第1534話 飛ばされた先


 谷への移動を再開したら、その途中でオリガミさんが強制的に転移させられていった。狙い通りの展開ではあるけども……問題はどこに転移していったかだな。


「ここは……不味いですね。すぐに離れないと……」

「オリガミさん、どこに転移させられた?」

「赤の群集の占有エリアの『オンキョー渓谷』です。かなり外れの方に出ましたが……人が集まってきていますね。折角の『Ⅱ型』だったのですが、場所が悪いので離脱させてもらいますよ」

「あー、あそこは確かに最悪かも……。そういう事なら、離脱は了解!」

「残念ではありますけど……どうせなら完全に破壊しておきましょうか。『魔法砲撃』『白の刻印:増幅』『ウィンドクラスター』!」

「容赦ないな!?」


 でもまぁ、完全に破壊してしまった方がクオーツとの接触が不可能になるから、競争相手を潰すという意味では正解かもなー。


「……占有エリアで暴れて、脱出は大丈夫なのか? 赤の群集に居場所は察知されるだろう?」


 十六夜さんが聞いてる事は俺も気になった。占有エリアだと占有している群集のマップに、それ以外の勢力の人の位置情報は丸見えになるもんな。転移も封じられるし……そういう場所に強引に転移させられるって、何気に最悪なんじゃ?


「普通の転移は封じられますので、そういう意味では危険ですが……瘴気での転移が使えるので、問題ありませんよ。さて、破壊も終えたので脱出しましょうか。ですが、ここは瘴気が薄いですし、少し離れなけれないけませんけどね。『高速飛翔』!」

「……何? それはどういう事だ?」


 おっと、これは俺らがまだ知らない要素があるっぽいね? いや、占有エリアに強制的に転移させられるのなら、それ相応の脱出手段がないと危険か。


「……今の乱入クエストを受注中なら、『纏瘴』を使わなくても『瘴気収束』が一時付与されるよ? ……あれは出口がランダムな代わりに、占有エリアからでも転移は出来るから」

「でも、占有エリアだと群集支援種がいるからか瘴気が少ないみたいで、入り口を開くのに少し時間がかかっちゃうんだよねー!」

「まぁ落下物の確保に注意が向いて、オリガミさんを追いかけていく人は少ないだろうし、入り口を作る時間は確保出来るだろうよ」


 ふむふむ、曼珠沙華の3人が説明してくれたけど、そういう要素があったとは。確かに『纏瘴』だけでは制限があり過ぎて、気軽に使えないし、乱入クエストを進める為には必須な条件だよな。

 てか、多少の制限はかかっても占有エリアから転移する手段があるって恐ろしいなー。でも、わざわざそれで暴れに来る物好きはいないか。


「……なるほど、そういう事か」

「そういう事情なので、私は大丈夫ですよ、十六夜さん。ご心配、ありがとうございます」

「……問題がないなら、それでいい。それより、これからどうする気だ?」

「目当ての『Ⅱ型』を引き当てるまで、別行動がいいでしょうね。紅焔さん、その間に『Ⅱ型』の無力化の手段をお聞かせ願えますか? まだその辺りの詳細が聞けていませんので」

「おう! その辺は任せとけ!」


 いきなり狙い通りとはいかず、こういう流れになったのは仕方ない。合流してもまたオリガミさんが強制転移になるのを待つ訳だし、今の時点で合流するメリットは皆無だな。


「あ、オリガミさん。ちょっと聞きたいんだけど、その強制転移って防ぐ手段はある?」

「周囲の瘴気を減らすしか対応策はないですね。あまり『瘴気収束』を使うと、自分から転移してしまいますけど……」

「あー、そうなるのか。となると、あちこちで乱入クエストを受けたプレイヤーが強制転移をさせられたりしてる?」

「……まぁおそらくは。対象はこちらの新エリアだけですし……いえ、積極的に乱入クエストを受けている場合は、意外とそうでもないかもしれませんか」

「ん? それって、なんで……あ、自分から敵に殺されにいくから?」

「えぇ、そうなります。それで転移の際に染まった分を放出しますので、結果的には引き寄せられにくくなっている可能性はありますね」

「なるほどなー」


 乱入クエストを利用しつつも、積極的に進めていなかったオリガミさんだからこそ引き寄せられやすい状況だったとも言えるのか。でもまぁ、タイミング次第ではUFOと乱入クエストを受注中の無所属が戦闘をしてる可能性は、十分なほどあるんだな。


「さて、この辺でいいでしょう。『瘴気収束』!」


 姿は見えないけど、オリガミさんはこれから赤の群集の占有エリアであるオンキョー渓谷から脱出するっぽい。そこからどうなるかはまだ分からないけど、俺らは俺らで目的地へ向かいますかねー。



