ、気にはなるよ?」

「ケイ、反対意見は無さそうだが?」

「みたいだなー。あ、でもオリガミさんの意見が出てないけど……オリガミはどうする?」

「……そうですね。私は、ここで離脱にしましょうか。イベントの進行自体には大して興味はないですし、無所属が一緒だとあそこは何かと動きにくいでしょうからね」


<オリガミ様がPTを脱退しました>


 あ、オリガミさんはそういう判断になるのか!? まぁオリガミさんにとっては既に必要な情報は仕入れ終わったんだろうし、俺らと一緒に逃げるより、独自の転移で逃げた方が楽だよな。


「それでは、私はこの辺りで失礼します。ご健闘のほど、お祈りします」

「オリガミさん、色々と助かった! そっちも頑張ってくれ!」


 そこまで言ったら頭を軽く下げて、俺らの更に上空へとオリガミさんは飛び去っていった。なんだかんだで、俺らが動きにくくならないように配慮もしてくれてるみたいだし……マジで助かる!

 さーて、それじゃとりあえずここから離れますか! 流石にまだ距離的に聞こえてはいないと思うけど、目的地は言わない方がいいな。となれば……。


「各自、好きな場所へ帰還の実を使ってくれ! その後、一旦桜花さんのとこに合流で! どう動くかは、そこから相談して決める!」

「おっ、一旦俺のとこで合流か! ……ケイさん、そりゃ目立つぜ?」

「その後の転移先は、誰にも教えないから問題なし!」

「わっはっは! まぁそりゃ、揃って常闇の洞窟に入ろうなんて考えてるとは想像もしねぇか!」

「そういう事! アルと俺が最後まで残るから、急いで戻っていってくれ!」

「はいはーい! 曼珠沙華、先に帰還しまーす! とりあえず、どこに帰還?」

「……森林深部でいい」

「元々、どこかの場所を拠点にしている訳でもないからな。森林深部でいいだろう」

「それじゃ、私達は森林深部ねー! お先ー!」


 俺らだと今の状況で森林深部は一番避ける場所なんだけど……曼珠沙華にとっては、その辺は関係なしか。まぁ出身エリアでもなければ、拠点にしてる場所でもないからなー。


「……固まって転移するより、バラバラの場所に転移した方が目立ちにくいか。俺は海を経由していく」

「……荒野から……戻るね」

「ほいよっと! それで頼む!」


 同じ共同体なら同じ場所への転移でも不自然じゃないけど、今回みたいな協力関係の時なら、バラバラに戻った方が変に目立たないよな。十六夜さん、ナイス判断!


「サヤ達は先に森林に戻っててくれ。転移完了が確認出来たら、俺とアルもすぐに戻る」

「分かったかな! ヨッシ、ハーレ、行こう!」

「もちろんなのさー!」

「森林だね! 了解!」


 よし、サヤ達の姿も消えて……俺とアルの2人だけになったな。それじゃすぐに俺らも――


「おい、ジェイ!? なんか人数が減ってきてねぇか!?」

「……帰還の実で逃げていますか!? 斬雨、すぐに攻撃を仕掛けます! 交戦状態に入れば即座の転移は不可能に――」


 ちょ、待て待て待て! なんか薄っすらとだけど、物騒な声が聞こえてきたんだけど!? 


「なぁケイ、何か嫌な声が聞こえた気がするんだが……気のせいか?」

「いやー、気のせいじゃないっぽい!」


 振り向いたら……まだ距離はあるけど、大量の砂が迫ってきてるってヤバい状況じゃん!? あー、かなり速度を上げて移動中だから分かりにくいけど、風が後ろから吹いてきてて、それで声が届いてきてたっぽい? 


「げっ!? 砂に紛れて、緑色の混ざった銀光を放つ巨大なタチウオに……って、交戦状態に入るとマズい! アル、大急ぎで転移!」

「やっぱりか!? 森林だな!」

「森林で!」


 大急ぎでインベントリを操作して、森林への帰還の実を選択して、使用!


<『名も無き未開の原野』から『始まりの森林・灰の群集エリア1』に移動しました>


 よし、転移完了! もう振り下ろし始めてたから、チャージじゃなくて連撃だよな!? 『断風』とはまた別の、風属性の応用複合スキルか!?

 でもまぁ、交戦状態に入る前になんとか逃げ切れた。……今の、マジで焦ったー!?