 ◇ ◇ ◇



 オリガミさんは紅焔さん達から『Ⅱ型』の無力化の手順を聞きつつ、UFOからの引き寄せに備えている。

 途中で何度がUFOが降りてくる反応は拾えたけど、それほど近場ではなさそうだったのでスルー。追いかけたいのもあったにはあったけど、他にもそこへ向かってる人が多かったからなー。状況次第で諦めるのも大事だよね。


 そういう事がありつつ、俺らは本来の目的である谷へと到着したところ。……なるほど、こういう状況か。


「あ、誰かアルマジロ達と戦ってるのさー!?」

「反応に出てた青の群集は、ここにいたんだな」

「ケイ、どうするかな?」

「んー、流石にこの状況で突っ込んでいくのは無しだな」


 青の群集の一団は……まぁ名前は見た事はあるけど、特にこれといって交流がある人達ではない。アルマジロ達の猛攻に戸惑って苦戦気味みたいだし、下手に声をかけても邪魔になるだけだよな。

 交渉するには馴染みがない相手でもあるし……むしろ、ここでは全滅してくれた方が、俺らとしては都合がいい。


「よし、今は谷はスルーして、先に埋めたUFOの確認に行こう。曼珠沙華、案内を頼んだ」

「ふっふっふ! 任せなさーい!」

「……谷を超えた先だけど、真上を通る?」

「あの集団に余力があるとも思えんが、迂回した方が無難だとは思うぞ」

「あー、まぁそうだよなー」


 わざわざ真上を通って目立っても意味がないし、少し迂回した方がいいか。青の群集があの洞窟の奥へ辿り着くかどうか、ちょっと気になるとこではあるけども……。


「アル、とりあえず今回は迂回で! 谷の反対側まで、谷沿いにグルッと進んでくれ」

「了解だ! 地面ギリギリまで、高度は落としとくぞ。その方が、変に気取られにくいだろ」

「だなー。それで頼む」

「おうよ」


 今日は夜の日だし、今は明かりは最低限にしか用意してない状態だからね。谷の上に沿って動くのなら、戦闘中の青の群集の一団が気にしてくる可能性は低いはず!


「ねぇ、ケイさん? 青の群集が上手く突破出来た場合、翻訳を試すのはどうするの?」

「……どうしたもんだろ? 何も無しであの洞窟の奥に進めば、袋叩きになって返り討ちとかなってくれないもんかね?」

「……一度……接触したから……問答無用では……なくなってるかも?」

「その可能性、十分あるのが困る……」


 俺らが接触した事で、ここの洞窟の中の黒の異形種に限っては好戦的じゃなくなってたら、青の群集としてはお得な状態ですよねー。とはいえ、この場所に翻訳機能が常設されてる訳じゃないから、すぐにどうこうなるとは限らないけどさ。

 でも、翻訳機能をどこで使うかっていう推測を行うには十分な情報にはなるのか。うーん、出来ればこのままアルマジロ達に蹂躙されて、洞窟の中まで辿り着けないってのが理想だけど……。


「っ!? UFOが降りて……これ、結構近いよ! あ、埋めた方向だ!」

「マジで!? アル、予定変更! 谷の上を突っ切っていけ! 反応を拾ったなら、一直線で進む方が違和感はないし!」

「そりゃいいが、肝心の方向はどっちだ!?」

「……少し右に曲がって」

「このくらいか?」

「……うん、その方向を真っ直ぐ!」

「了解だ!」

「UFOを目指して、出発なのさー!」


 元々、埋めたUFOの残骸に向かって進んでたけど、このタイミングで新たなUFOが降りてくるとはね。これ、本当に偶然か? いやまぁ、今は移動に集中!


「ケイ、他のプレイヤーの動きはどうかな?」

「近場には、そこの谷にいる青の群集の一団くらいだけど……」


 アルマジロ達と戦っている青の群集の一団は……UFOの動きには気付いているか? んー、苦戦気味の様子だから、何とも言えんなー。


「まぁそこのを除けば、先の方には誰もいない状態だな。他の方向からも、特に気になるような反応はないし」

「ふっふっふ! 一番乗りが出来そうなのさー!」

「問題は『Ⅰ型』と『Ⅱ型』、どっちが出てきてるかになりそう?」

「だなー。そろそろ、『Ⅱ型』を直接見たいとこではあるんだけど……って、ちょい待った! 急に白い……いや、少し黒く染まった矢印が出てきたぞ!?」


 ちっ、このタイミングでその反応が出てくるって事は、誰か無所属の人が引き寄せられ――


「それ、オリガミさんじゃねぇか? 今、同じエリアに移ってきたぞ?」

「……へ? あ、マジだ」


 アルに言われて見てみれば、PTメンバーの表示が変わって、同じエリアにいる状態を示している。


「オリガミさん、一応聞くけどどういう状況?」

「引き寄せられたと思ったら、原野へと戻ってきた状態ですね。マップを見る限り、皆さんの位置も近いですし……しかも、これは『Ⅱ型』ですよ」

「おー! それ、ラッキーじゃん! 私達が辿り着くまで、足止めしちゃってて!」

「それが良いでしょうね。まずは推進力を生み出すエンジンから、潰していきましょうか! 『ウィンドインパクト』!」


 よし! リコリスさんも言ってたけど、これはかなりラッキーな状態だな! 偶然にしては出来過ぎている気もするけど、細かい事を考えるのは後! 今はともかく、オリガミさんとUFOがいる場所を目指せ!



 ◇ ◇ ◇



 リコリスさんの誘導を受けながら、谷を超えて、UFOが降りてきている場所へと進んでいく。オリガミさんが既に推進力を破壊して、今は武装を破壊中だそうだけど……おー、戦闘中の様子が見えてきたね。

 この辺は、低めの草やちょいちょい木が生えている程度で、剥き出しの土が多い場所か。荒野と草原の中間みたいな印象っすなー。


「あれ? ねぇ、オリガミさん! 戦闘を始めてから、どの程度移動した?」

「すぐに推進力は無力化したので、ほぼ移動はしていませんけど……リコリスさん、どうかしましたか?」

「そこら辺が、私達がUFOの残骸を埋めた真上!」


 ふむ? 近い気はしていたけども、流石に真上ともなると気になる話だね。やっぱり、ただの偶然ではなさそうな気がしてきたな。


「……偶然にしては、流石に出来過ぎていますね?」

「そうなの! それ、どう考えてもおかしいから!」

「そもそも、平らに均していたはずだが……なぜ地面が窪んでいる?」

「……埋めたUFOの残骸が、回収された?」

「その可能性はあるよね! ケイさん、どうするの!?」

「あー、気にはなるけど、まずはUFOの無力化を優先……って、ほぼ終わってるか」

「まぁこれで、武装は全て破壊完了ですしね。『ウィンドボム』! 後は、壊さない程度に墜とすだけです! 『大型化』!」

「ナイス、オリガミさん!」


 『Ⅰ型』よりも明確に小さな『Ⅱ型』だけども、ヨロヨロと高度を維持する程度しか出来ず、先ほどまでオリガミさんに向けて放っていた砲撃も、砲塔が破壊された事で不可能な状態。

 そこから大型化したオリガミさんの龍がUFOを鷲掴みにして、地面へと降ろしていったので……うん、俺らの出番、何も無し! いやはや、やっぱりオリガミさんは実力者っすなー。


「狙うべき位置と火力を上げ過ぎてはいけない事さえ分かっていれば、それほど難しい相手ではありませんね。まぁその情報こそ、重要ではありますけど……」


 紅焔さん達が加減を探って、それを伝えたからこその結果でもあるんだろうね。単に破壊するだけなら簡単だけど、相手は動いてもいるんだから……言うほど簡単な事でもないと思うけど。


「ケイ、どういう順番で探っていくんだ?」

「あー、まずは埋めてたUFOの残骸の確認からしてみるか。それから落下物の確認をして、クオーツとの接触はその後で」

「ま、順番的にはそんなもんか」

「はいはーい! それじゃ、UFOの残骸をサクッと掘り起こしちゃうね! 『土の操作』!」


 誰がやるかを決める前にリコリスさんが掘り起こし始めたけど、まぁここは任せるので問題ないな。さて、どういう状態になっているのやら?


「……何も、出てこないね?」

「自動的に砂の状態に変化した可能性もあったが、やはりUFOに回収された可能性がありそうだな。問題は、その辺に転がっている落下物の中に入っているのか、それとも別に保管場所があるか……」


 ラジアータさんの考えている可能性は俺も考えてるけど、その辺の確認は順番にだな。クオーツとの接触をしたら時間制限が出てくるし、考える時間が欲しいから先にこっちの確認をやっていこう。


「とりあえず、各自で落下物を拾っていってくれ! その中から、機械の砂が出てくる可能性もあるからなー!」

「はーい! 落下物、回収開始なのさー!」

「機械の砂、出てくるかな?」

「どうだろ? もし出てくるなら、あちこちにある落下物から手に入るって事にもなりそうだけど……」

「それを確認する為の手順だろうよ」

「そうそう、そういう事!」


 落ちてる落下物自体の数がこれまでの『Ⅰ型』より少なめだから、もし混ざっているのであれば、その存在を確認出来るいい機会でもあるからなー。

 さて、俺もサクッと回収してから、オリガミさんの代わりに『Ⅱ型』のUFOの確保を代わっていきますか!

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