「危ないな!? 強引に風の斬撃を飛ばして、無理矢理にでも転移を封じる気だったぞ、ジェイさん!」

「……ギリギリセーフだったか。『旋回』!」


 おっと、転移をしたら勢いは消えるはずだけど……焦って泳いでたから、アルの泳ぐモーションが続いて進んでたよ。でもまぁ、ギリギリなんとかセーフだったな。あと一瞬遅ければ、転移が不可能になるとこだったよ。

 あ、サヤの竜が上まで飛んで隣に来たか。ヨッシさんとハーレさんもいるから、無事に合流だね! ……本来、危うくなる状況ではなかったはずなんだけどなー。


「……えっと、2人とも大丈夫かな?」

「あー、大丈夫、大丈夫。ジェイさんと斬雨さんに襲われかけただけだから」

「それ、大丈夫なのかな!?」

「ま、逃げ切れたから大丈夫だろ」

「だなー。でも、今のでジェイさんはどう交渉する気だったんだろうな?」

「足止めでもする気だったんじゃねぇか? 俺とケイがあそこで釘付けにされてりゃ、色々と支障も出るし……流石に2人だと抜け出すのも厳しかっただろ」

「あー、それは確かに……。解放するから、情報を話せって方向性か。強引ではあるけど、有効な手段ではあるよな……」


 ジェイさんと斬雨さんの2人だけが相手なら出し抜く事も出来たかもしれないけど、確実にそれ以上の人数はいたはず。交戦状態を維持されてしまえば転移やログアウトが出来ないから、かなりマズい状態に陥っていた可能性はあったか。


「それ、逃げ切れてよかったのさー!」

「……ジェイさん、随分と強引な手段に出たんだね。規約的には大丈夫なの?」

「あー、あんまり長時間過ぎるとアウトだろうけど、多少の時間なら戦略の範疇だろうからなー。アウトの一線は超えてこないはず……」

「あ、そうなんだ。まぁそこまで無茶はしないよね」

「過剰にやれば、俺が規約違反を盾にするのくらいは予想するだろうしなー。逆に言えば、そのギリギリぐらいまでは攻めてくる可能性はあるけど……」

「……あはは、それは本当にあり得そうかも」


 あのまま交戦状態に入っていれば、どっちが先に根を上げるかの耐久戦になった可能性は高い。多分、俺らが接触するならマシと判断した灰の群集の一団も、獲物察知が効かない範囲に入れば離れてただろうしさ。

 PK判定は少々怪しい気もするけど……多少、黒く染まる程度だろうしなー。それくらいなら許容して、やってくるか。悪質にやり続けない限りは、少し染まった程度は、結構あっさり元に戻るし……。


「ケイ、万が一にでも、完全に足を封じられるような事態に陥ったらどうする?」

「どうするって……どうしようもなくね? あ、待てよ。『仲間の呼び声』で引っ張ってこれるかも?」

「はっ!? 確かにそれは出来そうな気もするのさー!?」

「なるほど、期間限定の『仲間の呼び声』が出るようになったのは、そういう状況も想定しての事か」

「あー、分断状態になるのは、運営も想定済みなのかもなー」


 ジェイさんの狙ったような手段はともかくとして、なんらかの理由でPTメンバーと離れてしまう状況は想定してるのは間違いない。そうじゃなきゃ、わざわざ期間限定とはいえ課金アイテムと同等のアイテムを用意したりはしないだろ。


「もしかすると、ここからの展開で分断されるような何かがあるのかも?」

「それって、どういう状況かな?」

「分からんけど……例えば、オリガミさんみたいに強制的に転移させられるとか? ほら、俺らだって相手からすれば、貴重なサンプルになり得る訳だしさ」

「はっ!? 確かにそれはそうなのさー!?」

「増援を求める信号が送られるなら、もう私達の存在も捕捉されてそうではあるもんね。可能性はありそうかも?」

「そうそう、そういう事!」


 ……って、あれ? 今の会話で思ったけど、もしかして何気に敵の行動パターンの変化のフラグを思いっきり踏んじゃってる?


「……ケイさん、そういう推測を立てるのはいいが、まずは合流してくれ。転移してすぐの場所だと、変に目立つだろ」

「あ、それもそうだな。すぐに合流しに向かうわ!」


 十六夜さんの忠告は、その通りとしか言いようがないね。周囲は……うん、探しに出ている人が多いみたいで、人自体は少なめだけど、思いっきり注目は集めてたよ。こりゃ長居は無用だな!


「それじゃ、目的地に向かうぞ!」

「「「「おー!」」」」


 何か目的があるなんてのはバレバレなんだから、どこがその場所かさえ伏せておけば問題ない! 合流とも言ってないし、この言葉で俺らの目的地を探るのは困難だろ。

 さーて、それじゃ群雄の密林まで転移して……の前に、新しい帰還の実を貰っとこ。……うん、確保完了。よし、それじゃ改めて、群雄の密林まで転移して桜花さんの元に集合だ!



――――


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